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#45:母と子と

「もしもし、あっ、結城さん? 喜多村だけど?」

『あっ、今ちょうど、喜多村くんに、電話掛けようとしてたころなの。もしかして真結花、そっちにいる? 真結花の携帯に、繋がらないのよ!』

「えっ? 結城さんも、繋がらないの?」 

『ってことは、喜多村くん、今、真結花と一緒じゃないわけね?』

「うん」

『さっき、麻弥ちゃんから電話あって、真結花がまだ家にも帰ってないし、携帯も繋がらないから、こっちに寄り道してないかって。それで、もしかしたら、まだ喜多村くんと一緒にいるんじゃないかと思って』

「えっ? もう19時だよ? まだ、家に帰ってないの? 木下さん。もしかして、なにかの事故に巻き込まれたとか?」

『もぉー、何やってんのよっ! 喜多村くん。あなた、これから真結花のカレシになるつもりなんでしょ? もっと、しっかりしてよ! この豪雨の中、なんで真結花を一人で帰らせたのよ!』

「いや… 一緒に帰ろうって言ったんだけど、木下さんが何か用事あるからって…」

『ったく、情けない。この豪雨の中、真結花を一人で帰らせる方がどうかしてるわよ!』

「ゴメン、結城さん。僕が悪いんだ」

『今更、あなたに謝られても仕方ないわ。とにかく、こっちは智絵達と手分けして、クラスメート全員に電話で当たってみるから、喜多村くんも他の心辺り、電話してくれる?』

「じゃあ、僕、今から木下さんを捜しに行く!」

『ちょっ、ちょっと、待ってよ。この豪雨の中、捜しに行くって? 何処か宛てでもあるわけ? それに、それこそ、喜多村くんが事故にでも遭ったらどうするのよ? 気持ちは分かるけど、真結花に、余計な心配掛けさせないで!』

「じゃあ、僕は、どうすればいい?」

『そうねぇー、友田くんと手分けして、クラスメートの男子全員に電話してくれる? 何か、目撃情報や手掛かりがあるかもしれないし。こっちは、女子全員に電話してみるから。それから、他にも心辺りがあったら、お願い』

「うん、わかった」




 一通り、今までのいきさつを井沢さんに話終えると、

「ふぅーん、記憶喪失ねぇー。どうりで、私のこと覚えてないわけね? 麻那美ちゃんは? いえ、真結花ちゃんかな? いつまで、他人のフリ続けるのかって思ってたわよ。だから、あんな手荒なまね、しちゃったわけだけど、ごめんなさいね。最初っから、言ってくれればよかったのに…」

「はぁ、わたしも、てっきり、井沢さんに人違いされてるんだとばっかり。そう思ってたので…」

「ところで、真結花ちゃん? お腹、減ってない?」

「えっ? もうそんな時間ですか? 家に連絡しなきゃ。あっ、でも、携帯壊れてるんだ? どうしよう?」

「雨、また急に激しくなってきたことだし、このまま、ここに泊っていけばいいじゃない。明日は土曜日だし、学校、休みなんでしょ? 明日、私の車で自宅まで送ってあげるわ。家には、私が事情を説明して連絡してあげるから、自宅の電話番号、教えてくれるかな?」

 ふふっ、我ながら、いい手を思いついたものだわ。この子の自宅の電話番号と住んでる場所、同時に手に入れられるんだから。

「えっ? いいんですか?」

「ええ、もちろん。遠慮はいらないわよ?」

「ありがとうございます。でも、自宅への連絡は、自分でしたいので、携帯、貸してもらっていいですか?」

 ちょっと誤解してたけと、この人、いい人なんだ? 世の中、まだまだ捨てたもんじゃないね。こんな親切な人もいるわけだし。

「そう。かまわないけど…」

 どのみち、発信履歴には自宅電話番号が残るわけだし、結果オーライってとこかな?



