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迎撃、コボルト戦

 魔物の住むと言われる森を右手に望みながら、俺たちは街道を北上していた。

 遠く街道の先には街の影が見られ、俺たちの荷馬車でも今のペースで二時間ほど進めば、日が暮れる前に到着出来るだろう。


 春の穏やかな陽気は、ゆっくりと進む荷馬車に揺られる俺たちを程よく夢の中に(いざな)う。

 右にルイーゼ、左にマリオン。

 二人の異なる系統の美少女に挟まれてこれからの予定を考えている時、『魔力感知』(センス・マジック)に反応があった。


 逃げるように先を走る三つの反応と、それを追う二五の反応。

 三つは人の持つ魔力で、追うのは魔物――いや魔人族か。

 魔力の強さからEランク相当と思われる。


 Eランクは駆け出しの冒険者ではきつい相手の上、今回は数が多い。

 それに加えて、魔物ではなく魔人族となれば数も合わさってかなりの脅威だ。


 魔人族は魔物と違い、知能が高く道具や魔法を使う。

 その上で集団戦を得意とし、罠を仕掛けたりもする。

 中には人語を話し、お互いのルールを脅かさない程度の交流がある種族も居た。


 だが、いま迫ってくる魔人族は、感じ取れる魔力からそれほど知能が高い種族とは思えなかった。

 知能が高ければ必ずしも魔力が高いというわけでは無いが、体内に蓄積された魔力には色のようなものがあり、俺はそれを大ざっぱに見分けることが出来た。


「ルイーゼ、マリオン」


 俺はともに微睡(まどろ)む二人に声を掛ける。

 俺の声質に硬さがあることを感じ取り、二人はすぐに覚醒した。


 同時に森の中から馬に乗った三人が飛び出して来る。

 三人とも騎士の装備に身を包み、育ちの良さそうな雰囲気を身に纏っていた。

 俺はてっきり冒険者が魔人族に襲われて逃げて来たのだと思ったが、違ったようだ。


 騎士は止まること無く町を目指して行く。

 先頭を走る騎士とすれ違いざまに目が合ったが、それも一瞬だ。

 小さく「すまない」という声を拾う。


 だが、状況を鑑みれば仕方がないとも思えた。

 無論、巻き込まれた方としては堪ったものじゃ無いが、この世界では身を守れない者から死んでいくのも事実だ。


 三人はそのまま走り抜けていくと思っていたが、その内の一人が魔人族と俺たちの間に立つように馬を降りた。


「領兵団を率いるカイルという。

 巻き込む形になってすまないが、すぐに魔物が来る。

 俺が守るつもりだが、数が多い。

 出来れば何か得物を持って身を守ってくれると助かる」


 声を掛けてきたのは、金髪碧眼の美青年だった。

 目鼻立ちは既に子供らしさがが抜けて油断ならない鋭さを持っているが、それは人を騙すという意味では無く、経験に基づいた強さを感じるものだった。


 同時に俺はすぐに貴族だと見抜く。

 貴族であれば俺たちのことなど無視して逃げていこうと、巻き込まれた方の運が悪かったという程度で終わる話だ。

 それをわざわざ降りて敵の眼前に身を晒すのは、余程自信があるか、あるいは正義感か。

 どちらにしろ悪くない印象だ。


 しかし、この世界の金髪碧眼は何故こうも美男ばかりか?

