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『KIND OF YOU」』

近くもなく、遠くもない未来。異星人との戦いの影響で、地球は荒廃の一途を辿っていた。それを助長したのが、異星人の置き土産ともいえる植物。生態系破壊兵器「ツインズ」。



まったく同じ形をした赤と青の花を同時に咲かせるこの植物は、その強靭な生命力と旺盛な繁殖力により、たちまち地表を覆いつくした。厄介なことに、この可憐な花の花粉は人体にとって有害であり、体の痺れに頭痛、鼻炎といった症状を引き起こす。それは些細な症状ながらも、侮れないものであった。


人類の知恵が生み出したコンクリートの怪物達も、蔦のような性質を持つツインズには無力であり、アスファルトの回廊とて、今では緑の絨毯で覆いつくされていた。地上は緑色の葉と、赤と青の花に覆われている。それはかつて、地上が両生類と昆虫達の楽園であった頃の再現か。



人類は地上の覇権を失ったのか。

――否。



爆発音と共に、異形の黒い巨人が地表へと落下する。それを追うかのように、もう一体の灰色の巨人がゆっくりと着地した。灰色の巨人は、黒い巨人が動かなくなったことを確認すると、右手の銃を空高く掲げ、勝利の凱歌をあげた。




二つの巨人はどう見ても自然のものではない。機械仕掛けの巨人だ。それは機械の暴走によって操られているオートマトンなのか?



そうではない。これを操っているのは人類である。巨人の戦場からそう遠くない平地に、半透明のドームがあった。その中にはコンクリートの怪物達が我が物顔で立ち並んでいる。



人類はツインズの駆除を諦め、限られたいくつかのドーム都市に居住するようになっていた。そのための労働力となったものが、「アウタースーツ」と呼ばれる、機械仕掛けの巨人。元来は先の異星人との戦争で用いられた兵器であり、それを転用したものである。



脳波コントロールで動かされるこの兵器は、終戦後、作業用として使われていた。だが、これを戦わせればいい興行になると考えた者がいた。アウタースーツ同士を戦わせる「バトリング」は、当初はアンダーグラウンドの娯楽であったものの、次第に市民権を得、今では一大娯楽となっている。



遠隔操作なので、お互いの操作者に遠慮することがなく、激しい攻防が繰り広げられる。その様子はドーム内の家庭にも中継され、人々を熱狂させていた。アウタースーツを操る者は「スーツアクター」と呼ばれ、ちょっとしたヒーロー扱いである。



緑に満ちた地上は、巨人達のコロシアムとなっていた。




レイザーワークス。バトリング日本リーグ創設時からの古豪である。



バトリングは年に4シーズン行われ、シーズン毎の獲得ポイントの累計でその年のチャンピオンを決めている。日本リーグには15チーム登録されており、3グループに分けれて、総当り戦を行うのが1シーズン。1シーズンが終わった後、各リーグの1位が集まり、プレーオフが行われている。



レイザーワークスの全盛期は日本リーグ唯一の4年連続チャンピオンを達成するほどの強豪であった。しかし、親会社の経営不振による補強費の削減。主力アクターの引退。チーム編成の迷走。それらのせいか、ここ数年は最下位付近をうろついており、暗黒時代とも呼ばれていた。



呼ばれていた?そう。親会社の経営不振によって身売りに出されるも、新スポンサーはかつての栄光を取り戻すべく、大規模な補強を決行。かつての花形アクターにも指導者やメカニックとして戻ってきてもらい、ここ2年は中堅チームとして結果を残していた。前年は6位。久々のAクラスである。



今日は第3シーズンの開幕戦。今日出撃していたのは、レイザーワークス、いや、日本のエースとすら呼ばれるベテランアクター、摂津良一。愛機は軽量二脚タイプ「ヴォルテックス」。チームカラーでもある黄色と白で彩られた機体は、戦闘を終えても傷一つない。



「ふう、一丁上がり」摂津が首からアウタースーツ接続用のコネクタを外し、一息つく。「流石っすね、せっつん」操縦席の傍らから、食い入るようにモニターを見つめていた若い男が、摂津の肩を馴れ馴れしく叩く。



「先輩、先輩」摂津は若い男の手を払い、苦笑した。八木総司。今年、高卒で入団した新人アクターである。「明日は勝ってもらわないとな。今年はせっかく調子よく来てるんだし」「わかってるっすよ。新人王が俺を呼んでますからね!」「お前が取ったら新人王の価値も落ちるな」「な訳ないでしょ」



