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旅は順調に進む

まとめて投稿と言いつつ、GWで時間があったので部分投稿しておきます。

 バレンシアの町でカイル騎士団長から受けた依頼は本人の護衛だった。

 詳細までは聞き出せなかったがカイルを狙う暗殺計画があり、それを避ける為ということだ。

 実際には囮となる本体が先立って出発し、俺たちは別ルートにて領都へと向かっている。

 だから危険は少ないらしいが、万が一に備えて信頼ができて腕のある者が必要だったようだ。


 何故騎士の護衛を俺がと思ったが、偽装してもとうてい平民には見えない騎士たちに頭を抱えたところで、俺たちを思い付いたと……。


 どう考えても暗殺計画というのは嘘、あるいは建前だろう。

 町では狙う機会が少ないから道中で狙うというのは良い。

 でも事前にわかっている計画に対して偽装してまで移動するのはおかしい。

 なぜなら普通に討伐隊を組むなり護衛を増やせば良いだけだ。

 それが平民の俺たちに護衛を依頼するより普通の思考のはず。

 なにより、本人からも命を狙われているという緊迫感が伝わってこないし、むしろ俺たちに興味があるという態度が見え隠れしている。

 だが、だからこそこの依頼を受けたと言っても良い。

 リスクが少なく得るものが大きいからだ。


「待たせたか?」

「いえ、問題ありません」


 東門近くにある兵舎前に短足馬(ニコラ)を付け、降りてモモと一緒にカイルを出迎えていた。

 ルイーゼとマリオンにはニコラ以外に、二頭の馬の面倒を見て貰っている。

 こちらは普通の葦毛の馬になる。

 短い付き合いなので名前は付けていないが、二人は今にも名前を付けそうな感じだ。

 別れにくくなると言って押さえてはいるがどうなるか。


 さすがに依頼通りカイルを荷台に乗せて運ぶわけにはいかない。

 それに建前とは言え一応は依頼主であり護衛対象なのだから、馬に乗って移動してもらうというわけにもいかない。

 だから『カフェテリア二号店(仮)』の個室を使ってもらうことにしていた。

 豪華な乗合馬車と思って貰えば良いだろう。


 そして現れたカイルの横には平民服に身を包んだテレサがいた。

 カイルはまだしもテレサの似合わなさといったら、カイルが頭を抱えるというのも伺える話だ。

 そう考えると、やはり貴族には貴族らしさというものがあるのだと良くわかる。


「すまぬ。急遽荷が増えることになった」

「カイル様だけで平民と旅をさせるわけには参りません。

 身の回りのことは私がさせて頂きます」


 当然の反応だろう。

 当然すぎて不愉快な気持ちも浮かばない。

 というか個人的にはテレサの率直な態度は好感が持てる。

 なんというか人を騙すことが出来ないと言ったところがかな。


「金を使わせたか?」

「新たに用意したのは二頭の馬だけですが、領都で手放しますので問題ありません」


 問題は無いはずだ。

 この馬を用意するのに討伐戦の報酬を殆ど使ってしまったのだが……同値で買い取ってもらえないだろうか。


「これからしばらく一緒に旅をするというのだ、もう少し砕けて話してくれて構わない。

 いやむしろ、偽装に必要なのだからそうすべきだ」

「カイル様、なりません。せめて私を通すようにしてください」


 俺もその方が助かる……といっても、テレサも貴族様だから余り変わらないか。

 むしろ気さくなカイルの方が良いのか。


「お二人をお客様と言うことでもてなさせて頂きたいと思います」

「テレサ、やはりお前は残れ。俺の楽しみが減る」

「えええっ、駄目ですよ。絶対に私も一緒しますからね!」


 なんとなく私情が見え隠れもするが、まぁ、一人も二人も大きく変わらないだろう。

 幸いにして二人くらいなら個室でくつろげる……同じ部屋で良いのだろうか。

 まぁ、その時が来たら勝手に決めてくれるだろう。


「アキト、もしかしてその少女も旅に連れて行くのか?」


 もちろんモモのことだ。

 そう言えば直接会うのは初めてだったか。


「共に旅をしていますので。

 長旅には慣れていますので問題ありません」

「カイル様……もしかして」

「あぁ、精霊だな」


 バレた!?


