#48:独占インタビュー
翌日の日曜日の夕方、ママから新しい携帯電話を受け取り、早速、鮎美ちゃんに連絡を取った。その鮎美ちゃんの開口一発目が、
『真結花! あんたねぇー、自分がどれだけみんなに心配や迷惑を掛けたのか、わかってんのっ! 麻弥ちゃんから無事だって連絡、直ぐにもらったからいいけどさ、家に帰ってきたら帰ってきたで、なんで直ぐに連絡、よこさないのよ!』
うっ! 鮎美ちゃん、めっちゃ怒ってる。
「ごめんなさい、鮎美ちゃん。携帯、壊れてたから…」
『はぁー? 携帯壊れてんなら、家電や麻弥ちゃんの携帯で連絡できるでしょーがっ!』
「あっ、そっか。そうだよね?」
やばっ。鮎美ちゃん、マジギレだよ。
『ったく、もういいから。私、今、すっごく頭痛いから、もう電話切る!』
「えっ? 大丈夫なの? 鮎美ちゃん」
『もうー! 真結花のせいなんだからねっ!』
ブチッ! ツーツーツー
あっちゃー。鮎美ちゃん、完全に怒ってた。月曜日、顔、合わせ辛いよなぁー。
そりゃ、直ぐに連絡しなかったのは、悪かったって思ってるけど… 何も、そこまでマジで怒んなくてもいいんじゃないの? あぁー、なーんか、ブルー。
月曜日の朝、いつものように登校してたわだけど、そこには、当然のように横いるはずの、元気な鮎美ちゃんの姿は無く… なぜだか、随分とご無沙汰してた、早坂さんがいるわけで…
「真結花さん、さっきからポーっとして、なんだか、元気がなさそうですね? 私といると、つまんない?」
いつも登校時に真結花様の横にくっついてる背の高い子、今日はいないわけだし、せっかく掴んだチャンス、ここは、真結花様の心をぐわぁしっ! と掴んで、強烈なインパクト、与えなきゃ!
「えっ! そんなことないよ?」
「もしかして、いつも一緒にいる子と喧嘩でもした?」
「早坂さん、わたしが鮎美ちゃんと喧嘩したって、どうしてわかったの?」
ふぅーん、鮎美っていうのか、あの子。結構、気が強そうな子みたいだし、私も気をつけないとね。
「だって、真結花さんって、わかり易いんだもの。それに、今日は、その鮎美ってコと一緒じゃないし」
「喧嘩したっていうのは確かだけど… 鮎美ちゃん、インフルエンザにかかったらしくって、今週はガッコ出てこれないんだよね。もしかして、わたしのせいじゃないのかなって思うと…」
「そうなんですかぁ… でも、それは真結花さんのせいじゃないと思いますよ? だって、喧嘩とは関係のない病気ですもの。真結花さんが気にすることはないんじゃない? そのコ、早く元気になるといいですね?」
うぅーん、これは、もしかして、真結花様との距離を縮める絶好のチャンスじゃなーい! 幸運の女神様が、私にほほ笑んだ?
「ありがとう、早坂さん」
ふふっ、真結花様にお礼まで言われちゃった! 超うれしいぃーっ!
「あのっ!」
「なに? 早坂さん」
「明日から一週間、真結花さんと一緒に登校してもいいかな? その… 鮎美さんが学校出でくるまででいいんだけど…」
「別にかまわないよ? わたしもちょうど、朝の話相手がいなくって、寂しいかなぁーって思ってたところだから」
そうなんだ? ラッキィー!
「じゃあ、明日からヨロシク! 真結花さん」
「うん」
「手、繋いでもいい?」
「えっ? 手、繋ぐの?」
女の子同士で手を繋ぐのって、ふつーなわけ?
「だって、ほら、前を歩いているうちのガッコの女子達も手、繋いでるでしょ?」
あっ、ほんとだ。そういや、そういう目で全然見てなかったよ。
「そっ、そうだね?」
でもさぁ、鮎美ちゃんとだって手、繋いだことないのに…
「ねぇ、いいでしょ?」
早坂さん、そんな、懇願するような目で、じーっと見つめないでくれるかな?
