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#40:猜疑心

 あっ、いたいた。

 グラウンドで、ジャージ姿でストレッチしていた鶴見さんを発見。さっそく、

「鶴見さぁーん」

 と叫びながら大きく右手を振ってみた。

 すると鶴見さんは、きょとんとした表情でこっちに顔を向けると、小走りでこっちに向かってきた。

 

 大丈夫かな? 暫く彼女とまともな会話してないから、ちょっと不安。


「ごめんなさい、急に呼び出したりして」

「どうしたの? 木下さん。私に、何か用?」

 よかったぁー。鶴見さん、何だか、全然普通の感じじゃん。

「うん、ちょっとお願いしたいことがあって」

「お願いって、何?」

「実は… 女子陸上部の練習に、飛び入り参加させて欲しいんだけど… 無理かなぁ?」

「それって、女子陸上部に入部したいってこと?」

「入部ってわけじゃなくて、陸上部のみんなの邪魔にならない程度に、練習に参加させて欲しいんだけど…」

「どうゆう事情かしら?」

 鶴見さんは腕を組み、表情が少し、堅くなったように見えた。

「えっと、基礎体力を付けたくて、走り込みしたいんだけど、陸上部の許可も無しに、勝手にグラウンドのトラックを使うわけにはいかないと思って」

「そう。でも、なんでまた、急に基礎体力を付けようなんて思ったわけ? あなた、帰宅部じゃなかったの?」

 あぁ、もうぉー。鶴見さんにいちいち説明するの、めんどくさいなぁー。そう思ってたら、

「あっ、園田センパイ、こんにちは」

 鶴見さんのその声に振り向くと、背が高くてスラッとした体形の、ボーイッシュなショートカット頭で、気の強そうな感じの女の子が、こっちに向かってきた。

 そう、どことなく、タイプ的には里子ちゃんに似てるけど、少し、怖そうな感じ。

「こんにちは、鶴見さん。この子は?」

 鶴見さんがこっちに目線を送って来たので、慌てて、

「あっ、初めまして、園田センパイ。木下といいます」

 そう言って頭を下げると、

「こんにちは。鶴見さんのお友達?」

 鶴見さんの表情を窺うと、目線で訴えて来たので、

「ハイ、そうです。鶴見さんとは、クラスメイトなんです」

「ふぅーん、そう」

 園田センパイは、俺の頭のてっぺんからつま先まで、視線を送るようにしてそう言った。

「ところで、鶴見さん? 練習サボって、こんな所でお友達とご歓談?」

「いえ、そういうわけじゃなくて、彼女から相談されてて」

「相談?」

「そうなんです、園田センパイ。鶴見さんが悪いわけじゃなくて、私が練習の邪魔をしちゃったの。ごめんなさい」

「あなたが、謝る必要はないわ。ねぇ? 鶴見さん?」

「あっ、はい」

 あの気の強そうな鶴見さんも、園田センパイには頭が上がらないようだ。まっ、上級生だもんね。

「あのぉー、園田センパイ。女子陸上部の件で、ご相談させていただきたいことがありまして…」

 できる限り、丁寧に言葉を選んだつもり。

「なに? 木下さん」

「実は… その… 臨時で女子陸上部の練習に参加させていだだけないものかと思いまして…」

「えっ? それって、体験入部したいってこと? 大歓迎よ!」

 さっきまで堅かった園田センパイの表情が、一瞬にして和らいだ。

「いえ、体験入部ってわけじゃなくて、基礎体力つけるまで、暫く女子陸上部の練習に入れてもらえないでしょうか?」

「まっ、理由はどうであれ、来るものは拒まずよ。入部、してくれたら嬉しいんだけどなぁ」

「ご厚意、ありがとうございます。でも、入部は考えていないので、ごめんなさい」

 そう言って、また頭を下げた。

「そう、それは残念ね。でもいいわ、私が面倒見てあげる」

「ありがとうございます」


 さっそく部室でジャージに着替え、意気揚々とグラウンドに出ると、鶴見さんが近付いてきて、

「あなた、気を付けた方がいいわよ?」

「えっ? 何を?」

「園田センパイのことよ」

「園田センパイが、どうしたの?」

「あなたは知らないでしょうけど、園田センパイは、人の好き嫌いがハッキリしてる人なの」

「それって、嫌われると、とんでもない目に遭うってこと?」

「そこまでは、言わないけど… 一年の子で、園田センパイとそりが合わなくて、何人かは直ぐに辞めたの。とにかく、園田センパイの機嫌を損ねないことね」

 そう言うと、鶴見さんは自分の練習メニューに入っていった。

 