 バレて問題があるわけじゃないが、ルイーゼと旅で出会ったエルフ以外にバレたのは初めてか?

 しかも二人も同時となると……ここ神聖エリンハイム王国には精霊を認識出来る人が多いのかもしれない。


「わかりますか?」

「なんとなくだが……しかし、いや、間違いない。

 植物系精霊(ブラウニー)か、珍しいな。

 伝えられている容姿とは随分と異なるようだが……」


 一般的にブラウニーの容姿は大木のような大男と言うことだった。

 人間の幼女と違いない容姿をしているモモはやはり珍しいようだ。


「私も他に精霊を見たことがないので詳しいことまではわかりませんが、違うようですね」

「さ、触っても大丈夫よね?」

「噛み付いたりはしませんよ」


 テレサが恐る恐る差し出してくる手にモモが噛み付く――噛み付いた!?


「わっ、いたっ!」


 テレサは手を引っ込めると、その勢いのまま尻餅を()く。

 俺は気にしていなかったけれど、どうやらモモはテレサの俺に対する態度に怒っていたようだ。

 モモには俺が怒っていないことを伝え、テレサにはモモの行動を謝罪する。


「だから言っているだろう。

 無闇に敵意を撒き散らすからそうなる。自業自得だ」

「はい……」


 痛みでと言うわけでは無いだろうが、手をさすりながら少し涙目になっているテレサはカイルの指摘に肩を落としていた。


 ちょっとしたトラブルはあったものの何とかその場をやり過ごし、二人をキャンピングカーに案内する。

 (カー)と言いつつ牽くのは短足馬のニコラだが。


「これは、馬車なのか?」

「入り口は御者席側と背後にあります」


 俺は二人を案内し、背後の扉を開けて中へ誘導する。

 そこは簡単な水回りと二人がくつろげる程度のスペースがあった。


「私は荷台程度の物を考えていたのだが、これはまたなんという……」


 驚きはテレサも一緒のようで目を丸くしていた。

 一般的な馬車はあくまで移動の為のもので、生活が出来るようには考えられていない。

 一日移動したら宿場町で宿に泊まる、そうで無ければテントを出して外で寝るのが普通だ。

 馬車そのものを生活空間にしてしまうと言う発想はなかったようだ。


 まぁ商人なら荷を運ぶし、馬車なら人を運ぶ。

 そのどちらもできないキャンピングカーは、旅行という娯楽のない世界で特異な物となっても仕方がないのかもしれない。

 だから通りを行く人も物珍しそうに見ているのも仕方が無いだろう。


「アキトに頼んで正解だったな。次々に面白いものを見せてくれる。

 旅も充実したものになるだろう」

「まだ仕上げが残っていますので、乗り心地の方は荒さが残っておりますが、ご容赦頂きたく思います」


 本当ならバネを作れれば良かったが、知識はともかく素材と作り出す技術が無い。

 だから今回はバネ的な物を作って車軸と荷台の間に取り付けている。

 そうしないと移動の度に陶器類をモモに預かって貰うか、いちいち包む必要があった。


