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リュビの嫁  作者: KI☆RARA
リュビの嫁~自覚編~
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第9話



「ベルはどうした?」

「お疲れになったご様子で、先におやすみになっていらっしゃいます。」

「そうか。」

 寝室の外からジェラールと侍女の会話が聞こえてきた。

 ベルは寝台のシーツの中に潜り、丸くなっていた。



 ジェラールはあの後すぐに、部屋に迎えに来た。一瞬視線を外した隙にイヴは部屋の中から消えていたし、ベルもジェラールにイヴのことを教えなかった。

 帰りの馬車の中は無言で、ベルはイヴに言われたことを反すうしていた。


 イヴは、ベルがリュビの結晶のこと自体を知らなかったと勘違いしたようだが、本当は知っていた。リュビ族の恋物語の中で、指輪は重要な位置を占める。そのため指輪に関する描写も多く、それが結婚の証だという知識はあったが、自分の左手薬指に輝くそれとどうしても結びつかなかった。

 ベルはジェラールと結婚しているなんて、想像したこともなかった。

 本当に、イヴの言ったとおり、結婚していることになっているのだろうか。


 結婚は、血族によって大きく考え方が異なる。

 例えばディヤモン族は、結婚した男女は互いに面倒を見ること、同居すること、財産を共有すること、といった様々な決まりがある。人生を共有するパートナーとなるのだ。

 その結婚は契約行為に近く、結婚の意思があることをサインした書類を国に提出した瞬間に成立する。


 それに対して、パルレ族は結婚に関する概念があいまいだ。基本的に母系社会の通い婚であるパルレ族は、これをした瞬間から結婚、というものがない。

 男が女のもとへ通い始め、実質的に結婚状態であれば、それは結婚していると言える。別れるときは簡単で、男が女のもとへ通わなくなったり、女が男を締め出すようになったりするだけだ。

 ベルの父母は仲が良く、父は母の家で寝泊まりしているが、別に両親の住む家がある。

 お互いの愛情のみで成り立っている関係だからこそ、同時に複数の異性と関係を持つことは「不実」とされる。


 リュビ族は強さがすべての男性社会だ。強い男は多くの妻を持つ代わりに、妻たちをなにものからも守る。男性から贈られたリュビの結晶を女性が左手薬指にはめれば、結婚が成立する。


 ベルは、他の血族の家族の形態を、もちろんリュビ族であっても、否定するつもりはない。女性を奪うように愛するリュビ族の激しい恋愛にあこがれすらある。

 もし仮に、イヴの言っていたとおり、ベルがジェラールの花嫁だったなら、ジェラールの立場を尊重し、他の妻をめとることも仕方がないと納得できるかもしれない。

 しかしそれ以前に、ベルはジェラールの花嫁ではない。

 愛人ですらないのだ。

 イヴは誤解している。

 たしかに一緒に住んで一緒の寝台で眠っているので、外からは一見そう思われてしまうだろうが、それだけであれば親兄弟姉妹でもする。

 指輪だって、なにか別の意味があるに違いない。


(だって、愛しているなんて、一度も言われたことないもの。)



 イヴの言っていたデビューのこと。

 指に光るリュビの結晶のこと。

 そして、あの緑の髪の美少女とジェラール王子のこと。


 確かめなければならないことはたくさんあるが、今は何も考えたくない。

ただ眠りたい。

 そう思っているのに、思いとは裏腹にますます目が冴えていくのだった。



 ジェラールと顔を合わせる前に眠りたいと思っていたのに、ついにジェラールが寝室にやってきてしまった。

 ベルは寝たふりをしていたが、ジェラールは寝台に腰かけてベルの髪をなでながら「眠れないのか」と問いかけた。

 ジェラールの大きくて温かい手が気持ちいい。

 ベルはまぶたを閉じたまま口を開いた。

「今日は、買い物へ連れて行ってくれてありがとうございます。」

「いや、いい。ついでもあったことだ。」

(あぁ、あの美少女と会うついで……。)

 ついさっき、他の妻をめとっても納得できると思ったばかりだが、やはり撤回したい。あの二人が並んだ姿は完成され過ぎていて、あの中に入る自信はない。


 もし、これが本当にリュビの結晶なら、ジェラールに指輪を返す。

(でも、それは今じゃなくていい。)

今はまだ、左手の薬指にある指輪について、はっきりさせたくなかった。


 ベルはいつの間にか眠りに落ちていた。




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