八木にとって、明日の試合は重要なものであった。同じく新人で、八木とタイの四勝一敗を挙げているアクターとの試合なのだから。三原司。名門バトリングチーム「レオーネ」に所属している。写真集が企画されるほどの美少女アクターとしても有名で、その上品な物腰から、実力以上の人気があった。



「三原の奴には負けたくないっすからね」「知り合いか?」「じゃ、ないっすよ」摂津が缶コーヒーを買う。八木の視線を受けて、もう一本購入し、彼に渡す。「あざーっす」新商品のコーヒーだ。八木は一口含むと、顔をしかめた。いまいちだ。「不味いのかそれ」「はい」「買わなくてよかった」



「実験台っすか」「そういうことだ」摂津が飲んでいるのはいつも入っている定番の微糖コーヒー。彼はいつも新製品を若手に飲ませて、当たり外れを確認している。「三原の奴、あんな上品なアクターとかありえませんって。絶対猫被ってますよあれ」「俺は好きだけどなぁ」「ほら、おっさんはちょろい」



「先輩、先輩」摂津が苦笑した。「でも彼女、三原のお嬢さんだろ。そりゃ物腰上品だって」「いいとこの子じゃないすか。そこがムカつくんすよ」「僻みじゃねーか」実際、三原家は大手企業。八木家は低所得。幸い、アクター適正があったため、こうして一攫千金の機会を得ることができたのだった。


アウタースーツは脳波でコントロールされるため、人によって適正がある。バトリング用のアウタースーツはB適正以上でないと、動かすこともままならない。摂津はA+、八木はA、三原はSと言われている。適正が高ければ高いほど、操作ラグが減り、より精密な動きができる。



S適正者は世界にも十五人しか居ないと言われている。大企業の令嬢で、物腰は上品、実力は確か。そして美少女。これだけの要素が揃っていれば、マスコミが黙っているはずがない。ニュースはどれも三原がメイン。八木の成績も決して悪くはないのだが、扱いは天と地の差だ。



だからこそ、八木には三原を見返してやりたいという気持ちがあった。そのためには、次の一戦は重要となる。だからこそ、今日もこうして、摂津の試合を観戦して、少しでも多くの技を盗もうとしていたのだ。八木のその姿勢は、チームの皆から可愛がられていた。



「じゃ、俺は風呂入って帰るから。明日は頑張れよ。見といてやるから」「完勝するところをっすか?」笑って摂津の背中を叩く。「先輩、先輩」摂津が八木の手を振り払い、苦笑した。



八木の部屋のモニターには、三原の前回の試合が映っていた。白と青で彩られた、曲線主体の優美な軽中量二脚。そのデザインと活躍から、またたく間に人気アウタースーツとなった「ホワイトレディ」である。だが、その戦闘スタイルは、優美な概観にそぐわない、極めて暴力的なものだった。



高い機動力で相手を翻弄、ライフルで足止めしつつ、ロケットランチャーとミサイルによる猛攻を行い、相手に反撃の間を与えることなく打ち倒す。火力に全てを振った、恐るべき機体である。火力を重視するチームであるレオーネに入ったのも頷ける戦闘スタイルだ。



対する八木はといえば、サブマシンガンにショットガンといった接近戦志向の軽量四脚。レイザーワークスお得意の、小回りの利く機体となっている。ECMで相手のレーダーを妨害しつつ、死角に回り込み、削っていくスタイル。機動力と火力を併せ持つホワイトレディとは相性が悪いと言わざるを得ない。



モニターから目を離し、戦闘をイメージ。「……ちっくしょう!!」勝てるイメージが浮かばない。小回りと瞬発力ならこちらが上だ。だが、火力では相手のほうが圧倒的に勝っている。一瞬でも相手のペースに持ち込まれれば、それでジ・エンド。八木機の装甲は最低クラスなのだから。



だが、相手も軽中量二脚に重ロケットランチャーを積んでいる。それにはある程度装甲と機動力を犠牲にしているはずだ。死角さえ取り続けられれば、勝機はなくもない。……いや、それができる相手なら苦労はしない。相手は新人王当確とまで言われている、S適正アクターなのだから。



「お兄ちゃん、ご飯できたよ」八木の思考は、妹の声で中断された。「ああ、行く」モニターを消して、食卓へ向かう。食卓にはトンカツ。試合前の、毎度の験担ぎだ。「お、うまそうじゃねーか」「でしょ」妹が微笑んで、エプロンを外した。眼鏡にお下げの、垢抜けない少女だ。三つ下の妹、林檎。



