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リュビの嫁  作者: KI☆RARA
リュビの嫁~自覚編~
31/49

第13話



 この指輪、と左手の甲を出す。

「ここに来たばかりの頃にジェラール様にはめられて、そのままだったの。最近、これはリュビの結晶だと言われて、それは違うと思っていたんだけど……キスのこともあって、わたし……。」

 うなだれるベルに、アニーはどう答えようか考えを巡らせた。

 ベルが王子の気持ちに気付いていないことは知っていた。妻として迎えられていることに了解していないことも。

 王子はそれらを隠すつもりがないにも関わらず、この二人の絶望的な会話の少なさのせいで、共通認識がまるでできていない。

 では、ベルは自分が妻として屋敷に迎えられたことに気が付いたということか。

 しかし、なにを落ち込むことがあるのか。

 良くも悪くも権力の近くで暮らしてきたアニーにとって、結婚に至るまでの過程はどうでも良かった。現実は、ベルの好む恋物語のような円満な結婚ばかりではないのだ。結果として相手がジェラール王子で、ベルを大切にするならば、どう転んでも悪くないと思っている。ベルの戸惑いが理解できないのだ。

「もしかして、エムロード族との噂を気にしているの?」

 リュビ族の王子とエムロード族の姫の噂は、アニーの耳にも届いている。しかし、ジェラール自ら「いずれ王妃になる」とベルのことを言っていたので、それほど心配していなかった。

 もし王子がエムロードの王女を妻として迎えたとしても、ベルの立場は保証してくれると信じている。

「アニーも知っているのね。とてもきれいな女の子だったわ。でも、そのこともあるけど、それだけではなくて……なんと言ったらいいのか、うまく言えないけど……。」

 やはりベルは噂のことを知っているのだ。どこから話が入ってきたのかは分からないが、まずはベルの気持ちを聞かなければ。

「ベル、ジェラール王子は素敵なかたよね。」

「そうね、素敵なかたね。」

「キスをしても、嫌ではなかった?」

「嫌どころか、素晴らしかったわ。」

「彼のこと、どう思っているの?」

 ベルは考えるように中空を見つめると「一緒にいると、安心するわ。守られているようで。」と答えた。

「好きなの?」

 ベルの瞳から、一粒、涙がこぼれた。

「えぇ……そうだわ。わたし、ジェラール様のこと、好きになっちゃったみたい……。」

 ならばなにも問題がないではないか、とアニーが断じようとしたところで「でも、」とベルが続けた。

「だからこそ、このままここには、いられないような気がして。」

「なんでそうなるのよ!」

「だって考えてもみてちょうだい、アニー。おかしいと思わない?突然屋敷に連れてこられて、その日にこの指輪を付けられたのよ。一度しか会ったことがなかったのに。求婚だってされていないわ。なにか事情があったとしか思えないわ。」

 う、とアニーは言葉に詰まった。

 確かにおかしな点がたくさんある、と思ったが顔には出さずに、親友がこのとんでもない幸運を自ら台無しにしてしまわないように説得することにした。

「きっかけがなんであれ、好きになってしまえばそんなの関係ないじゃない。王子は見た目パーフェクトだし、財力も権力もあって、能力もある。そんな人は探したっていないわ。そりゃあ、少し言葉が足りなくて、ベルも不安になっているかもしれないけど、足りない部分は、あなたが補えばいいじゃないの。分からないなら、直接ジェラール王子に聞いてみなさいよ。そりゃあ、雲の上の人過ぎて少し気おくれしちゃうかもしれないけど、でももう三カ月になるのよ。もう面と向かってお話することもできるようになっているでしょう?」

 ベルはぎこちなく頷いた。

 アニーは、とりあえずほっと息をつくと、ベルの気持ちも分からないでもない、と思った。あのパーティーで見初められてからこちら、とんとん拍子に話が進みすぎて、気持ちがついていかないのだろう。うまく行き過ぎて、こわいくらいだ。

 あの頃、ベルは援助者のところへ奉公に上がらなければならないはずだった。女学院へ通わせるくらいだから、ベルへの援助額は莫大だったろう。それを王子が肩代わりして、ベルを屋敷へ迎えているはずだ。しかも、妻という立場まで用意して。

 たしかに、ベルの懸念も考え過ぎではないような気がしてくる。ジェラール王子のベルへのまなざしの深さから、彼女に対する誠意は感じ取れる。しかし、出合った瞬間燃え上がるような恋の激しさからは遠いように思えるのだ。

 引き取って即結婚というのは極端な話だ。もしかして、この結婚はジェラール王子の方便で、なにか裏があるのではないだろうか。例えば、ベルを援助者から譲り受ける際に、結婚の形を整えなければ不都合なことがあったのかもしれない。パーティーで泣かせてしまった少女のことを不憫に思った王子が、優しくも引き取ろうと申し出たが、そのためには指輪を用意する必要があった。そう考えれば自然だが、アニーはどこか釈然としないものがあり、首をひねったのだった。




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