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襲撃の夜・中

本日三話投稿しています。




 俺はガーゴイルに向き合うと右手を中段後方に構える。

 そこに現れた魔法陣が消えて黒曜剣の重みが伝わると同時に『身体強化』(ストレングス・ボディ)を発動し、ガーゴイルに向かって突きを放つ。

 デナードの『絶対障壁』をも貫いた一撃はガーゴイルの胸に穴を穿つが、それでも動きを止めるには至らない。


 ちっ! 完全に断ち切るか打属性じゃないと厳しいか!?

 いや、手はある!


 カウンターとばかりに振られる右腕を屈んで躱す。

 直ぐに踏み込んで左手をガーゴイルの胸に当て、渾身の『魔力吸収』(ドレイン・マジック)を行う。

 すると膨大な魔力が俺の体内に流れ込み、飽和した魔力がまるで魔闘気のように溢れ出す。


 魔力を失ったガーゴイルはただの石像へと姿を変えていき、そこに奪った魔力を全て返すように強力な『魔弾』を放つ。

 自身の膨大な魔力をその身に受け、砂のようになって消し飛ぶガーゴイルを見て、想像以上に上手くいったと我ながら自画自賛だ。


『魔力感知』でガーゴイルを感知した時、その構成要素の殆どが魔力だったことには気付いていた。

 だったら魔力さえ失えば動きを止めるだろうとは想像が付く。

 魔石から魔力を抜き取ると、砕けて粉になることから確信に近いものはあった。


 ただ、さっきの手応えから黒曜剣でガーゴイルに立ち向かうのは些か力不足に感じる。

 マリオンの使う魔剣ヴェスパに比べると武器としてのランクが落ちるようだ。

 取り敢えず今は他に対抗策があって良かったが、近いうちに武器を新調する必要を感じた。


 倒す算段は付いたが、ガーゴイルはまだ四匹残っている。

 出来れば戦えない者には早く逃げてもらいたいところだ。


 そう思っているのだが、背後にはまだ怯えたままの御令嬢がいた。

 目の前の脅威が去っても怯えは止まず、足下を濡らし、とても逃げられそうな様子にない。


「もう大丈夫だ」

「あ……あっ」


 視点が定まらない様子の御令嬢の頬に手を当ててその視界に入り込む。

 そして乱れる魔力を優しく癒やすように落ち着かせる。

 精神が魔力に影響を及ぼすことは『魔力感知』でわかっていた。

 その逆が何処まで通じるかはわからないが、乱れる魔力を俺の得意とする『魔力制御』で押さえると多少の鎮静効果があった。


「もう大丈夫だ。君の名前は?」

「フ、フロ……ラ」

「フローラ、必ず助けるから後は俺に任せられるか?」

「……は……い」


 俺は少し落ち着いた様子のフローラを抱え上げると、ナターシャの率いる騎士団の方へと向かう。


「あっ」


 濡れた衣類にフローラが気付いたのだろう。

 両手で顔を覆い、首筋を赤く染めていた。

 恥じることじゃないとは思っているが、それをわざわざ伝えることでも無いだろう。


 騎士団の様子は余り芳しくなかった。

 装備は良いと思うが、やはり剣では有効なダメージを与えられないようだ。

 マリオンの持つ魔剣ヴェスパ位の武器でなければ、打属性の武器の方が効果的なのだろう。


 ナターシャをはじめとする一〇人ほどの騎士が相手にしているガーゴイルは二匹。

 奥からは増援がやって来るようだが、剣で統一された感じの騎士を見た限り、牽制以上の効果は無さそうだ。


 その増援の中にはテレサの姿もあった。

 祝賀会では見掛けないと思っていたが、外の警備でもしていたか。

 テレサは会場に入ってくるとその惨状を見て青ざめた様子を見せるが、それでも状況を理解しようと辺りを見回す。


「アキト!? 無事ね!