彼女は八木にとって唯一の肉親だった。彼らは幼い頃に両親を亡くし、親戚の家で肩身狭く暮らしていた。実際、彼らの扱いは使用人めいていたのだ。だが、八木にアクター適正があり、アクターとしての道が開けたとなると、その扱いは一変した。



八木は契約金の一部を渡して今までの恩に報いると、妹と共に家を飛び出したのだった。漫画めいたサクセスストーリー。自分の半生を振り返ると、そう思えてくる。「なら、新人王も有り得るかもな」「ん?」「独り言だよ。よっしゃ、ソース取ってくれ」八木はソースをトンカツにふりかける。



「お兄ちゃん、ソースかけすぎ」「こうしたほうが旨いんだよ」「ったくもー」「んじゃ、ま、手を合わせて、いただきます」「いただきまーす」二人で夕飯。旨い。林檎は料理が上手くて助かる。「続きまして、バトリング……」「あ、摂津さんだよ」テレビには昼間の一戦の様子が映っていた。



「摂津さんの戦いはスマートでいいよね。誰かと違って」「誰かって誰だよ」「お兄ちゃん。なんかベタベタしててカッコ悪い」「バカ、難しいんだぞアレ」八木の「貼り付き」と呼ばれる戦闘スタイルは、高度な集中力を要される。見ている側にはわかりづらいことだが、アクターへの負担は大きい。



テレビでは特集。対象はもちろん三原。「新人王当確だって」「俺のとこにはインタビューなかったぞ」「需要はちょっとしかないから、しょうがないじゃない」そのちょっとしかない需要の一つは、ここにあるのだが。林檎は八木の戦闘を全て録画しているし、新聞記事は全てスクラップしている。



「ま、せいぜいあがいてみたら?」「言われなくても、そーする」テレビでは明日の戦いへの抱負を述べる三原が映っていた。『八木さんは同期入団のライバルですから、全力を尽くさせていただきます』ライバルとはよく言うよ。歯牙にもかけたことないくせにな。八木は苦笑した。



翌日。アウタースーツ制御室。ここからドーム外のアウタースーツを動かす、もう一つのコロシアム。八木はユニフォームである黄色いツナギに着替え、操作室へ向かっていた。その通路の自販機の前に、白いツナギを着た女性が居る。見間違うものか。



「その苦強ってやつがおすすめだぜ」「は?」振り返ったその女は、今日の対戦相手。三原司。綺麗な長い黒髪に、知性を感じさせる整った顔立ち。だが、その瞳には闘志の炎が宿っている。そして、ツナギから覗くその胸元は豊満であった。



「どれ買うか迷ってたんだろ?」「あんたね、友達?ま、いいけど」三原は八木に勧められた缶コーヒーを買う。昨日、摂津に飲まされた缶コーヒーだ。三原に続いて、八木もカフェオレを買った。「うわ、おいしくないわね、コレ」三原が顔をしかめる。「だろ」「何がお勧めよ、バカ」



「今日はお手柔らかに頼むぜ、三原さんよ」「こちらこそ」肩を並べ、缶コーヒーを飲む。実際に言葉を交わしてみれば、三原はテレビの殊勝な態度とは異なる。随分と勝気な感じがする。「テレビとはずいぶんと違うんだな」「そりゃそうよ。あんなのでアクターやってられると思う?」「ごもっともで」



八木は同期のアクターといくらか面識があり、その中でも同年代の者とは多少の付き合いがある。だが、八木が高卒なのに対し、三原は大卒だ。実際年上であり、名門チームに所属していることもあって、高嶺の花ではないが、付き合いはなかった。



「あーいうキャラが求められてんのよ。しょうがないじゃない」「有名人は大変だねぇ」三原は缶コーヒーを飲み終えると、空き缶をゴミ箱に投げ入れた。「ナイッシュ」「ま、おかげさまで有名になれたし。スポンサーさんもついてくれたし」「羨ましいことで」「……あのさ、私、年上」三原が苦笑する。



「にしても、なんでアクターなんて仕事に就いたんだ?」「別に。どうせ家は兄さんや姉さんが継ぐし、私は適当な年になって、そのへんの育ちのいい人と結婚して家を出る。そんな規定路線が嫌だっただけよ。幸い、適正もあったし」「幸いでSとか羨ましいぜ」「そこは両親に感謝ね」



