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#29:ユメのつぼみ、ヒラくトキ。(後篇)

 授業の合間の休み時間、私は登校時に真結花から預かった、送り主が女の子だと思われた手紙をカバンから取り出し、さっそく読んでみた。


----------------------------------------------------------------------

真結花様へ


もうだいぶん経っちゃって今更なんだけど、

あなたと廊下ですれ違った際、あなたにムシされて、

つい怒ってしまったこと、改めてごめんなさい。

本当は私に振り向いて欲しくて、あんな行動を取ってしまったの。

あなたが事故に遭って、記憶を無くしたって話、本当だったのね。

あの時、私はあなたの置かれた状況、何も知らなかったの。本当にごめんなさい。

それから、あなたは暫く学校を休んでいたようね。

先週、あなたを学校で偶然見かけたの。そして、あなたにあの時のこと、謝ったわ。

でも、あなたにもう一度、ちゃんと謝りたくてこの手紙を入れておいたの。

入学直後、私があなたに言ったこと、もう覚えてないよね?

もう一度だけ、私にチャンスをくれないかな?

あなたが気を悪くしたこと、謝りたいの。

そして、仲直りしたい。友達として。

このまま、あなたに嫌われたままなんて、私、耐えられなくて。

今日の放課後、校舎の裏庭で待ってるから。

絶対に来て。一生のお願い。


早坂友美茄より

----------------------------------------------------------------------


 思ってた通り、やっぱり女の子からの手紙だわ。この手紙の子って、たぶん、真結花がこの子の事を知らないって言って、怒らせた子よね。どうやら、イタズラやそっち系の子の恋文ではなさそうだけど。さすがにムシするわけにはいかないよねぇ~。この文面からするとさぁ。

 はやさか ゆみな? 知らない子ねぇ。この手紙からすると、真結花って、入学した時にこの子と知り合いになってたみたいね。その時に、この子と喧嘩でもしたのかなぁ?

 真結花って、以前は男の子っぽい性格だったから、多少、男の子と口論になることはあったけど、女の子にはスッゴく優しかったのに。まぁ、そんな性格だったから、女の子受けもよかったようだけど。

 でも、何か、引っかかるのよねぇー。以前の真結花なら、他人に頼る事が嫌いで、行動力もあって、放っておいても心配がなかったんだけどさぁ。今の真結花って、放っておけないというか、頼りない妹みたいな感じだし、精神的にも脆くて、何かと心配なのよねぇー。

 さて、どうしようかなぁ~。一緒に行ってみる? やっぱ、ここは、突き放して、真結花ひとりに任せてみようかなぁ? まっ、そろそろ、真結花も、独り立ちさせないとね。以前の記憶がないからといって、いつまでも、私ばかりに頼ってちゃあ、誰かに頼ってばかりの、甘えん坊さんみたいな性格になっちゃいそうだし。これから、ひとりで何でも対処できるようにさせなきゃ。

 さてと、放課後にでも、ネタ振りしますかね。


「ねぇねぇ、あゆあゆ、なに読んでるの?」

「うわっ、びっくりした。なにって杏菜、コレよ」

「えっ? もしかして、ラブレター?」

「そう。私って、こう見えて、意外とモテるのよねぇ~」

「自分で言っちゃう? でも、いいなぁ~ラブレターなんか貰って」

「杏菜って、好きな子、いないわけ?」

「う~ん、このクラスの男子って、喜多村くんを除けば、友田くんみたいにぱっとしない子が多いし」

「そうよねぇー、友田くんを始め、このクラスの男子って頼りなさそうだしねぇー。だいたい、智絵が学級委員やってること自体、このクラスの男子の頼りなさを象徴してるわけだしね」


「おい、そこの二人、なに人の悪口聞こえるように言ってるワケ? 嫌味か?」

「あっ、聞こえてたの? 友田くん。ごめーん」

「聞こえるも何も、ワザと聞こえるように言ってるだろ? 結城」

「あはっ、バレてた?」

「ったくよー」

「友田くん。さっきの話、わたしにも聞こえてたんだけど、鮎美ちゃんの言ったこと、気にしないで」

「あぁ、木下に言われなくてもわかってるって。いつものことだし」

 もしかして、木下って俺のこと、気にしてくれてるわけ? 脈あり?


