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#4:これからのこと。

 翌朝の日曜日、目覚めると俺の体は元に戻った様子は無く…

といっても、元の体は、もうこの世にいないのだ!

改めてこれが夢の続きでは無く、現実だということを思い知らされたのであった。


 今、この瞬間も、夢の続きだったら、どんなに晴れやかな気分だったろうか。

今はそんな虚しい事を考えても仕方がない、これからのことをもっとボジティブに考えなくては!

今日は、午後10時頃にお母さんに迎えに来てもらうことになっていた。


 俺は朝食を簡単に済ませ、患者衣から着替えようと思ったが、着替える服が無いことに気付く。

ふと、スポーツバッグの中に一昨日着ていた紺色のジャージがあることを思い出し、

それに着替えることにした。

ジャージを広げてみると、恐らく転倒した際に付いたと思われる汚れが多少はあったが、

気にせず、手ではたいてそのまま着ることにした。


 やることも無いので、暫くテレビの情報番組を見ながらぼけーっとしていたら、

携帯電話が鳴りだしので、枕元から慌てて手に取ると、メールを受信していた。

昨日メールを送って来た”鮎美”という娘からだった。


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XX/25/ 09:08

Fom 鮎美

Sub 今日、まゆまゆのお家に行っていい?

昨日、まゆまゆのお母さんから今日の午前中に退院って聞いたけど、

本当にもう大丈夫なの?

もし、迷惑じゃないのなら、お見舞い代わりに今日の午後、

まゆまゆのお家に行ってもいいかな?

多人数で押し掛けるのも悪いし、

代表選手で私だけで行こうと思っているの。

まゆまゆが一時的な記憶喪失って話は聞いているから、

変に意識して、身構えなくてもいいのよ。

だから安心して。

学校でもこれから色々困ると思うし、サポートはしっかりとするからね。

だって、まゆまゆとは幼馴染だし、

まゆまゆが例え私の事を覚えていなくても、これからも親友だよ!

これは私の中で変わらない事だから。

じゃあ、返事ちょうだいね。

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 “鮎美”っていうこの娘の友達、優しいね。ホント、優しいよ。この娘とは幼馴染なのか。

この娘の事、本当に大切に思ってくれてるんだ。この娘は、良い友達を持って幸せだよなぁ。

俺にもこんな親友、居たのかな?

そう思うと急に悲しくなり、目頭が熱くなってきそうだったので、

慌てて頭を左右に振った。

また泣きそうになったよ。どんだけ涙腺が弱いの?今の俺って…

というか、この娘の涙腺が弱いのかな?


 さてと、返信しないとね。

ふと、今気がついたことだけど、この携帯、意識せずに普通にガンガン使ってる。

俺が使っていた機種と違うかもしれないのにさ。

これって、自転車の運転とかと同じで、長年体を使って染み付いたものは、

体が覚えているってことなのか?

つまり、この娘の体が覚えているってこと?

まぁ、それはこの際、取りあえずおいといてっと。

退院の時間も迫って来ていることだし、早く返信しよう。


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XX/25/ 09:21

Fom真結花

Sub Re:今日、まゆまゆのお家に行っていい?

鮎美ちゃんには色々と心配掛けているようで、ごめんなさい。

わたしも、これからの学校生活の事のこと考えると凄く不安だし、

今日、鮎美ちゃんに家に来てもらって、

今後の事で、色々と相談に乗ってもらいたいの。

15時頃に家に来てくれないかな?

たぶん、その頃なら一息ついて、落ち着いていると思うから。

それから、突然変な事言うんだけど…

鮎美ちゃんの写メ、送ってくれないかな?(^^ゞ

実は、わたし、鮎美ちゃんの顔、思い出せないの。

気分を悪くしたら、本当にごめんなさい。

それと、いきなり会うより、顔を知っていた方が少し安心出来るから。

変な事ばっか言ってごめんね。

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「あっ!返事キタキタ!」


 なになに…ふぅ~ん、分かっていた事だけど、いざとなるとやっぱショックよねぇ。

一昨日までは何も変わらなかった親友が、ある日突然、私を覚えていないなんて。

でも、真結花の方がもっとショックが大きいだろうし、

今は精神的にもかなり不安定なんじゃないのかなぁ。

私が少しでも不安な顔を見せないように、いつもと変わらないように接しないと、

真結花の方も、余計に不安がるんじゃないのかなぁ。

 写メかぁ? 景気づけにちょっと面白い顔したヤツ、おくっちゃお、かな?

でも元の顔がわかんなくなるし、普通にカワイコぶった顔でも送る?


 あっ! 鮎美ちゃんからの写メ、送られてきた。

どんな顔してるんだろ? うっ、めっちゃカワイイ…

写メには、茶髪でショートカットの似合う、ちょっと大人っぽい雰囲気の可愛らしいコが写っていた。

真結花の記憶を探ってみたが、やはり彼女には見覚えが無かった。


 俺は、『写メありがとう!退院したら連絡するね』

といった簡単なメールだけ彼女に返しておいた。


 う~ん。しかし、俺って、いったい誰なわけ?

真結花にも記憶が無い、俺にも記憶が無いって、記憶がホントに迷子だよ。

あぁ、困ったもんだ。思わず左手で額を押さえつけてみたが、何も思い出さない。

自己認識や人間関係に関する記憶だけが完全にリセットされたってことなのか?

