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#17:気持ちは女の子?(中篇)

 真結花と喜多村くん。

偶然の出会いが、この二人の距離を、一気に近づけたようですが…


 帰りの電車の中、いつもより遅い時間に乗ったためか結構込んでいて、空いてる席もなく、喜多村くんと立ったまま、向かい合わせになるような格好でドア近くに追いやられていた。しかも、喜多村くんが右手をドアに付いて俺を取り囲むような形になり、喜多村くんとの距離が非常に近かったため、ちょっと緊張してた。


「結構込んでるよねぇー」

「そうだね。今日はいつもと違う時間だからかな? 部活が終わった時間にもよるけど、座れる日もあるよ」

「そうなんだ? 部活が終わった後って疲れてるのに、座席に座れないのって辛くない?」

「あぁ、そうだね。もう慣れたけど、練習がキツかった日はさすがに辛いけどね」

「ふぅーん、結構大変そうね」

「でも、木下さんも、同じようなこと、やってたんでしょ? サッカークラブでさぁ」

「そうなんだけど、全然、覚えてないのよねぇー」

「あっ、ゴメン」

「えっ? 何で謝るの?」

「いや、木下さん、記憶が無いこと、気にしてると思って」

 へぇー、喜多村くんって、結構優しいんだね。

「大丈夫、そのことは気にしなくてもいいよ」

 それに、こうやって喜多村くんを間近でマジマジ見てると、背も高いし、やっぱカッコイイよ!

「そう、ならいいんだけど」


 あぁ~、もう~木下さん、スッゴクかわいいっ! さっきから、その愛らしい上目使いで、ボクを悩殺する気なの? ホンキにしちゃうよ? それに、こんなに近いとシャンプーなのかな? さっきから、髪からスッゴクいい香りがするだけど。

 あぁ~もう~クラクラしちゃいそう。もう~たまんないっ! いっそ、このまま、お持ち帰りしたいっ!


 うっ、喜多村くん、さっきからじっーとこっち、見つめてるよ。

もうぉー、そんなにじっと見ないでくれるかなぁ? ただでさえ顔、近いのに、めっちゃ恥ずかしいんだけど。それにしても、どうしたんだろ俺。さっきから、ドキドキがとまんないよ。

ちょっと、このままじゃあ、喜多村くんと目線も合わせらんないし、気まずいよなぁー。

なんか、喋んなきゃ。


「んっ? どうかしたの? 喜多村くん。さっきから、おしだまっちゃって」

「あっ、ゴメン、ちょっと考えごとしてて」

 ふぅーっ、あぶない、あぶない。もう少しで理性が吹っ飛ぶところだった。

「そう」


 ったく、君は卑怯だよっ、木下さん。今までこんな可愛らしい表情や仕草、誰にも見せたことないじゃん。もしかして、ボクに気があるのかな? 期待してもいいの? 木下さん。


「ところでさぁー、リハビリ練習のことなんだけど」

「うん」




 自宅に着くまでの間、来週のリハビリ練習のことや、サッカーに関することで喜多村くんと色々話し合った。二週間以上も体を動かしていないブランクがあることから、無理はせず、まず基礎的な体力作りから始めて体慣らしをしようということで、体を動かす前にまず、十分にストレッチし、軽いランニングの後、ボールを使った簡単なウォーミングアップ練習をしようということになった。

 結局、来週の試験明けの日曜日に練習しようということで、話はまとまった。


 もう自宅は目の前。もうそろそろ、お礼、言っとかないと。

「喜多村くん、家まで送ってくれて、ありがとう」

「いや、女の子ひとりで帰すのも物騒だしさ」

「今日は本当にありがとう。じゃあ、またね。帰り、気をつけてねっ!」

「うん、ありがと。じゃあねっ!」


 俺が玄関前の扉を開けようとした、そのとき、


「おねぇ~ちゃ~ん」


 あっ、麻弥だっ。


 自宅の向こう側から、愛犬“yuki”を散歩させて帰って来た、麻弥の姿が見えた。

帰ろうとしていた喜多村くんは、麻弥の声に振り向き、一瞬、立ち止まった。


 あっちゃー。なんでこうも、絶妙なまでにタイミング、悪いワケ?

あぁー、もうぉー、変なところで、麻弥に見つかっちゃったよ。麻弥のことだし、俺が男の子と一緒に帰ったとなりゃー、ゼッタイ、からかうに決まってる。そう、それは間違いナイっ!


 ぬぬっ、おねぇちゃんに、オ・ト・コ? これは、大事件だわっ! もしかして、友田って人?

あの奥手なおねぇちゃんが、男の子と一緒に帰宅だなんて… 雨でも降るんじゃない? この目で相手、しかと確かめなきゃ!


