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#44:緊急事態発生!

 ボクはさっそく、木下さんから貰った返事の書かれた封筒の封を開けてみた。

 “とりあえず、お友達からヨロシク! By真結花”ですか? まっ、一歩前進ってことで、これはこれで、良しとするかな?

 それにしてもさぁー、さっきの木下さんの態度、気になるよなぁー。いったい、どうしたんだろう? 不機嫌そうな顔してたと思ったら、別れ際に突然、ニコって笑ってたし。それって、なんなの? ボク、何か気に障るような事でも言ったのかなぁ? うぅーん、よくわかんないなぁー、女心ってさぁ。うちは男所帯だし、女心なんてものは、ホント、さっぱりだ。

 よし、悩むより、直接本人に電話で聞いた方が早いや。




「くしゅん!」

 この雨で結構気温下がってて、少し肌寒いような? やっぱ、女性だと冷え性なのかな? でも、ホント良かったぁー。雨脚、ずいぶん弱くなったみたいだし。さっきまでの雨脚だと、家に辿り着くまでに足元、マジでずぶ濡れになるところだったよ。

 あっ、電話。そう思って慌てて携帯をカバンから取り出したとたん、右横から物凄い雨水に襲われた。びっくりして、手にしてた携帯を地面に落としてしまった。そう、今さっき横を走り去ったトラックが、大きな水溜りを跳ねたんだ!

 わっちゃー、マジでついてない。超サイアクの緊急事態発生! 全身、ずぶ濡れになってしまった。それにしても、さっ、寒い。寒過ぎる。もぉー、めっちゃ寒い! にしても、これって、ひど過ぎませんか? 神様。どうしよう? そう思ってたら、黒塗りのタクシーが横を通り過ぎ、一旦前で止まったと思ったら、こっちに向かってバックしてきた。

 タクシーが俺の横に止まると、リアウインドーが下りて、

「あなた、大丈夫? ずぶ濡れみたいだけど? あれっ? もしかして、麻那美ちゃんなの?」

「へっ?」

「いいから、早くお乗りなさい。そのままだと、風邪を引いてしまうわ」

 スーツ姿がすっごく決まってる、カッコイイ女性から声を掛けられた。捨てる神もいれば、拾う神もいるってことかな?

 

 このまま、ずぶ濡れのまま家に帰ろうとしたら、この人の言ってるように、体が冷えて絶対に風邪引くよなぁ。水溜りに落ちた携帯を見つめながらそう思った。でも、どうしょう? 男の子ならともかく、女の子が見ず知らずの人と一緒に車に乗るっていうのは、それなりに、高いリスクを犯さなきゃいけないわけだけど… 例え、相手が女性だとしてもね、今の世の中、物騒なのは間違いない。

 でも、この女性… 20代後半ぐらいのデキルOLって感じ? 身元は大丈夫そうかな? それに、タクシーだし、変な所に連れて行かれるって心配もないかな? まっ、ここは信用するか。このままだと、マジで凍えて風邪ひきそうだし、今は、背に腹はかえられないや。


「どうしたの? 乗らないの?」

「乗ります」

 雨の中、ずぶ濡れになった携帯を拾い上げると、タクシーの後部座席に乗り込んだ。


「とにかく、これで拭いて」

 女性からハンカチを手渡されたので、とりあえず顔とか手とか、携帯を拭いた。制服は、今更どうしようもない。もっとどうしょうもないのは、この携帯。水没しちゃったから、もうダメっぽい。

「ありがとうございます。助けていただいて」

「ったく、今まで行方を晦まして、どこで、どうしてたの? 麻那美ちゃん。電話もメールも不通だし、あれっきり、連絡取れなくなっちゃって」

 あっ、なんか人違いしてる、この人。でも、清楚な感じで、キレイな人だなぁー。色白で黒髪のセミロングのストレートパーマがビシって決まってて、背も高いし、なんだかファッションモデルのような雰囲気?

