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伝説のコミュ障剣士の友達づくり!

作者: 鶏肉

剣と魔法、その2つが世界を支配するこの世界。

数々の伝説を短期間の間につくった一人の剣士がいた…


孤高の一匹狼、周りからはそう言われ、何度か王国を救ったことのある英雄の男。

軽く剣を振ればそれだけで山は真っ二つになり、海に大きな穴が出現する最強の剣士。


そんなことを言われ続けた俺…ザックは、実際はただのコミュ障でひたすら剣の修行をすることしかできなかったただのへたれである。因みに今年で14歳。


「…だから今日こそ…今日こそは絶対にまともに会話してみせる!そしてよければ友達になってもらう!」


俺はそう家の天井を見上げて叫び、剣を掲げた。


今まで何度この言葉を叫んだことか…数えることなど不可能だろう。

しかし、それも今日で終わらせてみせる!

俺は心の中でそう決心し、1人、自分の家から飛び出した。

そして、町からすごく離れた場所に1人ポツンとたたずむ。


「まず、この家の位置から駄目だよねー、思いきり人避けてんじゃん」


俺が外で大きく腕を上げていると、後ろから一人の女性の声が聞こえてきた。

…まあ、誰かは見なくてもすぐにわかる。なぜなら、この女の子は俺が唯一普通に会話できる人物だからだ。


「でも…んー、そうしたいのは山々なんだけど…無理ダァ!お隣さんに挨拶しに行くとか無理なんだよぉ〜!」


俺は後ろを振り返りながら、俺の妹、フランにそう返す。俺が、ここまで何事もなくちゃんと生活を送っていけたのは全てこの妹のおかげだ。


買い物も街との交流も、依頼を受けるのも、全てこの妹がいなかったらできなかったことである。

まあ、前に「なんでお前はずっと俺と一緒にいるんだ?」と聞いたら「だって全然金に困らないじゃん」と返ってきたことから、結局は金目当てかよ!と思ったが。

でも、たまに俺のことを気にしてくれているあたり、少しは俺のことを心配してるのだろうな。


「よし…じゃあ、今日こそ1人で依頼受けに行ってくるから期待して待っとけよ!」


「うん、期待しないで待ってる」


俺はフランから適当に返された言葉を聞いたあと、小走りで城下町へ向かった。


そして、十秒も経たない間に街の入り口に到着する。

着くの早すぎじゃね?と思うかもしれないが、一応俺、伝説の剣士だし、これくらいは当たり前なのだ。


「よ…よぉし…じゃ、じゃあ、入るぞ」


俺は深く深呼吸し、城下町に入る一歩目を踏み出した。

そして、そのままゆっくりと中に入る。


まあ、ここまでは問題ない。俺はただのコミュ障で、人間そのものが苦手なわけではないからな。


「よし…じゃあ、依頼を受けに…行くか」


俺はそう言い、城を目指して歩き始める。

依頼などは全て城で管理されているからな、城の中に入らないと依頼は受けれない。


すると、俺が歩き始めた次の瞬間、俺は何者かに背中を突かれた違和感を感じ、後ろを振り返る。

…フランかな?俺…何か忘れ物したっ…け?


そして、俺は後ろを振り返った後、数秒間硬直した。

なぜなら、後ろにいたのがフランじゃなかったからだ。見ず知らずの女性だったからだ。


「あのー、道をお聞きしたいのですが…ここのお城はどこに…」


「ふぇっ!?あっ!はいぃ!!なんでございましょうか!!」


…あ、やべー。いきなり変な返答をしてしまった…。

でも、嘘だろ?いきなり誰かから先に話しかけられるとか、今まで一度も無かったのに…


「え….えーと、お城はどこに…」


「わっ!はい!ごっ、ごめんなさい…って、え?お城?」


「はい、お城です」


やばい、やばいぞー、今、頭の中が無駄に急回転してやがる…。しかも、お城って、道聞かなくても堂々と町の真ん中に建ってるじゃん!

こんなの方向音痴でも迷わねーよ!これで迷うとか、方向音痴の域を超えてるよ!!

わぁー!!どうすればいいんだ!なんて返せばいいんだよぉ!!


「えっ…えっと、自分も城の方に用事があるので…よっ、よければそこまで一緒に行きまでんか!?」


「本当ですか!?じゃあ、よろしくお願いします!」


こうして、俺とその女性は一緒に城を目指して歩き始めることとなった。

どうして…こんなことになってしまったんだろう…普通に「向こうに見えるあの大きな建物が城ですよ」って言えばそれで終わったのに…


でも、これはチャンスかもしれないぞ!ここで頑張れば、コミュ障から卒業できるかもしれない!そして初の友達を作ることも…!!


「あのー、どうしたんですか?」


「わっぎゃむ!!いっ、いえ、何でもないです!大丈夫ですよ!!」


…しまったー…なんか変な声出しちまったよ!!なんだよぎゃむって!犬が何かに踏まれた時に発するような言葉を言ってんじゃねーよ!!