 麻弥、yukiと共に小走りで、喜多村くんめがけて急速接近中。

麻弥に見つかった以上、今更ジタバタしても仕方ない。ここは、開き直って、至ってふつーな態度とるのがベスト。


 俺にチラッと視線を送ってきた麻弥の目が、一瞬、ニヤっとイタズラっぽく笑った。

 うっ、やっぱ、こやつ、何か企んでる。

「あっ、こんばんは~」

「今晩は、妹さんですか?」

「はい。麻弥です、よろしく」

「こちらそ、よろしく」

「ねぇ、おねぇちゃん。もしかして、この人が友田くんっていう彼氏?」


 やっぱ、麻弥のツッコミ、キターっ!

「麻弥、なっ、何言ってんのよ、いきなり。ただのお友達、喜多村くんっていうの」


 木下さん、ボクのこと、ただのお友達だってさ。その言い方、冷たいよなぁ~。オーケー、燃えてきたぞぉー。それ以上のカンケイに、なってみせるさ!


「そうなの? おねぇちゃん。あっ、ごめんなさい、人違いなんかして。喜多村さん、改めて初めまして。おねぇちゃんが色々お世話になっているようで、学校で何か迷惑かけてませんか?」

「こちらこそ、初めまして、麻弥ちゃん。そんな、迷惑だなんて」


 う~ん、こうして二人を間近で見比べると、麻弥ちゃんもお姉さんに負けず劣らず、カワイイっ! 妹もいいよなぁー。うちは男所帯だし、こんなカワイイ妹いたら、毎日、家も明るくて楽しいだろうなぁー。でもやっぱボクは、お姉さんの方がいいっ!


「そうよ、麻弥。まるで学校までダメ姉みたいな言い方、やめてよね」

 しまった、自ら墓穴を掘ってしまった。

「だってぇー、おねぇちゃん、お家じゃあ、まるでダメっ子だもん。麻弥の目の届かない学校でも大丈夫なのかなって、気になるじゃない」

「うぁーっ、もぉー恥ずかしいじゃないの麻弥、友達の前で、そういう事言わないのっ!」

「ふふっ、随分としっかりした妹さんだね。まるで、妹を心配するお姉ちゃんみたいだなぁー」


 うわぁー、まだ交友関係の浅い、喜多村くんにまで言われてしまったよ。ショック!


「喜多村さん、おねぇちゃんをお家まで送ってくれて、ありがとう」

「いえ、どういたしまして。じゃあ、僕はそろそろ帰るね」

「うん、気を付けて帰ってね」

「喜多村さん、これからもおねぇちゃんを、ヨロシクねっ!」

「うん。じゃあね、また!」

 今日はボク、ほんとツイテる。神様に感謝しなきゃ。



「だだいまぁ~。ママぁ~」

「ただいま」

「おかえりなさい。あらっ? 二人共、一緒だったの? 真結花は今日遅かったのね、何してたの?」

「うん、ちょっと部活の見学で遅くなっちゃった」

「部活って何? おねぇちゃん、学校で何か部活に入ったの? サッカーの方はどうするつもり?」

「部活っていっても、美術部なんだけど、正規部員じゃなくて、準部員って感じ?」

「どうゆうこと? おねぇちゃん」

「うん、美術の時間に美術担当の先生から、空いている時だけでいいからって、スカウトされたの」

「それって、幽霊部員なわけ?」

「そういうわけじゃないんだけど、気分転換に絵を描くのも面白そうかなって、思って」

「じゃあ、サッカーの方はどうするの? おねぇちゃん」

「うん、とりあえず、リハビリ練習してから考えようかなって」

「ママは、真結花の好きにすればいいと思うわよ。かけもち出来るのなら、出来る範囲で無理はしないでね。体だけがママは心配だから」

「うん、わかった、無理はしないようにするから」

「そう、本当に体だけは気を付けてね」

「うん。ところで、ママ?」

「なに? 真結花」

「仕事の方はいいの? 最近早かったり、休んだりする日が多いみたいだけど…」

「真結花は気にしなくてもいいのよ。オーナーさんとは昔馴染みだから、仕事のシフトを変えてもらったり、休みも融通効かしてもらい易いの。そのうち、時間に融通が効くフリーになることも考えているの」

