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#31:パパとでぇと?

「あっ、おねぇちゃん、またガーターだぁ。ねぇ、これで何度目? おねぇちゃんって、ボウリング、こんなにヘタじゃなかったよ? どうしちゃったの? まぁ、病み上がりだし、スッゴく久しぶりっていうのもあるんだろうけどさぁ、それにしてもねぇ~」

「投げ方のコツ、忘れちゃったんだから、仕方ないよ。どうしてもボール、曲がちゃうのよねぇー。あぁ、もうぉー、ボウリングなんて、つまんないっ! ボールは重いし」

 もぉうーいい、ボウリングなんてもんは、もう二度と、ヤリマセンっ! 腕も痛くなりそうだしさぁ。

「真結花、今度は、視線を真っすぐにして、ボールは途中で放り投げてしまわないように、できるだけ床の近くで離してごらん。腕を曲げないで、丁寧に前に押し出すようなイメージでさぁ」

「パパ、口で言うのは簡単なんだけどさぁ、やってる本人にとっちゃあ、難しいんだよぉー」


 ホント、口で言うほどカンタンじゃない。自分の思い通りに体を動かすのって、案外難しいんだよね。頭ん中で描いているイメージ通り出来ないこのもどかしさ。体育ができないコの気持ち、なんとなく分かったような気がする。


「パパって、すっごーい。これで、ストライク、3本目だよ。麻弥なんて、まだ1本しか取れてないのに」


 あぁ、上手い人達で、勝手に盛り上がっていて下さい。俺は、完全に部外者ですから。


 

 ゲームオーバー。


 結果は言うまでも無く、三人の中でドン尻、散々なものだった。スコア? そんなの、どうでもいいじゃん。順位なんて意味ないし、気にしない、気にしない。だって、お遊びだもんね。真剣になる方がどうかしてる。単なる息抜きなんだからさぁ。でも、俺、全然楽しくない。

 パパと一緒に過ごせるのも今日まで。明日、いや、正確には、今日の夕方には向こうにいっちゃうんだよね。また当分、会えなくなるわけだし、今日のうちに家族での楽しい想い出作り、しとかなきゃって思ってたんだけど、いきなりテンション下がりまくりなわけで。

 せっかく、体の方も前日の熱がウソのように下がって、全快になったことだし、パパとアミューズメントパークで遊ぶ約束、キャンセルせずに済んだっていうのに、これじゃねぇー。


「おっ、次、あれやるか、真結花、麻弥。サッカー ストラックアウトってヤツ?」


 フムフム。九つある的を、12個のボールで、どれだけ当てられるかってゲームかぁ。俺って、腕より脚の球技の方が得意そうだし、これなら大丈夫かな?

「うん、いいよ、パパ。こっちの方が面白そう」


「おねぇちゃん、さっきは散々だったもんねぇー。麻弥はこれやるの、初めて。おねぇちゃんは、当然、このゲーム得意だよね? コツあるんだったら、教えてよ」

「どうかなぁー、体育でフットサルやったけどさぁ、こうやって、止まった状態でゴールに蹴る感覚ってよく覚えてないんだよねぇー」

「まぁ、やってみればいいさ、真結花。頭で考えているより、意外と体は覚えているものさ。これも、遊びながらサッカー復帰のリハビリにもなるわけだし、一石二鳥ってとこだな」

「うん、そうだね」

「よし、まずはパパがお手本として、チャレンジだ!」

「パパ、マジで燃えてる。なんか、子供みたぁーい。子供相手に、大人げないよぉ~」

「麻弥、さては、パパの戦意を喪失させようって魂胆だな? さっき負けたもんだから」

「パパさぁ、カッコイイところ、ギャラリーの女性達に見せ付けたいだけなんでしょ?」

 さっきから、ギャラリーらしい20代の女性達が、こっち見てるんだよね。それで張り切っちゃってるパパって、なんか単純で、可愛いとこあるなって思ってしまい、つい余計な口が…