 やはりサラブレッド説は正しいのだろうか。


「わかりました。私たちも共に戦います」

「アキトは駄目ね、赤くなるわ」

「ここは私とマリオンに任せてください」


 戦うと言ったところでマリオンとルイーゼに止められる。

 確かに今の俺が戦いだすと、未熟な魔力制御の為に溢れだした魔力で体が光り出すだろう。

 溢れ出る魔力が発光する自然現象だが、俺以外に体が光り出すほど膨大な魔力を持つ人に出会ったことは無い。

 そんな姿を見せたのは俺の知る限り上位魔人だけ(・・)だ。


 俺はそれが潤沢な魔力による物だとわかっているが、一般的では無い以上わざわざ見せることも無いだろう。

 ここは二人に任せることにする。


「君たちが無理をすることはない。

 ただ身を守ってくれればいい」

「二人は戦えるので邪魔はしません。

 ルイーゼとマリオンはカイル様と一緒に、俺は短足馬(ニコラ)を守る」

「はい」

「わかったわ」


 二人は鍛錬の時に使用するメイスと剣を片手に御者台から降りる。

 鍛錬用とはいえ作りもしっかりとしたメイスと刃もある普通の剣だ。

 武器としては問題ない。


 それらの武器を手慣れた様子で扱う二人を見て、一人この場に残ったカイルもそれ以上は言葉にしなかった。


「魔人族は二五人、先行するのが一〇人だ」

「はいっ!」

「わかったわ!」


 俺の言葉を聞いたカイルが怪訝な表情を見せる。

 この世界のあらゆるものには魔力が宿っている。

 それは人間族や魔人族、そして動物や植物でも変わりない。

 だが、それを認識出来る人は少ない――と言うより、知られていない。

 だから俺の言葉に対するカイルの見せた表情は不思議なものではなかった。


 直ぐに俺の言葉を証明するかのように森の中から魔人族が飛び出して来る。

 その数は一〇人。

 伝えた通りの数に、カイルが今一度俺の方に視線を送る。


 誰でも『魔力感知』を気配や直感と言った感じで無意識に使っている。

 だがそれを意識して鍛え上げることでその効果範囲を広げることが出来るとは、余り知られていないようだ。

 教えているルイーゼやマリオンも苦手としていることから、魔力認識力が高くなければ効果範囲を広げるのは難しいのかもしれない。


 そんなことを考えている内に近付いて来たのは、犬のような頭を持った人型の魔人族だった。

 身長は低く一二〇センチほどで、一部を除いて武器は持っていなかったが、代わりに伸びた犬歯と爪が武器なのだろう。

 赤い目が特徴的で、薄汚れた灰色の毛に身を包んでいた。

 そして濁った涎を垂れ流しながら時には二足で、また時には四足で止まることなくルイーゼとマリオンに向かって走ってくる。


 確かコボルトと呼ばれる魔人族だったはずだ。

 その吠える声は犬というより狼を思い起こさせるもので、何重にも連なるその声を聞くだけでも、慣れていない者には相当なプレッシャーだろう。


 だがルイーゼとマリオンの二人は慣れた者だ。

 迫るコボルトに怯むこと無く立ち向かっていく。


「そっちに向かったのが多い!」


 カイルの言葉が届くより先、既にコボルトはマリオンの間合いに入っていた。

 その距離は五メートル。

 普通であれば剣の届かない距離だが、それに構わずマリオンは両手持ちの剣を右後方に引き絞しぼり、タイミングを合わせて横に一閃――次の瞬間には三匹のコボルトが胴の辺りを切断され、走り込んできた勢いのまま倒れ込む。