すると、隣で一緒に歩いていた女性は、急に俺の言葉を聞いた後、何故か笑顔で俺を見ていた。


「あ…ごっ、ごめんなさい!なんか見ていて可愛くて…いや!なんでもないです!!」


…か…可愛い?

俺はこの言葉を聞いて少し背筋がゾッとしたが、とりあえず気にしないでおこう。


「あ、そういえば自己紹介してませんでしたね!私はセリーヌ、お城まで、よろしくお願いします」


セリーヌは慌てて話題を変えるようにそう名乗ってきた。

…そういえば、自己紹介してなかったな…

…自己紹介!?それって最初にすることなんじゃ…しまったぁ!!自己紹介するの忘れてたぁ!!


「はっ!はい!!おっ俺はザックと申します!!

言い忘れてたけどよろしくお願いします!!」


そこでまた俺のテンパり状態が解ける。

…しまったぁ、なんだよ「言い忘れてたけどよろしくお願いします!」って…普通によろしくお願いしますでいいじゃんかぁー!!


そして、そんなことを考えながらセリーヌの方を見てみれば、またニコニコと俺の方を見てきていた。

そのままセリーヌの方を見ていると、目があった瞬間ハッと何かに気づいたような顔をしながら目を逸らしてくる。

そして次は他の何かに気づいたようで顔をしかめた。


「あのー、ザックさんって、伝説の剣士と…」


ここまで喋っだあと、俺の肩がピクリと震えたのでセリーヌはそれに反応して言葉を止める。

…ちょっと待てよ…、ここで、伝説の剣士が俺だってバレたら…めちゃくちゃ俺の周りに人が寄ってきて、めちゃくちゃその対応を頑張らなきゃいけないんじゃないか!?

無理無理無理!!そんな精神力俺持ってないよ!!

上手く人とも会話できない俺がそんなことできるわけない!!


そこで俺は結論を出した。ここで伝説の剣士とバレるわけにはいかない…と。


「いっいやいやいや!?俺は伝説の剣士じゃないよ!!人違いだよ!!」


「?、いや、伝説の剣士と同じ名前ですねーと、言いたかったんですけど。

それに、それくらいわかってますよ。伝説の剣士は自ら人前に姿を現すことのない超レアなお方で、いつも私達を守ってくれている英雄なんですから!

…そんな英雄様が、こんなに細っそりとした女の子みたいな可愛い男の子なわけないじゃ…

ごほん、こんなに小さいわけないじゃないですかー」


ん?なんだか最後の言葉が妙だったんだけど?

それに、ここまであからさまに否定されると、少しショックだな…

だって、俺がその伝説の剣士だし。


そんなことを考えている間に、俺達は城の目の前に到着していた。


「あ、着いた」


「あ、ここなんですか?お城って」


「っへ?あっ!あぁはい!」


また俺はオドオドしながら返事をしてしまい、ガックリと肩を落とす。

…そういや、城に到着したってことは、セリーヌとの関係も、ここで終わりなんだよな…


「よし!じゃあ入りましょう!」


「ん、あぁ…うん」


「?、どうしたんですか?元気が、なさそうですけど…」


俺はセリーヌに気を使われ「なっなんでもないですよ!」と言おうとしたが、すぐに口を閉じた。

何故なら、今、俺は一つのことを決心したからだ。

そして、勇気を振り絞って再び口を開く。


「あっ、あの!!おっ俺と友達になってくだひゃい!!」


頭を下げながらそう言ったが、最後のところで声が裏返り、俺は顔を真っ赤にする。そしてセリーヌの返答を待った。


「…そんな、付き合ってください、みたいな感じに言わなくても」


セリーヌがフフフと笑い、俺は更に顔を真っ赤にする。

そしてセリーヌは続けた。


「実は、私も言おうとしてたんです。友達になってくださいって。先を越されてしまいましたけどね」


セリーヌが笑顔のままそう言って、俺の下げている頭をよしよしと撫でた。

…友達ができて嬉しいけど、子供みたいに扱わないでくれよ!!


そう言葉にして発しきれない俺は、心の中でそう叫び、そのままセリーヌに撫でられ続けた。


「あっ、あの!よっ…よかったら、俺と一緒に依頼受けませんか!?」


何とかその手を離すように俺はそう言い、依頼を受けるところまで移動しようとする。


「はい、いいですよ。でもあまり無理しないでくださいね」


「大丈夫ですよ!俺、伝説の剣士だし、楽勝ですよ 楽勝楽勝!!」


俺は結局そう言ってしまったことに気づかず、そのまま依頼を受け、セリーヌと共に城下町から出発した。

…そして、まだ俺のことを伝説の剣士と信じてなかったセリーヌが、俺の戦闘を見て度肝をぬかれるのはまた別のお話。

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