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始動・キャンピングカー

二話更新ですのでご注意ください。

「何処へ行っていたのだ?」


 鍛錬から戻った俺たちを一階の食堂で出迎えたのはカイルとテレサだった。

 何時もより鍛錬に熱が入ってしまい遅れたか。


「少し外で稽古をしていました」

「お前たちはカイル様の護衛中だと言うことを忘れたのか?」

「もち――」


 カイルの安全に対して監視を怠っていたわけでは無い。

『魔力感知』(センス・マジック)で不審な反応の存在には注意していたし、いざとなれば『空間転移』(テレポート)があった。

 とは言え、鍛錬をしながらでは注意力も散漫になるし、『空間転移』とは言え即時発動出来るわけではなかった。

 依頼はダミーだという考えが、何処かで仕事を甘く見ていたのかもしれない。


 それに『空間転移』が使えることは余り表沙汰にしたいことでもないし、もし使わないで済むならそれに越したことはない。

『空間転移』はその能力の特異性から相手に対して強烈な忌避感を持たせる。

 その力が悪しきことに使われることを考えれば恐怖の対象でしかないだろう。


「申し訳ありません、考えが至りませんでした」


 これは謝罪すべき事態だ。

 それで済むかどうかはカイル次第だが。


「構わぬ。元々商人でしかないアキト達に護衛を頼んだのは私だ。

 慣れないことをさせていると重々承知している。

 私たちもその辺を考慮して要求を伝えねばならないと言うことだ」

「カイル様がそう仰るのでしたら、私からは以上です」

「とは言え、そうだな……折角だから明日からは私もアキト達の稽古に同伴するとしよう」


 え!?


「不味いことでもあるのか?」

「そう言うわけではありませんが、緊張すると言いますか……」

「直ぐに慣れる」


 これは強く断るのも不自然だろう。

 まぁ、悪いことをしているわけではないし、問題無い。

 無属性魔法に興味を持つようなら教えること自体は吝かでもなかった。

 これで古代魔法が見直されれば、俺たちも目立たなくなるというものだ。


「わかりました、明日からよろしくお願いします。

 それと今日の予定ですが、宿屋の主人から聞いた話ですと魔巣の森近くを横切るそうです。

 滅多にあることではありませんが流れの魔物に遭遇した場合は、討伐の判断は私にさせてください」

「確かに滅多にあることでは無いが、その辺の判断は任せよう」

「ありがとうございます。

 場合によってはお二人に、ルイーゼとマリオンの乗る馬で町まで逃げていただくことも考えております」


 なにせ俺は運の悪い男でもあるからな。

 流れの魔物に対する遭遇率が高いのだ。

 まさかとは思うが俺の魔力に引かれていると言うことは無いよな……魔物は強力な魔力に引かれる特性を持つとは言え、俺の魔力に気付いて出て来たとしても、肝心の俺はもう離れている頃だろう。


「その場合は私の代わりに、えっと……ルイーゼ、貴方がカイル様の護衛をしなさい」

「私でよろしいのでしょうか」

「ええ。悔しいけれど私よりも確実にカイル様を守れるのは貴方です」


 顔を向けて俺の判断を仰ぐルイーゼに「俺も安心だ」と伝え、テレサの申し出に了承する。

 ルイーゼは少し心配しそうな表情を見せるが、それはカイルの護衛がと言うわけで無く、俺の(・・)護衛が出来なくなるからだろう。


 とは言え、カイルだけを守ると言うことに関してであればルイーゼが適任だ。

 かつて動けない俺を二〇人の騎士から守り切ったことがあるし、いざとなれば奇跡を願うことも出来る。


 仕事として受けた以上は最善を尽くす為に、こういうことがこれからも発生するに違いない。

 ましてや今はミスした直後だ、ここは行動で示さないといけない場面だった。

 後はサポートとして――


「その時はモモ、ルイーゼを助けてやってくれ」


 モモは真剣な顔で頷くと、小枝を取り出して素振りを始める。

 言葉は話せなくても意気込みが行動として直ぐに出るので、その気持ちはわかりやすい。

 そんなモモに「期待している」と伝えて、朝食を済ませた後は出発だ。


 ◇


 日の差していた空に雲が掛かり、夕暮れには雨になりそうな天気だった。

 テレサの話ではもうすぐ梅雨に入るらしい。

 この国では明確に梅雨と言えるくらいには纏まって雨の日が続くそうだ。

 となりのエルドリア王国ではそこまで雨が続くことがなかったのでちょっと新鮮だが、舗装されていない道を馬車で移動することを考えると雨は降らない方が良い。


 土属性の精霊魔法には土を固める魔法もあるらしいが、俺が使えるのは『土弾』(アース・ブリット)だけで、使えないけれど知っているのが『土牙』(アース・ファング)の合わせても二つだけだ。

