第25話
ベルは夜中に悶々としてしまい、寝台の中で眠れずに身体の向きを変えたりしていたが、どうしても眠れない。
昼間、パメラから聞いたことを思い出していた。
仲良くなりたいのだが、どうしたらいいかという相談に、意外にもパメラは真剣に答えてくれた。
待っていては駄目だ、と。
会うことが難しくても、無理やりにでも話し合う機会を設けなければ。
こうなったら、ジェラールの寝室へ忍んで行ってしまおうと心に決めた。しかし、決めたものの二の足を踏んでしまい、実行したのは、決心した日から三日経ってからだった。
部屋の前には護衛がいたが、ベルの姿を見ると、静かに扉を開けてくれた。
恥ずかしくて顔から火がでそうだったが、顔を伏せて足を動かした。
暗くて部屋の全体は分からなかったが、その部屋はシンプルな作りで、寝台くらいしか置いてなかった。
そろり、とベッドに近づく。
ジェラールは、寝台にあおむけで眠っていた。瞳が閉じられ、すっきりとした鼻筋を月の淡い光が照らしている。
なんだか、寝台に近づくごとに、温かくなっているように感じる。人から放出される熱だろうか。人の気配がする部屋というのは、なんて落ち着くんだろう。
ふらふらと、足が自然と動いた。
寝台の横に立った。
そのまま腰をかがめて、顔をジェラールに近付けた。ジェラールの呼吸音が聞こえる。
寝台に手を置いて支えているが、段々と疲れてきた。
シーツをめくり、するりと足から潜り込んだ。
身体が触れないように気をつけて、あおむけに横になる。
顔だけを横に向けて、ジェラールを見た。
起きた様子はない。
しばらくそのまま身体を硬直させていたが、次第に身体の力を抜いた。
そして、もう少し近付く。
今度は手の甲がジェラールの腕に触れた。
ジェラールの呼吸は安定していて、ちらりと横目で見ても起きている気配はない。
ベルは横向きになり、じっとジェラールの横顔を見つめた。
その視線が、唇に向かった。
この唇と、キス、したのだ。
あたたかくて……柔らかくて……。
ベルはジェラールの肩に額を付け、瞳を閉じた。
この場へ来てしまったが、ここからどうするかは決めていない。
ジェラールを起こそうか、それとも、こっそりこのまま部屋に戻るか。
考えようとするのだが、この安心する大きな肩に触れていると、頭を働かせるのが難しい。
手をそっと太い二の腕に添えて、声が漏れないように気をつけながら、うふふっと唇を綻ばせた。
久しぶりに触れるジェラールの肌が、あったかくて心地よい。
このまま眠ってしまいそうだ、と意識が沈みかけたとき、腕が動いた。
目を開けると、ジェラールが目を開けて、横を向き、ベルと向き合う姿勢になった。
「ベル、愛している。結婚してほしい。」
唐突な求婚だったが、ベルは自然に頷いていた。
ジェラールはベルをぎゅうと抱きしめた。
「駄目だな、物語のヒーローのようにプロポーズするつもりだったのに。」
また改めてプロポーズさせてくれと言われて、ベルはジェラールを抱きしめ返して「はい。」と答えた。
ちなみに、夜這いはリュビ族の女性の常套手段です。
パルレ族からしたら、考えられないことですけど……。




