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#23:前進あるのみ!

「ふぅーっ。やっぱ、お風呂ってサイコー。今日はホント、心身共にクタクタだったし」

「まゆかー、ママ、お風呂入るわよ」

「えっ? ちょっとまってよ。直ぐに出るから」

 そう言うと、脱衣所では、もうママが服を脱ぎ始めていた。

 

 カチャ。


「真結花と一緒にお風呂なんて、ずいぶん久しぶりよね?」

 ママ、いったいどうゆう風の吹きまわし? にしても、同性とはいえ、やっぱ目のやり場に困るんだけど…

「どうしたの? ママ」

 ママはかけ湯をしながら、

「たまにはいいじゃない。裸同士の付き合いも、いいものよ? 湯船、入ってもいいかしら?」

「狭いよ?」

「いいの」


 チャプッ。


「それにしても真結花、暫く見ないうちに、体つき、ずいぶん女らしくなってきたわね」

「えっ、そう?」

 うーん。ママとはいえ、これだけ近いと、やっぱ恥ずかしいよ。それにしてもママ、何か気になることでもあるのかな? 一緒にお風呂に入るなんて。

「真結花、今、恋患いしてるでしょ?」

「えっ! 何よ、いきなり」

「女の子はね、恋をすると女性ホルモンの分泌が活発になって、髪、肌艶や体つきがキレイになるのよ」

「そうなの?」

「それにね、ここ数日の真結花って、様子がおかしいもの」

「やっぱ、気付いてたの? ママ」

「気付かないわけないでしょ? 毎日食事中に溜息なんかついちゃって。最近、食欲もなさそうだったし、心配してたの」

 そうだよねぇー、ママが気付かないわけないないか。

「ママ。以前男の子っぽかったわたしが、突然、男の子を好きになるのっておかしいのかな?」

「なに言ってるの? 自然なことよ。むしろ、真結花は遅過ぎたくらいなんだから。自信がないのね? 今の真結花には」

 はい、その通り。自信なんてもの、全然無いですっ。

「うーん、こんなわたしが、人を好きになっちゃってもいいのかな? 他人の迷惑にならないのかなって、思っちゃって」

「どうして? 人に好意を持たれて、イヤな気分になる人は、そうめったにいないわよ? ストーカーに付きまとわれるっていうのなら、また別の話だけど」

「だって、今日ね、わたしが気になってる男の子にさぁ、以前からその男の子を好きになってた女の子がいたの。わたしの存在が、その女の子の恋の邪魔をして、傷つけちゃったみたいなの」

「それは、仕方がないことなの。お勉強やスポーツと同じで、恋も競争なのよ。勝者と敗者がいて、当然なの。真結花は、今まで恋をさぼってたわけなんだから、他の人に比べたら恋の偏差値も低いわけ。真結花も敗者になるかもしれないのよ? これから恋愛経験を重ねて、恋の偏差値を上げないといけないわね。恋も人生の受験勉強だと思えばいいの。受験に失敗したら、つまり、失恋ってことだけど、次の恋を目指してまた受験勉強しなきゃいけなくなるってわけね。合格したからといっても、安心はできないの。退学、つまり、破局になるかもしれないわ」

「恋も人生の受験勉強かぁ。なんか、恋愛受験に合格しても、後が大変そう」

「そう、大変なのよ、恋っていうのも。恋をするにも気力と体力が必要なのよ」

「ママもそうだった?」

「そうよ。相手まかせ、受け身でいるうちは、なかなか自分の思い通りの恋はできないものよ。つまり、恋愛の主導権が常に相手側にある状態のことね。自分から好きになって、自分から積極的に行動して、自分の恋ができるように、頑張らなくっちゃ。ねっ」

「ママ、のぼせちゃいそうだから、もう出るね」

「ごめんなさい、真結花。ママ、気が付かなくって、つい話込んじゃったわね」



 お風呂から出て、洗面台の鏡を見ながらドライヤーで髪を乾かしていると、髪の櫛通りが妙にいい。


「うーん。そういえば、なんか、髪のツヤがよくなったような気が…」


 これって、さっきママが言ってたように、恋してるから? ということは、益々女性化してるってこと? 恋も人生の受験勉強ねぇー、そう言われると、確かに大変かも… 学業やスポーツ並みに、恋も気力と体力がいるってこと? だとしたら、学業とスポーツと恋愛、この三つ全てをバリバリこなしている人ってさぁ、凄すぎるんじゃないの? どんだけエネルギーあんのって思っちゃうんだけど…