「へぇー、そうなんだ?」

「麻弥も、おねぇちゃんが暫く学校休んでた頃から、気になってた」

「二人に変な気を使わせちゃって、ごめんなさいね」



 自分の部屋に戻ろうとすると、何か用事でもあるのか? 麻弥も一緒に部屋に入って来た。

「ねぇ、ねぇ、おねぇちゃんも結構やるわねぇー」

 麻弥が、俺の体を肘で突きながら言ってきた。

「えっ? 何のこと」

「何って、またまた、とぼけちゃってぇ~。喜多村くんと友田くんと、二股じゃないの?」

「なっ、何言ってんのよ、そっ、そんなんじゃないって、二人共ただのお友達よ」

「ふふーんっ、ホントにそうなのかなぁー? そうやって意固地に否定するところが、なんかアヤシイなぁ~」

「もう、バカ言ってんじゃないのっ!」

「でもさぁー、喜多村くんのおねぇちゃんを見る目、どう見ても恋する男の子だったわよ」

「きっ、気のせいよ」

「ホント、おねぇちゃんって昔からそうゆうの、鈍感よねぇー」

「もう、また何言ってんのっ!」

「でも、喜多村くんって、カッコよかったなぁー、麻弥、ひと目惚れって感じ? おねぇちゃんにその気が無いなら、麻弥がアタックしちゃおっかなぁー」

「えっ?」

「あっ! 今、一瞬動揺したでしょ? やっぱり、おねぇちゃん、喜多村くんのことが気になるんだ?」

「もぉー、麻弥は、人をからかうのもいい加減にしてよー」

「でも、気にはなるんでしょ? 正直に言いなさいよぉー」

「うっ、うん」

 うああーっ、何言ってんだー、俺って。かっ、勝手に口が…

「ほら、やっぱり。おねぇちゃんって素直じゃないんだから、もっと素直にならないと、ソンするよ」

「えっ、でも… そうゆの、苦手だし…」

「もう、じれったいわねぇー、そんな事言ってたら、喜多村くん、他のコに取られちゃうわよ。好きなら好きっていう感情を素直に表に出せばいいの、わかった?」

「そうゆうの、自信がないし…」


 俺が男の子を好きになるなんて、おかしいだろ、ふつー。

でも、何なんだ? 今日、喜多村くんのひたむきに練習に打ち込む姿を見てからの、この胸の息苦しさというか、締め付けられるような感じというか、妙なドキドキ感というか。これってやっぱり、その… “初恋”ってやつですかぁー? あーっ、また何言ってんだー、俺って! バッカじゃないの? キモイって。


「あちゃー、おねぇちゃんって、全然自分の事わかってないのね。おねぇちゃんが自分で思っているより、ずっと可愛いんだから、もっと自信を持たなきゃ」

「えっ? そうなの?」


 確かに、鏡に写った姿は美少女の部類に入るのはわかっているけど、心の中の“俺”という存在と、鏡に写った姿が何だか一致せず、未だに、自分の体なのに、まるで他人の体を借りているように、思えちゃうんだけど。


「そうよ、だから、もっと自信を持ってもいいの!」

「ねぇ、麻弥、ちょっと聞いてもいい?」

「なに? おねぇちゃん、遠慮なく言ってよ」


 俺が男の子を好きになるなんて、本当に頭がおかしいのか? ヘンタイなのだろうか?

改めて冷静に考えると、このヘンな気持ちの正体はホントに“恋”なのか? この際、ハッキリと確認したくなり、麻弥に思いきって打ち明けることにした。


「うん、実は、今日、喜多村くんのひたむきに練習に打ち込む姿を見てから、胸の息苦しさというか、締め付けられるような感じというか、妙なドキドキ感っていうのか、なんか気持ちがずっとふわふわしてて、おかしいの」

「それって、もう立派な恋患いのサインだよ!」


 やっぱりそうか、思い切って確認しておいてよかった。確認しなければ、悶々として今晩寝られないところだったよ。俺って、男なんだとばかり思っていたが、心の奥底に隠れている本当の気持ちは、女の子なんだろうか?


「その恋患い、麻弥も経験したことがあるの?」

「うん、もちろん。むしろ、おねぇちゃんが一向にそんな気持ちにならない事に心配していたの。ようやく恋に目覚めたか、よかった、よかった。これは、ママに言って、お赤飯炊いてもらわなきゃ」

「えっ? そんな大げさなぁー、ママには言わなくていいって、恥ずかしいから」

「だって、麻弥もうれしいの。おねぇちゃんがふつーに女の子だって、分かったから」


 やっぱ、あの事故で頭打ったから、頭がおかしくなったんだろうか?

もしかして、気持ちまで体に同化して、段々と女の子になって来てるんじゃないの?

だとしたら、これがある意味、女の子として自然な反応で、本来あるべき姿なのだろうか?


「麻弥、あのさー、実は、喜多村くんとメルアドと電話番号を交換して、試験明けの日曜日、一緒にサッカーの練習する約束したの」

「おっ、おねぇちゃん、早速やるぅ~。やれば出来る子じゃん。麻弥も全力で応援するから、頑張ってねっ!」

「うっ、うん」


 うーん。果たして、全力で応援されちゃっても、いいものだろうか?

まだ、心の整理が出来てなくて気持ちが浮ついているし、麻弥に確かめてみたものの、正直なところ、自分自身、このヘンな気持ちがホントに“恋”なのか何なのか? よくわからない。今度、喜多村くんに会う時に、それを確かめることが出来るけど、なーんか、フクザツな気持ち… 


「まゆかー、まみー、夕食の準備が出来たから降りてらっしゃい」

「はぁ~い、ママ」

「はぁーい」


 真結花に、ようやく恋心が芽生えたようですが、本人は半信半疑な様子。

さて、真結花と喜多村くんの恋の行方はいかに…


次回につづく。


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