サキミコンコン 其ノ伍
005
長い坂道、学校から恩妙寺家へ行くには見るだけで嫌になるようなこの坂道を登らなければならない。
夕日も沈みかけ、空の色は赤紫色に染まっている。
そんな坂道を僕と荒さんは登っていた。
一緒に帰ってはいるのだが会話はなく、どこか気まずい。
しかし、こんなときにとっさに話題が出るほど僕は話上手ではない。
そんなことを考えていると前を歩いていた荒さんが不意にこちらを振り向いた。
「そういえば少年、君が恩妙寺家に住み始めてもう一年か」
「そうですね、本当お世話になりっぱなしで」
「そうでもないよ、どちらかといえば、私たちが少年にお世話になっている」
「そんなこと、ありませんよ、それに、俺はまだ幸さんになにもしてあげられてませんから」
「あの子は、人になにを任せたりしない子だからね、みんな一人で背負いこんでしまう、それがあの子のいいところでもあり、悪いところでもある」
「そうなんですよね、でも俺は幸さんに絶対恩を返しますよ、それがどんなことであっても、俺が仮に命をおとしたとしても」
「私は、君のそう言う所が好きだよ」
そう言って荒さんは今日一番の笑顔を見せる。
「だけどね」
だが、笑顔は一瞬で消え荒さんは真剣な顔になる
「君のそう言う所が、私は嫌いだよ」
そう、荒さんは僕に言った
「君はあの子にそっくりだよ、いや、似てきたが正しいかな」
「俺が幸さんに…」
「自覚はしてないのかい、私から見たら一年前の君は今とは真逆に見えたがね」
「そうかも、しれないですね」
そう言って、改めて俺は俺自身の変化を感じ始める、確かにこの一年色々な事があったけれど、俺は僕の思った通りに一年を過ごしてきただけだ。
「でも、僕の本質は俺の中では変わってませんよ」
俺がそういうと荒さんは僕から顔をそらし俺に背中を向ける
「そうかい」
不思議とその荒さんの背中は優しく見えた。
その後は大した会話もなく、俺と荒さんは恩妙寺家へと到着した。
山の奥の長い階段の上、大きな鳥居をくぐり目の前に見える本殿、その隣にある純和風の木造建築物、そこが俺と彼女達の家、恩妙寺家である。