私の始まり、彼女の終わり
というわけで、とりあえず一話目を投稿しておきます。
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私が僕として過ごしたのは、二十になる前までだった。
私の私としての一番古い記憶は、母の視点からだった。
その視線には膨らんだお腹、そこから生えている剣は明らかに私を貫いていた。
そして母は見た自分のお腹を、子を貫いた剣の持ち主を。
そこで一旦記憶が途切れた。
次に目が覚めたとき、私は何かの液体の中にいた。
液体の向こう側にいた女性が母だとはわかった。
けどもうひとりは最後までわからずじまいだった。
彼が何者がわかったのは、最期の時だった。
その時まで母は、何かを悔やむように私に向かってつぶやいていた。
そんな母を彼は支え続けた。
私をこの液体の中から出すための苦労は、生半可なものではなかったのだろう。
私を見ている時間が日が昇って再び昇るまでの間で会えた時間は、三十分がせいぜいだった。
私には母や彼の声は聞こえなかった。それよりももっと大きな声が聞こえていたからだ。
それが断末魔だと気付くのにそう長い時間はかからなかった。
その日は突然訪れた。
それまで聞こえていた声が全く聞こえなくなった。
そして初めて聞こえた母の声は、
「あの子をお願い」
死に際の言葉だった。
そのまま母の亡骸が骨になり骨すら粉々になって、あとには着ていたローブだけが残った。
彼も私に背を向けて何か言っていた。
「なぜ私の体が崩れているかって?当たり前ですよ。主のいない使い魔の末路ってやつですよ。後悔などひとかけらもありませんね。…ひとつだけ心残りがあるとすれば、お嬢様を名前で呼べなかったことでしょうか」
そう言って彼も塵となって消えた。
私の体はチラとも動いてはくれなかった。
ただ光景を見せられ、最期の言葉だけを聞かせられただけだった。
自分の母親のそんな状況を見ても泣くこともできなかった私は、どこか壊れているのかもしれない。
再び気がついたのは、豪華絢爛な広い部屋だった。
そこが謁見の間であったことは、想像に難くなかった。
その中にいたのだ、私と母を貫いた剣の持ち主が。
その隣で豪華な椅子に座っている男がいた。
その時全てを理解した。
豪華な椅子に座っている男が私の父、そしてこの国の王だと思う。
私は生まれてはならない子だった。
だから子を孕んだ母ごと刺し貫いた。
全てはこの国を揺るがせないため、この国の民のため。
父は国を選び、母は子を選んだ。
だからといってそんな悲しい目をしないでください。
私を生かすためだけにこの国の民が死んだのです。
多くの命が失われたのです。
たとえあなたの過ちだったとしても、母のしたことが許されるわけではないのですから。
彼らが私を連れてきたのは、かなり遠くの孤児院っぽいところだった。
その建物は、それから十二年ほど過ごすこととなる孤児院だった。