「そうそう、真結花、なにマジで気にしてるわけ?」

「最近のまゆまゆってさぁ、ちょっと生真面目過ぎないかなぁ? もうちょっと、気を抜いた方がいいと思うよ」

「そうかなぁ?」


 うーん。やっぱ、ここ最近、色々あったもんだから、他人に対して、妙に気を使い過ぎなのかなぁ。自分の周りで厄介な出来事が起こるのを恐れてるっていうか、トラブルは避けて通りたいっていうか…

 でも、そんなの気にしてたら、キリがないよね? 明日がどうなるのか? わかんないとの一緒でさぁ、この先で起こることを予測できるわけじゃないわけだし、未来を恐れて不安なキモチになったとしても、今できることを、今、一生懸命やるしかないわけだし。

 あっ、俺、何に人生について、真面目に考えちゃってるわけ? もうちょっと、楽天的にならなきゃ。




「真結花、帰ろうとしたところ悪いんだけど、ちょっといい?」

「なに? 鮎美ちゃん」

「この手紙、返すわ。送り主、どうやら、真結花が学校休む前に会った、例の怒らせた子みたいよ。向こうから真結花にちゃんと謝りたいってさ。今日の放課後、校舎の裏庭で待ってるって。行ってあげたら?」

「えっ? 鮎美ちゃんは、付いて来てくれないの?」

「ごめん、今日は、部活の当番なんだぁー。だから、早く部室に行かなくちゃいけないの。だからさぁ、真結花だけで行ってくれない? 元々私は部外者だし、妙に首を突っ込むのもどうかと思うし」

「そう、用事があるなら仕方ないよね。実は先週、その子と偶然廊下で出会ってさぁー、向こうから謝ってきたの。だから、もうその話は終わったのかと思ってたんだけど… さっき、その子が怒ってた事、ふと思い出しちゃった。なんか、少し不安なんだけどさぁ」

「大丈夫よ。ちゃんと謝りたいって言ってんだから、何も取って食うわけじゃないんだし」

「そうね。じゃあ、わたし、行ってみる」

「もし、何か問題があったら、後でメールでも入れといて」

「うん、もしもの時には、相談するから」


 今のは、ウソ。実は、真結花と手紙の主の様子を、隠れてこっそり観察するために言った口実なのよねぇー。そうとは知らずに、真結花は簡単に信じちゃったみたいだけど。




 さてと、そろそろ、いっかな? 


 どれどれ、んっ? いたいた。

 あの子が、早坂友美茄? 以前に真結花が言ってたように、ちょっと不良っぽい雰囲気はあるけど、それほどでもないわねぇ。あの子の髪の色がそう思わせるのよ。あれだけ、金髪に近いような派手な色だとね。



 あれ? もしかして、あゆ?

 木の陰にしゃがんだりして、いったい、何してるのかしら?


「ねぇ、あゆ。こんなところで、何してるわけ?」

「うわっ、びっくりした。智絵、急に後ろから声掛けないでよ。帰宅したんじゃなかったの?」

「吉澤先生に用事頼まれて、体育教官室に寄っていたのよ」

「そう」

「それより、何してるの?」

「しっー。あそこ、あのふたりの様子、見てたわけ」

「あっ、まゆかちゃん。もう一人の子は誰?」

「私も知らない子なの」

「もしかして、告白?」

「えっ? まさか、そんな事はないと思うけど…」

「そうかなぁ? あの子の顔、恋する乙女って顔してない?」

「うーん、そう言われてみれば、そうかも」




「来てくれたのね、真結花さん。本当にありがとう」

「早坂さん、手紙、読ませてもらったわ。わたし、以前に早坂さんに対して、何か傷つけるようなこと言ったのかなぁ。事故以前の事、何も覚えてなくて凄く申し訳ないんだけど、改めてここで謝りたいの。本当にごめんなさい」

 俺は、頭を下げて謝った。


「私こそ、ごめんなさい。真結花さん、本当に何も覚えてないの?」

「うん、本当に、何も」

「入学直後、ここで、二人で話したことも覚えていない?」

「ごめんなさい。本当に何も覚えてないの。今のわたしには、早坂さんに謝ることしかできないの」


 真結花様、私がここで告ったこと、本当に覚えていないんだ? ラッキぃー! って感じ?