 トゥルルルル… トゥルルルル… プツ。


『はい、もしもし、木下です。どちら様でしょうか?』

「あっ、ママ? わたし」

『真結花なの? いったい、今までどうしてたのっ! 電話も繋がらないし、ママも、麻弥も、鮎美ちゃんも、すっごく心配してたのよ!』

「ママ、心配掛けてごめんなさい。この大雨の中、ずぶ濡れになっちゃうトラブルがあって、携帯も落として壊しちゃったの。それで、連絡が遅れたの」

『そう。でも、少し安心したわ。体の方は、大丈夫なのね?』

「うん、大丈夫だよ。服も着替えたし」

『ところで、今、何処にいるの? 真結花。ホテルにでも、泊ったの?』

「うぅうん、親切な女性に助けてもらって、今、その人のマンションに居るの。この雨だし、泊って行きなさいって言われたの。だから、明日には、ちゃーんと家に帰るから」

『大丈夫なの?』

「えっ? 何が?」

『その女性、信用しても大丈夫な人なの? いったい、どんな人なの?』

「大丈夫だって、ママ。そんなに心配しなくても。名刺も貰ったし、ちゃんとした身元の女性だから」

『そう。真結花がそう言うのなら、心配はなさそうね? 真結花、その女性に電話、代わってもらえないかしら? お礼も言わないと、失礼だし』

「うん、わかった。ちょっと待ってね。井沢さーん、ママが、電話代わって欲しいって」

「もしもし、真結花ちゃんのお母様ですか? 私、井沢利枝と申します。お嬢さんは、私の家で大切に預からせて頂いておりますで、ご心配なく」

『木下憂子と申します。井沢さん、娘が大変お世話になりまして、本当にありがとうございます。このお礼は、後日、改めてさせて頂きますので』

「お母様、お気を使われなくても結構です。人として、当たり前のことをしただけですので。お嬢さんは明日、私の車で自宅まで送り届けますので、ご心配なさらないで下さい」

『井沢さん、ご厚意、本当にありがとうございます。言葉だけでは、とても感謝しきれませんわ』

「そのお言葉だけで、十分です、お母様」

『ご丁寧にありがとうございます。井沢さん、もう一度、娘に代わっていただけないでしょうか?』

「はい、少々お待ちくださいね。真結花ちゃん、お母様が代わって欲しいそうよ?」

「もしもし、なに? ママ」

『井沢さんって方、親切な方で、ママ、安心したわ。くれぐれも、失礼のないようにね?』

「うん、わかってるって。じゃあ、電話、切るね? ママ」

『じゃあ、明日、ちゃんと帰ってくるのよ?』

「うん。おやすみなさい、ママ」

『おやすみ、真結花』



 うぅーん、いい匂い。美味しそう。井沢さんは、夕食にクリームスープパスタを作ってくれた。

「どうぞ、遠慮なく食べて」

「じゃあ、いただまーす」

 うん、美味しい。あれっ? でもコレ、初めての味じゃない。なんか懐かしいような気が…

「どう、お味の方は?」

「クリーミーで美味しいです、とっても。でも、一度食べたような気がするんですけど?」

「よく分かったわね? そう、真結花ちゃんに一度、ご馳走したことがあるわ」

「ところで、井沢さんって、この広―いマンションに、一人暮らしなんですか?」

 20代後半の女性が一人で暮らすには、ちょっと、贅沢だよなぁー。

「基本的にそうだけど、それが、どうかしたの?」

「いえ、この広いマンションに女性が一人って、寂しくないのかなって思っちゃって」

「そうねぇー、寂しくないと言えば、ウソになるけど、うちの事務所の子達もしょっちゅう出入りしてるし、仕事も忙しくて充実してるから、寂しさを感じてるヒマは、今はないかな?」

「井沢さんは、彼氏とか、いないんですか?」

「そうねぇー、モデルやってた時はいたけど、マネージャーに転向してからは、男にかまっているヒマはないわね」

「井沢さんってやっぱ、モデルさんだったんですか? すっごく素敵な方だって思ってたんで。でも、もったいないなぁー。なんでモデル辞めて、マネージャーなんかに?」

「年齢、かな? この業界って、次々と若くてカワイイ子、出てくるのよ。その中で、同じ土俵で闘っていかなきゃいけないわけ。周りのモデルの子達は、20台後半に差しかかると、仕事が無くなったり、結婚したり、別の道を選んで辞めていったわ。そんな中で、私も、30までモデルを続けられるのかなって、自問自答する日々が続いたの。正直、私の替わりは、若いコ達にいくらでもいるわけだし、もう潮時かなってね。そして、その結論がマネージャーってわけ。モデルの経験を生かせる職業だしね」

 プロって華やかな世界だけど、やっぱその裏側ではみんな、同じように必死でもがき苦しんでるんだ? 

