サキミコンコン 其ノ参
003
和ちゃんとの真面目な話も終わり僕は和ちゃんと共に、本来の目的地であったところの昇降口前の掲示板に向かっていた。
「そういえば、和ちゃんはまだクラス分けを見てないの?」
僕が歩きながら和ちゃんに問いかけると和ちゃんは一瞬言葉に詰まる。
「実は、一度だけ昇降口付近まで行ったのですけど・・・」
そして、また言葉に詰まる。
この段階で、僕は大方の予想を立てていた。
きっと、昇降口には大勢の生徒がいる。
そこに和ちゃんが行ったとするなら、和ちゃんの人見知りが発動するのは仕方のないことなのだ。
「もしかして、昇降口前、混んでた?」
「はい、もう、こう、うわぁーっと」
なんだか例えが可愛らしいが、やはり僕の予想は正しかったようだ。
「今度は僕が一緒に行くから、大丈夫」
「はい、期待させていただきます。」
そうして僕らは昇降口前にたどり着く。
まぁ。
簡単に言うと、人があふれかえっていた。
「無理です、こんな中を掲示板まで行くなんて、不可能です、無謀です、自殺行為にも程があります。」
和ちゃんが涙目になり僕の腕にしがみついてくる。
なんというか、今の僕なら悪魔だろうが魔王だろうが、何が襲ってこようとも和ちゃんを守れるような気がした。
というか、守りたかった。
「大丈夫、和ちゃん、僕が一緒にいるから」
「うー、頑張ります」
こうして、僕たちは人ごみの中に入っていった。
結果から言って、僕と和ちゃんは開始数十秒ではぐれた。
「和ちゃーん、和ちゃーん」
僕は必死になって和ちゃんを探す、こんな人ごみの中ではぐれてしまったら、和ちゃんの精神がもたないからだ。
僕は人をかき分け、和ちゃんを探す。ペンギンの親は、子供を見つける技能を持っているというが、今僕はその技能がとても欲しい。
「おい、少年」
誰かが、和ちゃんを探しまわる僕の肩を掴み、僕の行動を止める。
誰か、と言ってしまったのだけれど僕の人生の中で、僕のことを少年と呼ぶ人は一人しかいない。
僕は振り返る、僕の肩を掴んだその人を見るために。
振り返ってみるとそこには、銀髪の長い髪、燃えるような赤い瞳、身長は僕と同じくらいで腕に生徒会の腕章をつけたその人―――恩妙寺荒がそこにはいた。
恩妙寺家四魂姉妹の長女、尾翼淡麗、成績優秀、生徒会長百パーセント。
そんな感じの、基本的になんでもできるお姉さんである。
「荒さん、どうしてここに」
「どうしても何も私もここの生徒だぞ、それに、ここまで混雑してしまうと生徒会として、黙って見ているわけにはいけないしね」
「そうですか、それよりも和ちゃんを見かけませんでしたか、この中に一緒に入ったもののはぐれてしまって」
「和なら大丈夫だ、さっき人ごみの隅で気絶しているのを保護した」
それを聞いて僕は大きなため息をつく、荒さんが言うのだからとても安心した。
「それでだ、少し頼まれてくれないか」
「何を、ですか」
「せ・い・び」
お姉さんぶるように僕の耳元で荒さんはそう言った。
「んな、ななっ」
僕は赤面した、耳まで赤くなるとはよく言うが、この場合耳から赤くなった。
「はは、少年は可愛いな、では頼んだぞ」
そういって、荒さんは再び人ごみの中に消えていった。
僕は少しの間、ほうけたあとで他の生徒会メンバーと共に昇降口前で生徒が混み合わないように整備をした。
以前に臨時で生徒会の手伝いをしたことがあった僕は、他の生徒会メンバーとも交友があったのでスムーズに作業は終了したが、はっきり言って、朝っぱらからかなりの過剰労働だった。
ちなみに言うと、荒さんはそのあと昇降口前に現れることはなく、和ちゃんはといえば、保健室に担ぎ込まれていた。
そして、その後は特になんてことなく時間が過ぎて行った。
今日もあとわずかで日が沈む