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#43:封印は解かれた?

 いったい、どうゆうつもりなんだろう? 友田くん。帰り支度して図書室に向かおうと教室を出たらさぁ、いきなり、廊下で“お前のこと好きだったんだ!”って言ってきてさぁ。その後、“喜多村と上手くやれよ!”だって。それだけ、言っときたかったって。

 なにソレ? その一方的に押し付けるような態度。どう答えたらいいのかさっぱりわかんなくって、無言で突っ立ったまま、一瞬、頭ん中が真っ白になった。

 あ゛ぁーっ、喜多村くんへの返事の件、気持ちの整理、ようやくできかけてたところなのにぃ… そんなヘンな事、いきなり友田くんが言ってくるなんて、思ってもいなかった。てっきり、普通の、サッカー通の仲が良かった友達とばかり思ってたのに… 以前の記憶が無いっていうのもあるけど、そんな風に想われてたなんて、全然知らなかったし、気付きもしなかった。今、激しく動揺してんのが、自分でも分かる。心臓、バクバク言ってるし、なんだか熱でもあるように顔も熱い気がする。

 友田くんのやったこと、それって、後だしジャンケンと同じで、卑怯だよ。こっちは、喜多村くんの事だけでも色々悩みまくって頭痛かったっていうのにさ、ここに来て、友田くんにまで気を使わなきゃいけないなんて… もしかしたら、自分に振り向いてくれるかもしれないっていう、淡い期待を込めた言葉だったのだろうか? 俺に、いったい、どうしろっていうわけ? どちらか、ハッキリ選べってこと? どちらかを選んだら、どちらかが傷付くわけで、そうなった場合、どちらか一方は、もう普通の友達には戻れないんだろうね? 困ったなぁー。よりによって、何でこんなタイミングで友田くんは“お前のこと好きだったんだ!”なんて言ってきたのだろう? あぁ、もうぉー、よくわかんないや! マジで頭ん中ひっちゃかめっちゃかな状態。

 うぅーん、それにしてもさぁ、なぁーんか、誰も傷つかずに八方丸く収まるような、そんな上手い方法ってないのかなぁー? 幸い、考える時間だけは、まだたっぷりとあるんだよねぇー。こーやって、喜多村くんの室内練習終わるまで、図書室で待ってる間はね。


 暫く、ぼぉーっと頬杖付きながら、窓に激しく打ち付ける雨を眺めてたんだけど、なぁーんも、出てこない。どうしょっか? このまま、すっぽかして逃げちゃおっか? んなこと、できるわけないか? はぁーっ。

 出るのは、ホント、溜息だけだよ。


「どうしたんだい? 君、悩みごとかい?」


 背後から軽く左肩を触られ、振り向くと、なにやら知的で優等生っぽい、長髪の中性的な美少年がほほ笑みながら立っていた。身長はさほど高くはないけど、見た目的には、正直、喜多村くんよりイケてるとは思う。まっ、タイプが全然違うし、喜多村くんを否定する気は全然ないんだけど、この人は、男性としては、美し過ぎるっていうか、女性みたいにキレイ。 一瞬、見惚れてしまった。


「えっ?」

「いや、失礼。さっきから、君のことが気になってね。なんだか様子がヘンだったから、お節介を承知でつい…」

「はぁ、それは、ご親切に」

 誰なんだろ? この人は? 図書室に入った時にはこんな目立つ人、居なかったよ? 考え事してたから気が付かなかっただけ?