「プロって、やっぱ厳しい世界なんですね? わたしも、最近まで色々と自問自答してたんです。だからその気持ち、何となく分かります。あっ、すみません、わたしみたいな子供が、生意気な事言っちゃって」

「ふふっ、あなたって、以前と余り変わってないようね?」

「そうなんですか?」

「そうねぇー。全体の雰囲気は、記憶喪失前と比べれば、少し大人しそうな感じがするけど、あなたの本質的な部分は、何も変わってないと思うわよ?」

「そう言われても、以前の記憶の無いわたしには、分からないことなので…」

「まっ、そうよね? ところで、今、真結花ちゃんにカレシはいるの?」

「えっ? なんでそんなコト、わたしに聞くんです?」

 

 それは、あなたにカレシがいては、これから色々と困るからよ。


「単に、興味があっただけよ? ふふっーん、さては、いるな?」

 やっぱ、いたか。


「カレシじゃないですよ? 単なる、男友達ですよ?」


 口ではそう言っても、わかるわよ。同じ女としてね。

「そうかなぁー? 真結花ちゃんの顔は、そうは言ってないみたいだけど?」

 でも、まだ、交際は浅いようね?


「実は、まだ、わたしにもよくわかないんです。恋愛経験がないので」

 

 やっぱりね。まだ、十分間に合いそうね?

「よかったら、私が相談に乗るわよ? 人生のセンパイとしてね」

「気持ちはありがとうございます。でも、自分自身で解決したいので」

「そう」



 夕食後、暫らくテレビ見ながらダラダラ過ごしてたら、井沢さんが、

「真結花ちゃん? お風呂、一緒に入ろっか?」

「えっ? 一緒に、ですか?」

「何か、不都合なことでも、あるわけ?」

「いえ、結構です。もうシャワー浴びたんで」

「そっ、残念ね? じゃあ、パジャマ、ベッドに置いておくから、先に寝てていいわよ?」


 何が、残念なわけ? なんだか、とっても身の危険を感じるんだけど? きっ、気のせいだよね?


「そのぉー、ベッドって一つしかないんですか?」

「そうよ? ダブルサイズだから、大丈夫よ?」

「えっ? 大丈夫って、それって、井沢さんと一緒に寝るってことですか?」

「そうだけど? 一人じゃないと、寝れないの?」

 やっぱ、同じベッドで寝るのかぁー。

「いえ、そうゆうわけじゃなくって、そのぉー」

 ちゃんと、寝れるのかな?

「どうしたの? 顔、赤くしちゃって。一緒に寝るのが、恥ずかしいの?」

 そりゃ、恥ずかしいですよ。

「えっと、そういうの、慣れてないので…」

「ふふっ、ほんと、カワイイわねぇー、真結花ちゃんは。もう、ギュって抱きしめたくなっちゃう!」

「えっ?」

「じょーだん、冗談よ。もう、いちいち真に受けるのね? 真結花ちゃんは。そう所、カワイイわよ?」

 本当かなぁー? 井沢さん、俺が寝てる間に、ちょっかい掛けてこないかどうか? 気になって仕方ないんだけど…



 先にベッドに入ってウトウトしてたら、井沢さんがベッドに潜ってきて、耳元で、

「あぁ~ら、もうぉー寝ちゃったのぉ~、真結花、ちゃ~ん。もぉー、つまんないコねぇ~。夜は、これからよぉ~」

 うっ、なんーか、すっごくお酒臭い。井沢さん、酔ってるわけ?

「うぅーん」

 寝返りを打つフリして、井沢さんに背中を向けた。

「もぉ~、ダぁーメぇ~、ねぇちゃあぁ~」

 井沢さんが、背後から俺の首に手を回してきた。おまけに、脚まで絡めてくる。

 コラっ! 俺は、抱き枕じゃないぞっ!