「なっ!?」


 マリオンが使ったのは技術(スキル)の一つ、『魔斬』(マジック・ブレード)だ。

 刀身の延長上に魔力による不可視の刃を形成し敵を斬る。

 見た目以上の間合いをもつその攻撃を、初見で防ぐのは困難を極めだろう。


 かつて上位魔人と呼ばれる存在が似たような技を使っていたが、それと比べれば稚拙で刃が存在しているのは一瞬だ。

 それでも人の使うスキルとしては一級品になる。


「前に出るのは危険だ!」


 カイルの驚きを他所に、マリオンは突き進む。


 敵の群れを前に単独先行するのは良くない。

 だがマリオンを責めるのも難しい。

 普段ならマリオンが単独先行という訳ではなく、おれもルイーゼも一緒だからだ。

 今回はたまたまカイルがいた為にそう見えるだけで、現にルイーゼも前に出ている。


 かといってカイルが出遅れたとも言えない。

 カイルにとってはその実力が未知数の二人と一緒なのだから、慎重にならざるを得なかった。

 まぁ、即席パーティーではこんなものだろう。


 反対側ではルイーゼが荷馬車を牽く短足馬(ニコラ)の前に立ち、『魔法障壁』(マジック・バリア)を展開する。

 薄らと青みを持った半球状の障壁が、ルイーゼを中心に半径五メートルほどの範囲を包み込むと、押し寄せてきたコボルトがその障壁にぶつかり立ち止まる。

 障壁に体を打ち付けた仲間のコボルトを見て、後から駆け寄ってきたコボルトは立ち止まり、障壁に爪を突き立てるがその程度で破れる魔法では無かった。


「下級魔法とは言え、魔法が使えるのか!?」


 二匹のコボルトを相手に、優勢に戦いつつ脇目で戦場を確認していたカイルが、ここでも驚きを見せる。


 前にいた国と同じで、この国でも魔封印と呼ばれる呪いの解呪率は低いのかもしれない。

 本来、人は誰もが魔力を持ち魔法を使うことが出来る。

 しかし、この世界の人には遺伝性とも言える呪いが掛けられていて、その呪いの為に魔法を具現化することが出来なかった。


 呪いの解呪には専用の魔法具が必要だが、使い切りの為、貴族あるいは一部の富裕層しか手にすることが出来ない高価な物だった。

 それだけに魔法を使えると言うことは一定の収入を得る立場にいると言え、こんな街道を護衛も付けずに荷馬車を牽いているような商人に手が届く物ではない。

 だからカイルの驚きは自然なものだろう。

 だが、俺たちは今でこそ資金難に陥っているが、一時はそれなりに裕福だった。

 その頃に手に入れておいた解呪の魔法具を使ったに過ぎない。


 ルイーゼは『魔法障壁』にぶつかり足の止まったコボルトの群れに向かって飛び込むと、障壁を解除し、次々にその頭部をメイスで打ち砕いていく。

 さして大きいとは言えないメイスだが、コボルトを死に至らしめるには十分な威力を秘めていた。

 それでも素人が扱うならそう簡単にことは運ばないだろう。

 そこはルイーゼの培った経験によるものが大きかった。


 カイルを含めた三人によって、遅れてきたコボルトも含め全滅するのに要した時間は三分ほどだ。

 もっと手間が掛かっていたならコボルトたちも撤退出来ただろうが、不利に気が付いた時には既に逃げられる状況には無かった。


 マリオンの追撃は甘くない。

 俺でさえ舌を巻く瞬発力で戦場を駆け回り『魔刃』(マジック・ブレード)による中距離攻撃で殲滅していく攻撃に抗う為には、それを上回る防御力を持つか同等の攻撃力が必要だ。