 カイル様を見なかった?」

「カイル様ならあちらに!」


 テレサがカイルに駆け寄るのを横目に俺はルイーゼとマリオンを探す。

 振り返るとルイーゼは『魔法障壁』を挟んでガーゴイルと睨み合い、マリオンは残りの一匹を相手にしていた。


「カイル様!」

「良く来た!」


 テレサが鞘に入ったままでもわかるほどの存在感を示す片手剣を、カイルに投げ渡す。

 その様子を見ていたルイーゼは一時的に『魔法障壁』を解除し、再びトリスタンを守るように張り直す。

『魔法障壁』は自由に出入り出来ると言うほど優れものじゃ無い。

 障壁はあくまでも障壁であり、消さなければ投げられた剣がぶつかっていた。

 展開する方向はある程度決められるが、敵の多い状況でルイーゼは全方位に対して『魔法障壁』を展開している。

 それでいて十分な強度を維持するのは積み重ねてきた鍛錬による成果だ。


 カイルはその剣を受け取ると同時に抜き放ち、詰め寄る勢いのままにガーゴイルを袈裟斬りにする。

 マリオンの持つ魔剣ヴェスパをも上回ろうかという濃密な魔力を携えた剣は、黒曜剣では刃が立たなかったガーゴイルに致命的なダメージを与え、その一刀で姿を砂へと変えて崩れ落ちていった。


 ミスリルの剣。

 俺もかつて一度だけ手にしたことがあるその剣は、魔人族が纏う魔闘気すら切り裂く――正確には中和するに近いが、その威力は絶大だった。

 純度も俺が手にした剣より高そうで、恐らくお金を積めば買えるという代物ではないだろう。


「ぼーっとするな!

 ガーゴイルに圧力を掛け、倒すのはカイル様にお任せしろ!」

「はっ!」


 ナターシャの指示の元、ガーゴイルに決定打を与えきれずに手を(こまぬ)いていた騎士団が動き出す。

 俺の方はテレサにフローラを預け、ルイーゼの元へ向かう。


 ルイーゼに出した指示はトリスタンを守れというものだったが、領主であるトリスタンが一人でいるわけが無く、必然と守る対象が増えていた。

 その為ルイーゼは、不意を突いた一匹目はともかく二匹目に対しては無理をする事無く、『魔法障壁』を張ったまま防御に徹している。


 俺はルイーゼの張った『魔法障壁』を打ち破ろうとするガーゴイルに駆け寄り、中段回し蹴りを放つ。

 だがガーゴイルは羽を羽ばたかせ、後方に浮き上がるようにして避けた。


 たまたま打つ手を変えたガーゴイルが飛び上がっただけだが、格好良く助けに入ったつもりが思いっきり空振りとか恥ずかしすぎる。

 しかも空振りして隙が出来たところにガーゴイルの口から炎のブレスが放たれた。


「アキト様っ!?」


 ルイーゼが俺も入るように『魔法障壁』を張り直し、直後にブレスが視界を真っ赤に染め上げる。

 僅かに入り込んだ炎が髪を焦がしたが、セーフ、大事には至らない。


「ルイーゼ、助かった!」

「お役に立てて光栄です」


 一言で言うなら天使の微笑みを見せるルイーゼに、カイルとトリスタンを良く守り切ったと声を掛ける。

 ルイーゼは俺の言葉を受けて、笑顔に嬉しさを乗せる。


 もっとその笑顔を見ていたかったが、『魔法障壁』の外はそうも言っていられない状況だ。

 炎に巻かれた障壁の外は、散らばっていたテーブルや高級な絨毯が炭と化す地獄と化していた。


「ブレスが途切れたら決めてくる!」

「はい!」


 今度こそは格好良いところを見せないとな。


 俺は明るさに慣れた視界が暗く染まっていくを確認し、その先にあるガーゴイルの影に向かって飛び出す。

 ルイーゼは俺が動いたタイミングで『魔法障壁』を解除し、俺が抜けたところで再び展開する。


 この辺の連携を嫌というほど繰り返してきたルイーゼが消すタイミングを外すことは無く、飛び出した俺は途切れたブレスの残り火を突き抜けてガーゴイルに接近する。

 そして一匹目を倒した時と同じくその胸に手を当て『魔力吸収』を狙う――が、手がガーゴイルを突き抜けていく。


「あれ!?」


 思わず間の抜けた声を出す俺の上に砂となって崩れ落ちるてくるのは、元はガーゴイルだったものだ。

 それを全身に浴びながら、その先に魔剣ヴェスパを振り切ったマリオンの姿を見る。

 どうやら今日の俺はタイミングが悪いらしい。


「大丈夫?」

「砂を噛んだ……」


 差し出されたマリオンの手を借り、砂の中から這い出る。

 周りの様子を窺えば、カイルが最後のガーゴイルを仕留めるところだった。

 やはり騎士団の持つ質が良いだけの武器ではガーゴイルを仕留めることは出来ず、魔剣を持つカイルが止めを刺していた。


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