幼い頃の私~子供のいたずらとデストラップ~
はじめまして、私です。
名前はリリー=ファイツベルト、母が付けてくれた名前だそうです。
多分事実だと思います、世界を敵に回しても私を愛してくれた人だから。
でも母親からもらえたものがこれでしかも最初で最後、切ないにも程があります。
しかし今の私は、立つことはおろか動くことも容易くはない赤子。
お世話をしてくれる人がいなければ、容易く死んでしまう存在。
そんな脆い存在になってしまたのだ。
だから私はすべてを受け入れる、脆弱な自分がどのように扱われても構わないと考えていた。
実際には杞憂だったが、私はそんなことを考えるくらいには暇だった。
なんとかつかまり立ちができるようになった頃、私を憎しみの目で睨む子供がいた。
私ではない誰かを私を通して憎しんでいる様な目をした彼は、今はまだ行動を起こすことはなかった。
今はであるが、大きくなったらわからない。
なぜなら私は、そっくりとはいかないが似ているのだ。
母親に、雰囲気が。
知っている者でしか分からないような、そんな大分曖昧なものでしかないけど成長すればもっと確かなものになるのだろう。
その時私は、五体満足で死ねるだろうか。こころがこなごなになっていないだろうか?
彼のような人が多くいるだろう、この世界で。果たして寿命で死ぬことができるのだろうか。
私を害するような事態が起きないまま、私は少しだけ大人になった。
といっても、年が三つになっただけなのだが、やっと大人の手から離れて歩けるようになった。
ただこれからは更に私を害するであろうものに、チャンスが増える事にほかならないのだが。
初めに動いたのはあの少年だった、足を引っ掛けられた。
それが見えていたから無理やり引っ張ってみたのだが相手が倒れた。
その際に足元に仕掛けられていた、細いテグスのようなものを、騒ぎに乗じて切っておいた。
転んだ瞬間に首と胴体が泣き別れしそうなトラップだった。
その数日後、彼は外で何かをやっていることに気がついた。
翌日、ずさんな偽装を見つけ石を落とした。
落とし穴の中には、槍がいっぱいであった。
無論その槍は落とした石も貫かれていたほど鋭く固い金属の槍である。
彼は何やら悔しがっていたが、引っかかるわけにはいかない。
彼は引っかかっている私を見ることで溜飲を下げたいのだろうが、引っかかればお陀仏なのでそれはできない。
何よりも勝手だ、誰も彼も。私を見ながら私でない誰かを見てる。
母の影がちらつく、私は全くこれっぽちも気にしたことがないのに他の人は母の子というだけで私も罪人のように扱いたいようだ。
だけど死んでやるわけにはいかない、少なくともまだ誰ひとりとして気がついていないのだろうけど。
私が死ねば、地獄の蓋が開くということに。
そんな決意を思い浮かべながら、足元にあったロープとそれに付随していた爆弾付きトラップの紐を切った。