花のカラーボール (改)
「嘘だろ・・」
大学の合否発表に掲示板に、俺の受験番号がなかった。呆然とした。
まさか自分が落ちるとは。
俺・瀬川 隆文は、東京の有名私立大学を受験した。
自信はあった。塾の指導者からは、
”う~ん、ちょっとギリギリだね。頑張って”と。
でも、俺は”ギリギリでも合格する” って自信があった。
それに俺、自分でいうのなんだけど、本番強いし、受験勉強も最後まで手は抜かなかったし。
ところが今年、入試問題は、傾向がガラっと変わってた。
試験問題を解くうちに、(これ、今までと違くね?)って感じたくらいだ。
だいたい、あの大学が、急に試験の傾向を変えるから悪い。
俺は被害者だ。今まで通りの試験傾向なら、ギリギリ受かってただろうに。
家に戻ると、両親は、俺を腫物扱いだ。
それがかえって、わずらわしい。
後、大学は、北海道のK市にある公立の大学を受ける予定。
(一応、センター試験は受け、そこそこの成績はとった。)
でも、2次試験は、受けるのは、気が進まなかった。
あんな、wifiも飛んでないような僻地に行きたくない。
浪人サセテクレナイカナ?・・・
ウチの財政事情を思うと、無理だろうけど。
家にいてもムシャクシャするので、コンビニに行くと言って、外へと脱出した。
外は、夕暮れ時をすぎ、本格的な夜の前の、青い薄闇の世界だった。
ここら辺は東京でも、かなり郊外でそのせいか空き地も空き家も多い。
薄暗いと、不安を感じるというより、今の俺は、すれ違う人に不安を感じさせる人かもしれない。
家を出た時は、外の空気で少しスッキリしたけど、
土手の道を歩きながら、いろいろ考えるうち、いろんな事が思い浮かんだ。
心もモヤモヤする。
さらに土手を歩く。もう1kmは、歩いた。
やっと、考えがまとまってきた。”ギリギリで落ちる自分”を、もっとなんとかスベキだった。
そう、自分の努力が足りなかっただけなんだ。
そう言い聞かせても、自分の心の中は、まだザワザワしている。
そんな時、後ろから声をかけられた。
「あの~すみませんがのう。もし、ヒマがあったら、ちょっくら手伝って
欲しいんじゃが」
振り返ると、腰の曲がった爺・・いやおじいさんが、ビニール袋を持って立ってる。
道に迷ったのか?徘徊?新手の詐欺?
いろいろ疑問にも思ったけど、一応”どうしたんすか?”
と、いい若者ぶりっこして、聞いてみた。
爺さんは、ビニール袋から、カラーボールを取り出して、
「このボールを、ある場所に投げて欲しいんじゃ。
ほら、ボールはこの通り、薄くて落とすと簡単にわれる」
といって、オレンジ色のボールを落とした。パシャンっと音がして、道路はそこだけオレンジ色に染まった。
「最近、空き地に犬にフンをさせて、後始末もしない奴がふえての。そばの空き地がそれで臭いんじゃ。
で、このボールには犬猫をよせつけない薬が入っててな」
タラタラ話す爺さんに、俺はイライラしながら話を先取りした。
「わかった。忌避剤っていうんだろ、それ。
それを、投げればいいわけね」
忌避剤 くらいはわかってるのだろう。爺さんはニコニコしてるだけだけど。
腰の曲がった爺さんにあわせて、チンタラ歩いき、目的地の空き地についた。
確かに、なんとなく臭う。
前には古い民家が立っていたけれど、取り壊されたままなんだ。
「すまんの、わしじゃ、腕の力がなくて、あそこまで届かないんじゃ」
空き地の周りは、道路との間に溝があった。
確かにこの80すぎたかもの爺さんじゃ、無理だな。
俺はビニール袋をひったくるようにとると、中のボールを投げた。
パシャンって音がした。すると、花が ぼんやり光って現れ、消えていった。
へ~不思議だ。単なる忌避剤に、イリュージョンなみの仕掛けがしてあるんだ?
花の名前はわからなかったけど、ヒマワリだけわかった。
俺は、次々よ、ボールを空き地にたたきつけるように投げた。いろんな花の姿が浮かんでは消えていった。
仕組みはよくわからないけど、ボールを思い切りたたきつけると、すっごい気持ちいい。
うん、ストレス解消にちょうどいい。
花の香がかすかにする。
ボールの色によって、花も香も違うんだ。
「にいちゃんは、上手じゃのう。ホッホッホ。」
爺さんは俺に任せることにしたらしい。
いい加減時間がたった所で、「もう一つ、ボールを投げてほしい空き地があるんじゃ」
と爺さんが案内するままに、移動、ビニール袋には
思いがけずたくさんのボールが入ってたようだ。
「爺さん、ボールなくなったぜ、これでいいんだろ?」
ふりむくと、誰もいなかった。あたりは真っ暗になっていた。
先に帰ったのかも。近所に自宅があるのかも。まあいいか。たいした労力でもなかったし、
こっちも、思い切りボールを投げたおかげで、幾分スッキリした。
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結局、俺はK市の大学に行くことになった。
ギリギリの合格だったようだ。俺は一応、浪人したいと言ってはみたけど、
即、却下。両親の許しはでなかった。
”お前も少しは、自立という事を考えなさい”と、仕送りまでギリギリ。
なんてこったい。
夏に帰省した時、文句の一つも言いたかったけど、
東の果てとはいえ、一応20万都市での大学生活。そうそう不便はなかった。
まあ、文句をいったところで、
”大学やめて働いたら”と、くるのはわかってるし。
なんだかなあっ って言葉がついでてしまう。俺は有名私立大学男子、モテ期到来、キラキラ青春 の夏休みの予定だったんだけど。
そんな夏休みのある日、コンビニに行くとき、遠回りをして、あのボールを投げた空き地を通った。
そこは、なぜか、雑草に交じって、ヒマワリがたくさん咲いていた。
そういえば、K市に行く前の春
空き地にボールを投げたとき。ヒマワリの花も浮かびあがったっけ。
母さんに聞いてみると、不思議な話だった。
ある日、突然、空き地が花盛りになっていたそうだ。いろんな花が咲いていたそうだ。
そういえば、確かにいろんな種類の花を見た。
そうだ。もしかして、あのボールには花の種でも入っていたんだ。
何かのイベント用だった・・のかも・・
今一つ、俺の投げたボールがなんだったか、ハッキリわからないけど、
まあいいか。ヒマな時にでも、爺さん探して、聞いてみようか。
「あそこ、あの空き地の地主さんは、もう4年も前から、施設にいたんですって。
身寄りもないお爺さんで、公園にする事を条件に、土地を都に寄付したそうよ。
そのお爺さん、今年の1月に施設で亡くなったそうだけど。
晩年は孤独だったのかもね。
公園が出来るのも、地主さんの遺言あってこそよね。遺言って大事だわ」
お喋り大好き母が、老人会のボランティアをした時の写真を、見せてくれた。
ほら、この人よ っと指さしたのは、
俺にカラーボールを投げるのを頼んだ、腰の曲がったあの爺さんだった。