「やっ、止めてください!」

 首に絡んでいた井沢さんの手を解こうとすると、逆にギュッと力を入れて抱きしめられ、体をピッタリとくっつけてきた。

 せっ、背中に、井沢さんの柔らかい胸の感触が…

「ふふっ、起きてるじゃなぁ~い。真結花ちゃんの体、柔らかくてあったかぁーい。それに、いい匂い」

「体、離してくれませんか? 井沢さん。このままだと、寝れないんで」

「ふぅーっ」

 いきなり、耳にお酒臭い息を吹きかけてきた。井沢さん、いったい、なんのつもり? かなり、酔ってるしぃ。

「もぉー、井沢さん、酔ってるんでしょ? お酒、臭いですよ?」

「いいの、いいのぉ~。明日は、私もお休みだしぃ~、たまには、息抜きも必要なのぉ~。大人は、色々と大変なのよぉ~、ストレスが、溜まっちゃってさぁ~」

「そのいい大人が、子供に絡まないで下さい!」

「もぉ~っ。冷たいのねぇ~、真結花ちゃん。以前は、お姉さんのように、慕ってくれてたのにぃ~」

 ぽっぺを指でツンツンされながら、そう言われた。

「以前のわたしと、今のわたし、違うんです。一緒に、しないで下さい!」

 井沢さんが余りにウザいので、思わず、邪険な態度を取ってしまった。

「んっ? なに? 怒ってるの? 真結花ちゃん。私、寂しいのぉ~。女の一人暮らしって、寂しいものなのぉ~」

 もぉー、完全に酔ってるよ、この人。

「だからと言って、わたしでその寂しさ、紛らわそうとするの、止めてもらえませんか?」

 そりゃ、気持ちはわかるけど…

「ねぇ、ねぇ、キゲン、直してよぉ~。真結花ちゃんは、私のコト、キライなのぉ~? おねぇさん、悲しいなぁー。もうー、泣いちゃうかも」

 後ろから、頭をなでなでされがら、そう言われた。

「そんなぁー、キライってわけじゃないです」

 もぉー、酔っ払いの相手するのも、ほんと、楽じゃないよ。

「じゃあ、スキってこと?」

 それ、どういう意味で、スキってこと? 井沢さん?

「えっ? 人としては、スキの部類に入ると思いますけど…」

 それは、間違いないです。ハイ。酔っ払っていても。

「なに? その引っかかるような言い方? ハッキリ言いなさいよぉ~、私のコト、迷惑なら迷惑って」

 ハイハイ、迷惑ですよ。大迷惑。もうー、全然、寝れないしぃ。

「そんなぁー、迷惑だなんて。井沢さんは、いい人だと思います」

 でも、ここは、ご機嫌取りでヨイショしとかなきゃ。

「ほんとにぃ~」

「ほんと、です!」

 あぁ、もぉー、いちいち疲れるなぁー。マジ、寝れないよぉー。

「じゃあ、おねぇさんと、キモチいいコト、しよっか?」

 えっ? キモチいいコトって、まさか… 女同士でアレってことじゃないよね?

「もぉー、何言ってるんですかっ! 井沢さん、ホントーに、酔ってるでしょ!」

 シラフでは言えないでしょ? ふつー、こんなこと。

「ふふっ、じょーだんよ。でも、こうやって、真結花ちゃんに体くっつけてるとさぁ~、思い出すのよねぇ~、幼いころ、母に抱かれて寝てた時のこと。だから、お願い、もう少しこのままで、いさせてくれないかしら?」

「はぁ? わたしは、別にかまわないですけど…」


 井沢さん、暫く大人しくなったと思ったら、

「うぅ… ぐすっ」

「えっ? 井沢さん、もしかして、泣いてるんですか?」

「ごっ、ごめんなさい。母のこと、つい思い出しちゃって。真結花ちゃんのお母さんって、とっても優しい人なんでしょ? 電話で、少しだけしか話さなかったんだけど、分かるの。真結花ちゃんこと、すっごく愛してるんだろうなぁーって、羨ましいなーって思ったの。そしたら、急に悲しくなっちゃって。真結花ちゃんは、お母さんのこと、大切にしなきゃダメだよ?」

 井沢さん、なんだか、急に酔いが覚めてきたみたいだ。

「はい。母には、すっごく感謝してるんです。感謝しても、しきれないほど。あのぅー、失礼なこと聞きますけど、もしかして、井沢さんってお母さんがいないんですか?」

「どこかにいるんだろうけど、私が小学校に入ったばかり頃、ある日突然、私と父を置いて失踪しちゃったの。置手紙も何も残していかなかったわ。その父も、母の失踪後、色々手を尽くして捜したみたいだけど、心労と過労が祟ったのか? 私がモデルを始めて間もなく、脳溢血で倒れて、帰らぬ人になっちゃったの。だから、今の私、天涯孤独なのよねぇ~」

 もしかして、悪い事、聞いちゃった?