 部屋に戻ると、携帯に着信履歴があった。

「誰だろ? 鮎美ちゃんかぁー。ナニナニ? 後で電話が欲しいって?」


 プルルル… プルルル… プツッ。


「もしもしぃー、鮎美ちゃん?」

『真結花? ところでさぁ、鶴見さんの件、どうだった?』

「鶴見さんの件って、なんのこと?」

『ったく、しらばっくれちゃってさぁー。なにって、真結花と鶴見さんで、喜多村くんの争奪戦を繰り広げているって話のことよ』

「えっ、なんで鮎美ちゃんが、そのこと知ってるの?」

『ふふっ、私を甘く見てもらっちゃあ、困るわねぇー、ま・ゆ・か・さん。今朝、喜多村くん争奪戦で、鶴見さんから先制パンチ、食らったんでしょ?』

「はぁーっ。やっぱ、鮎美ちゃんには隠し事、できないみたいね、わたしってさぁ。鶴見さん、結局は身を引いて諦めてくれたみたい」

『そっかぁー、それは良かったわね。でもさぁー、真結花も、災難よねぇー。気を付けないと、またどこかで地雷踏むわよ』

 そう、地雷踏んでばっかだよ。

「気を付けるっていっても、何をどうやって気を付けばいいわけ?」

『それは、真結花が喜多村くんに対して、曖昧な態度取ってるからいけないのよ。そのうち、浮気されるわよ?』

「だって、まだ付き合っているわけでもないし、お互いのキモチも確かめてないもん」

『だからといってさぁ、朝の挨拶以外、学校で喜多村くんと話もしないのっていうのも、どうなの?』

「だって、恥ずかしいじゃない。学校じゃあ、皆が見てるわけだし…」

『じゃあさぁ、家で電話とかメールぐらい、やりとりしたらどう? なんの為に携帯番号とメルアド交換したわけ?』

「えっ、だって、きっかけがないし…」

『もぉー、そういう消極的なところ、今の真結花のダメなところね。もっと積極的にならなきゃ。特に最近の男の子って、女の子が積極的にならないと、恋も実りにくいのよ』

 鮎美ちゃんも、ママと同じようなこと言ってる。

「そんなこと言われたっても… わたしには、どうしていいのかわかんなくって」

『はぁーっ。真結花もようやく恋に目覚めたと思ってたけど、恋愛免疫のなさは重症ってことのようね。しょうがない、試験明けの日曜日まではお預けにするしかないわね』

「試験明けの日曜日って?」

『はぁ? 真結花、喜多村くんと会う約束したんでしょ? なにボケけちゃってんのよ』

「あぁ、そうよね。ちょっと、最近、色々あり過ぎて、心の余裕がなくなっちゃってた」

『真結花って以前の記憶が無くなってからさぁ、色々と考えこんだり、悩んだりしたりすることが多くなったと思うけど、ひとりで抱え込んでないで、私や家族に吐き出さなきゃダメ。じゃないと、またストレス抱えこんで、倒れちゃったらどうするのよ』

「ありがとう、鮎美ちゃん」

『いい、わかった? これから、恋愛で悩んだり、今日の鶴見さんの事みたいにトラブったら、遠慮せずに私に相談するのよ』

「うん、わかったわ」

『それから、喜多村くんには、文句の一言ぐらい言っとかないといけないわね。私がお灸をすえといてあげるわ』

「えっ、そんなことしなくてもいいよ」

『だって、真結花を泣かせるようなマネ、してるわけだし』

「かわいそうだよ、喜多村くんには責任はないの。鶴見さんだって、喜多村くんのこと、真剣に好きだったらから、わたしに真正面からぶつかってきたわけだし、潔かったと思うの。わたしが逆の立場だったら、そんな勇気のある行動なんて出来ないもの」