 知っていて使えないというのも妙な話だが、魔力詠唱中の対象に触れることで『魔力感知』(センス・マジック)が働き、構成される魔法陣をトレースすることができた。

 数学で言えば数式は知らないけれど答えを知っている状態だな。


 とは言っても、答えである魔法陣を実際に意識下に構築するには魔力の制御が必要で、中級魔法ともなるとこれが中々難しく四苦八苦していた。

 魔力認識と魔力制御の二つは俺が最も得意とするところだが、それでも難しいものは難しいのだ。

 相性の良い土属性でもこの状態なので、他の属性に関しては言わずもがな。


 解決策としては式に当たる呪文を覚えればいい。

 だが身の回りで土系統の精霊魔法が得意という人がいなかった。

 だから旅の最初の目的は魔法大学なり冒険者学校に入り、魔法を習うことだ。

 俺は殆ど自己流なので、この際だからきちんと魔法を習うのも良いだろう……前に通っていた学校では魔法実技に参加させてもらえなかったし、色々あって退学扱いだった。

 あの頃は魔封印の呪いに掛かっていると思っていなくて、魔法が使えるつもりで通っていたのも懐かしい思い出だ。


「アキト様、そろそろお昼にしたいと思いますが」


 ルイーゼが丁度良い水辺を見付け、頃合いと判断して声を掛けてきた。

 東側には魔巣と呼ばれる魔物の住む森が見えていたが、まだ距離もあり魔物の気配も無い。

 草原を抜けて西から流れてきた川はこの辺りで街道に沿って北上し、またしばらく先で西へと消えている。

 確かに丁度良さそうだ。


「カイル様、休憩に入りたいと思います」

「わかった、任せる」


 キャンピングカーの個室ではカイルが退屈そうにしていた。

 護衛の任務中と思えばそれは良いことだ。


 馬車を街道から逸らしたところで止め、ニコラと二頭の馬を水辺で休ませる。

 陽気が良くなっていても川の水はまだ冷えていたが、歩き続けて火照った体には丁度良いだろう。


 カイルとテレサが降りてきたところでキャンピングカーの側面を上に開く。

 夏なら日差しを遮り、雨が降っても屋根となる構造だ。

 四人掛けのテーブルと椅子を二組取りだして展開すると、ちょっとした出店の雰囲気になる。


 その様子を見ていたカイルとテレサは興味と驚き、どちらにも取れる表情を見せていた。

 昨日は昼食をとってからの出発だった為にカフェテリア仕様を見るのは初めてのはずだ。

 某ロボットアニメのように凄い変形をしているわけでもなく、壁が上がってカウンターを引っ張り出した程度のものだが、それでも目新しい物ではあったらしい。


「なるほど、アキトが飲食業と言っていた意味がようやくわかった。

 この馬車では荷も運べまいと思っていたが、馬車自体が店になっていたとはな」


 テレサは未だに呆然としていた。


「アキト様、カイル様のお食事の方は如何致しましょう」


 俺がテレサに視線を送ったところで、ようやく驚きから復帰したテレサと目がある。


「な、なんだ?」

「お二方の食事ですが、如何様にしたらよろしいでしょうか」

「カイル様の食事は私が面倒を見るつもりだ。

 場所を貸してもらえるか」

「テレサ、食事など作れないであろう」

「いえ、カイル様がお一人で出るとわかった時点で、使用人から学んで参りましたので問題ありません」

「それは二日前の話だろう」

「一日あれば問題ありません」

「……そうか、わかった覚悟を決めよう」


 カイルもなかなか大変そうだが、ここで変に助け船を出すとやぶ蛇となりそうなので知らない振りをしておくことにした。


「ルイーゼ、案内を」

「はい」


 厨房に入っていく二人を見送ったところでマリオンが見廻りから戻ってくる。


「アキト、南から馬車が一台来るわ。

 特に急いでいる感じでも無いけれど」

「普通の商人っぽい馬車だな……もう少し近付いてきたら一応警戒だけしておこう」


 俺は視力を強化して視認できた程度だが、マリオンは肉眼で見えている。

 獣人族の血を引くだけ合って基本的なスペックが高い。


 全てではないが獣人族は肉体的な性能において人間族を凌駕することが殆どだ。

 ただ総じて魔法を使うことが出来ないのもまた特徴だった。

 だが半分とは言え人間の血を引いているマリオンは、魔法を使えなくても魔力を扱うことは出来た。

 俺と共に魔力その物を力として使うスキルの使い手で、『魔刃』(マジック・ブレード)『魔斬』(マジック・スラッシュ)はマリオンのオリジナルスキルになる。


「えっ、うそっ! ちょっと、なんで魔剣で野菜を切っているのよ!?」

「このナイフはアキト様からの贈り物です」

「ええっ、まな板切っちゃったわよ!」

「まな板に触れないところで止めるのがコツです」


 厨房ではルイーゼとテレサの二人が、なかなか楽しそうに食事を作っていた。

 ちなみにモモはニコラの背で昼寝中。

 俺は更に雲行きの怪しくなってきた空を見上げ、天気が崩れるのを覚悟した。


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