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神々を喰らう猛毒

本日は連投しております。

ご迷惑をお掛けいたしますが「第92話 シャルルロアの戦い・前」からお読みください。




 転移先は突入前に神聖エリンハイム大教会を見据えていた場所。

 ここが安全なのかどうかもわからない。

 とっさに思い浮かんだのがここだった。


 そして、俺が通路から顔を出し大教会の様子を窺った直後、低く轟く音と共に大教会が内部から爆ぜた。

 炎が上がる訳でもなく派手な大爆発というほどではないが、立派な大教会は蕾が花開くように崩壊していた。

 小石混じりの砂埃が小さな嵐となって、大通りから俺たちの潜む通路にまで押し寄せる。


「ルイーゼ、助かる」

「はい」


 俺たちは『魔法障壁』(マジック・バリア)のおかげもあって砂塵を吸い込むこともなくやり過ごせたが、周りでは窓ガラスが割れてまともに砂塵を受けた人々も多いのか、悲鳴とも呻きとも取れる声が上がりつつある。


 だが俺の気は、爆心地から発せられる巨大な魔力源に捕らわれていた。

 その魔力量はかつて出合った上位魔人を圧倒し、もはや俺に認識出来る範囲を超えている。


 朝日が昇り、徐々空が明るくなりつつある中で、光りを喰らうような闇を纏うそれは、遠目に見て人のような形をしていた。


「受肉したようだな」

「あの女とは何のことだ!?」

「さぁな。北の迷宮の最深部に捕らわれていた女だ。

『支配の王杯』はもともとその女の所有物だった。

 それを俺が手にし教会に献上した」


 それは思いっきり怪しい奴だろ!


 強大な力を持つ魔道具を発見した場合、それらは個人の所有を禁じられていた。

 個人で扱うには余りにも危険すぎるからだ。

 国は報酬と引き換えにそれらの魔道具を回収し、厳重に保管している。

 神聖エリンハイム王国では教会もその管理を任されているのが他とは違うくらいで、だいたい何処の国も一緒らしい。


 だからベルディナードが『支配の王杯』を手にし、それを教会に持ち込んだこと自体に罪はない。

 その運用は管理する者の手にあり、危険な物であれば報酬も高まる。

 ある意味、冒険者が最終的に目指す宝という訳だ。

 爵位と枢機卿という、政治と宗教のどちらでも高い地位を手に入れたベルディナードは、ある意味サクセスストーリーの主人公になる。

 そこに裏の意図がどうあろうと関係はなかった。


 セシリアやルイーゼを襲ったことも教会の方針であり、それに従ったベルディナードに法的な責任はない。

 個人的な感情は別として、敵対勢力との抗争の中での出来事であり、それぞれの勢力の正義の元に戦っただけで、負けた方が悪とされるだけだ。


 戦場で出合ったなら迷わず戦うべき相手だが、立場が違うだけで敵意のない者を俺には殺せない。

 それが俺の甘さだとは思っていない。

 ただ、人である為に守るべき最低限のことであり、俺が俺である為に必要なことだ。


 もっとも、ベルディナードは枢機卿でもあることから、教会上層部といえる。

 事が済めば正しい裁きを受けることになるだろう。


「古代の文献で目にしたことがあります。

 北の迷宮に封じられていたのは『混沌の女神』。

 一〇人の天使に封印された悪魔の一人だそうです。

 伝承を記したものですが、実在していたのですね」

「名前からして封印された理由がわかりそうだ。

 それが封印を破って復活したというのか。

『支配の王杯』が復活に必要な魔道具だったのか」

「わかりません、そこまでのことは書かれていませんでしたので」


 研究熱心なリゼットが、知識欲だけで多くの書物を読み込んでいるのは知っている。

 そのリゼットが知らない以上、この場でその答えを持っている者はいないだろう。


「天恵を喰らう為らしい。

 あれはあの女が作り出した魔道具であり、その目的は強い魂と天恵を喰らうこと。

 それにより力を取り戻し、封印を破ることだという」

「何故それを知っている!?」

「本人がいっていたからな」

「なっ!! それを知っていて何故使わせた!!」

「今話したことは伝えている。

 良心的な人間ならば手を出すことはあるまい」


 それは悪行を学んだ人の前で、お金を見せびらかす行為と同じだ。

『支配の王杯』が持つ支配の能力に魅せられる者がいないとは言い切れないし、現に魅せられた者がいて現状に至る。


「天恵とは元々神々が分け与えた力だといわれています。

 それを取り戻すことで力を得るというのは納得のいく話です」


 納得されても困るが、リゼットのいっていることは正しいだろう。

 天恵が人の良心に関わりなく使えるわけだ。

 そもそも与える側にもいろいろと個性があるみたいだし。

 強いていえば信じているかどうか、そちらの方が重要なのか。


「アキト!?」


 マリオンの声に何事かと思った時、誰が使ったものか、足下に魔法陣が浮かび上がっていた。


「これは転移魔法!?」


 それに気付いた時には視界が一転、周りにルイーゼやマリオンそしてリゼットの姿はなく、何故か俺とベルディナードだけがいた。


 強制的に俺たちを転移で呼び寄せたのか!?