 なんだろ? 少し、気になるよなぁ。園田センパイって人の性格。



 結局、園田センパイについては、鶴見さんの言っていた懸念材料は何一つなかった。それどころか、ストレッチの仕方から長距離と短距離のフォームの違いについてまで、えらく親切丁寧に、手取り足取り、指導してもらった。

 別に、入部して本格的に陸上競技やるわけじゃあないんだし、そんなに親切にしてもらうと、逆に、こっちが申し訳ない気分になっちゃって。

 ただ、少し、気になる点といえば、やたらと腕や脚を触られて指導されたこと。それが、なんだか違和感があって、妙な気分だったわけだけど、それは、俺が、そうゆう指導法に慣れてないせいなんだろうと思っていたし、園田センパイを意識し過ぎて、ちょっと堅くなってたっていうのもあるけど…



「園田センパイ、今日はありがとうございました」

 頭を下げて丁寧に挨拶すると、

「ねぇ、木下さん。この後、時間空いてる?」

 えっ? どうしよう? 親切にしてもらってて、断るのも悪いし…

「余り遅くならないのなら…」

「そう。じゃあ、先に着替えて校門前で待っててくれる? 私は後片付けとかあるから」

「ハイ」



 まだかなぁ、園田センパイ。校門前で暫く待っていると、帰宅する学生の中によく見慣れた顔が…

「あれっ? 真結花、どうしたの? こんな所で。もしかして、部活終わるまで私を待っててくれたわけ? じゃないか?」

「そう、鮎美ちゃんを待ってたってわけじゃあないんだぁー」

「だよねぇー。もしかして、喜多村くん?」

「ブブっー、ハズレだよ」

「じゃあ、だれ?」

「陸上部のセンパイ」

「えっ? まさか… 男子陸上部のセンパイ?」

「もぉー、ちがうよぉー。女子陸上部のセンパイだから」

「そうよね。真結花が、浮気するはずないものね?」

「なによ、それっ!」

「でも、なんで、また?」

「放課後、陸上部の練習に、飛び入りで参加させてもらったんだぁー。それで、この後、陸上部のセンパイにちょっとだけ付き合ってって言われて…」

「ふぅーん、そっ。じゃあ、私は先に帰るから…」

「うん。お疲れ、鮎美ちゃん」

 

 そして、暫くすると、また見慣れた顔が…


「木下さん、誰か待ってるの? そっかぁー、喜多村くんだ?」

 鶴見さん、あの時のこと、もう吹っ切れたのかな?

「違うよ、鶴見さん。園田センパイ」

「そうなんだ? あなた、ラッキーねぇー」

 鶴見さんの目が、少し笑っているように見えた。

「どうゆう意味?」

「あなたが、園田センパイに気に入られたってことよ」

 鶴見さん、なんだか、園田センパイが苦手のようだね。それは、見てて分かるけど…

「なぁーんだ、よかったぁー。当分、陸上部にお世話になるつもりだったし」

「まっ、せいぜい嫌われないことね!」

 えっ? それって、いったい…

「嫌われないようにって?」

「まっ、私には、カンケイの無いことだから…」

 そう冷たく言い放って、鶴見さんは立ち去ろうとしたので、

「あっ、待って、鶴見さん」

 と呼び止めたものの、

「ごめん、私、急ぐから。じゃあ、また明日」

 そう言うと、鶴見さんは、そそくさと去ってしまった。

 

 いったい、なんなんだろう? あの鶴見さんの態度。

 すると、ちょうど小走りでこっちに向かってきた園田センパイの姿が見えて…


「ごめん、ごめん。待った?」

 少し、息を切らせながら、なんだか嬉しそうな表情の園田センパイ…

「いえ、それほどでも…」

「木下さん、小腹減ってない?」

 なんだか、すっごく優しそうな表情で、初対面したときの、少し怖そうな印象とは全然違って見えた。

「そこそこ」

 まっ、それほど小腹減ってるってわけでもないんだけど…

「そう。じゃあ、私のお気に入りの喫茶店があるんだけど、そこでいい?」

「ハイ」 

 何の話なのかなぁ? やっぱ、入部の勧誘?


 横目でチラっと園田センパイの様子を窺いながら、並んで歩いてると、ふと、さっきの鶴見さんとの事を思い出してしまい、妙な緊張感に襲われた。

 園田センパイって、人の好き嫌いがハッキリしてる人って話だし、嫌われると、この人、怖いんだろうか?って。

 でも、今は… なんだか穏やかな感じだけど…


 園田センパイの心情が掴めない様子の真結花。

さて、真結花はどう動くつもりなのでしょうか?


 次回につづく…


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