 バネ(もど)きは植物の素材を使って実現している。

 幹が非常に細かい気泡でできた植物で、低反発クッションのような特性のある不思議植物だ。

 普通にソファの材料として使われている物だが、このままではキャンピングカーを支えるほどの強度はなかった。

 そこでオリジナルスキルの『魔力付与』エンチャント・マジックで強化を行っている。

 今のところはいい感じに仕事をしているが、心配なのは耐久性か。

 バネとは違って揺れを吸収する必要が無いので、実用に耐えられるならベストなのだが。

 まぁ有機物だからな……強化したとは言え一時凌ぎにしかならないだろう。


「構わぬ。十分だ。テレサ何を呆けている、出発するぞ」

「は、はい!」


 二人が乗り込むのを見て俺も御者台に座る。

 ルイーゼとマリオンの二人は、装備を身に付けた状態で馬に乗り、馬車の先導役だ。

 建前とは言え護衛の仕事なのでそれらしく振る舞う必要はあるだろう。


「それじゃ出発だ。

 日が暮れるまでに宿場町まで辿り着くぞ」

「はい」

「わかったわ」


 先行する二人を追い掛けるようにニコラが歩き出す。

 天気は良く、眠気と戦う一日になりそうだな。


 ◇


 仕事は当たり前だが順調で、襲撃の様子も感じられない。

 念の為に『魔力感知』(センス・マジック)で注意を怠らないようにしているが、問題なく宿場町に着き、一日を終える。


 開けて翌日。旅が順調でも俺たちがやることは変わりない。

 カイルとテレサが起きる前にモモを連れて宿場町の外へ。

 先に待っていたルイーゼとマリオンに合流し、軽くストレッチをしてから鍛錬に勤しむ。


 朝露の残る草原を駆けるのは俺とマリオンだ。

 正面にルイーゼ、右手にはマリオン、それぞれが実戦装備に身を包み俺を取り囲もうと立ち位置を変える。

 逆に俺は挟まれないよう常に二人が正面に来る位置を目指す。


 積極的に回り込もうとするマリオンに対して、ルイーゼは俺との最短距離を詰めてくる。

 圧縮した魔力を放つ『魔弾』(マジック・ブリット)でルイーゼを牽制するが、ルイーゼの持つ巨大で重厚な盾はその衝撃を吸収し、戦車のようにびくともせず近付いてくる。


 次の手を考える間もなく横合いから迫ってくるのは、魔力を、剣を媒体として射出することで(やいば)とする『魔刃』(マジック・ブレード)だ。

 俺はそれを濃密な魔力で作り出した盾――『魔盾』(マジック・シールド)で打ち消し、お返しとばかりに『魔刃』を放つ。


 肉眼では陽炎のような残像にしか見えない魔力の刃を躱すには、魔力を感じる、あるいは行動を予測するしかない。

 マリオンはその両方を持って俺の放つ『魔刃』を躱す。


 その間に振られるルイーゼの聖鎚を再び産み出した『魔盾』で食い止め、背後に回ったマリオンの『魔刃』を『魔盾』で食い止め、間合いに入ってきたルイーゼのシールドバッシュを『魔盾』で食い止め、同じく間合いに入ったマリオンの連撃を『魔盾』で――うがぁぁぁあ!