「横、座ってもいいかい?」

「はぁ、まぁ、ここは図書室なんで、どうぞ、ご自由に。何処に座ろうと、誰の許可も要りませんけど?」

 そう言うと、その人は左隣に座った。

「ふっ、面白い人だね、君は」

そう言って髪をかき上げる仕草に一瞬、ドキっとした。かすかにシャンプーのいい匂い。

「へっ?」

「珍しいなぁーって思ってさ。僕のこと、君は知らないみたいだし。申し遅れたけど、僕はこうゆうものさ」

 名刺を差し出された。城鳴学園高等学校 生徒会長 西條ひかる? メルアドと携帯番号まで書いてある。

「あっ、わたしは…」

「木下真結花くん、だろ?」

「なんで、わたしのこと、知ってるんですか?」

「ふふっ、それは、内緒って言ったら?」

「どーして、なんです?」

「君は確か… U-17サッカー女子代表の候補選手だったんだよね?」

「えっ? どーして、そんなことまで知ってるんです?」

「それくらいの情報、生徒会の方で把握できないわけじゃなんでね」

「その生徒会長さんがわざわざ、わたしに何の用なんでしょうか?」

「いや、困ってる生徒達をみると、放っておけない性分でねぇー、僕は。何か悩み事、ありそうな感じだったものだから、つい、いつもの癖で。僕でよかったら相談に乗ってあげるよ?」

「はぁ、でも… プライベートな事なので」

「そっかぁー、いいなぁ~青春してるねぇー、君は。顔に書いてあるよ、恋愛で悩んでますってさぁ」

「へっ? どーして、分かったんです?」

「それくらいこと、見抜けないようじゃあ、生徒会長なんて、務まらないからねぇー」

「そうゆうものですか?」

「あぁ、リーダーには必要な要素さ。よかったら手相、見てあげよっか?」

「手相なんて、見れるんですか?」

 そう言うと同時に、生徒会長は無言で俺の左手を取り、そして自分の左手の上に乗せた。すると、直ぐに生徒会長の手の暖かさがじんわりと伝わってくる。生徒会長は、一呼吸した後、右手の人指し指で俺の左手の手相をなぞり始めた。なんだか、くすぐったい。

 よく知らない異性に触られているはずなのに、なんだか、違和感がないっていうか、抵抗みたいなものを感じない。どーしてだろ? なんだか不思議な感覚。


「ふぅーん、なるほどねぇー。ふんふん」


 うわっ、生徒会長の顔がすっごく近い。それにしても、肌がキレイだなぁー。ほんと、なんか女性みたい。それにしても、生徒会長さん? さっきから、ちょっとくっつき過ぎなんじゃあ? なんだか、とっても恥ずかしいんですけど? 顔、赤くなってないかなぁ。このままの体勢っていうのも、ちょっと。まだなのかぁ? 


「どーなんです?」

 もう、3分以上は経ってるんじゃないのかなぁ。

「あぁ、もうちょっと、待ってくれるかなぁ?」

 そう言うと、今度はぎゅっと手に力を入れられた。ホントに、手相、見てるのかなぁ?


 しっかし、さっきから、どーも気になって仕方ないんだけど、周りからの視線が非常に痛いんですけど? 特に、読書に興じる数人の女子グループからの妬みにも似た視線? そうゆうのをビンビン感じるんだよね。もしかして、この生徒会長って女子に人気のある人なのでは? これだけの容姿してるし、それは何となく頷ける。このままだと、後日、あの女子達から呼び出し食らったりしてさぁ、“あんた生意気よっ!” なーんて言われて、イジメられたりして? そうゆうのって、漫画やドラマとかでよくある展開だよね?

 それにしても、生徒会長にずぅーっと手を握られたままっていうこの状態は、いくらなんでも不味いよなぁ。もうそろそろ、いいでしょ?


「もう、いいですか?」

「あぁ?」

 やっと、手を離してくれた。

「どうでした?」

 ひじょーに、気になりマス。

「うぅーん、君は、きっと将来、努力次第で大成すると思うよ?」

 それって、ボケたの?

「あのぉー、そっち方面の話じゃなくって…」

「あぁ、そうだったね。恋愛面では、そうだねぇー、今まで、何かの原因で恋愛運が封印されてたみたいだね。それが、何かのキッカケでようやく今、解放に向かってるって感じかな。たぶん、今まで封印されてた分、その反動で、これからは恋多き人生になるじゃないのかなぁー。そう、君は近い将来、モテモテになるって暗示が出てるね」

 それって、マジ? それはそれで、困るんですけど…

「えっ? そうなんですか? じゃあ、わたしは… これからどう対処したらいいんですか?」

 ヘンに注目されるのっていうのも、色々面倒だし。

「そうだねぇー、君にアドバイスするとしたら、石橋を叩いて渡るってことかな? 要は、恋愛に関して結論を急ぐ余り、焦って判断を間違えないようにってこと。 何事も、一時の感情に流されず、よく見極めるってことが大事だと思うけどね」