「あのぅー、人違いされていると思うんですけど? わたしのこと、その麻那美さんって方と勘違いされているんじゃないですか?」

「えっ? あなた、麻那美ちゃんじゃないの?」

 女性は目を大きく見開き、俺に驚いた表情を向けてきた。

「はい。わたしは、木下真結花っていいます」

「ほんとにぃ? 私から逃げる為に、ウソ、言ってないでしょうね?」

 少し、怖そうな顔で睨まれた。

「ウソなんて、言ってません」

「じゃあ、何か、証拠でもある?」

 証拠? そっか、カバンの中から生徒手帳を取り出し、学生証を見せた。

「あらっ、ほんと。でも、あなた、麻那美ちゃんにそっくり。ほんと、よく似てるわねぇー。顔も声も。あなた、双子の姉妹でもいるの?」

 頭のてっぺんから爪先まで、品定めでもするかのようにじぃーっと見られた。

「いえ、いませんけど?」

 すると、ガックリって感じで、

「そうなの? もぉー、せっかく麻那美ちゃんが見つかって、ラッキぃーって思ってたのに。それにしても、困ったわぁー。社長に、いったい何て言えばいいんだろ私。はぁーっ」

「くしゅん!」

「寒いの?」

「ええ、少し…」

 って、少しどころじゃないけどさ。

「じゃあ、これを羽織って」

 女性は、スーツの上着を脱いで背中にかけてくれた。

「スーツ、濡れちゃいますよ?」

「いいから、気にしないで」

 でも、ほんと、麻那美ちゃんにそっくりだわ、この子。というより、本人に間違いないと思うんだけど… 他人になりすますフリして、演技してるわけ? この子は? 何かワケ有りでウソついてるとか? でも、学生証の名前は違ってたわね? そもそも、篠崎麻那美って名前も、本名かどうか? 怪しかったわけだし。

 何か、確かめる方法は…




 女性のマンションに着くと、シャワーを貸してもらい、着替えまで用意してくれた。たぶん、その麻那美って子の下着だったり、部屋着だったりするんだろうけど、サイズがみごとなまでにピッタリだった。


「シャワーと着替え、貸していただいて、ありがとうございました。おかげで、体、温まりました」

「そう、それは良かったわ。髪、下ろしたのね?」

「ええ、髪も濡れちゃったんで、ドライヤーも使わせもらいました」

「そう。でもほんと、こうやって髪を下ろして、あなたに麻那美ちゃんの着てた服を着せると、麻那美ちゃんにしか見えないわ。いっそ、あなたが、麻那美ちゃんになってみない?」

 さぁ、どう出てくるのかしら?


「それって、どうゆう意味なんですか?」


 ふぅーん、そう出できたか。どーしても、本人否定するってわけね? 

「そうそう、申し遅れたわね。私、こうゆうものなの」


 名刺を差し出された。“プロダクション蝶恋花 タレント育成マネージャー 井沢利枝”?

 

「もしかして… その… 麻那美さんって方、タレントさんなんですか?」


 それにしても、顔色ひとつ変えないわね、この子。

「そう。でも、正確には、まだタレントの卵なの。つい最近まで、アルバイトで読者モデルとか数回やってもらったんだけど、社長の目に止まって、これから本格的に売って行こうとしてたところなの。ところが、この二カ月程、音信不通なのよ」

「へぇー、そうなんですか? もしよかったら、麻那美さんの写真、見せてもらっていいですか?」

 そう言うと、井沢さんは、カバンから取り出したタレント売り込み用のプロフィール写真を何枚か見せてくれた。


「これが、そうよ。どう? あなたに、似てるでしょ?」

 さぁ、どうかしら? 何か、反応、してくれればいいんだけど…


「へぇー、確かにそうですね。でも、化粧とかしてるから、ちょっと違うように見えますけど?」


 写真見せても、ちっとも動揺しないわね? もし、演技だとしら、大したものだわ。

 あくまでも、白を切り続けるってわけね? いいわ、乗ってあげる。どこでボロが出るのか? 楽しみだわ。


「あなたも、化粧をすれば、この写真の麻那美ちゃんとソックリに、もっとカワイクなると思うわよ? 化粧、やってみる?」

「いえ、結構です」

 化粧かぁー、そのうち、イヤでも覚えなきゃいけないのかな?

「そう、それは残念ね」

 ほんと、残念だわ。顔をもっと間近で見れば、本人に間違いないっていう更なる裏付け、取れるって思ったんだけど…


「ところで、その麻那美さんって方、家出か何かなんですか?」


 ほんと、いい度胸してるわね、あなた。それが演技なら、きっと、大物になれるわよ、あなたなら。

「それが、よくわからないの。アルバイトだったし、身元、ちゃんと押えてなかったのよね。本人が、親バレしたくないって言って、どうしても教えてくれなくって。麻那美って名前も、偽名かもしれないわ。もしかしたら、今頃、悪い男にでも捕まったんじゃなかって心配してるの。夏頃にはMIU-U18のオーディション受けるから、あれだけ、恋愛は禁止って言っておいたはずなのに…」