「真結花、何を言ってるんだ? そっ、そんなことあるわけないだろ?」

 あきらかに動揺が隠せない様子のパパ。その気持ち、なぁーんとなく、わかるような…

「ねぇ、パパ、おねぇちゃんの言ったこと、図星だよね? こんなカワイイ娘達をよそに、他の女の人に目が行くなんて、サイテー」

「そうそう、麻弥の言う通り。向こうでも金髪の若い女性見てさぁ、鼻の下のばしてたんじゃないの? パパ」

 あぁ、なんか、こうやってパパいじるの、なんだか楽しい。

「イヤ、元プロだった以上、やっぱカッコ悪いところ、お前達に見せられないし…」

「じゃあさぁ、パパ、罰ゲームやろうよ。おねぇちゃんと、麻弥の合計得点がパパに勝ったら、パパからお小遣いを貰っちゃう。パパが勝ったら、パパが若い女性に鼻の下のばしてたこと、ママに黙っててあげるってのは、どう?」

「麻弥、なんだ、それ? どっちにしても、パパには不利な条件じゃないのか?」

「あっ、そぉー。パパがやらないなら、麻弥、ママに即刻、言いつけちゃうもんねぇー」

「わかった、わかったよ。たっく、しょうがないなぁー、麻弥は」

「ふふっ、麻弥って悪い子ねぇー」

「おねぇちゃんもね。でもね、これはパパへのお仕置きなの! 今まで、家族ほっぽいてたんだから、これくらい当たり前なんだから!」

「まっ、そうかもねぇー」


 パパ、さすが元プロサッカー選手って感じ。途中、失敗はあるものの、次々と的を当てていく。

 現役を引退したっていっても、まだまだやれるんじゃないの? この分じゃあ、麻弥と二人で協力したとしても、パパに勝てるのかなぁ。最低、俺が半分以上は的に当てないと、麻弥にはさほど期待出来ないだろうし、ちょっと厳しいかなぁ?

 そう思ってたら、近くに居たギャラリーらしい20代の女性達が、こっちが余程気になるのか? なにやらこそこそと話ながら、しきりにこっちをチラチラと見てくる。

 パパって、元プロサッカー選手なんだけど、そんなに有名人? んなわけないか? 現役ならともかく、もう現役も引退してるわけだし、本当に有名なら、今頃、ギャラリーで溢れかえっているはずだよね?


「ねぇねぇ、ゆみこ。あの人って元サッカー日本代表の木下選手じゃない?」

「そうだよ、間違いないよ、アキ。やっぱ、私服だと気が付きにくいものね。後で、一緒に写メ撮ってもらおうよ」

「そうだね」

「ところでさぁ、アキ。あのカワイイ女の子達って、やっぱ木下選手の子供なのかなぁ?」

「どうやら、そうみたいね、ゆみこ。あのポニーテールのカワイイ子、どっかで見覚えがあると思ったら、雑誌で取り上げられてた子だわ。確か、U-17の候補選手みたいよ」

「へぇー、そうなんだ? アキってサッカー結構詳しんだ? じゃあさぁ、あの子もついでに写メ撮ってもらおうよ、将来、有名選手になるかもしれないし」 

「別にサッカー、それほど詳しいって程じゃあないんだけど、たまたま、雑誌で見たのよねぇー、注目の美人アスリート特集みたいな記事で。そうだ、ゆみこ。ここで待っててくれる? ちょっとサインペンと色紙買ってくるからさぁ」

「うん」



 結局のところ、パパのスコアは、九つある的のうち、ひとつだけ外しただけで、八つだった。俺と麻弥が半分ずつだとしても、最低四つ以上は的に当てなきゃいけない計算だ。

 麻弥が先に蹴るということで、最後の俺にはプレッシャーが掛るよなぁ。なんせ、お小遣いという非常に美味しいニンジンが目の前にぶら下がってるもんだから、負けたら麻弥に何を言われるのか分かったもんじゃない。