「はぁ、なんとなく分かったような、分からないような?」

 まっ、所詮占いだし、真に受けるのもどうかと。女の子は好きだよねぇー、占い。って俺、女じゃん。

「実を言うとさぁ、君はもう、僕の心を奪いかけているんだよ。そう、まるで、君に魔法でも掛けられたようにさ。つまり… 僕が言った予言通りになってるってことさ。君って、罪な人だ」

 ぬぬっ、これって、もしかして… 口説いてるつもりでは?

「それって、どうゆう意味なんです? 生徒会長さん」

 とぼけてみた。

「どういう意味って、君、これだけ言って分からないのかい? 君は? 鈍感さんだねぇー。まっ、そういうところが、またいいんだけどね」

 やっぱり、口説いてたんだ? 

「えっ? それって、まさか?」

 占いは、もしかして口実?

「そう、君の事が …ってことだよ」

 生徒会長は、俺の耳元に手をあてがい、そう小さく囁いた。


 ちょっ、ちょっと、待った! 今、今何て言いました? すっ、好きって? えぇー? それって、聞き間違いじゃないよね? 一瞬、自分の耳を疑った。

 出会ったばかりで、いきなり告白なんですか? そういえば、その言葉、喜多村くん本人からは、まだ一度も聞いてないような?


「またまた、御冗談を。わたしを、からかってるんつもりなんですか? 生徒会長さん。こんな風に、女の子に何人も声掛けてるんじゃないんですか?」

 だってさぁ、めっちゃ女子にモテそうなんだもん。

「そんな風に、見えるのかい?」

 左手にそっと右手を重ねられ、じぃーと、見つめ返されてしまった。その余りにも真っすぐな、純粋で綺麗な瞳に、思わず吸い込まれてしまいそうになった。

 どうしたんだろう? 俺。急に恥ずかしさが襲ってきた。思わず、視線を外し、生徒会長と触れ合っていた左手をひっこめた。

「困ります。こんなところで」


 このままの状況、はっきり言って非常に不味い展開。あの女子グループ、相当殺気立っているよ。一見、本を静かに読んでいるように見えるけど、心なしか本を握ってる手に力が入っているっていうか、振るえているような?


「あぁ、彼女達の、あの熱い視線のことだね? まぁ、いつものことだから、気にしなくてもいいよ?」

 やっぱ、女子に人気あるんだ?

「生徒会長さんが気にしなくても、わたしは気にするんです」

「君ってウブで、恥ずかしがり屋さんなんだね? そういうところ、カワイイなぁー」

「からかわないで下さい!」

「僕が、君をからかっている? 僕は、君を褒めているんだよ?」

「もぉー、本当に、怒りますよ?」

 少し、睨んでみた。

「うぅーん、怒った顔も、カワイイねぇー」

 ニコニコ顔で返されてしまった。この人には、逆効果だったわけ?

 それにしても… なんで、こんなにも笑顔が爽やかなんだろう? 人を引き付けるような、そんな魅力があるっていうか。

「いい加減に… あっ?」

「どうか、したのかい?」


 やっばぁー、よりによって、こんなタイミングで…


「木下さん、お待たせ。あれっ? 生徒会長さんが、なんでここに?」

 うぎゃー、まずった。どっ、どうしよう?

「えっと… 」

 俺の言葉を遮るように生徒会長が、

「君は、確か… 喜多村くんと言ったかな?」

「はぁ、確かに、そうですけど… 生徒会長さんが、なんで僕の名を?」

「有名人だからねぇー、君は。生徒会でも、サッカー部の期待の新人って噂で持ちきりだよ? 今年は、昨年よりいい成績残してくれるんじゃないかって」

「そんなぁ? 僕なんて、大したことないですよ」

 なんだか照れてる喜多村くん。

「どうやら僕は、お邪魔虫のようだね? さてと、退散しますか。それじゃあ、木下くん、さっきの件、僕のキモチは伝えておいたからね。後は君の方で、よーく考えておいてくれたまえ。また悩みごとがあれば、いつでも相談に乗るし、返事は、いつでもいいからね」

 生徒会長はそう言うと、ウインクしてきた。いったい、何を考えてるんだろ? この人は?