 それをコボルトに望むのは難しいだろう。


「お疲れ様」

「はい、ありがとうございますアキト様」

「大したことなかったわ」


 軽く息を弾ませる程度で戻ってきた二人を労う。

 ルイーゼもマリオンも、戦いの後だというのに良い笑顔だ。

 家のお姫様方をこんな風に育ててしまった俺の責任は重い。


 数は驚威と言うが、流石にここまで戦力差があると脅威にはなり得ない。

 危険があるとすれば体力が尽きるほどの数に囲まれた時だけだろう。


「改めて礼を言う。お陰様で助かった感謝する。

 そして、巻き込んで済まなかった」


 俺が魔魂を回収しようと御者台から降りてきたところで、カイルが声を掛けてくる。

 魔魂とは魔人族が死ぬと同時にその内包する魔力が結晶化した物で、純粋たる魔力の塊である魔魂は各種魔道具を使う為の動力源だ。

 同じ様な物が魔物からも取れるが、そちらは魔石といって魔魂よりは魔力密度が低い。

 とは言え、一般的に出回っているのは魔石の方が圧倒的に多いが。


 コボルトは魔人族とはいえほぼ最下位とも言える存在なので魔魂も粗悪だが、それでも臨時収入だ。

 現金が乏しい今となっては魔人族から回収できる魔魂も馬鹿にならない。


「いえ、ご無事で何よりです。

 申し遅れましたがアキトと言います。

 二人はルイーゼにマリオンです」


 相手を貴族と見抜いている為、無難な受け答えにしておく。

 間違っても戦いに巻き込まれたと苦言を申す訳にはいかない。

 まぁ、これが本当に命の取り合いになるような話なら別だが、そんな時は先に逃げているしな。

 戦う力が有り、それで駄目なら逃げる手段があるというのは随分と心にゆとりが出来る。

 今更ながら、今まで培ってきたものが頼りになるというのは嬉しいものだ。


「俺にそこまでの礼は不要だ。

 しかし、目を見張る戦いぶりだった。

 歴戦の戦士にも劣らない戦いぶりは、俺も舌を巻くほどだ」

「二人は俺が信頼する仲間で、俺を守ってくれています。

 その為の努力を重ねてきました。

 そう言ってもらえたことは二人にとっても誇らしいことでしょう」


 マリオンが少し胸を張り、フンといった感じで誇らしげだ。


「いい仲間だ。俺の兵団にぜひ誘いたいな」


 途端に少し不安な様子を見せるマリオン。

 もちろん相手が貴族だろうと本人が嫌なら断る。


「機会があればその時にでも」


 俺は社交辞令的に言葉を流すが、この世界では社交辞令が効かないことを思い出す。

 少し焦ったが、カイルはきちんと社交辞令として受け取ったようだ。

 どうやら国によって受け取り方にも違いがありそうだ。

 いや、国じゃなくて人によってなのか……まぁ、立場がお姫様ともなれば素直に取るのかもしれないな。

 それはさておき――


「倒したコボルトの魔魂は頂いても?」

「無論だ。私の分も持って行くと良い。いや、それでは足りないな。

 向かう方向からすればバレンシアに行くのだろう?」

「領都へ行く前に寄りたいと思っています」

「なら丁度良い。東門を入ったところに兵舎がある。

 そこで名前とコボルトの件と伝えろ。討伐報酬が出るようにしておく」


 受け取らない理由もないので、ありがたくお言葉に甘えよう。


「本当は色々と聞きたいこともあるが、連れが心配しているだろうから先に行く。

 兵も回収しに戻らなくてはならないからな」


 カイルが指笛を吹くと、遠く離れていた馬が駆け寄ってくる。

 よく訓練されている、毛並みや体格も良い馬だった。


 兵を回収という言葉が引っかかるが、俺の感知範囲にはそれらしい反応がない。

 あるいはすでに事切れているという可能性もあるが、助けを求められたわけでもなく、そこまで関わることでもないだろう。


 カイルが去っていくのに合わせて、荷台の上で横になっていたモモが眠たそうに瞼を擦りながら上半身を起こす。

 そのまま状況を確認すると、再び安心したように横になって昼寝の続きに入った。


 俺はそんなモモの様子に小さな幸せを感じつつ、魔魂を集める。

 それが終わるとコボルトの死体を一山にして、そこに精霊魔法系火属性の『火弾』(ファイア・ブリット)を使用する。


 初級魔法と言われる最も基本的な魔法だが、いざ使うとなると難しいものだった。

 魔法は意識下に魔法陣を構築し、そこに魔力を流すことで発動する。

 その魔法陣は魔力を誘導することで作り上げるが、魔力その物は拡散する性質を持っている為、拡散しないように魔力を制御して魔法陣を構築する必要があった。