『真結花って、ホント優しいわね。その優しさ、恋愛には不利になることがあるのよ。恋愛は自分が遠慮してちゃダメなの。遠慮してたら、恋のチャンスは目の前から逃げちゃうのよ。どんどん遠のいていっちゃうんだから。だから、目の前に訪れた恋のチャンスを逃したらダメなの。後で、告白しとけばよかったって、後悔することになるし、心の中でずっと引っかかったままになるの。そんなの、イヤでしょ? 結果がダメだとしても、吐き出しちゃった方がスッキリするわ。次の恋へ進もうっていう踏ん切りがつくの』

「それって、鮎美ちゃんの経験談?」

『そうよ。経験者が言うんだから、間違いないわ。それと、喜多村くんの件、真結花が許しても私の気が収まらないの』

「やっぱ、喜多村くんに文句言うわけ? やめとかない?」 

『ごめん、今回ばかりは真結花のオネガイは聞けないわ、口出しさせてもらうから』

「そう、でもやんわりとね」

『もぉー、真結花ってホントお人好しなんだから。その優しさが仇になるわよ。喜多村くんだってそう」

「うーん、でも他人を傷つけたり、迷惑を掛けることって、わたし、すっごくイヤなの」

 って口に出したものの、他人を傷つけたり、迷惑を掛けてばっか。

「まぁ、真結花の性格なら、わかるような気がするわ。あっ、それと、明日の智絵ん家での勉強会なんだけど、真結花に連絡しとかなきゃって。午前中って話だったんだけど、皆の都合が合わなくなって、午後からになったから。明日、迎えに行くわね」

「うん」

『じゃあ、そろそろ電話、切るわね。おやすみ、真結花』

「おやすみなさい、鮎美ちゃん」


「はぁーっ」

 やっぱ、恋愛って大変なんだ? 好きな人を巡っての闘いなんだ? 




 プルルル… プルルル…


「あれっ、誰だろ? 結城さん?」


 ピッ。


『もしもし、喜多村くん?』

「あぁ、結城さん? どうしたの? こんな時間に。僕に何か用事?」

『あのさぁー、真結花のことで、一応、忠告だけはしとこうと思ってさぁ』

「木下さんが、どうかしたの?」

『その分じゃあ、全然、気付いてないようね?』

「えっ、いったい、なんのこと?」

『ったく、あいかわらずニブイ子ね!』

「木下さんに、何かあったの?」

『そう、何かあったから、わざわざこんな時間に電話してるんじゃない』

「もしかして、鶴見さんのこと?」

『もぉー、心当たりあるんじゃない、ハッキリしなさいよ! ちゃんと、鶴見さんとは縁切ったんでしょうね?』

「そんな、縁を切るとかの仲じゃなかったし」

『じゃあさぁ、なんでここ数日、放課後に図書室で鶴見さんなんかと一緒に勉強してたわけ?』

「あぁ、それは、鶴見さんの方から一緒に勉強しようって誘ってきたから」

『はぁ? 喜多村くんって、女の子から誘われたら誰とでも一緒に勉強をするわけ?』

「そうゆう訳じゃないよ。鶴見さんって成績優秀だから、一緒に試験勉強した方がはかどると思ってさぁ」

『でもさぁ、鶴見さんは、そうゆう風には思ってなかったのよ』

「あぁ、わかってるって。今日のお昼休み、鶴見さんから告白されちゃったからね。でも、ちゃんと断ったよ」

『そうゆう問題じゃないの。真結花のこと、大切に思っているのなら、そうゆう軽はずみな行動、やめてくれない? 真結花、酷く傷ついて、電話したら泣いてたのよ!』

「えっ! そうなの? ゴメン、結城さん」

『謝る相手、間違えてない? それと、謝るのは、ちゃんとお互いのキモチ、確かめてからしてからにしてよ。まだ告白もしてないのさ、いきなり謝るのっておかしいじゃない』

「うん、わかったよ」

『別に、私も喜多村くんが一方的に悪いって責めてるわけじゃなくってさぁ、喜多村くんにも真結花を傷つけた責任の一端はあるって言いたいの! ほんとはさぁー、もっと怒ってやりたかったとこなんだけど、真結花が喜多村くんをイジメないでって、いじらしいこと言うもんだからさぁ、このへんでカンベンしてあげるわ。真結花の優しさに感謝しなさいよ!』

