第6話
「言っていなかったな。ベルには手当があるから、それで買えば良い。」
ガラガラと馬車で市街地に向かっている途中にジェラールから言われて、初めてベルは自分に手当が付いていることを知った。一体なんの手当なのかは疑問だが、その金額は卒倒しそうなほどの大金だった。
「なんでそんなにお金がもらえるんですか?」
変な汗をかきながらベルは尋ねた。屋敷の中でしていることと言えば、庭を散歩するくらいだというのに、なぜお金がもらえるのだろう。
「こういうときのためだ。」
ジェラールの言葉は端的だが、ベルは納得したふりをして黙り込んだ。
王妃への贈り物は、香水の入れ物にした。バッグや服など身に着けるものは好みがあるし、食べ物は渡すまでの期間保管しておくことが難しい。何件かお店を回った後に、有名な調香師のいる香水店に入ったが、香水も好みがあるので贈り物には向かないか……と諦めかけたときに、ジェラールが提案したのが香水の入れ物だった。
ガラス細工がとても繊細で、リュビ族の国にはあまりないデザインだとジェラールに言われて、即決した。
ついでに、ジェラールが調香師にベルの香水を依頼していた。
「俺からの星誕祭のお返しだ。もし他に欲しいものがあったら、それも用意するから言ってくれ。」
お店の人が隣にいるというのに、ジェラールはまるで気にしていないようだ。お店の人が笑顔を張り付けた表情の裏で、自分たち二人の関係を探っているのが分かって、いたたまれなかった。
「いえいえいえ、そんな、申し訳ないです。」
「遠慮しなくていい。なんでも言うといい。」
「本当に、香水で、十分です。ありがとうございます。」
香水ができるまでに一週間程度時間がかかるそうなので、完成したら屋敷に届けてもらうことにして店を出た。
帰りの馬車の中で「寄っていくところがある。」とジェラールに言われて連れてこられたのは、どこかの大きな屋敷だった。ジェラールのお屋敷並に立派なところだ。
屋敷の扉の前で馬車を降りると「お待ちしておりました。」と緑の髪をした人たちが出迎えてくれた。
(緑の髪……もしかして、エムロード族?)
あまり他の血族について知らないベルでも、五大貴族については知っている。
緑の髪といえば、まず出てくるのは五大貴族のうちの一つである、美のエムロード族だ。
ジェラールからなんの説明も受けていないベルは、その正解を得ることなく、案内されるジェラールに付いて行った。
少し歩いた先に豪奢な装飾のほどこされた扉があった。案内してくれた人がノックをすると、女性の声で返事がった。
開かれた扉の先には、ソファに腰かけたお人形さんのような美少女がいた。ジェラールとベルが部屋に入り、扉がそっと閉められた。緑の髪のお人形さんは立ち上がり、ジェラールを見た。
「来たわね。」
その視線が、すっとベルのほうへ動く。
「アナタが。」
その視線に縛られたように動けなくなってしまったベルだったが、ジェラールの手がそっと背に添えられて、はっと頭を下げた。
吸い込まれそうな瞳だった。
見つめられると、意思をすべて持っていかれてしまいそうになる。
魔性のような美しさの少女だった。