 有り余る魔力に物を言わせて、ただ自分を中心に爆発させた。

 それは単純に暴風の様に過ぎ去るだけのものだが、ルイーゼとマリオンを間合いの外にはじき出すだけの力はあった。

 技でも何でも無い、ただの出鱈目である。


 だがそれで稼いだ一瞬の時間に、俺は魔力による肉体の強化と筋力の強化を行う。

『身体強化』(ストレングス・ボディ)と名付けたこの技術(スキル)により、体内で活性化した魔力が体から溢れ出すと、赤いオーラのようなものが俺の身を包む。

 単純な『身体強化』では無く、あり余る魔力により対魔性能も上がった状態だ。


 同時に五感の能力が上がり、時間さえもゆっくりと流れ出すような錯覚に見舞われる。

 その世界の中で、怯むことなく動き出すルイーゼとマリオンの二人を捉えた。


 ルイーゼの持つ聖鎚が光り輝き、マリオンの両手に持つ一対の魔剣ヴェスパから赤い軌跡が生み出される。

 二人の持つ最大の攻撃力を誇るスキルだった。


 魔力その物であるマリオンの攻撃はスキル『魔力吸収』(ドレイン・マジック)で無効化する。

 ルイーゼの攻撃はメイスを直接左手で受け止めて威力を吸収し、合わせて聖鎚に込められた魔力も『魔力吸収』で奪い去る。


 無力化された攻撃に動揺の色を見せるルイーゼ。

 そこに向かって右手の黒曜剣を袈裟斬りに振るうが、ルイーゼは武器を放棄することで間合いを空ける。

 過去の経験から条件反射的に取った行動なのだろう。


 俺は感心しつつも一旦ルイーゼの相手を止め、直接攻撃に切り替えてきたマリオンに向き合う。

 早さだけでなく、左右にフェイントを入れつつ間合いを詰めてくるマリオンだが、フェイントの為に地面を飛んだ瞬間には隙があり、強化された視力がそれを見逃さない。


 俺は聖鎚から奪い取った魔力をそのまま左手からフェイントの軌道上に放つ。

 それをとっさに躱せないと判断したマリオンは腕をクロスして衝撃に備えたが、膨大な魔力の塊が巨大な質量となってマリオンを吹き飛ばす。

 暴風に晒された木の葉のように吹っ飛び動かなくなったマリオンを置いておき、『多重障壁』(マルチプル・バリア)を張ったルイーゼに向かう。


 魔力による障壁は面に対する防御力が高いが、点に対する攻撃には防御力が低い特性を持っていた。

 それを補う為に多重に張られた障壁は、同時に複数の魔法を展開する難しさと、展開する数に合わせた魔力量を必要とすることから、古代魔法の中でも高難易度の魔法に分類される。

『魔法障壁』(マジック・バリア)を使いこなすルイーゼでも、実戦の中ではとっさに使えない魔法の一つだった。

 その効果は素晴らしく、Aランクの魔物の攻撃すら防ぎきると言われている。


 魔法による障壁は俺の使う『魔盾』と違って魔力による具現化された現象だから、『魔力吸収』で消し去ると言うことはできなかった。


 俺はその『多重障壁』に対して黒曜剣を肩の高さに構え、魔力を込めて突きを放つ。

 強化された剣が強化された肉体をもって一点を貫く槍と化す。

 その威力にガラスの割れるような音を立てて『多重障壁』が次々と打ち破られていく。

 煌めく魔力の残滓が辺りを覆い、『魔力感知』が役に立たなくなる。

 ルイーゼは打ち破られる障壁を補うように次々と新たな障壁を産み出し、ついには俺の攻撃を撥ね除けた。


 力を失った俺の突きが障壁に弾かれる様を見て、安堵の表情を浮かべるルイーゼだったが、直ぐに『多重障壁』を打ち破った『魔弾』の直撃を受けて吹っ飛ぶ。

『多重障壁』の生成速度を上回る『魔弾』の飽和攻撃によるものだ。

 最後の一撃だけルイーゼに届くように調整するのが難しかった。


「頭がクラクラするわ」

「同じくです……」

「怪我は無いか?」


 ルイーゼに手を貸し、頭を振りながら歩いてくるマリオンに問う。


「手を抜いて貰ったしね。

 アキトが敵なら私はもう死んでいたと思うと複雑だわ」

「私もアキト様をお守り出来るくらいにはなれたかと思いましたけれど、まだまだでした」

「いや、二人とも強かった。

 正直どうにもならなくて『能力解放』(リリース・アビリティ)で強引に決着を付けただけだ。

 抑えていたら二人を相手にして勝つのはもう無理だと思う」


 特に二人は息が合っているからお手上げに近い。


「今度から全力でやる時は一対一にしよう、事故が怖い」

「少し残念ね」

「残念ですね」


 本当に残念そうだ。

 天国にいるルイーゼとマリオンのご両親にごめんなさいと心の中で謝る。


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