第3話
意味もなくあたりを見回し、慎重にドレスを取り出す。
着方がすぐには分からず、手間取ってしまったが、着てみればまるであつらえたように身体に馴染んだ。
明るいところで見ようと、そのドレスのまま部屋に戻り、鏡台の前に立った。
今は髪の毛をそのまま背中に流しているが、これで髪を結いあげて宝石で飾れば、憧れの貴婦人のように見えるだろうか。
髪を両手で上げて、鏡を見ながらくるりと回った。
(着ていく場所がないのが残念だわ。こんなに素敵なドレスなのに。)
着飾ったベルの姿を見たら、ジェラール王子から何か反応があるだろうか。普段は無表情で何を考えているのか分からないが、少しは女性として見てくれるようになるのだろうか。
一度も見たことのない王子のびっくりした顔を想像し、ふふっと笑った。
でもやっぱり家の中で着飾っていたらおかしいかしら、とは思いながらも、鏡台の椅子に座り、髪の毛を結いあげてみようとピンを手に取った。以前、アニーがやっていた、左右に編み込んだ髪を中央で結いあげる髪型はすごくかわいかった。それを真似しようとしたが、思うようにいかない。ベルの乳白色の髪は、意外とコシが強く、結おうとするとぴょんぴょんと髪の毛が飛び出してしまうのだ。
何度やってもうまくいかず、ベルは髪を両手でぐしゃぐしゃに崩した。
まるで、自分には貴婦人の真似ごとなど無理だからやめておけと言われているかのようだ。
(貴婦人ごっこなんて子どもみたい。分相応、分相応。)
大きくため息をついて自分に言い聞かせた。
ドレスを脱いで元の場所に戻し、さらにごそごそと衣装部屋を見ていると、胸から腰までの胴衣を見つけた。
(こ、これはっ。)
両手で持ち、目の前に掲げる。
コルセットだ。
間違いない。
これまでコルセットを付けなければならないような衣装は着たことがないが、襟ぐりが大きく空き、胴回りがぴったりと身体のラインに沿うようなドレスを着ている貴婦人は皆これを身につけているという。
コルセットを着れば、ウエストが引き絞られ、押し出された胸が盛り上がって、あらわになった三分の一の胸の豊かさが強調されるのだ。
(こ、これを付ければ、あこがれのパン生地みたいなぷにぷに谷間が……っ!)
前で金具を引っかけて留めるものだから、きっと一人でも身につけることができるだろう。引っかける場所を何段回か調整できるようになっている。思った通り、それほど苦もなく身に着けることができた。
全体に白色で、ふちにフリルがあしらわれていて、リボンがたくさん付いている。ふりふりで、清楚で、そしてエロい。
(すごくかわいい。エロかわいい!)
一気にテンションが上がって、クローゼットに備え付けられている鏡の前でくるりと回った。
(えー、けっこう、いけるんじゃない?)
心の中で、誰にともなく問いかけた。
盛り上がった白くて柔らかい胸をぷにぷにと指でつつく。
(顔は幼いって言われるけど、意外と胸はあるのよね~。えへへ。自分で言うのもなんだけど。)
腰をかがめて、胸を強調するように両手の二の腕で挟み、上目づかいで鏡を見ると、腰をくねらせながら「おねが~い、宝石買ってぇん……なんちゃって。」と小説に出てくる悪役お色気キャラの真似をして楽しんだ。
「ベル様、どちらにいらっしゃいますか。」
続きの部屋から侍女の声が聞こえて飛び上がった。
こんな恥ずかしいところは絶対に見られたくない。
「クローゼットの中にいますっ!ちょっと待って、開けないでくださいね。」
慌てて着替えて、コルセットを元の場所に戻した。
髪を手ぐしで整えながらクローゼットから出ると、侍女に「王妃さまがいらっしゃっています。」と伝えられ、再び飛び上がった。