 俺は初級魔法の魔法陣を構築するためにたっぷりと一分は掛かる。

 これは過去に知り合った魔術師のそれに比べると永遠とも思える差があるほどだ。

 早い人なら三秒くらいで発動出来るので、俺も頑張って練習しているが、相性もあり中々難しい。


 精霊魔法はその名の示す通り精霊とのやり取りが発生する魔法だ。

 その為なのかわからないが、適性あるいは相性といったものあり、誰にでも使える魔法ではなかった。

 もしかしたら俺は適性が低いのかもしれない。


 それでも使うことは出来た。

 全く使えないことに比べれば、使えるだけマシとも言える。

 魔法が使えるようになってまだ二週間だ。

 練習すればもっとスムーズに使えるようになるだろうし、諦めるにはまだ早い。


 俺の眼前に赤みを帯びた魔法陣が現れる。

 意識下に構築した物と同じだ。

 そこからバスケットボールほどの炎が現れ、コボルトの山に向かって飛び去る。


 本来の『火弾』は子供の拳ほどの大きさだが、必要以上の魔力を込めることで大きくも出来た。

 大きくするくらいなら上位の魔法、例えば『火球』(ファイア・ボール)を使う方が少ない魔力で威力も高いのだが、今のところ俺に使えるのは『火弾』だけなので仕方が無い。


 魔法の発動時に体が赤く発光する。

 とある出来事を切っ掛けに竜の魂を受け入れた俺は、どんな理由からか膨大とも言える魔力を手に入れていた。

 それまでも普通の人に比べれば多めの魔力量だったが、今となっては使い切れないほどだ。


 そんな魔力を贅沢に使い想定以上の出力で放たれた魔法は、コボルトの死体に当たると爆散し、そのまま焼きつくしていく。

 せっかくまとめ上げたのに意味がなかった。

 遠慮無く魔力を注ぎ込んでみたが、初級魔法としてはなかなかの威力と言えよう。


 ただ魔法を使おうとすると、体から溢れ出ようとする魔力を抑えこむのに四苦八苦する。

 その都度、赤いオーラが体を包み込むので迂闊に魔法を使うのが躊躇(ためら)われた。


 俺は髪が黒いこともあって一部の人々からの印象が良くない。

 それは前にいたエルドリア王国で、国を襲った上位魔人の髪の色が珍しい黒髪だと言うことから始まる。

 魔人の血を引いているという根拠もない言い伝えで、何度嫌な思いをさせられたことか。

 もっとも俺がこの世界に来ることになった切っ掛けも、黒い髪を起因としているので全てが嫌なこととも限らないが。


 上位魔人が内包する強大な魔力でもって『身体強化』を使用した際、赤いオーラとなって現れる物を魔闘気と呼んでいる。

 俺の場合は魔闘気では無く単に魔力が溢れているだけだが、それでも上位魔人を連想させるこの状態はエルドリア王国で信じられている言い伝えの関係上印象が良くなかった。


 だから余計な誤解はされたくないので、早く押さえ込めるようになる必要がある。

 そうしなければ人前で魔法を使うことが出来ないし、剣を扱うにしても強敵を相手に、なかば反射的に『身体強化』を発動してしまい同様の事態に陥るだろう。


 これは俺が魔封印を解呪してから起きるようになっている。

 正確には解呪後、魔力が体に馴染むように隅々を満たした辺りからだが。

 増えすぎた魔力が自然と体から溢れ出る時に淡く光るのが原因なので、普段は押さえ込むことが出来るけれど、魔法を使う時は流石に無理だった。

 魔封印が解呪出来て便利になった反面、不便もあったとは。


 ルイーゼにもその片鱗が見え隠れするに、膨大な魔力量がそのような状態を引き起こすのだろうとは想像がついた。

 いつまでもこんな状況では二人に守ってもらう一方になってしまうので、魔力制御力をあげる以外にも何か手が必要だな。


「ずっと守るわ、任せて」

「アキト様、必ずお守りして見せます」


 心を読まれた。

 そんなスキルはないはずなのに、よく読まれる不思議。


「……それじゃ、先に進むか」

「はい」

「わかったわ!」


 地平線の手前、およそ七キロほど先にバレンシアの町を囲う石壁が見える。

 石壁で覆われた町は大抵、日が落ちると門が閉ざされて出入りが出来なくなった。

 町を前にして野営というのも悲しい。

 予定では余裕があったはずなのに、足止めを受けたのでギリギリになりそうだ。


 俺が短足馬のニコラに軽く鞭打つと、それに答えるように(いなな)き、少しだけ軋む音を立てながら荷馬車が動き出す。

 荷台の藁の上ではモモがスヤスヤと眠り続けていた。


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