「写真集は本当に出すのか?」「そういう話」「じゃ、レイザーにも一冊くれよ」「何に使う気よ。落書きでもする気?」三原が顔をしかめた。「いや、摂津さんがあんたのファンでな」「あの摂津さんが?やだ、光栄な話ね」三原が微笑んだ。


「反応が全然違うじゃねーか」「あの摂津さんだもの。レイザーが弱い頃から、ずーっとエースやってたじゃない。あの人の戦闘スタイルは好きだな、私」摂津は高火力火器による一撃離脱をモットーとしている。レイザーワークス暗黒期に一人気を吐いていた姿にはファンも多い。



「その割にはゴリ押しじゃん」「ゴリ押し言わないでよ。否定できないけど」「俺も気をつけねーとなぁ」「ま、せいぜい気をつけなさいな」三原は腕時計を確認すると、ツナギのファスナーを閉めた。「そろそろミーティングだから」「行かなくていいって。棄権しなよ」「バカじゃないの」



「それにしても、あんた、大物になれるよ」「ありがとさん」「ま、今日はよろしく」「こちらこそ」三原が差し出してきた右手を、八木は握り返した。



八木の眼前には、黄色と白で彩られた細身の四本脚の機体。曲面の多いそのシルエットは昆虫めいている。機体の各所にはスポンサーのステッカー。左肩には銃を持った幽霊が描かれている。八木のパーソナルマークだ。八木の愛機、ホーンテッド。



四脚タイプは全高が低く、小回りが利くうえに安定性も抜群なのだが、操作に癖があるため、使い手はあまりいない。八木がこれを選んだのは、癖を克服する自信があったからだ。そして、五回の実戦を終えた今となっては、かけがえのない相棒となっている。



「よう総司。整備はバッチリ済んでるぜ」油の染みた、黄色いツナギを腕まくりしたメカニック。この界隈では珍しく、女性である。化粧っ気はなく、髪も無造作に束ねただけであり、色気は全く感じられないが。「ありがとうございます、プラチナさん」八木機担当のメカニック、白金沙織。



「ホワイトレディ相手だろ?相性悪ぃな、おい」「俺ぐらいになれば、相性悪くても勝ちますよ!」ガッツポーズをする八木を見て、白金は八木の頭をぐりぐりと撫でる。「ずいぶんと調子いいな、ええ?」「プラス思考は大事っすからね!」「お前はプラス過ぎんだよ」白金は笑って、八木の背中を叩いた。



「金星だぜ。頑張って上げてこいよ」「言われなくても!」八木はホーンテッドの脚を二回叩くと、操作室へと走った。「元気いいな、え?」白金の声を背中で受けながら。



レイザーワークス操作室。中には摂津がいた。「よう、見に来てやったぜ」「どうも、ありがとうございます」「三原のお嬢を、だけどな」「スパイは出て行ってくださいよ」八木は摂津をあしらいつつ、椅子に座る。眼前のモニターには、ドーム外にたたずむホーンテッド。その足元には青赤の花。そして緑。



じきにこのモニターも八木には用を成さなくなる。このモニターを必要とするのは、後方に控えているスタッフ達だ。八木の目は、ホーンテッドのカメラと同期する。椅子から伸びているコードを首の後ろに突き挿すことで。



「それじゃ八木さん、準備はいいですか?」「いつでも来い」「では、同期システム起動。コネクト、お願いします」「了解。ホーンテッド行くぜ!!」八木がケーブルを挿すと共に、視界は暗転。一瞬だけ訪れる、激しい頭痛。それが済んだ後、目を開ける。



目の前に広がっていたのは、青赤の花で彩られた、緑の平原であった。このとき、八木総司は、ホーンテッドとなった。



「毎度毎度、この痛みには慣れねぇな……」八木はぼやいた。眼前にはホワイトレディの姿。準備運動とばかりに、両腕を動かしている。『Ready……』ジャッジの声が聞こえる。『Go!』この瞬間、両機は一気に間合を詰めるのだった。



ここでバトリングのルールについて解説せねばなるまい。制限時間は十分間。それまでに相手を行動不能にすれば勝ち。両者健在のまま制限時間が超過した場合は、第三者により損害率の判定が行われる。なお、プレーオフの場合は判定無しのデスマッチとなる。