「あっちゃー、また外れちゃった。まだ三つかぁ」

「ガンバレ! 麻弥、外しちゃってもいいよ。後はわたしがなんとかするし」

「うん、でも後ひとつぐらい当てなきゃ、おねぇちゃんにいいカタチでバトンタッチできないし」

「そうガンバらなくてもいいぞ、麻弥、そもそも、パパに勝とうなんて考えなくていいからな!」

「ふんっ! 麻弥、パパにはゼッタイ負けたくないもん!」

「麻弥、もう少し力を抜いて蹴った方がいいよ。その方が当たるかも」

「おねぇちゃん、アドバイス、サンキュ!」


 ヘンに力みすぎたのか? 結局、麻弥のスコアは三つのまま、全く伸びずにゲーム終了。ということで、俺は五つ以上の的を当てなきゃパパには勝てないわけで…


「おねぇちゃん、頑張ってね。お小遣いかかってんだから!」

「麻弥、ヘンにプレッシャーかけないでよ! 当たるものも、当たんなくなっちゃうじゃない」

「ゴメンね、おねぇちゃん。麻弥、つい、熱くなっちゃってさぁ」

「おっ、姉妹で仲違いか? パパには有利ってことかな?」

「そうは行きませんよぉーだっ! おねぇちゃんなら、ゼッタイに逆転してくれるはずだもんっ!」

 

 さてと、息を吸ってー、吐いてー。

 うぅーん、なんだか、緊張するよなぁ。単なるゲームなんだけどさぁ、これってPK戦の模擬が出来るゲームなんだよなぁ。そう思うと、これもサッカーのいいイメージトレーニングにはなるんじゃないかと。

 最初、軽―い気持ちでゲームやるつもりだったんだけど、なんだか燃えてきたって感じ?


 一本目、右下の的を狙ったつもりだったけど、微妙にコントロールがズレて右中段の的に命中、結果としてはオーライ。でも、この感覚のズレ、フットサルやったときもそうなんだけど修正しないと、本格的にサッカー復帰するにはほど遠いレベル。

 途中数本外すも、なんとか目標の五つの的をゲットした。残すは、後ひとつなんだけど、ボールもひとつしか残っていない。つまり、これがラストチャンスってわけだ。


「おねぇちゃん、後ひとつだよ! 頑張って!」

「うん、わかってるって。任せておいて」

 と麻弥に自信満々に言ったものの、残ってる的は難易度の高い中段と上段の的。正直、厳しいかも…


 最後の的、上段の2枚の的に絞り、力まずにボールを蹴ったものの、ボールの軌道は見事なまでに上にズレ、ゲームオーバー。結果としてパパと俺達のスコアは8対8のドロー。この場合、罰ゲームはどうなるんだろ? チャラってことになるのかな?

 ちらっと、麻弥の顔を見ると、あきらかにぶーたれた不満顔を見せている。

 あっちゃー、こりゃあ、どんな文句を麻弥に言われるか、たまったもんじゃない。一瞬、トイレに行くフリしてこの場から逃げちゃおかなって思ったわけで…


「麻弥、8対8のドローだな。ということは、罰ゲームの話はなかった。ということでいいよな?」

「うぅーん、クヤシイけど、仕方ないわねぇー。そのかわりぃー、パパぁ」

「そのかわりってなんだ? 麻弥」

「そのかわり、ランチはデザート付きで好きな物、いっぱい頼んでもいいよね?」

「あぁ、かまわないけど、食べ過ぎると、太るぞ」

「いいの。麻弥は食べても太らない体質だし。ねぇ、おねぇちゃんも、それでいいでしょ?」

「うん、いいよ。わたしは、麻弥の気がそれで済むなら」

 ホっ、どうやら麻弥の怒りの矛先は、ランチに向けられたようで、こっちに飛び火することはなさそうだ。

 そういや、俺も小腹が減ったような…


「じゃあ、話もまとまったことだし、ランチに行こうよパパぁ」

「そうだな、麻弥。もうお昼前だし、混みそうだしな」

「賛成! わたしも、ちょうど小腹減ってたとこだし」


 話もまとまり、家族そろってランチにレッツゴー! ってことになったわけだけど、ここにママが居ないのが少し寂しいって感じ。

 仕方ないよね、昨日、俺の看病のために仕事休んでくれたわけで、二日続けて仕事を休むってわけにもいかないだろうし。って思ってたら、ギャラリーにいた女性二名が、俺達家族に突然近付いてきた。

 あれっ? この女性達、いつの間にか姿が見えなくなっていたと思ってたんだけど… いったい、なんだろ?


「あのぉー、突然すみません、元サッカー日本代表の木下選手ですよね?」

「あぁ、確かにそうでしたが、代表も随分前の話ですし、昨年現役も引退して、今はただの普通の人ですから」


 パパって、元日本代表選手? 有名なんだ? 初耳でビックリなんだけど… そういや、青いユニフォーム着てた若い頃のパパの写真、アルバムの中で見たような気も… あれって、日本代表のユニフォームだったわけ?


