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ゴブリン討伐戦・中

 目の前には領兵に向かっていくゴブリンの集団と、こちらに向かってくるコボルトの集団がいた。


 事前に受けていた説明より数が多い。

 ゴブリンとコボルトは同数の一〇〇人程度だが、ホブゴブリンの数が異様に多く、その数三〇人ほどに見える。

 ゴブリンの倍近い体躯を持つホブゴブリンの集団は、背丈こそ人と似たようなものだが、寸胴で幅のある体は振るう腕一つで大人でも吹っ飛ぶだろう。


 先に接敵するのは足の速いコボルトを相手にすることになった冒険者側だ。

 コボルトはおよそ一〇〇人程度で、左右に広く展開して迫ってくる。

 これだけ広がられると魔法による範囲攻撃の効果は限定的だ。

 だが同時に相対するコボルトの数が減るのは悪いことばかりではない。

 個々の強さはこちらの方が上だから、混戦にならなければ簡単に崩れはしない。


 ギルドマスターダルカンの号令に合わせて魔術師の詠唱が始まる。

 続けてあちらこちらから弓が放たれ始めた。

 俺とマリオンも、狙いもそこそこに矢を射続ける。


 三射目が終わる頃には、幾十もの矢に続いて威力の高い火属性の魔法を中心に、様々な精霊魔法が先兵として駆け寄ってくるコボルトの集団に襲い掛かる。

 思ったよりも魔術師が多いようで、過去に類を見ないほどの魔法が冒険者の中から飛び出していた。

 初めこそ冒険者の数が少ないと思ったが、思った以上に実力派揃いだったようだ。


 この世界では魔法が広く普及しているが、魔封印の呪いを解呪するのに高価な魔法具を必要とすることもあって、平民の魔術師は少ない。

 二年ほどこの世界にいるが、俺が一緒に戦った平民の魔術師は三人程度だ。

 今精霊によって具現化された魔法は一〇程度で、五〇人規模の集団にしてはかなり比率が高いと言えた。

 如何にも魔術師という感じの冒険者が少ないのと、魔術師自体いないものと考えている部分があって、ここまで多いとは気付かなかった。


 俺とマリオンが五射目を終える頃には、既にコボルトは目の前まで迫っていた。

 ここからは近接戦になる。

 カイル率いる領兵もコボルトの集団と戦闘に入ったようで、遠く雄叫びが聞こえてきた。


 俺は弓を背にし黒曜剣の柄に手を掛けると、先頭で飛び掛かってきたコボルトを抜き際に斬り捨てる。

 コボルトの知能は殆ど魔物と変わらず、単調な攻撃は余裕を持って躱せるものだ。

 二人目、三人目と続いて飛び掛かって来ようとするが、地面を離れたところで横に回るように躱し、首を狙って剣を振るう。

 斬られたコボルトは着地してしばらくは苦痛に藻掻いているが、直ぐに動かなくなった。


 俺の両脇ではマリオンが魔剣ヴェスパを両手にルイーゼはメイスと盾を構え、向かってくるコボルトを相手にその力を遺憾なく発揮していた。


「マリオン!

 周りの戦いも良く見て、孤立しないように気を付けろ!」

「わかったわ!」


 前にカイルと一緒に戦った時、マリオンは一目散に敵に向かい、共に戦うカイルを置き去りにしていた。

 普段仲間内で戦うことが多いマリオンにとっては何時ものペースだが、初めて戦う人と合わせるのはまだ慣れていないようだ。


 いくらコボルトとは言え危なげなく戦う二人に、となりで同じく第一波を蹴散らしていたマッシュたちパーティーから感嘆の声が上がる。


「お前ら歳を偽っているだろ!」

「人より戦う必要があっただけさ」


 余裕があるのはマッシュたちの方も一緒のようで、冒険者側は作戦通りコボルトの群れを蹴散らしながら、ゴブリンを前面に押し出しながら進軍してくるホブコブリンの背後を狙う。

 今のところゴブリンキングの姿は見えない。

 それでも数の暴力を相手に領兵の方も押されないよう戦線を維持するのがいっぱいに見えた。


「アキト!

