審判の塔・後
本日三話投稿、第三話
「無属性魔法ってのは便利な物だな」
「実戦で使いこなせるようになるまでには結構苦労したさ」
「苦労すれば使えるって物でも無いだろ」
昔の仲間も使えるようになっていたのだから頑張れば使えるのではないかと思ったが、魔力に対する認識力が低い状態から上げていくには随分と時間が掛かるのかも知れないな。
それこそが無属性魔法が衰退した理由でもあるし。
「そいつは魔石だけ回収したら捨てておいて良い。
放っておけば勝手に何処かへ消えていく」
再び謎システムの出番だ。
まるでゲームの世界みたいだが、無駄な物を処理しないで済むのは魔法鞄を持っていない冒険者にとっては朗報だな。
マッシュは放っておいて良いと言ったが、俺はモモに回収して貰うことにする。
岩の塊として使い道もあるかも知れないし『カフェテリア三号店』に庭園を造るのも良いだろう。
岩に見えるとは言え魔物の素材なので、魔力を蓄えることができる。
もしヒカリゴケとかの植物を育てれば良い感じに夜を彩ってくれるかも知れないし、これは新しい流行の始まりではないだろうか。
巨大な岩亀の下に同じく巨大な魔法陣が現れ、一度だけ強く輝いた後には何も残っていない。
塔に入る前にモモのことは伝えていたが、改めて巨大な岩亀が消えるところを見たマッシュたちは、感心したようなびっくりしたような表情を見せた。
「何から何まで出鱈目だな」
「常識が通用しないですね」
マッシュもロイスも酷い言い草である。
凄いのは俺ではなくモモなのに。
「そんなわけ無いだろ!!」
そんな事は無いらしい!?
この格納能力は植物系精霊ブラウニーの特徴であり普通のことだと思っていたが、その維持には契約者である俺の魔力が使われるので、普通は備えと言った感じで使う物ではないらしい。
なぜならそんなことに魔力を使うより戦いに使いたいからだ。
では前衛なら使わない魔力を有効に活用できるのではと思うがそれも違った。
なぜならば魔力を扱うには魔力制御力を鍛える必要があり、魔法を使い慣れていない前衛では契約の維持すらままならないからだ。
かと言って前衛がそんなことに時間を費やすようでは本末転倒だった。
そして魔力の多い魔術師は当たり前だが魔物を倒す為に魔力を使うので、仮に植物系精霊ブラウニーと契約出来ても無駄な物を格納することは無いと言う。
確かに魔物を倒せなければそもそも格納する理由が無いし、格納能力その物を使ってお金を稼ぐなら、何も危険な冒険者ではなく商人にでもなる。
それに身を守る為にも魔法を使うことになるので、魔力は常に余らせていないと不安になるようだ。
俺も何度か魔力不足で生死に関わる状態に陥ったことがあると考えると、正しい知識を持たずに精霊に頼るのは危険なことだと改めて認識させられる。
とは言え、いつか起こるかも知れない可能性に備えて大きな利便性を失うのもどうかと思うし、結局はバランスなのだろう。
ちなみに魔力を増やすには魔力認識力と魔力制御力も重要だと俺は考えている。
そう考えないと不自然なほどに俺の魔力は多いし、俺に次ぐ魔力のルイーゼや、本来魔力の少ないはずの獣人族とのハーフであるマリオンも十分に多い。
俺たち三人の共通点は魔力認識力と魔力制御力が高いということなので、仮説は多分あっていると思う。
「アキト、お前は剣士を目指しているのか?
