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#8:どうしておとこのコじゃないの?

 あれっ? ここは、どこ?



 昨日、アルバムの中で見た、少年のような格好の幼いまゆかと若いお父さんが、

笑いながら、そして楽しそうに、何処かの公園でサッカーボールを蹴って遊んでいた。


「ねぇー、パパ。わたし、どうしておとこのコじゃないの?」

 まゆかは、サッカーボールをつま先でもてあそびながら聞いた。


「う~ん。それは難しい質問だなぁ。まゆかは、なぜそんな事を聞くんだい?

『どうして男の子じゃないの?』か、どうしてかなぁ? さぁ困ったなぁー」

 お父さんは右手を後頭部に当てて、本当に困ったような顔をしてた。


「わたし、おとこのコだったらよかったのになぁー」

 そう言って、まゆかは、ちょっとふくれた顔をしていた。


「なぜだい?まゆか」

「だって、わたし、おおきくなったらパパみたいになりたいの」

「そっかぁー、まゆかもサッカー選手になりたいのかぁー」

「うん」

「男の子じゃなくても… その…女の子でもなれるさ」

「なれるの?」

 先ほどとはまるで表情が違い、まゆかは、目をキラキラと輝かせている。


「そうだよ、人一倍頑張らなきゃいけないよ。でも、まゆかならきっと頑張れるし、なれるさ。

だって、お父さんの子供だからね!」

「ほんと?」

「ほんとさ」

「じゃあ、ゆびきりげんまんして!」

「いいよ」

「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのぉ~ます。ゆびきった!」


 その直後、次第に視界が霧に包まれるかのように見えなくなっていった。





 これは夢? それとも真結花の古い記憶なのだろうか?

俺は、朦朧とした意識の中にいた。





 ピピピピ…、ピピピピ…、ピピピピ…


 俺は、無意識のうちに、手探りで枕元の目覚しを切っていた。

そして、再び眠りについてしまったようだった。





バタンッ! 


「おねぇちゃん、朝よー。もう起きて!」

 耳元で麻弥の声がした。


「うっ、う~ん、もうちょっとだけ」

 朝が弱いのか?目覚めがひじょーに悪い。


「ダメっ! 今直ぐ起きないとお布団、剥いじゃうから!」


 バサッ。


 容赦なく、勢いよく布団が剥がされてしまった。


「ったく、おねぇちゃんはお寝坊さんなんだから! ホント、麻弥が起こさないと毎日遅刻だよ?」


 俺は眠い目を擦りながら、ようやく寝ぼけ眼で上半身を起こした。


「おねぇちゃん、早く顔を洗って、目を覚まして来たら?

とにかく、さっさと準備しないと、今日から学校でしょ! 急がないと遅刻するよ!」


「うっ、うん」


 俺は姉なのに… これじゃあ、まるで俺の方がダメダメな妹みたいじゃん。

はぁー、朝からいきなり妹にギャンギャン言われる姉って…

傍から見ると、これって、ホント、情けない図に見えるんだろうなぁ。


 洗面台で顔を洗って鏡を見ると、寝る前に髪の位置を全然気にしていなかったせいか?

髪の毛がバサバサで、ご丁寧に寝ぐせまで付いていた。

正直、朝からひじょーにかったるい気分ではあったが、このままだと、余りにもみっともない。

仕方なく、しぶしぶブラッシングを始めた。

しかし、なかなか寝ぐせがなおらず、そのうちイライラし始めた。


 ったく、この長い髪、うっとうしいったらありゃしない。ホント、バッサリ切りた気分。

でも、髪切りたいって言ったら、ものスゴい剣幕で麻弥が怒ってたから、

それはムリだよなぁ。さすがに。

確かに、この長くて綺麗な黒髪切るのは、もったいないって思うけど、

シャンプーにしろ、髪乾かすにしろ、とにかくケアが大変なんだよなぁー。

今度は、こうやって、寝ぐせと格闘しているわけだし。あぁ、もうーイラっとくる。

なんで、この寝ぐせ、なおらないわけ? 

