第4話
いよいよベルとアニーは卒業の時を迎えた。
二人は「一生友達だから」と涙を流しながら手を握り合った。
アニーはこれから、パーティーに出入りして、良い結婚相手を見つけるのだそうだ。
一方ベルは、おじさまの代理人と名乗る立派な身なりをした男に連れられて、卒業式を終えたその足で彼の屋敷へ向かっていた。そうしなければ逃げられるとでも思われているのだろうか。囚人の気分でぼんやりと馬車の窓から景色を見ていたが、向かいに座る代理人によってすぐに窓を閉められてしまった。
「土ぼこりが入りますので」
無表情で言われ、ベルは諦めて目を閉じた。
ちなみに、ベルは途中であのパーティーを抜け、先に女学院の寮に帰ってきていた。しかし、アニーはいつまで待っても来なかった。しばらく休みが続き、再び女学院に戻って来たアニーに聞いたところ「なんて図々しい真似を」とかんかんに怒った祖父によって、しばらく謹慎を言いつけられていたそうだ。
「あの後、おじいさまにあなたの行方を聞かれて大変だったのよ。例の王子さまがね、あなたを傷つけたことを気にしてらしたんですって。遅いってのよ。ベルはもう帰りましたって伝えたときの、おじいさまの焦りようったら」
励まそうとしてくれているのが分かったので「もういいのよ」とベルは諦めように笑った。
しばらくして、夜会用のドレスが一着届いた。送り主は、あしながおじさん。パーティーでのベルの失態をどこからか聞いて、プレゼントしてくれたのかもしれない。もう着る機会はないというのに、その美しい刺繍に心がときめいた。
恋物語の中で、いつも赤い髪の青年は姫君を窮地から救うのだ。しかし現実は、ベルをなぐさめ、ベルを救ってくれるのはこのおじさまだけ。この優しいおじさまから逃れたいなどと少しでも思ってしまった自分が後ろめたかった。
覚悟は決めたはずだった。
しかし、今まで素情の分からなかったあしながおじさんの根城へ、いよいよ足を踏み入れるのかと思うと、思わず腰が引けてしまう。
こうしてじっとしていると、今すぐ馬車を止めてと叫んでしまいそうだ。
いらいらしたように膝を揺らして、ぱっと目を開いた。こちらを凝視していた代理人と目が合って、ばつが悪くなり、すぐに膝を揺らすのを止めた。
「あの、これからわたしがお仕えするのは、どんなかたなんでしょうか」
何が聞きたいのだ、と言いたげに、代理人は神経質そうな細い片眉を上げた。好きになれそうもないとタイプだとベルは思った。しかも、どうやら嫌われているようだ。
「こんな田舎娘を世話してくださるというのだから、とてもお優しいかたなのだということは分かりますが……その、お会いするのが初めてなもので」
噛んで含めるように話して、やっと代理人は答えた。
「私には、どのような発言も許されてはおりません。ただ、貴女をお迎えに上がれと命じられただけです」
取りつくしまもない。ベルはこの男と会話を試みるのをやめた。