 その魔法を使ったと思わしき存在が目の前にいた。

 身長はルイーゼよりも低くまだ幼い子供だが、その容姿は人間のようでいて異なる部分が多かった。

 身長と同じほどの長く黒い髪を持ち、ルビーのような赤く輝く瞳、余りにも白すぎる肌とそれを覆う甲殻とも鱗とも取れる衣装……いや、鎧か。

 額の横からは二本の角が前に突き出るように伸びており、何より三対の黒い羽が目立つ。

 一対だけ片羽が欠けていることに理由はあるのか。

 犬歯が少し長めで笑みを携えてはいるが、それは酷く冷淡なものに見えた。

 手に持つのは身長に似合わぬ黒い大剣で、刃の部分は雷光のように赤い光りが走しりただものではない雰囲気を持っていた。

 叶うならば、それが振われないことを願うばかりだ。


「さて、人の間では最初に名乗るのが礼儀だったか。

 我が名はレトリラ。

 まずは二人に感謝を述べねばなるまい」

「!?」


 自分が害されることなど微塵も考えていない堂々たる姿に俺は圧倒されていた。


「不完全とはいえ片腕ほどは動かせるようになったので、退屈を紛らせる程度のことは出来るであろう」


 出来ればその退屈を紛らわせる行為が人類にとって利益に繋がると良いんだが。

 もし神と対を成す悪魔がその力を振うとなれば、被害の程は計り知れない。


 ここでいう感謝が復活に拘わったことを示すなら、呼ばれた俺とベルディナードの二人が大きく拘わっているということなのだろう。


「ベルディナード、これが『支配の王杯』が力を失った結果か?」

「『支配の王杯の』力が失われるとは、それ(・・)が力を得ることだ。

 だが、本来は人の魂程度で蘇るはずはなかった」

「完全ではないらしいぞ。

 結果的に俺が復活させたことになるのか……」

「遅かれ早かれ事は起きていた。

 であれば魔人の子であるアキトがいるのは丁度良かったとも思える。

 あれを抑えられるとすれば、人にして人ならざる者だけだ」


 勝手に人を魔人の血筋のようにいわないでもらいたい。

 だが、ことが起こることは確定事項であり、それは人の手に余るというのなら、不死竜エヴァ・ルータの魂を宿す俺に出来ることがある。

 その時はもう二度と仲間には会えないことが辛いけど、仲間はこの先の人生を生きていける。

 全てを失うことに比べれば、その選択に迷いはない。


 迷いはないが……避けられるなら避けたい気持ちでいっぱいだ。


 目にするだけで魂を削るような相手が、これで不完全だという。

 それなら、完全になるのを許す訳にはいかない。

 目的が魂と天恵を喰らうことなら、間違いなく人類の敵だ。


 俺は翡翠剣(デュランダル)を構え、出方を待つ。

 ベルディナードも逃げることは諦めているのか、同じく剣と盾を手にしていた。

 さすがにこちらから攻撃までは出来なかったが、何かあれば全力で抵抗くらいはしてみせる。


「ベルディナード、お前もまた全ては知らぬ。

 褒美としてその命は消してやろう。

 我に喰われるよりはマシぞ」

「……俺もまた利用されていた訳か」


『アキト、ルイーゼが女神降臨を行います。

 ただ、直ぐにとはいきません。

 恐らくことが始まれば気付かれるでしょう。

 無理は承知ですが、時間を稼げますか?』


(リゼット! ルイーゼは本当に出来るのか!?)


『わかりません。

 ですが、やらなければ出来ることも出来ないでしょう』


(それはそうだが……正直余り自信はない

 けど、最悪の場合打つ手が一つだけある)


『アキト、何を考えているのかわかりませんが、私たちの前から消えるようなことだけはなりませんよ』


(そんなことにだけはならないよう、祈っていてくれ)


「強き魂は美しいの。

 復活の門出には丁度良いではないか。

 では宴を始めるとしよう」


 遠巻きに人の気配を感じるが、余りの異様さに近寄ってくる者はいない。

 だが、直に衛兵なり騎士団が来るはずだ。

 それまで持ち堪えられれば活路も開けるか?


 不死竜エヴァ・ルータ、最悪の時は例の約束を頼むぞ。


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