あぁ、もうー、どうにかしてくれよー、時間が無いんだからさぁ。


 そう思っていたら、突然、麻弥が洗面所に現れ、

「もぉー、おねぇーちゃん! いつまでもグズグズと、いったい、なにしてんのっ!」

「髪の寝ぐせが取れないのっ! もぉー、麻弥は朝からギャンギャン、ウルサイっ!」

 今日も朝から麻弥に主導権を握られていた俺は、ひじょーにキゲンが悪く、

しかも、この寝ぐせでかなりイラっときてたため、逆ギレしてしまった。


「ったく、おねぇちゃんは朝から世話が焼けるんだから、もうぉ。その櫛、貸してちょうだい!」


 やけっぱちになってた俺は、麻弥に言われるがまま、無愛想に櫛を手渡した。


「そのまま、頭動かさないで、じっとしててよ、おねぇちゃん」


 麻弥は、洗面台に置いてあった霧吹きで寝ぐせ部分を少し濡らし、ドライヤーを当てながら、

櫛で髪を押さえて、寝ぐせを綺麗に伸ばしていった。


「これでよしっ!っと。どお? おねぇちゃん」


 さっきまで、悪戦苦闘していた寝ぐせが、まるで、ウソのように綺麗になくなっていた。

スゴい、軽く感動していた。麻弥って、やっぱ、女の子だよね。


「うん、キレイになった。ありがとう。さっきはゴメンね、麻弥」


 さっきは、つい、キレたりして、ホントごめん、麻弥。

麻弥はこんなに優しいのに、俺って、自分の事しか考えてなくて、全然優しくない。

麻弥の姉として、失格だよね。


「そんなの気にしなくていいの。朝の口喧嘩なんて、いつものことだからさぁ。特に、おねぇちゃんは朝が苦手で、目覚めが悪い日なんて、すこぶるキゲンが悪いし。それより、おねぇちゃんみたいに髪が長いと、寝ぐせが付きやすいから、寝るときは枕より上で髪をまとめておいた方がいいわよ」


 ふぅーん、そうなんだ。髪が長いと、色々と気を使わなくちゃいけないんだ?

朝はキゲンが悪いって? どうりでね。朝から、かったるいって思ってたし。

低血圧なのかな?


「そうなの? 今晩からそうするわ」

「じゃあ、早く朝食を食べて、制服に着替えなきゃ!」

「うん」


 俺は、ママの作ってくれた朝食を皆で食べた後、歯磨きを済ませ、クローゼットに掛けてあった紺色のブレザー、グレーのベストとグレーのチェック柄プリーツスカートの制服を取り出した。


「またスカートかぁ」

 ちょっと憂鬱な気分になる。スカートを腰に当ててみた。膝が隠れるぐらいの長さはあった。


「まっ、これくらいの長さならまだましかな?」



 ピンポン~♪


「はぁーい」

『おはようございまーす。鮎美です。真結花を迎えに来ました』


 ガチャ。


「鮎美ちゃん、ありがとうね。今日は、わざわざ家まで迎えに来てもらったりして。いつもはどこかで待ち合わせしてるんでしょ?」

「はい。でも、今日は特別なんで。 あっ、Yuki! おっはよっ! 今日も元気?」

「まゆかー、鮎美ちゃんが迎えに来てくれたわよー」

 下からママの声が聞こえた。


「へっ? もうそんな時間?」

 俺は部屋の時計に目をやった。まだじゅうぶん時間あるじゃん。

俺は部屋のドアを開け、下に向かって叫んだ。

「ちょっと待っててー。今から着替えるからー」


「もうぉー、仕方ない子ねぇ~。今日は朝からグズグズしているんだから。ごめんなさいね、鮎美ちゃん。上がってリビングで待っててちょうだい」

「はい。じゃあ、おじゃましまーす」


 こんなに鮎美ちゃんが早く来るとは思って無かった。俺は慌てて着替え始めた。

三面鏡の前で、少し腰を屈めて服装をチェックしてみた。


「おかしな所、ないよね?」


 俺は、毛先を触りながら鏡を見てると、

「あっ! 髪、どうしよう?」

 って、今頃気が付いた。


 髪長いし、またバサバサになるのは嫌だし、結んだ方がいいよな。

でもどうしよう? ちゃんとした結び方、よく覚えていないみたいだし。

 えーぃ。時間も無いし、このまま行っちゃえ!

どうせ誰も見ないし、他人の髪なんて気にしないよ。

そう思っていたら、


 トントン。


「おねぇちゃん。ねぇ、まだー? 鮎美ねぇさんが待ってるよ!」


 カチャ。


「うん、今、行こうとしてたところ」

「ねぇ、おねぇちゃん。その髪、そのままで行くつもりなの?」

 麻弥が部屋に入って来て、そう言った。


「うっ、うん。もう時間も無いし」

「別にそのままでも構わないけど、うっとうしくないの? いつも結んでたし」

「うっとうしいかも」

「じゃあ、結んであげる」

「でも、時間がないよ」

「直ぐに終わるって。そこに座って」


 そう言って、麻弥は、三面鏡の引き出しに沢山入っていた飾りのついた髪ゴムの一つを取り出し、

手早く俺の髪を後ろに束ね、髪ゴムで留めてくれた。

鏡の中の姿は、髪をアップにした為、ずいぶん印象が違って見えた。

 女の子って、髪型変えただけでも、何か違った自分に見えるんだ!