「その、ミユ アンダーエイティーンって、どんなグループなんですか?」

 そういや、学校で皆の話題に出てくる人気アイドルグループらしいけど、詳しくは良く知らないんだよね。


「えっ? あなた、知らないの?」


「あのぉー、恥ずかしながら、そうゆうのには、殆ど興味が無くって」

 興味が無いっていうより、以前の記憶もなければ、そうゆうアイドルとかに熱狂するって感覚がよくわからない。

「そう、今時、珍しい子ねぇー、あなた。MIU-U18っていうのは、Minna no Idol Unit-Under Eighteenの略で、つまり、国民的アイドルグループの18歳未満の代表っていうことなの。その上には、21歳未満のU21と24歳未満のU24、24歳以上のSPっていう姉妹グループがあるわ。そう、例えるなら、サッカー日本代表のアイドル版みたいなものね。上のU21やU24に上がるためには、年齢とファンの人気投票で決まるの。正にガチンコの生存競争ね。ホント、面白い企画ユニットを考えたと思うわ。今や、人気アイドルユニットにまで急成長したわけだし」


 今時の女の子が、そうゆうのに興味湧かないっていうの、感覚的にヘンなのかな?

「へぇー、そうなんですか。ユニット内の競争率、結構高そうですね?」


 それにしても中々、ボロ出ないわね? 動揺も見せないし。これはちょっと、手ごわそうね?

「そうよ。ところで、あなた、ちょっとこっちに来てくれるかしら?」

「はい?」


 井沢さんに手を引かれて、寝室のベッドの上に座らされた。そして、両肩に両手を置かれ、じぃーと、顔を見つめられる。

「どうしたんですか? 井沢さん」

 いったい、何だろう? 

「よーく、見せて欲しいの。あなたの顔」

「そんなに、麻那美さんに似てるんですか?」

「ええ、とっても。どう見ても、他人とは思えないわ」

「そう言われても、困るんですけど…」

 そう言った次の瞬間、両肩を押され、そのままベッドに押し倒された。その直後、井沢さんは馬乗りの体勢で俺の上に乗っ掛ってきた。


 ええ、そりゃ、もうーびっくり! 今、自分の身に起こっていることが、とても信じられない。まさかこの人、女性なのに俺を襲おうって気じゃ… もし、本当にそうなら、相手が女性と言えど、とてもじゃないけど抵抗するのは厳しい状況。余りにも体格差があり過ぎる。

 向こうの体形はモデル並みで、170cmはオーバーしてるはず。おまけに、こんな風に体重掛けて、お腹の上に馬乗りされてちゃあ、全然、体を動かせない。


「井沢さん! こんなことして、いったい、何のつもりなんですか!」

 この状況、マジでヤバそう! ってか、もう既にめっちゃヤバいって。

「黙って大人しくしなさい! じゃないと、打つわよ!」

 右手を振り上げられて、睨みつけられた。


 あぁ、このまま、この女性に乱暴されてしまうのだろうか? 今、ここで悲鳴を上げて助けを呼んだところで、結果は同じなんだろうな? だったら、ヘタに抵抗しない方が体に余計な傷、付けないで済むのかも。両親から貰った大切な体だし、傷付けたくはないよ。でも… なんで、こうも冷静なんだろう?

 すると、今度は井沢さんの手が首元に伸びてきた。

 えっ? もしかして、首を絞める気なの? 殺されちゃうわけ、俺? そんなぁー。

 さっきまでの冷静さは、いったいなんだったのだろう? 急速に心臓の鼓動が高まって行くのが、手に取るようにわかる。知らない女性の家にのこのこと着いてきた、自分自身を呪った。


「ちょ、ちょっと、何を?」

 ブラウスの胸元のボタンに手が掛った。

「いいから、黙りなさい!」


 さっきは、マジで一瞬、ヒヤっとしたけど、殺されるってわけじゃない。命があるだけ、マシか。

 えぇーい、もう、なるようになれっ! 覚悟を決めて、強く目を瞑った。

 すると、途中でボタンを外す手が止まった。

 どうしたのかと薄らと目を開けてみると、今度は顎を右手で軽く掴まれ、持ち上げられた。


「ほんと、カワイイ顔してるわねぇー、あなた。目はパッチリしてるし、お肌もスベスベだし、髪もツヤツヤでキレイだし、若いって羨ましいなぁー。もう、ほんと、食べちゃいたいくらいだわっ!」


 やっぱ、メスオオカミさんに食べられちゃうんだ? 俺。ごめんなさい、パパ、ママ。短い人生でした。食べられてしまう娘を、どうかお許し下さい。アーメン。などと、冗談言ってる場合じゃない!