「ご家族とのプライベートのお時間のところ、申し訳ないんですけど、サイン頂けないでしょうか? それと、写メ撮らせて頂いてもいいでしょうか?」

「あぁ、いいですよ。こんな引退した選手でもよければ。真結花、麻弥、ちょっとの時間だけ待ってくれないか?」

「うん、いいよ、わたしは」

「麻弥も、かまわないよ」

「よかったぁー。アキ、やっぱ声掛けてよかったね」

「うん、そうだね、ゆみこ」

「じゃあ、これにサイン、二枚、貰えますか?」

 パパは彼女達から色紙とペンをもらい、スラスラとサインを書き、返す。

「これでいいかな?」

「ハイ。ありがとうございます。じゃあ、写メもお願いできますか?」

「あぁ、じゃあ」

 彼女達が交代してひとりずつ、パパと並んで記念撮影。パパの顔は少しニヤけながらも、テレてる様子。なんだか、動きがぎこちない。

「ねぇ、ゆみこ、もうひとつのお願いは?」

「あのぉー、もうひとつ、お願いしてもいいでしょうか?」

「はぁ、なんでしょうか?」

「そこの、ポニーテールのお嬢さんとも、写メお願いできないでしょうか?」

「娘は、プロ選手でもなんでもないので、カンベンしてもらえませんか?」

「でも、確か、U-17の候補選手だと…」

 えっ? なに、それっ。そんな話、聞いてないよ。

「確かに、そうかもしれませんが、今は違います。娘は、今、リハビリ中なんで、そっとしてもらえませんか?」

 パパ、庇ってくれた? なんだか、今、一瞬キュンってきた。これってヤバい?

「わかりました。事情を知らなかったもので、済みません。貴重なお時間、ありがとうございました」

「いえ」

「お嬢さん、リハビリ、頑張ってくださいね!」

「頑張ってね! 応援してるから」

「あっ、はい。ありがとうございます」


 俺が、U-17の候補選手だったって?

 ってことは、代表の一歩手前まで行ってたんだ。これも初耳だし、余りもいきなりで、驚いちゃったんだけど… まあやちゃんが言ってた、事故以前の俺が代表を目指すって話も、まんざら、夢物語じゃないってことなんだろうか?

 それにしても、今の体の動きじゃあ、まったくもって雲の上のような話だよ。クラブの復帰どろこか、サッカー、これから本当にやっていけるのか? それさえ難しそうだっていうのに、代表なんてとんでもない話だ。

 今の話、聞かなかったことにしょう。ヘンなプレッシャーや期待、周りから掛けられてたって、そんなの、困るもんなぁ。

 俺だってさぁ、今の自分にできる事と、できない事の判別ぐらい、それくらいはできるよ。


「へぇーっ、おねぇちゃんって、サッカー通の間じゃあ、結構有名人なんだ? 麻弥、おねぇちゃんの第一号のサイン、もらっちゃおかなぁー」

「麻弥、茶化さないの! 今のわたし、有名人でも、サッカー選手でも、なんでもないんだからっ!」

「おねぇちゃん、マジで怒んないでよぉー」

「真結花、彼女達の言ってた事、気にすることはないさ。自分のペースでサッカーのリハビリ、やればいい。例え、復帰に一年かかってもいいじゃないか、まだまだ、時間もあるんだし、焦る必要なんてこれっぽっちもないんだし」

「うん」


 パパは、気を使ってそう言ってくれたものの、もしかしたら、一年かかっても、いや、それ以上かかっても、サッカークラブに復帰できないかもしれない。

 だってさぁ、サッカーうんぬんの前に、自分自身に自信が無いんだよねぇー。そんなこと、面と向かって口に出して言うわけにはいかなし、パパには悪いけど、一年経ってもサッカークラブに復帰できなかった時は、素直にごめんなさいって言うしかないよなぁ。

 人生に挫折っていうものは、必ず誰しも少なからずあるだろうし、以前にも考えてたことなんだけど、そん時には別の道、選択するしかないんだよなぁ。

 そんな不安が一瞬、頭を横切った。

 思わぬカタチで過去の自分を知った真結花。

過去と今の自分の大きなギャップに、戸惑いを隠せない様子ですが…


 次回につづく。


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