あとは細かなレギュレーションこそ存在しているが、戦闘自体にルールは存在しない。何らかの事故により、アクターのニューロンが破壊されても、それは不幸な事故として処理される。事故がなくとも、ニューロンを酷使するためか、アクターの選手生命は基本的に短い。



「恨みっこなしだぜ、三原さんよ!」「こっちこそね!」ホワイトレディの右腕のライフルから銃撃。ホーンテッドは咄嗟に左へとスライドして回避。青赤の花が舞った。ホワイトレディのライフルは被弾時の衝撃が非常に大きい。もし足が止まったとなれば、待っている結末の予測は容易だ。



なおも接近してくるホワイトレディの背後に回りこむべく、ホーンテッドは急加速用のブースターを前後同時に吹かし、その場で後ろへと振り向く。レイザーワークスお得意のクイックターン。機体に大きな負荷がかかるものの、がっちりと補強されたフレームにより、それは吸収された。



側面を取った。「もらったッ!」マシンガン乱射。ホワイトレディはいくらか被弾するも、急加速にてそれ以上の被弾を防ぐ。ホーンテッドはなおもホワイトレディの側面を取るように間合を詰め、マシンガン乱射。「豆鉄砲ばかりペチペチペチペチ……鬱陶しいよッ!」



ホワイトレディもクイックターン。巧みなブースト制御により、姿勢の崩れは最小限。これがS適正の本領である。振り向きざまのライフルがホーンテッドに命中。「痛ってぇ!」炸裂弾だ。その衝撃は大きく、ホーンテッドの足が一瞬だけ止まる。その隙を見逃す三原ではない。ロケットランチャーだ!



「そんなデカいの、ズルいじゃねーか!」全推力を一転集中しての急加速。四脚故の安定性もあり、ホーンテッドはギリギリで回避に成功した。直撃こそ免れたものの、破片が機体を襲う。そして、土煙が視界を遮った。これは千載一遇の好機。



「よしきたッ!!」ホーンテッドの両肩から、柱めいたものが地面に打ち込まれる。それと同時に、ホワイトレディのレーダーが乱れ始めた。「ジャマー!?小細工してッ!!」視界とレーダーが奪われているこの状況だと、FCSのロックオンは役に立たない。ホワイトレディは完全に視界を失った状態だ。



直後、背後から衝撃。ショットガンだ。それも直撃。「痛ッ!!……近いかッ」続いてのマシンガン。そしてショットガン。そしてマシンガン。一撃一撃は軽いが、その積み重ねは馬鹿にならない。何よりもこれはホーンテッドの形だ。「もらったッ!」「調子に乗るんじゃないよ、このッ!」


次第に土煙が晴れていく。それと同時に、ホワイトレディは一気に間合を離す。「チッ、仕留め損なったかッ!」「残念だったねッ!!」レーダージャマーは残っているが、土煙が晴れたことで光学式のロックオンは復活。ホワイトレディは牽制にライフルを放つ。それはホーンテッドにいくつか命中した。



「これで仕切り直しだねッ!」「上等だ!」『5分経過!』時間は半分。現状での損害率はホワイトレディのほうが上だが、ホワイトレディには1発がある。油断は出来ない。このまま守りに入るか?否。後手に回って勝てる相手ではない。


ミサイルロック警告。その後、4発のミサイルがこちらを囲むかのように飛んでくる。「まためんどくさいものをッ!」正面の二発は撃墜。だが、左右から迫ってくるものは回避しきれないか。いや、正面に出れば。ホーンテッドはミサイルを避けるために正面へと突っ込む。「……しまったッ!」



それは実際悪手だった。「そこに来るのを待ってたんだよッ!」ホワイトレディの切り札、重ロケットランチャー!「グワーッ!!」左腕が吹き飛ばされた。八木にも幻肢痛めいた痛みが伝わる。「八木、何やってんだッ!」「ウェイトバランス最適化します!」左腕と共に、ショットガンも吹き飛んだ。



片腕無しの状態ではバランスが悪い。普段よりも動きにキレがなくなっている。「手こずらせてもらったわ!でも、これで終わりッ!!」ホワイトレディの右肩にあるミサイルポッドの蓋が開く。「させるかよッ!」ロックオンを妨害すべく、肩のレーダージャマーを地面に打ち込む。



だが、片方では効果が弱い。先程よりも少し時間がかかったものの、ミサイルロックの警報が鳴った。だが、少し時間がかかっただけで十分だった。「……嘘ッ!?」「四本の脚は伊達じゃねぇんだよ!!」この間に間合を詰めたホーンテッドが、ホワイトレディに飛びかかった。体当たりである。