「食べちゃうって、その… やっぱり、アレされちゃうってこと、なんですか?」

 井沢さん、ホンキじゃないよね?

「あらっ、ホントに食べてもいいのかしら? あなたがそう望むなら、そうするわよ?」

「えっ?」

「うふっ、ホント、うぶでカワイイわねぇー、あなた。冗談に決まってるじゃない。このまま、あなたがこの業界から姿を消してしまうなんて、もったいないわ。磨けば、今よりもっと光輝くはずよ! ねぇ、麻那美ちゃん? そう、あなたは間違いなく麻那美ちゃんよ!」

「井沢さん! わたしは、その麻那美さんという方じゃありません。変な言いがかりは、止めて下さい!」

「言いがかり? それはどうかしら?」

「それって、どういう意味です?」

「いつまで、そうやってシラを切るつもりなのかしら?」

「いったい、何の事を言ってるんですか?」

「もうぉー、じゃあ、こうなったら、実力行使しかないようだわね?」

 井沢さんの目はニタっと笑い、目の前で両手をわきわきと動かし始めた。

 

「なっ、何をするつもりなんですか?」

 もしかして、今度ばかりはホンキ?

 やっぱ、とても口では言えないようなエッチなこと、されちゃうわけ?

「ふふっーん、さぁ、何をするんでしょうね? そんなの、この手を見ればわかるでしょ? 覚悟しなさい!」


 あぁ、ついに、井沢さんの両手が揉むような仕草で、俺の胸の方に真っすぐ伸びてきた!

 もう、これまでかっ! 今度こそゴメン、パパ、ママ。

 そう思った瞬間、その両手は左右に分かれ、俺の両腋へと移動してきた。


「くっ、あはははっ、やっ、やめてぇー、くっ、苦しいぃ~」

 ぬぉー、このままだと、マジで悶え死んじゃうよ!

「やめて欲しい? やめて欲しければ、白状しなさい!」

 井沢さんの、両腋への攻撃は容赦なく続く。

「あはははっ、おっ、お願い。もっ、もう、やめてぇー、ほんと、苦しいぃ~。しっ、死んじゃう!」

「どう? 白状する気になった?」

「はぁー、はぁー、はぁー、だから、違うんですって」


 あぁ、もう、マジで悶え死ぬかと思った。しっかし、くすぐり攻撃とはマイッタ。

 てっきり、エッチなことされて、お嫁に行けない身体にされちゃうんだとばっかり。って、誰の嫁だよ? でも、ホントよかったぁー、食べられなくって。


「あなたが、麻那美ちゃんっていう証拠があるんだけど?」

「どこに、そんなものがあるっていうんですかっ!」

「ここよ!」

 はだけた胸の、鎖骨の辺りを人指し指でさぞられた。

「ここって… なんなんですか?」

「いいから、こっちに来なさい!」


 ベッドから降ろされると、今度は、三面鏡の前に座らされた。

「ほら、あなたのここに、ほくろがあるでしょ?」

 はだけたままの胸元に、指を指された。

「確かに、ありますけど… 」

「そのままでいてよ?」

 井沢さんはそう言うと、例の麻那美さんの写真を持ってきて、俺の顔の横に並べて鏡に映した。

「ほら、この写真の胸元に、あなたと同じほくろが写ってるでしょ!」

「本当に、それ、ほくろなんですか? 写真、ハッキリしてないし、写真の染みかなにかじゃなんですか?」

「ここまで言っても認めないんだ? じゃあ、これはどうかしら?」


 井沢さんは、ポケットから俺の生徒手帳を取り出すと、あるページを目の前に見せた。そこには、知らない女の子と俺が一緒に写ったプリクラが数枚貼ってあった。このプリクラ、生徒手帳の中にいっぱい貼ってあったうちの数枚なんだろうけど、そんなの、いちいち気にはしてなかった。


「悪いけど、あなたがシャワーを浴びてる間、荷物を調べさせてもらったわ。このプリクラが、あなたが麻那美ちゃんっていう決定的な証拠よ!」

「そんなプリクラで、どうして、そんなことが言えるんですか?」

「あなたと一緒に写ってる子、うちの事務所の子なのよ!」

「えっ? それって、ホントなんですか?」


 思わぬ形で、過去の事実を付きつけられた真結花ですが…


 次回につづく。


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