第15話
エムロード族の美少女の屋敷で採寸されてから2週間経ったころ、ベルは再びエムロード族の人たちと会うこととなった。今度は、場所はベルのいるジェラール王子の屋敷だった。この間採寸したドレスの仮縫いにやってきたらしい。
その日はジェラールが出仕せずに屋敷にいたので、てっきりあの美少女がやってくるのかと思ったが、来たのは採寸してくれた女性たちだけだった。正確には、イヴもいた。イヴは採寸の女性たちに紛れ、ジェラール王子の目を逃れていた。
動いてはいけない、と言われたので、ベルは女性たちに囲まれながらじっとしていた。目線はイヴに釘付けだった。
イヴは果たして女性だったのだろうかと、ベルは頭をフル回転させていた。イヴは自分のことを僕と言っていたが、男だとは一言もいっていない気がする。
今日のイヴは、目深にかぶった帽子の端から長い緑の髪がこぼれている。この間見たときは短い髪だったので、きっとカツラだろう。お仕着せのスカートを履いているので、ぱっと見誰か分からない。
女性に見える。
もともと双子の姉にそっくりなので、完全に美少女だ。
イヴに尋ねてみたくてそわそわしたが、ジェラールには内緒だと言われていたので声を掛けられなかった。
ジェラールは仮縫いに立ち会い、部屋のソファに腰を掛けながら、その様子を眺めている。
仮縫いの状態だったが、そのドレスは素晴らしかった。ベアトップドレスの形状で、肩はむき出しになっている。シンプルな上半身とはかわって、スカートがドレープ状に広がっている。
着せ終わると、身体をジェラールのほうへ向けられた。ジェラールの視線がつま先から頭のてっぺんまで動く。
そして、満足そうに頷いた。
それを見て、ドレスを着せてくれたエムロード族の女性がジェラールに尋ねた。
「手袋はこちらでご用意いたしますが、他の装飾品についてはいかがいたしましょうか。」
「ティアラ、ネックレス、靴についてはそれぞれ当てがある。」
「かしこまりました。」
話は終わったとばかりに、ジェラールが部屋から出て行った。
ジェラールの姿が廊下に消えた途端、イヴがベルに近づき、ひそ、と話しかけてきた。
「ベル、会いたかった。」
ベルは少し気まずかった。この間イヴに言われた言葉はベルの心にまだ刺さっていたし、それでなくてもジェラールの恋人の双子なのだ。
「ねぇ、驚いたわ。今日の格好、この前とはぜんぜん違うのね。」
「ふふ、似合う?女性に見えるでしょう。」
「そう言うってことは、男ってことでいいのよね?」
ベルは疑わしそうにイヴを上から下まで見た。
「そりゃあそうさ!」
イヴは両手を広げてみせた。
ジェラールがいなくなっても、まだベルの侍女は部屋の隅に控えている。声をひそめているので、そこまでは声が届いていない。しかし、ベルを囲む女性は二人の会話が聞こえているだろうに。まったく聞こえていないかのように手を動かし、仮縫いのドレスを脱がそうとしている。
「ねぇ、ちょっと、着替えるんだから出て行ってよ。」
「せっかくベルに会いに来たのに、出ていけなんて。ジェラール王子に見つかったら、大変なことになるんだから、部屋から出るのは無理だよ。」
「じゃあ向こうを向いていて。ぜったいにこっちを見ちゃ駄目よ。」
「わかったよ。」
イヴは、くるりとベルに背を向けて着替えが終わるのを待った。