へぇー。なんか新鮮な感じ。

でも、こうやって、改めてこの娘の顔をマジマジ見つめてると、やっぱ、美少女だよねぇー。

このヘアスタイルもカワイイ!


「これでよしっと。じゃあ、途中まで一緒にいこっ!」

「うん」

 そう言って、通学カバンを手にし、麻弥と俺は鮎美ちゃんの待つリビングに降りた。


「おはよう。鮎美ちゃん」

「おはよう。鮎美ねぇさん」

「おはよう。真結花、麻弥ちゃん。じゃあ、二人共、一緒にガッコ、行きますか!」

「はい、鮎美ねぇさん」

「うん。鮎美ちゃん、今日からガッコでもヨロシク!」

「わんっ! わんっ!」

「あはっ、Yuki! あんたもガッコ、行きたいの?」

「ふふっ、Yukiったら、絶妙なタイミングのツッコミ!」

「うん。麻弥と同感。さっ、Yukiにかまってないで、行きましょ!」

「ちょっと、待った!」

「へっ? どうしたの? 鮎美ちゃん?」

「真結花、このスカートの丈、長くない?」

 鮎美ちゃんが、俺のスカートの裾辺りを軽く指先でつまみながらそう言った。

「そういえば、そうだね。麻弥も気付かなかったよ」

「えっ?別に普通だけど」


 でも、鮎美ちゃんのスカートをよく見ると、膝上になっていて、丈が短かった。

鮎美ちゃんはわたしより、背も高くてスタイルがいいし、脚が長いから?


「なーんだ。スカート、腰で折ってないわけ?おねぇちゃん」

 そう言われて、麻弥のスカートにも目をやると、中学生の制服なのに、

スカートが膝上丈になってる。

「短くしないとダメなの?」

「そのままだと、ダサいわねぇ。直してあげるよ。真結花」

「えっ?そんなのいいよ。別に」


 すぐさま、身の危険を感じた俺は、通学カバンを両手でスカートの前に突き出して盾にし、

思わず後ずさって、鮎美ちゃんから離れた。

 その鮎美ちゃんが、こっちに向かって一瞬ウインクして来た。

いったい何???? 嫌な予感が頭を横切った。


「麻弥ちゃん!」

「はい!」


 一瞬のアイコンタクトでの、見事な連携プレーだった。

麻弥は、俺が防御に使っていた通学カバンをあっという間に取り上げると、素早く背後に回り、

俺の両腕を掴んで背中で押さえつけた。

その隙に、今度は鮎美ちゃんが、あっという間に素早い動作で俺のスカート丈を短くしてしまった。


「これでよしっ!っと。うん、カワイクなった。じゃあ、行きますか!」


 俺は余りの一瞬の出来事に唖然としてしまい、文句を言う暇すらなかった。


「おねぇちゃん? なにボっとしてんの? はやくぅ~。ガッコ、いこ!」

「うっ、うん」

「真結花、麻弥、ちょと待ってー。忘れ物よー」

 慌てて両手に包みを持ったママが玄関まで来て、今まさに、ドアを開けて家を出ようとしていた俺と麻弥を引きとめた。

「もぉー、おねぇちゃんのせいで、今日は朝からバタバタしてたから、危うくお弁当忘れるとこだったよぉ」

「ごめーん」

「はい、お弁当。明日からは忘れないでね」

 そう言って、ママが二人にお弁当を渡してくれた。

「あんた達、力関係がまるで逆よねぇ~。はたから見てて、面白いわ」


 自覚はしているが、鮎美ちゃんにもそう思われてしまった。

これは、何とかして姉としての威厳を挽回せねば。

このままじゃあ、いつまで経っても、麻弥に頭が上がらないままだし。

でも、女歴では麻弥に全く敵わないからなぁ~。ホント、先が思いやられるよ。


「鮎美ちゃん、学校でも真結花を頼むわね」

「はい。じゃあ、行ってきまーす」

「行ってきまーす、ママ」

「行ってくるね」

「はいっ、みんな、行ってらっしゃい!」

「わんっ! わんっ!」


 こうして、前途多難な、女の子としての、俺の学校生活の一日目が始まるのであった。

 女の子として、初めて学校へ行くことになった真結花。

家では相変わらず、ダメ姉っぷりを発揮していましたが、

果たして、この調子で、学校でも上手くやっていけるのでしょうか?


 次回につづく。

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