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#39:ハートブレーク

「おはよぅー、まゆまゆぅー」

「おはよう、杏菜ちゃん」

「あれっ? まゆまゆ、なんか、声がヘンだよ?」

「そお?」

 今朝から、家族や鮎美ちゃんをはじめ、学校のみんなから言われてんだよねぇー。

「うん、なんか声がハスキーっぽくって、ちょっと色っぽいかも」

 やっぱ、昨日のカラオケ、ちょっと調子に乗り過ぎたのかも…

「ちょっと、昨日、カラオケで歌い過ぎちゃったみたいなんだよねぇー」

 そう、不思議なんだよねぇー、知らない歌なのに、曲を聴いたとたん、頭ん中で歌詞やメロディーがぱっと勝手に出てきてさぁ。しかも、かなり高い声まで出せるもんだから、何だか、段々楽しくなっちゃってさぁー。つい。 

「そうなのよねぇー。真結花、マイクを持つと離さないんだもん」

 すかさず、鮎美ちゃんが会話に入ってきた。

「そんなことないよ、そういう鮎美ちゃんも、ノリノリで歌ってたじゃん」

「でも、真結花みたいに、声が変わるまで熱唱はしてないわよ?」

「まゆまゆって、歌、上手いの? 杏菜、聴いてみたい!」

「これが、結構上手いのよねぇー。意外でしょ?」

「なに? なんだか楽しそうね? 何の話?」

 興味深々ってな顔で、智絵ちゃんまで会話に横入りしてきた。

「まゆまゆがねぇー、歌が上手いって話し、してたとこなの」

「へぇー、そうなの? じゃあ、今度、私のピアノ伴奏で歌ってくれないかしら?」

 なにソレ? 智絵ちゃん、突然何を言い出すかと思いきや…

「それっ、なんだか面白そう! 智絵、グッドアイデア!」

 何が、グッドアイデアなわけ? 鮎美ちゃん。

「あのぅー、その話なんですけど…」

 なんだか、申し訳なさそうな感じで、会話に入ってきた莉沙子ちゃん。

「なに? 莉沙子? 遠慮しないで言ってみて」

 鮎美ちゃんがそう促すと、莉沙子ちゃんは、

「私、ふと思いついたんです。オリジナル曲を作って、それを真結花さんが歌って、智絵さんが作曲とピアノ伴奏したらすっごく面白いんじゃないのかなぁーって。私、そのオリジナル曲の作詞してみたい!」

「りさりさって、面白いこと思いつくわねぇー。それを、ネットの動画投稿サイトにでもアップしてみる?」

 なんだか、話が段々大きくなってる! 歌で告白って話は、鮎美ちゃんに懇願して、何とかチャラにしてもらったってゆうのにさ、これは、エスカレートする前に阻止しなきゃ!

「あのさぁー、そういうの、やめようよ。ネットの動画投稿サイトにアップなんて、顔が写ると不味いし」

「真結花、誰が、顔を写すなんて言った? そんなの、音声だけに決まってるじゃん!」

 あくまで、推進派のご様子の鮎美ちゃん。この押しの強さって、いったい…

「そうねぇー、ネットにアップするよりさぁ、文化祭のステージ出し物としてやらない? 6月に入ったばかりで、少し、気が早いかもしれないけど、もう生徒会の方では今年文化祭の企画作り、始まってるのよねぇー」

 ちょっと、まってよ! 智絵ちゃんまで…

「ともとも、それっ、すっごくイイっ!」

 智絵ちゃん向かってビシッと指を差し、激しく同意する杏菜ちゃん。

「私も、それに賛成!」

 莉沙子ちゃんも、それに続いた。

「じゃあ、私も、それで。いいわよね? 真結花」

 最後は、ダメ押しで鮎美ちゃん。


 あぁーあ、もうそこまで言われちゃうと、強制的にヤレってことでしょ? これじゃあ、もう断れないじゃん。みんなから外堀を固められて、逃げられないようになる。これって、お決まりのパターンになってるような気が… でも、ここは何とかしないと…


「あのさぁー、文化祭っていっても、まだ何カ月も先の話じゃん。何も、今決めなくてもいいんじゃない?」

「まゆまゆ、オリジナル曲作るんだったら、今から準備してても遅くはないよ。作詞作曲って結構時間が掛ると思うし」

「取りあえず、智絵と莉沙子でオリジナル曲作りの話は進めておいてよ。私と杏菜は、曲が出来たら、そのイメージに合わせた衣装と振り付けを考えるってことで。みんな、それでいい?」

 いつもの如く、まとめに掛る鮎美ちゃん。これって、もう決定?

「おっけー、あゆあゆぅ」

「いいわよ、あゆ。なんだか、すっごく面白そう」

「もちろん、まかせて下さい、鮎美さん」

 ヤル気満々の智絵ちゃんと莉沙子ちゃん。


 でもさぁ、まだ随分先のことだし、曲も、本当にできるのかどうか? アヤシイ。それにしても、振り付けって、アイドルみたいに歌いながら俺が踊るわけ? ったく、カンベンして欲しいよ。まっ、今悩んだところで、意味がないよな? だいたい、まだ文化祭のステージ企画も決まったわけじゃあないし、みんなには悪いけど、曲が出来ないことを願うよ。

 



 午後の退屈な授業も終わり、帰宅しようとカバンに教科書を入れていると、

「木下さん、ちょっと待ってくれる?」

「なに? 喜多村くん?」

「あのさぁー、木下さんの、男子サッカー部への練習参加の件なんだけど…」

「OKなの?」

「それが… その…」

 何だか、言いにくそうな様子の喜多村くん。やっぱ、ダメなんだろうね?