「えっ? 木下さんって、そんなにも僕のこと、想ってくれてるの?」

『そっ、だから、もっと大切にしてあげてよ』

「うん、そうする」

『じゃあさぁ、もう電話切るよ』

「結城さん、今日はありがとう、わざわざ電話してくれて」

『真結花のこと、頼むわよ。あの子、精神的に脆い部分があるんだからさぁ、これからも気を付けてよね」

「うん、わかってるって。じゃあ、おやすみなさい、結城さん」

『おやすみー、喜多村くん』




 トントン。


「おねぇちゃん、ちょっといい?」

「いいよ、なに? 麻弥」


 カチャ。


「今のおねぇちゃんに、ちょうどいいお薬があるの」

 そう言いながら、後ろ手に何かを隠している様子の麻弥。

「なによ? なに隠してるわけ?」

「ハイ。これ、読んでみて。友達から面白いって聞いて、買ったんだぁ。人に勧められたマンガってさぁ、当たり外れがよくあるんだけど、コレは、麻弥的には面白かったよ」

「『わたしの恋の通信簿』? なに? このマンガ」

「ふふんっ、このマンガはね、恋愛免疫の無い女子中学校に通うヒロインが、ある日突然、恋に目覚め、初めての恋に戸惑いながらも、成長して行くっていう、正に、今のおねぇちゃんにぴったりのマンガよ」

「あのさぁー、麻弥。現実って、マンガのように、そう簡単じゃないのよ」

「もうぉー、初めっから身も蓋もない事言うわねぇー、おねぇちゃんってさぁ。夢も無いじゃない」

「そんなマンガのようにさぁ、現実の物事が、簡単に進めば苦労しないわよ」

「おねぇちゃんって、ひねくれてるわねぇー。ココロ、乾いてるわよ。もっと、ココロに潤いを与えなきゃ」

「やっぱ、わたしのココロって乾いてる?」

「うん。ここんところのおねぇちゃんって、余裕が無いっていうのか? イライラしてたじゃない。だから、気分転換にこのマンガ、どうかなって思って」

「そう、ありがとう、麻弥。色々気を使ってくれて」

「麻弥も、おねぇちゃんの恋、応援してるんだから。麻弥だってさぁー、喜多村くんのような素敵なお兄ちゃん、早く欲しいのよねぇー」

「もぉー、麻弥ったら」

「へへっ。じゃあ、読んだら、感想聞かせてね」

「うん、ありがとう」

 そう言うと、麻弥は部屋を出て行った。


 そう、麻弥も色々と気を使ってくれてるんだよね。ほんと、優しいコだよ。その善意をムゲにしようとした俺って、ほんと、ココロに余裕がないんだなぁーって思う。ママだって、鮎美ちゃんだって、俺のこと、心配して気を回してくれてるっていうのに、それに甘えてばかりで… もっと感謝しなきゃ。それに、いつも他人に頼ってばかりだし、周りに心配掛けないように、もうちょっと、自立もしなきゃいけないし。

 以前の真結花ってさぁ、皆の話を聞いていると、今のようにだらしなくなくって、もっとシッカリしてたみたいだし、今って、昔の真結花にも負けてるんだよね? それって、なんかクヤシイ。頭ん中では、もっと頑張んなきゃって思ってんだけど、いざ行動に移すとなると、急に委縮しちゃうっていうか、自分の勇気の無さに幻滅するっていうか、自分でも自分の事、イヤになっちゃうことばかりなんだよね。

 やっぱ、まだまだ自分のアイデンティティーがしっかりしていないっていうか、揺らぎ続けてるし、自分という人間の自信の無さが、根底にあるんだろうけど。

 まっ、今グダグダ考えても仕方ないや。これから先のことはまだわかんないし、人生、なるようになるってね。今は、立ち止ってないで、少しでも前進しないとさ。頭ん中であれこれ考えばかりいても、何も解決しないし、行動しないと物事って進んで行かないわけだしね。


 恋愛することは凄く大変なこと、そう捉えた様子の真結花。

この調子だと、まだ当分、恋愛受験に合格しそうになさそうですね。


 次回につづく。

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