第12話
「なによぉ、相談したいことがあるなんて、もっと早く言ってくれれば飛んできたのに。」
この日、アニーが久しぶりにベルのもとを訪れた。
「忙しいかと思って。」
二人はベルの部屋のソファで隣り合って座り、紅茶を飲んでいた。
「一番忙しいときは過ぎたわ。わたしから来なければ、なにも言わないつもりだったの?」
アニーが不満そうにベルの顔をのぞきこんだ。ベルは気まずそうに顎を引き、ちらりとアニーを見た。
「それで、相談ってなにかしら?」
そう切り出され、ベルはためらいながら口を開いた。
「その、どうしたらいいのか分からなくて……。」
それきり、ベルの言葉は続かなったので、アニーは「どうしたの?」と聞くと、ベルは顔を真っ赤にさせていた。
「うん、それがね……あの。」
と散々ためらった挙句「アニーは、キス、したことあるかしら?」と問いかけた。
「あるわよ。」
あっさりとアニーが答えた。
「えぇっ、誰としたの?」
「初めてはいとこのお兄さんだったわ。その後は、パーティーで知り合った人とか、うん、まぁ、いろいろ。」
ベルは目の玉がこぼれ落ちるのではないかというくらい大きく目を見開いた。
「まぁ、アニー。すごいわ!」
「それで、ベルはジェラール王子とキスしたのね?」
ベルは照れながらも「そうなの。」と答えた。
アニーは内心で、まだその段階だったのかと思いながらも、ベルが「キスってすごいのね!」とかわいらしく興奮しているようなので、水を差すことはやめておいた。
アニーは頭を切り替えて、身を乗り出して尋ねた。
「ね、どんなキスだったの?ちゅって触れるだけ?それとも、舌も……?」
ベルは顔を両手で覆い「り、りょう、ほう……」と答えると、ぱっと顔を上げて「でもね、違うのよっ!」と言い訳を始めた。
「本当はね、ほっぺたにキスするだけのつもりだったの。普段とてもお世話になっているから、その感謝のキス。でも、なんか近付いたら……なんでだろう……どうしてか分からないけど、口にキスすることになっちゃったのよ。」
アニーはにやにやと笑いながら「まぁいいじゃないの。」と手をひらひらと振った。
「深く考える必要なんてないわ。キスは良かったんでしょう?」
「夢みたいだったわ。こんな世界があるなんて。それ以来、ジェラール様の唇ばかり気になってしまって、落ち着かないの。わたし、変態みたいだわ。」
「なにを言っているのよ。そんなの普通だわ。あんな素敵な男性がいたら、誰だってキスしてみたいと思うわよ。社交界の女性たちだって、ジェラール王子にキスしてもらうためだったら、どんなことでもすると思うわよ。」
その途端、打って変わって、ベルはしゅんと肩を落とした。
「そうなのよね。そりゃあ、そうよね。」
「え、どうしたのよ、ベル。なにを落ち込んでいるの?」




