to be continued...
追加です。
小さくなっていくリュビの王家の屋敷を馬車の窓から見つめ、ベルの母は大きなため息をついた。
「本当に大丈夫かしら。あの子に何一つ、説明できないまま追い出されてしまったわ」
何度も何度も振り返る妻に、ベルの父はその手を握り、力づけるようにきゅっと力を込めた。
「真実に辿り着くには、ベルはまだまだ未熟だ。だが、これ以上引き延ばせないことは分かっていただろう。あの子のためにも、これでよかったんだよ。なぁに、もしうまくいかなかったら、またうちに迎えてやればいいんだ」
頼もしい言葉に、彼女は夫の肩に頭を預け、娘のこれからに思いをはせた。
遠ざかる馬車を屋敷の窓から眺めていたリュビ族の王子は、カーテンを閉め、背後を振り返った。斜陽がカーテンの隙間から洩れ、わずかに部屋の中を照らしている。
その部屋の中央に置かれたベッドに、男はゆっくりと近づいた。白い天蓋に覆われたベッド。その中に、まるでまゆに守られるようにして、一人の少女が眠っているのを知っている。
王子は、そのまゆに一度は手をかけ、ためらい、再び手をかけて小さく隙間を作った。その隙間から少女をかいま見て、腕を身体の横に戻し、振り切るようにして部屋から出た。
部屋を出たところで、使用人頭の老人が待っていて、とがめるように王子を見た。
「……」
王子は片眉をぴくりと上げた以外に表情を変えずに、無言でその場を去った。
一方その頃、コンコンと扉をノックして、アニーは父母の部屋へ入った。
「卒業しました」
「おめでとう、アニー」
アニーの母は、娘を優しく抱きしめた。それに対して父は、そわそわと落ち着きなく手を握ったり開いたりしている。
「おじいさまがお喜びになるだろうね。ほら、僕たちはいいから、早くおじいさまにごあいさつに行きなさい」
「ですが……」
言いよどむアニーに、父は媚びるような笑みを浮かべた。
「な、頼むからおじいさまのところへ行ってくれよ」
「そうお父さまがおっしゃるなら」
なぜ母は祖父を反対を押し切ってまでこの父と結婚したのか、心底理解できない。アニーと同じように父にさげすみの視線を向けている母もきっと、今ではその頃の気持ちを理解できないと思っているのだろう。
祖父を訪ねたアニーに、老人は開口一番にこう言った。
「お前を欲しいという話がすでにいくつか来ているぞ。今まで投資してやったかいがあるというものだ。いや、そこいらの男に安く売るつもりはない。うちの王女はリュビ族の王子の妃にするとして、お前もおまけであのかたの愛人くらいにしてもらえれば万々歳なんだがなぁ、わっはっは」
アニーは「勝手にしてくださいな」と諦めたような表情で、なにもない部屋の隅を見つめていた。