こっちは、すっごく恥ずかしいんだけど?
でも… ここで、ムゲに断るのも悪いしなぁー。
「うっ、うん」
「じゃあ、いこっ!」
半ばゴーインに早坂さんに右手を握られ、引っ張られるようなかっこうで登校するハメになった。
正直なところ、なんだか、照れ臭いような、恥ずかしいような?
でも… 伝わってくる早坂さんの手の感触は少し暖かくて、柔らかくて、それでいて気持ち良くって、なんだか癒されているような気がした。
そう、このときは、鮎美ちゃんが横にいないっていう寂しさを、早坂さんが紛らわせてくれているような気がしてたんだ…
「はぁー」
今日はなんだか、食が進まない。せっかくママが愛情込めて作ってくれているお弁当なのに、申し訳ない。
それに、鮎美ちゃんがこの場に居ないっていうだけで、いつもの騒がしさがないっていうのも、なんだか寂しいような?
「まゆかちゃん、なんだか食欲なさそうね? 大丈夫?」
「そうですよ? 気分が悪いんだったら、保健室にでも行きます? 真結花さん」
「ありがとう、智絵ちゃん、莉沙子ちゃん。気を使ってくれて」
「今日のまゆまゆに元気がないのは、相思相愛のあゆあゆが、病気で倒れて心配だから、だよねぇー? あゆあゆが羨ましいなぁ。そんなにまゆまゆに想われてるなんて、杏菜、嫉妬しちゃうなぁー。杏菜もインフルエンザにかかったら、まゆまゆは心配してくれるの?」
「そりゃ、心配するけど… でもね、相思相愛って、杏菜ちゃん。誤解を生むような発言はやめてくれない? 他の人に聞こえたら、ヘンに思われちゃうじゃない!」
「おっ、こりゃマジですよ。聞きました? ともとも、りさりさ?」
「はい、しっかりと、この耳で聞きましたよ? ねぇー、りさちゃん?」
「もちろん、私もハッキリと聞きましたよ? この耳は、嘘を言ってないですよ? あんりんさん」
「ということで、あゆあゆとの熱愛報道の真相は、どーなんしょうか? まゆまゆさん?」
芸能レポーターのように、マイクを持つフリをして話しを振ってきた杏菜ちゃん。
みんな、元気出せって、気を使ってくれてんだ? じゃあ、それに乗らないと悪いよね?
「鮎美ちゃんとは、カラオケに一度行ったたけで、仲のいいお友達の一人です。それ以上でもそれ以下でもありません」
コレ、よく言ってるよね? 芸能人の熱愛報道のコメントで。ウソ臭いけど…
「そうですかぁー。一方で、友田くんを振ったという噂も出ていますが、本当ですかぁ?」
なにっ? なんでそのこと、杏菜ちゃんが知ってるわけ?
「えっと、それは、その… その件についてはノーコメントってことで」
これも、よく使う手だよね?
「と、いうことは、肯定をなさるわけですね? まゆまゆさん」
ううっ、杏菜ちゃん、食いついてきた。あんたは、マジで芸能レポーターかっ!
「だから、その件については、ノーコメントですっ!」
定番の返しでしょっ!
「ムキになるところがアヤシイですねぇー。それから、生徒会長さんから口説かれたという噂も出ているようですが?」
なっ、なんで、そんなことまで知ってるわけ? 杏菜ちゃんは… 恐るべし、杏菜ちゃん情報網!
「えっ! それ、ほんとなの? まゆかちゃん」
「それ、私も初耳です。真結花さんって、そんなにフシダラな人だったんですかっ!」
軽蔑するような目線を送ってきた莉沙子ちゃん。
ちょっと待った! フシダラって、それじゃあ、まるでこっちが悪いような言い方じゃん。
うぅーん、あの大人しかった莉沙子ちゃんが、ここまで突っ込んでくるとは… 大人しい子ほど怖い?