まぁ、いくら考えたって、問題が解決する訳じゃないのは分かっているけどさ。

 今は、このままの流れにまかせるしかないのはわかるが、

自分ではどうにもならないことにイラっとくる。

自分が自分で無いようで、もどかしいというか…


 でも、逆にボジティブに考えれば、時間が経てば何かのきっかけで、

記憶を取り戻すことが出来るかもしれないし、

もし、仮に記憶が戻らなくても、それはそれで、新たな人生のスタートを切るわけで…

もしかしたら、女の子として生きる喜びや幸せを感じたりることができたり、

女の子としての夢や希望、明るい未来像も見えてくるかもしれない。

 俺の今の状況からして、冷静に考えれば、女の子としての人生を受け入れるしかないだろう。

今日からは、女の子として、普通に生活が送れるように、一日でも早く馴染めるよう努力しよう。

今の俺には、それ以外に選択肢が無いのだから。




 10時過ぎになると、昨日と同じく、お母さんと妹が迎えに来てくれた。


「ねぇ、おねぇちゃん。なんでまたジャージなんか着ているわけ?」

「だって、これしか着替えるものなかったし…」

「着替えは持って来たわよ」

 そう言って、お母さんがトートバッグから服を取り出した。

左胸にリボンの飾りのアクセントがあるピンク系のプリント長袖ロンTと

赤系チェック柄のプリーツスカート…


 うぅっ。こんな可愛らしい少女趣味な服を、この俺が着なきゃいけないのか?

さっきまで、女の子として前向きに考えようと決心したはずなのに…

その考えは、脆くも一瞬にして崩れ去った。


「それ、着るの?」


「イヤなの?」

 俺があからさまに嫌な顔を見せてしまったようで、

お母さんが少し眉をひそめたように見えた。


「そうゆうワケじゃないけど、スカートはちょっと…」

「おねぇちゃん、スカート好んで着てたのにねぇ」

 あぁ、そうだろうねぇ。 あなたのような可愛らしい普通の女の子ならね。


「これしか持って来てないから、今は家まで我慢して、ねっ?」

 お母さんが聞きわけの悪い子供を諭すかのように言った。


「うん。わかった」


 俺はしぶしぶ了承し、着替えるしかなかった。でも、スカートにはやはり抵抗があった。

今は同姓とはいえ、他人の目の前で見られて着替えるのは、スゴく恥ずかしいので、

彼女達に背中を向けながらモソモソと着替えた。


 着てみてやはりというか、足元がすぅすぅしていて、とても落ち着かない。

女の子は、よくもまぁ、こんな物着ているなと思う。

今の季節はまだいいけど、特に冬場なんて寒くてたまらないんじゃないの?

まぁ、今は仕方ない、家までの辛抱、辛抱。


 その後、担当医の山崎先生から「退院後、何かあったらいつでも病院に来て下さい」

と言われ、ようやく退院することができた。


 俺にとって、この一日半は、気を休める暇も無く、非常にストレスの溜まる病院生活だった。

“記憶喪失の女の子”を演じ続けなければならないというプレッシャーと、

ボロが出ないように常に緊張の糸を張り詰めた状態、おまけに初対面の肉親との対面。

 もう心身共に限界だよ。早く家に帰って落ち着きたい、とにかく、ふかふかのベッドで体を休めたい、今はただ、それだけを強く思っていた。


「どうしたの? さぁ、乗って」

さっきまで、考え事をして、ボケっと突っ立っていた俺に、お母さんは車に乗るように促す。


 車に乗ろうとすると、俺は、そのホワイト色のスタイリッシュなデザインの

ハッチバックタイプの車を見て、何処か見覚えのある車だなぁーと思いつつ、記憶を巡らせていた。

これって、確かハイブリットのマニュアル車じゃなかったのかな?


「ねぇ、ママ。この車って、もしかしてハイブリットのマニュアル車?」

「そうよ。何か思い出した?」

「うん、何だか引っかかるの」

「そう。真結花はこの車がお気に入りだったわ」

「そうよ、おねぇちゃん。ママがシフトチェンジしながら運転している姿がカッコイイって。

免許取ったらこの車に乗りたいって言ってたよ」

「そうなの?」

「真結花、少し、何か思い出したのかも知れないわね」

「おねぇちゃん、そう焦らなくてもいいよ。普通に生活していけば、これからも色々と何か思い出すかもしれないわ」


「そうね」


 そう言って、俺は少しニコっとした作り笑顔を二人に見せ、二人は前席、俺は後部座席に乗った。

二人のどちらかと隣合わせっていうのは、まだ少し緊張するし、

自宅までの車中で、いったい二人とどんな会話をすればいいのか困っていたからだ。


 今日は日曜日の午前中ということもあり、車はそれほど流れて無い様子で、車はスイスイと走り、

大した時間も要せず自宅に着いたようだった。


「着いたわよ」

お母さんが後部座席を振り返って言ったようだ。


「うっ、う~ん」

 俺は眠い目をこすりながら目を覚ました。

始終緊張しっぱなしで、よほど疲れていたのか? どうやら、いつの間にか居眠りをしていたようで…


「おねぇちゃん、寝てたの?」

「そうみたい」

「疲れているのね。お風呂、直ぐ入れるからに入りなさいね」

「お風呂?」

「もう二日も入ってないでしょ?」

「うっ、うん」

この体でお風呂入んなきゃいけないんだ?

うーん、少し抵抗はあるけど、お風呂に入って心身共に疲れを癒したいし。


 車を降りて、お母さんが駐車スペースに車を入れている間に、俺はこれから生活する家を見上げた。

車2台分の駐車スペースと、小さな庭のある、ごく普通の一般的な一戸建てで、

大きくも無く、かといって小さくも無く。

でも、何処となく懐かしいような気もするけど…

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