 俺とお前たちのパーティーで、兵隊さんたちに群がるゴブリンの横を突くぞ!」

「わかった!」


 冒険者側のリーダーであるギルドマスターのダルカンから指示が伝達される。

 こちらの余裕に対して領兵側が押されていると判断したようだ。

 その為、もっとも左翼にいる俺とマッシュに領兵と対峙しているゴブリンを横から突くよう指示が下った。

 俺にわかるのはせいぜい戦術程度、例え最初の作戦と違うとしても戦略的指示が出たなら従うまでだ。


 俺たちの前では左手に領兵、右手にゴブリン、ゴブリンの背後に離れてホブコブリンの進軍が見て取れる。


「ルイーゼ!

 右から来るホブコブリンから俺たちの背後を守ってくれ!」

「はいっ!」

「マリオン、俺と一緒にゴブリンの背後を突くぞ!

 先に行って場を乱してくれ!」

「まかせて!」


『魔力感知』(センス・マジック)が活性化したマリオンの魔力に反応して、強度を上げた防具を映し出す。

 ドラゴンのなめし革で作られた革鎧から魔力の残滓が鱗粉(りんぷん)のようにこぼれ落ちるのは、魔法武具の欠点かもしれない――見た目は綺麗なんだが。


 冒険者側で最も左翼にいた俺たち、その中でもマリオンが先頭を切って斬り込む。

 下半身を中心に強化された肉体と、人狼族の血を引く特有のバネがあっという間に俺を置き去りにして敵に斬り込む姿を見せた。


 マリオンの間合いは『魔斬』(マジック・スラッシュ)で三メートル、『魔刃』(マジック・ブレード)を使って一〇メートルといったところだ。

 駆け抜けるマリオンがその二つのスキルを使い、踊るように、そして舞うように剣を振るっていく。

 それは舞踊その物を見ているようで、戦いの中とは思えなかった。

 だが現実的には動脈を切られたゴブリンの血飛沫が舞い散る中での出来事だ。


 俺はマリオンが間引いた後に残ったゴブリンを相手にしていく。

 突然周りの仲間が斬られて倒れていく様を見て、ゴブリンの中に動揺が走り、それは次いで混乱となる。

 コボルトに比べて知能の高いゴブリンは、状況の変化もきちんと感じ取っていた。

 だが今は気付いたこと自体が隙に繋がったと言えよう。

 動きの止まったゴブリンに領兵の攻撃が当たるようになる。

 維持されていた戦線が領兵によって押され始め、浮き足立つゴブリンの背後から俺とマッシュたちで仕留めていく。


「こいつは助かる隙だらけだな」

「マッシュ!

 ルイーゼのサポートに何人か回せるか!?」

「あぁ、俺とドルバンで行く、お嬢ちゃんは任せろ!」

「助かる!」


 ルイーゼのことは心配はしていないが、流石にルイーゼ一人で押さえられるのはホブゴブリンの数人だけだ、回り込まれるのはどうしようも無い。

 俺たちが背後を突かれないようにマッシュのパーティーにサポートして貰うことで、残ったゴブリンに集中する。


 ただルイーゼも期待以上に頑張っていた。

 ホブゴブリンを倒すのでは無く足腰を砕いては直ぐさま次の敵に向かい、一人に時間を掛けていない。

 ルイーゼの持つメイスは『身体強化』のサポートを受け、ホブゴブリンの纏う鉄鎧の上からでも肉体を破壊するほどのダメージを産み出していた。

 骨を砕かれて苦悶の咆哮を上げるホブゴブリンは既に一〇人近く、応援に駆けつけるマッシュは止めを刺しているだけの状態だった。


 圧殺してくるようなホブゴブリンの侵攻を正面から受け止め、それどころか跳ね返す勢いで進んでいくルイーゼはどことなく戦車を思わせる。


 ルイーゼとマリオンの二人を起点に攻めることで、戦況を好転させることに成功したと考えた直後、『魔力感知』(センス・マジック)に新たな反応が現れた。


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