これって、振り出しに戻ったわけよね? 前回は、やっぱ、いきなり過ぎたものね。今度は、慎重にいかなきゃ。


「私こそ、ごめんなさい。私から謝るどころか、真結花さんに先に謝れちゃった。もし、真結花さんが私を許してくれるなら、もう一度お友達として、一からやり直してくれないかな?」

「許すも何も、わたし、早坂さんのこと何も覚えていないの。だから、わたしが、もし、早坂さんを傷付けてしまったのなら、わたしの過去の過ちは、全て水に流して許してもらえるかな?」

「本当に、いいの? 真結花さん」

「うん。わたしなんかでよければ、早坂さんのお友達になってもいいよ」


 ヤッタぁー。向こうから“お友達になって欲しい”だって。ふふっ、これは、嬉しい誤算よね。


「ぜひ、お友達になって」

「うん。じゃあ、これからよろしくね、早坂さん」

「こちらこそ、よろしく、真結花さん。仲直りの証に、握手してくれない?」

「いいよ。別に」

「じゃあ、よろしくね!」

「うん」


 カンゲキ! 真結花様と、また握手ができたわ! 前回のは、無意識だったから、今回のはうれしいなっ!


「ところで、真結花さんって、美術部に入っているのよね?」

「まぁ、準美術部員だけどね」

「実は、私も以前から美術部に入ろうかなって、思ってたの」

「そう。だったら、戸田先生に申し出たらいいと思うわ。実はわたし、美術部には、まだ一度しか顔出してないの。これからも、気の向いた時しか行かない予定だから、早坂さんとは時々しか会えないと思うわ」

「そうなの? でもいいの。今日は、わざわざ時間を割いてくれて、ありがとう」

「わたしも早坂さんのこと、ずっと心に引っかかったままだったの。おかげですっきりしたわ。ありがとう」

「じゃあ、またね。さよなら、真結花さん」

「うん、さよなら、早坂さん」


 よしっ! これで、第一段階はおっけー、かな? うれしい誤算もあったし、ここまで進んだだけでも、私としては、上出来、上出来よ! これから、徐々に、真結花様との距離を縮めていくの! でも、焦りは禁物よ。前回のことは反省しなきゃね。同じ過ちを繰り返さないためにも。




「あの二人、何か握手なんかして、仲直りしたみたいね。さっき、智絵が言ってたこと、思い過ごしじゃない?」

「そうねぇー、でも、何か気になるのよねぇー」

「まっ、私も完全に白とはまだ思ってないけど、智絵がそう言うなら、暫く二人の関係、様子見とく?」

「そうね。じゃあ、そろそろ退散しましょ、あゆ。学校の中で、まゆかちゃんに見つからないうちに」

「じゃあ、そうしますか。この後、どっか寄ってく? 智絵」

「ごめん、あゆ。今日もピアノレッスンがあるの」

「ちぇっ、つれないわねー、智絵って。今日は部活、さぼっちゃったから、ヒマなのよね」

「ごめんね、あゆ。また今度ってことで」

「その今度って、いつよ?」

「さぁー?」

「もぉー。じゃあ、今日はひとり、寂しく帰るわよ。今更、のこのこと、部活に顔出すわけにもいかないしさぁ」

「ごめんねー」




「ふぅーっ」


 よかった。早坂さんと仲直りできて。早坂さんってさぁ、最初に声掛けられた時は、不良っぽい子だなっていうイメージが強かったし、あの時は、もの凄く怒ってたっていうのもあって、会うまでは正直、少し不安だったけど、話してみたら意外といい子だったね。

 やっぱ、人は、見た目だけで判断しちゃいけないよね。話してみないと、その人がどんな人なんて、わかんないわけだし。

 さぁ、これで、俺に振りかかった厄介事って、もう当分ないよね? 神様だって、そんなにイジワルじゃないでしょ? まぁ、俺の心と体が違うっていう問題は、以前として残ってんだけどさ。もう、この事は、心の思うまま、自然に任せるべきかなぁ? だって、悩んだって、解決できる問題じゃないわけだしさぁ。


 早坂友美茄と和解し、厄介事はもう無くなったと安心した様子の真結花。

このまま、真結花に何もなければいいのですが…


 次回につづく。


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