「まゆまゆさん、この件に関して、複数の生徒会長ファンからも、抗議の声が出でいるようですが、どう弁明されるおつもりでしょうか?」
あーっ、そうゆうこと?
「えー、その件については、生徒会長さんの、わたしへの一方的な好意でありまして、わたしは何も答えていませんし、今後もその好意に答えるつもりもありません!」
「それでは、生徒会長さんの件は、何も無かった、ということですね?」
「はい」
「では、次の質問です」
これじゃあ、まるで尋問じゃん。イジメだ!
「ねぇ、杏菜ちゃん。まだわたしに関するネタがあるわけ? もう、このへんで止めない?」
「ダぁーメ。ギャラリーのお二人さんが、止めないでって、目で訴えてるもん。ねぇー、ともとも、りさりさ?」
うんうん、って感じで無言で頷く智絵ちゃんと莉沙子ちゃん。って、二人共、止めないのかいっ!
「では、最新のスクープ情報です。今朝がた、まゆまゆさんが、他のクラスの女生徒と、お手手繋いでランランランって感じで、仲つむまじい姿で登校されたとの目撃情報を得ていますが、そのお相手とは誰なのでしょうか? そして、そのお相手との関係は?」
げっ! そんなのまで、見られてたわけ? なんだか、急に顔が熱くなってきた。それに、ヘンな冷や汗が…
いったい、誰の目撃情報? それにしても、杏菜ちゃんの情報網はあなどれない! って、関心してる場合かっ!
「えぇーっと、答えなきゃダメ?」
智絵ちゃんと莉沙子ちゃんの目が、なんとなく冷たいような? そう、この目は見たことがある。嫉妬に満ちた目っていうべきか? なーんか、俺ひとりが悪者になってる!
「疑惑を晴らすためにも、お答になった方がよろしいかと思いますが? あゆあゆさんに対する、裏切り行為と見なされてもいいんですか?」
益々、厳しい突っ込みしてくるよなぁー、杏菜ちゃんは。これって、エスカレートしてない?
「わかりました。今朝一緒に登校した子は、早坂さんっていう子で、入学直後に知り合った子です。それで、今朝、わたしが落ち込んでたところに声を掛けてくれて、励ましてくれてたんです。ただ、それだけのことなんです」
「そうなんですね? こちらの情報に誤解があったようです」
ほっ。とりあえず、みんなの誤解は解けたよう。
「じゃあ、もうこれでいいかな? 杏菜ちゃん」
「それでは、最後の質問です」
「ええーっ! まだあるの? 杏菜ちゃん」
「まゆまゆさんの本命は、喜多村くんってことでよろしいのでしょうか?」
「はいぃ? それも答えなきゃ、ダメ?」
「モチの、ロンですよ!」
なに? そのみんなの注目の目は? ヘンなプレッシャーが…
「えっと、大切なお友達の一人であるのは間違いありません」
「じゃあ、今後、喜多村くんと正式にお付き合いをなさるわけですね?」
おっ、お付き合い?
「とっ、とりあえず、今はお友達ってことで、まだ先のことは考えていません」
「ということは、まゆまゆさんは、今後、別の白馬の王子様が現れると思ってらっしゃる?」
あぁ、もぉー、なーんか、イラっときた!
「そんなことは言ってません! だだ、先のことはわからないと言ってるだけですっ!」
「ぷっ、あはははっ! もぉー、まゆまゆ、マジで怒んないでよぉー。お遊びじゃん」
「ふぅーん、やっぱ、喜多村くんのこと、ホンキなんだ? まゆかちゃんは。りさちゃんも、そう思うでしょ?」
「はい」
「えっ! なにそれ? みんな」
「じゃあ、我らの愛するアイドル、まゆまゆと喜多村くんは公認の仲ということで、この独占インタビューを終了したいと思います。以上!」
真結花にとって、鮎美ちゃんの存在の大きさを知る機会になったようですね。
次回につづく