「はぁ、まぁ…」

 気の無い返事を返すと、

「それから、喜多村くん。ライバルは多いよ? 君も、しっかりしないとね」

 ぽんっと軽く喜多村くんの肩を叩き、じゃあっと右手を上げ、生徒会長は立ち去った。

 その言葉の真意が分からず、呆然とした様子で突っ立ったままの喜多村くん。

「木下さん、さっきまで生徒会長と、何の話してたの?」

 まっ、聞いてくるよね? ふつーは。気にならないっていう方がどうかしてるし。

「えっと、なんかぁー、今年の文化祭のイベント? わたしに手伝って欲しいって」

「ふぅーん。そうなんだ? でも、なんで木下さんなの?」

 うっ、なんか、疑ってるっぽいなぁー。ウソってバレた?

「わたしだけじゃないよ? 他の生徒にも色々声掛けてるって言ってたし」

「なぁーんだ。そっかぁー」

 一応、納得した様子の喜多村くん。なんか、騙しているような気がして、罪悪感があるんだけど。まっ、嘘も方便っていうしね。

 それより、

「あっ、そうそう。返事の件なんだけど…」

「うん」

 待ってました、と言わんばかりの満面の笑顔。

「わたしが、いいって言うまで、ちょっとだけ、後ろ向いててくれる?」

「いったい、なに?」

 訳が分からず、今度はきょとんとした表情を見せる喜多村くん。

「いいから、オネガイ」

 両手を合わせて頼み込むと、

「わかったよ」

 しぶしぶって感じで後ろを向いてくれた。


 カバンの中からペンとレポート用紙を一枚取り出し、紙を封筒のように折り曲げる。そして、封筒の内側に返事の言葉を手早く書いた。そう、封筒のフタを開けると、ちょうど上手いぐあいにメッセージが読めるようになってる。自分でも、なんでこんな折り方知ってるのか? 不思議だ。よし、これで準備完了!


「もう、いいよ、喜多村くん」

「じゃあ、返事、聞かせてくれる?」

「ハイ、これが返事ね」

 そう言って、喜多村くんに封筒を手渡した。

「開けていい?」

「ダメっ! 家に帰るまで、ゼッタイに開けないで欲しいの」

「ここまで来て、また待たされるのかぁ」

 なんだか、しょんぼりした様子の喜多村くん。

「じゃあ、私、先に帰るから、その後ならいつでもいいよ」

「えっ? 一緒に帰らないの?」

「ごめん、わたし、用事があるから」

 そう言って立ち上がると、例の女子グループ達からまたガン見された。

 いったい、何なんだよ? この子達は。生徒会長さんは、もうここに居ないのにさぁ、何か文句あんの? 文句あるなら、口で言えばいいじゃん。ちょっと、ムカってきた。

「ちょっ、ちょっと、待ってよ、木下さん」

「……」

 少しムカついてたので、喜多村くんの言葉を無視したまま、図書室から立ち去ろうとすると、右手首を掴まれた。

 喜多村くん、スッごく不安そうな顔して、こっちをじーっと見てる。なんか、ヘンな誤解された?

 掴まれてた手をゆっくりと振りほどき、

「じゃあ、さようなら、喜多村くん。また来週、学校で」

 ニコっと笑顔で返しておいた。

「あぁ? さよなら、木下さん。外、雨が激しいから気を付けて帰って」

 なんだか、複雑な心境って感じ? そんな表情の喜多村くん。

「うん、ありがとう。じゃあね」




「ぷっ、あははっ」

 なに? さっきの喜多村くんの表情。キツネにでも抓まれたっていうような、不思議な顔してたよ。

 あの手紙読んで今頃、どんな顔してんだろ?

 しっかし、この雨、酷いよねぇー。足元がずぶ濡れなりそうで、イヤだなぁー。

 あっ、俺って、すっかり女子モードになってるじゃん。

友田くん、生徒会長さんと、立て続けの突然の愛の告白に、戸惑うばかりの真結花でしたが…


次回につづく。


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