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会議は踊る

 領主城の一角ではガーゴイルの襲撃を受け、緊急の会議が開かれていた。

 お題は調査中になる襲撃の目的以外の二つ。

 その内の一つが領地運用業務の引き継ぎと、跡継ぎも含めて家系の途絶えた貴族家の扱いだった。


『神聖魔法』(アルテアの奇跡)は強力な癒やしの力により、多くの命を救っていたが、魂の器と言われる肉体が酷く破損していた者は息を吹き返すことが無かった。

 そのこと自体に嘆く者はいても不思議に思う者はいなかった。

 本来なら死者が蘇るなど、それそこ神の奇跡だと。


 あの時は気が動転して生き返ったと考えていた者も、冷静になるにつれてあれは重傷で意識を失っていた者が救われたのだろうと考えるようになっていた。

 明らかに死んでいると思われる者には癒やしの力すら働かなかったことが、自分達の認識が正しいと思わせることになる。


 会議は早速利を得ようとする者の声が上がり、空いた役職の取り合いとなる。

 老齢で引退でも無ければ空くことの無い役職だ。

 平和が続くこの時代は貴族の数も増える一方で、直系の子にすら与える役職が無い者が出るほどになっていた。

 だから被害を受けなかった貴族にとっては力を伸ばす好機に見えたのだろう。

 欲にまみれた会議は朝方まで続く。


 残るもう一つのお題は癒やしの天恵を授かるルイーゼの扱いだ。

 死者の蘇生が誤認だったとしても、強力な癒やしの力を広範囲に及ぼす天恵は何が何でも取り込みたい力だった。

 この点でも会議は長引く。一度引けば、裏で画策されると誰もが思っていた。


 会議は主に、神に授かった力は管理されるべきだと主張する教皇派と、教会の力を削ぎ王族派の力を増したい貴族の意見のぶつかり合いだった。


「教皇様にお伺いを立てましょう」


 どちらも譲らぬまま時間だけが過ぎていく中で、四〇代半ばといった感じのドヴォルザーク枢機卿が声を上げる。

 若くして枢機卿にまで上り詰めた実力者で、その支持基盤は南部の最大手の奴隷商とも言われている。

 この世界では奴隷の存在が社会基盤の一角を担い、エリンハイム教会では教徒以外の奴隷を認めていた。

 犯罪奴隷でも無ければ教徒になることを条件に奴隷から解放することまであり、エリンハイム教会は奴隷商にとっても一番の安定した顧客となっていた。


「これは領内で起きたことだ。

 それに本人は教会には入らぬと言っている。

 いくら教皇様といえど越権行為に当たる」

「たまたま天恵を授かったからと言って、しょせんは平民の小娘ですぞ。

 圧力を掛ければ直ぐに泣いて縋ってくるに決まっておる」


 トリスタンの反論にドヴォルザーク枢機卿は涼しげな顔で答える。


「本人の意思を尊重すると決まったはずだが」

「もちろん本人の意思は尊重しますとも」


 それは、手段などいくらでもあると言った感じだった。


「それではまるで脅しではないか」

「教会は本心ではその様に考えていたのか?」


 会議に参加する貴族の中から不満の声が上がり、一時場が殺気立つ。


「聞けばあの者たちは国を渡ってきたという。

 であれば再びこの国を出て行くのも躊躇わないでしょう。

 それは大きな損失であり、同時に大きな脅威となって帰ってくるのがわかりませんか。

 戦の場においてあのように力を安易に使われては、勝てる戦も勝てなくなるのは事実。

 西の大国に奪われることを考えれば、この際多少の強引さに目を瞑るのも国の為と考えられるでしょう」


 ドヴォルザーク枢機卿の意見はもっともだった。

 王族派だ教皇派だと言っていても、国その物が立ちゆかなくなっては本末転倒なことくらいは、利を追うだけだった貴族にも理解が出来た。

 場の空気が、多少の強引さに目を瞑ってでも取り込むと言うことで統一されていく中、冷徹なる声が響く。


「そう簡単にいくと思っているのか」


 カイルは言葉を続ける。


「身分と歳を見てどうにでもなると思っているようだが、あの者たちが抵抗して押さえ込める者がここにいるのか?」


 Bランク程度のゴブリンキングを倒し、騎士団が刃の立たなかったガーゴイルも倒していることは、直接見なかった者でも信じるだけの情報が揃っていた。

 ましてやその様子を見ていた者で敵対したいと考える者はいないだろう。

 強力な武具を使いこなし見慣れぬ魔法を使い、戦いに慣れている上に対人戦も熟すと聞いては迂闊に敵対するのもはばかる。


「天恵を授かる者が教会の意思に逆らうことも出来ますまい。

 その力を失うことはシュレイツ殿もよくご存じのはずですが」


 この会議が始まってから、憮然とした表情を続けていたカイルの瞳に憎悪の色が現れる。

 それは一瞬だったが、ドヴォルザーク枢機卿はそれに気付いて尚平然としていた。


「ようは本人が望めば良いのでしょう」


 ドヴォルザーク枢機卿がそう締めたところで、王族派は取り込める可能性を残した形で会議を終えることになった。


 八つの鐘が鳴る時刻。

 会議室にはトリスタンとカイルが残っていた。


「力尽くでいくなら、アキトたちは間違いなく戦う道を選択をするぞ。

 トリスタン、ここが正念場だ。

 アキトたちには誠意を持ってあたれ。

 そうすれば例え駄目でも、被害は最小限に抑えられるはずだ」

「わかった……」


 トリスタンは山積みとなった問題の解決に、当分の間睡眠時間を削られることになる。


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