「やっぱ、女子はダメなんだ?」

「ごめん。期待に添えなくて」

 両手を、顔の前で合して謝る喜多村くん。

「喜多村くんが、謝る必要なんてないよ。やっぱ理由は、女子だから?」

「お昼休みに顧問の吉澤先生に掛け合ってみたんだけど、男子の中に、女子が混じって練習すると、気が散って、練習に集中出来ないヤツも出てくるだろうからって。女子マネージャーは居るのにさ」

 確かに、そうかもね。こないだの体育の時間、杏菜ちゃんに、俺をじっと見てた男子がいたって聞いてたし。何となく、分かる気もするけど…

「そっかぁー、仕方ないよ。じゃあ、自主練習しかないよね? 放課後のグランドって自由に使ってもいいの?」

「トラックは、普段から陸上部が使ってるからなぁー。今から、陸上部の部長にでも、直接掛け合ってみたらどう? そうだ! 鶴見さん、陸上部だし、彼女経由で頼んでみたらどう?」

 えっ? 鶴見さん? 俺、彼女、苦手なんだよねぇー。喜多村くんの件でトラぶったあれ以来、彼女とは会話らしい会話は、全く無いわけで…

「アドバイスありがとう、喜多村くん。後は、自分でなんとかするから」

「役に立てなくて、ほんと、ごめん」

 今度は、頭を下げて謝る喜多村くん。なにも、そこまでしなくてもいいのに… なんだか、こっちが悪いみたいじゃん。

「いいよ、大丈夫だから。喜多村くんには、色々お世話になってるし、感謝してるの」

「そう言ってもらうと、僕も助かるよ。それから、あの… その… 僕、返事、待ってるから」

 照れた様子で、どさくさまぎれに、念押ししてきた喜多村くん。もぉー、その件はわかってるって。

「うん、わかってるから…」

 ったく、教室で誰かに聞かれたら恥ずかしいじゃん。

「じゃあ、僕は部活があるからこれで…」

「うん。部活、頑張ってね!」




「なぁ、喜多村。部活行く前に、ちょっと話があるんだけど…」

「なんだ? 友田、改まっちゃってさぁ」

「お前、最近、やけに木下と親しいな。もしかして、お前達、付き合ってんのか?」

「いや、実は… まだ返事、もらえてないんだよね」

「えっ? 喜多村… お前、木下に告ったの?」

「あぁ、そうさ、友田。悪いけど… お前がぐずぐずしてたもんだから、遠慮なく、告らせてもらったんだけどさ」

「そっかぁー、やっぱりなぁ…」

「なんだ? 知ってたのか? いずれ、友田にも言おうと思ってたんだ。でも、ちょっと、気が引けてさぁ…」

「いや、知っていたわけじゃないけどさ、最近の木下が妙に女の子らしく、しおらしくなって来たからさ。彼氏でも出来たんじゃないかと、以前から薄々思ってたわけで、その相手が、喜多村… お前だったんだ?」

「友田に黙っていたのは悪いと思ってるよ。でも、まだ返事もらってないし、ちゃんとした形で友田に話したかったんだ。お前も、木下さんのことが好きなんだろ? だったら、今ならまだ間に合う。告ってみたらどうだ?」

「お前、冗談で言ってるのかっ! ホンキで言ってるのかっ! どっちだっ!」

「ゴメン。友田をからかってるつもりは無いんだ…」

「だったら、俺の事は気にするなっ! ちゃんと、木下の事だけを見ろっ!」

 くぅー、カッコいいぜぇ俺! 親友に、好きな女を譲る潔い男さ、俺は…

「友田… お前、本当にそれでいいのか?」

 そう、俺の恋は… たった今、ここで終わったのさ。

「いいに決まってんだろ! 喜多村。お前ならな! お前なら、許す」

 ふっ、なんてイイ奴なんだ、俺…

「ありがとう、友田。やっぱお前、いいヤツだな」

 そうさ、イイ奴さ、俺は… 失恋の一つや二つ、そんなの、男の勲章だろ?

「そのかわり、俺の分まで頑張れよな! 木下を泣かしたら、俺が承知しないからなっ!」

 はぁーっ、カッコつけるのも、そろそろ虚しくなってきた… 

「うん、わかってるって」

 ほんと、木下泣かしたら、マジでぶん殴ってやるからな!

「喜多村、その代償っていうのもなんだけどさ、部活終わったら、今日はお前のおごりな!」

「あぁ、それくらい、お安いもんさ。お前のハートブレークに比べたらな。僕が上手くいったらさぁ、今度は、友田にいい子、紹介してやるからさ」

 喜多村… お前… わかってんじゃん。さすが、心の友よ!

「マジで?」

「まぁ、僕が上手くいったらの話だけどね」

「宛てがあんのか? 喜多村」

「まあね。中学んときの女友達が、何人かいるからさ」

「お願いします! 喜多村様!」

 さすが、喜多村。中学んときも、モテたんだろうなぁー。

「友田。お前… 切り替え、早いな?」

「そうよ、伊達にディフェンダーやってるわけじゃあ無いぜ! 打たれ強いハートが、この俺の、唯一のとりえだからな!」

 と強がってみたものの、正直、ショックなのは間違いない。えぇーい、こうなりゃ、レギュラー取りだっ! サッカーに、俺の青春をぶつけてやるっ!


 真結花の知らないところで、一つの儚い恋が散り、

そして、新たな恋が咲くのでしょうか?

 

 次回につづく…


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