「すみません、ヘンな事聞いちゃって」

「いいのよ、こんな身の上話をするの、真結花ちゃんが久しぶりなのよぉ~、なんだか、とっても話したい気分だったの」

 井沢さんに比べたら、俺なんて、家族に恵まれてるよなぁー。ほんと、甘ちゃんだよ。

「井沢さんは、今でも、お母さんに会いたいですか?」

 もし、俺が、井沢さんの立場だったら、母親に対して、どう思うのだろう?

「モデルを始めたきっかけも、母に会うためだったのよね。私が有名になれば、どこかで気付いて、連絡くれるかもって思ってて。でも、それは、実現しなかったわ。もう、母には一生会えないんじゃないのかなって、諦めちゃったかな?」

 本当にそれでいいの? 井沢さんは?

「お母さんのこと、今でも恨んでいますか?」

 やっぱ、許せないのかな? 一度壊れた家族の絆を取り戻すのって、もう無理なのかな?

「そうーねぇー、私と父を捨てた母を、恨んでいないって言ったら、大ウソになるかな? でも、私が幼少の頃までの母の優しさも知ってるから、私の中では常にジレンマだったわ。母への恨みと恋しさ、これが常に同居した状態だったの。だから余計に苦しかった、本当に。今でもたまに、母の夢を見ることもあるわ。でもね、そういうのをいつまでも引きずっていたって、仕方ないってようやく気付いたの。母は母の人生、私は私の人生。母は、私の中で小学校の時に死んだの。それでいいじゃないって、自分に言い聞かせるようになったわ。自分の人生は、自分で切り開くしかないわけだし。いつの間にか、そうゆう風に物事すべて割り切れるような、そんな冷たい大人になっちゃたんだよね。それが良いのか悪いのか? それは別としてね。でも、そう思えるようになるまでに、時間は、随分と掛っちゃったけどね」

 井沢さん、俺が思ってたような人で、なんだか、ホッとしたような?

「井沢さんって、すっごく強い人なんですね?」

 そういう精神的な強さ、見習わなきゃ。

 きっと、大人になることって、精神的に強くなること、なんだろうね?

「そうかなぁー? 私、寂しさを紛らわせるために、色んな男と付き合ったわ。中には、この体だけが目的な男もいたわね。だから私、随分と身も心も汚れちゃったわね。真結花ちゃんは、こんな大人になっちゃダメよ? あなたに、こんな事を話するのって、私、どうかしてるわね。ホント、酔ってるわね。ごめんなさい」

「いえ、いいんです。話、色々聞けてよかったです」

 やっぱ、人は苦労を乗り越えた分、強く、大きくなれるだろうなぁー。パパもそうだったけど、井沢さんも、そんな人。そう思った。

「でも、あなたって、不思議な魅力があるコよねぇー、私、益々真結花ちゃんのこと、気に入っちゃったわ」

「えっ? それってどういう意味です?」

「教えて欲しい?」

「はい」

 そりゃ、気になりますよ。

「教えて、あげないよーだっ!」

 なに、ソレ? 子供みたい。

「えぇー、井沢さんの、ケチっ!」

「ケチで結構よ。さっ、もう寝ましょ、真結花ちゃん。大人の愚痴に付き合ってくれて、ほんと、ありがとう。なんだか、スッキリしたわ」

 そう言うと、ようやく体を離してくれた。

「いえ、こちらこそ、今日は色々とありがとうございました。おやすみなさい、井沢さん」

「おやすみ、真結花ちゃん」

 井沢さんのこと、人として、好意を持った様子の真結花でしたが…


 次回につづく


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