「きゃああっ!!」ホワイトレディは吹き飛ばされ、転倒する。「今度こそもらったッ!」追撃にマシンガンを撃とうとした矢先、ホワイトレディのミサイルポッドから2発のミサイルが発射される。それは空中で鋭角に向きを変え、ホーンテッドに襲い掛かった。



「こっちはクイックかッ!」炸薬を減らし、高機動化したミサイルである。ホーンテッドのマシンガンと、ホワイトレディのミサイルはほぼ同時に着弾した。ホーンテッドのバランスが崩れている間に、ホワイトレディは起き上がる。美しかった塗装は見る影もなくなっていた。



『残り時間2分!』ホーンテッドの残弾はマシンガンが3分の1。片やホワイトレディはライフルがマガジン1個分にクイックミサイルが1発。次の切り結びがお互いに最後のチャンスとなるだろう。「……やったと思ったんだが」「レディを押し倒しといて、それはないでしょ」両機は一気に間合を詰める!



残されている手段はただ一つ。先程と同じ、体当たりからの追撃のみ。今度こそ、仕留めてみせる。ホーンテッドは全推力を集中させ突進。ホワイトレディは避ける素振りを見せない。三原は勝負を諦めたのか?



「同じ手は」ホワイトレディが上半身を捻る。「二度も食わないよッ!!」弾の切れたロケットランチャーを振り抜く!「なっ、マジかよッ!?」それはホーンテッドの前脚に直撃し、ホーンテッドは吹き飛ばされた。「お嬢様のくせに、荒っぽいことを……」姿勢を立て直そうにも、前脚は動かなかった。



判定が下された。8分48秒、ホーンテッド行動不能。勝者、ホワイトレディ。



八木はとぼとぼと更衣室へと歩いていた。その目は充血していて、鼻の下には乾いた鼻血の痕。これだけニューロンを酷使したのは、デビュー戦以来だ。



三原は強かった。一度は必勝の形に持ち込めたのだが、そのときに仕留めきれなかったのが悔やまれる。温室育ちのお嬢様とは思えない、見上げた闘争心だった。「尊敬するぜ、まったくよ……」「……ありがと」三原だ。戦闘前に会ったときと比べると、化粧が落ちている。顔でも洗ったのか。



「……三原のお嬢か」「さっきの言葉、私のほうからも返させて。尊敬するわ、まったくもう……」八木はカフェオレを2本買い、1本を三原に渡す。「……負けちまったからな、奢りだ」「あら、年上を敬う気になった?」三原は苦笑いしながら受け取った。その眼は赤く充血している。



「今でもニューロンがチリチリ鳴ってる」三原がカフェオレを口に運ぶ。「こんなに激しかったの、初めてよ」「俺が初体験の相手ってか?」「セクハラ、セクハラ」八木もカフェオレを飲む。その甘みは酷使された脳に優しかった。「ホーンテッドにもうちょっと火力があれば、危なかったわね」



それは十分に理解できた。今のホーンテッドに足りないものは瞬間火力。せっかくの修理だ。さらにパワーアップしないことには、今回は無駄な負けになってしまう。「そうだな。お嬢ぐらいの火力がいるかもな」「やだ、余計なこと言っちゃった?」「コーヒー代だよ」「高くついたわねぇ」



「次は負けねぇからな」「こっちこそ」新人アクター二人は、お互いの手を固く握った。



レイザーワークス、第3シーズン。1勝1敗。

「ホーンテッド」

軽量四脚タイプ。塗装は黄色と白。小回りが利き、相手の死角を取りながらの接近射撃戦を得意とする。

装甲はかなり薄いが、フレーム強度は高い。

スーツアクターは八木総司。適正A。


「ホワイトレディ」

軽中量二脚タイプ。塗装は白と青。火力と機動力を併せ持ち、重ロケットランチャーは弾数は少ないものの、絶大な威力を誇る。

その反面、薄い装甲の割には機動力も高くない。

スーツアクターは三原司。適正S。


「ヴォルテックス」

軽量二脚タイプ。塗装は黄色と白。高弾速のスナイパーライフルによる中距離からの一撃離脱を得意とする。

機動力は最高クラスだが、装甲は最低クラス。

スーツアクターは摂津良一。適正A+。


―――

ツイッター掲載を前提として文章を組み立てるのは楽しかったです。

不定期掲載。

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