それとも魔術師を目指しているのか?」
この世界に来た頃、同じ質問をされたことがあったな。
もちろん答えは今も変わっていない。
「俺が目指しているのは魔法剣士だ」
なぜならば剣術と魔術が合わさって最強に見えるから――だったはずだが、実際の所使い勝手が良いからとしか言いようが無い。
「つまり魔法が使える剣士と言うことか?」
「いや、魔法を使うことで成り立つ剣士であって、魔法が使える剣士じゃ無い」
「違いがわからん」
この世界で言う魔法剣士とは魔法も使える剣士と言うだけであって、俺の目指している魔法剣士とは違う。
基本的には剣で戦い、距離を取っては詠唱の早い魔法で牽制し、場合によっては弱点属性で攻撃する為に魔法を使うのがこの世界の魔法剣士だ。
俺が目指すのは魔力で体を強化し、剣術の延長として魔法を使い、ゆくゆくは剣その物にも属性を付与するような戦い方だ。
スタイルを切り替えるのではなく融合すると言えば良いか。
残念ながら理解されない……格好いいのに。
時代が俺に追い付いていないのは悲しいものだ。
「お前たちは若いから、どっちの方が伸びる可能性があるか探りたい気持ちもわかるが、若いからこそ早く決めてそっちを伸ばした方が良いぞ」
「難しいと言われる強化魔法を使い、理解しがたい魔力その物による攻撃には驚かされます。
だからなおさら魔術師を目指した方が良いと思うのですが」
マッシュとロイスの言い分はもっともだが、ドラゴンやガーゴイルのように魔法に対する耐性が強い魔物や、上位魔人族の様に物理攻撃と魔法攻撃に長けた敵を相手にする場合はどちらかに特化していては駄目だ。
「それでも、そこを目指さなければ倒せない敵もいる」
「いったい何を相手にしようってんだ。
まさか五〇層の守護獣を倒そうってんじゃないだろうな」
「狙ってはいるけどな」
「呆れるな。俺たちもそこまでは付き合えん、行く時は置いていけ」
そのまま俺たちはマッシュたちにアドバイスを受けながら審判の塔の独特な魔物を倒して行く。
階層を昇る度に転移門で一度塔を降りて、討伐した魔物を売りさばく。
マッシュたちも熟練冒険者なだけあり魔法鞄を持っていたが、容量はそれほど大きくはなく、一層毎に戻らなければならないようだ。
それでも直ぐに獲物を捌くことができるここ審判の塔は、平地に広がる魔巣に比べれば遙かに利便性が高いのだろう。
魔物その物は厄介なタイプが多いのに、そんな利便性を求めて腕利きの冒険者が集まって来るのがこの町だった。
ただ初心者冒険者には向かないので、数で言えば多くは無いみたいだが。
最終的に三五層へ到達した時点で予定通り引き上げることにする。
アドバイスもありパーティーのバランスも良いマッシュたちに引っ張られたことで、想定以上のスピードで攻略が進んだ。
数日掛けるつもりだったマッシュからは四〇層を目指さないかと声を掛けられたが、それは断っておく。
あくまでも今回はマッシュたちがいたから戦えたのであって、しばらくは三〇層から三五層の間で経験を積むことにした。
「マッシュたちのおかげで、今回は色々と為になった。
これは借りておくから、何かあったら遠慮無く声を掛けてくれ。
できる範囲で協力させて貰うよ」
「心意気は良いが、若い内からそんな気を使うことは無い。
それに俺たちもリハビリついでだったのにたっぷりと稼がせて貰っている」
「それは俺たちも同じさ」
今日五回目の納品作業に塔の管理ギルドの受付を行う男もあきれ顔だ。
出る前に絡んできたオルトガは苦々しい表情を浮かべているが、知ったことではない。
「一日にこれほどの獲物を持ち帰ってくる冒険者はここしばらくおりませんでしたよ。
それが三五層の魔物となれば初めてと言っても良いでしょう。
本当に初めて塔に入るのですか」
「その辺はマッシュたちのおかげだから、大きい顔はできないさ」
本当に自分達の実力だけなら得意顔にもなれたが、一層から敵の特性を調べつつ昇っていくようならこれほどの成果は得られなかっただろう。
当面の食費を稼いだ俺はマッシュたちを食事に誘い、利益の還元をする。
久しぶりに他人と気楽な食事を取れて満足だ。