#14:とどきますように。
「はぁー。ようやく明日から学校かぁー」
あれからかなりの間、ガッコ休んじゃったけど、みんなは以前と同じように接してくれるのかな?
あぁ、なんか、不安と期待が入り混じった複雑な気分。
さっ、今日は、早く寝なくちゃ。
そう思い、部屋の照明を消して、ベッドに入ろうとしたとき、
「あれっ?」
枕元の携帯に、いつの間にかメールの着信があったことに気付いた。
さっき、下に降りてた時に届いたのかな?
「誰だろ? こんな時間に。迷惑メール?」
俺は枕元の携帯電話を手に取り、その見慣れない怪しげなメールアドレスを睨み付け、
メールを開いてみた。
「えっ? これ、パパからのメール?」
そいえば、自分のことで手いっぱいで、パパのこと、すっかり忘れてた。
家族ほっぽいて、パパって、いったい、何してんだろ?
確か、パパは海外に居るって言ってたよね? ママは。
「えっと、なになに?」
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真結花、元気にしているかい?
パパは、こっちで元気にやっているよ。
まだ、暫くはそっちに帰れそうにないんだ。
真結花、向こうに行ってから連絡しなくて、済まないと思ってる。
ママとは時々連絡を取り合ってるんだが、
真結花の事で、パパが口出しするのも何か気が引けてね。
真結花の事は、ママに任せてたんだ。
でも、ママが真結花の様子が最近おかしいって連絡して来たもんだから、
気になってね。
本当はメールじゃなくて、電話で直接、真結花の声が聞きたかったんだけど、
時差の関係もあるからメールで連絡したんだよ。
突然のメールで驚いたかい?
今思えば、真結花にもっと早く連絡しとけば良かったって、後悔しててね。
少しでも真結花の力になれたらと思ってメールしてみたんだ。
真結花の部屋の本棚に、『とどきますように。』っていうタイトルの詩集、
置いてあるだろ?
その詩集は、以前にパパが真結花に送ったものなんだ。
その詩集、読んでみてくれないか?
きっと、今の真結花に、何かのヒントを与えてくれると思うんだ。
パパには、こんなアドバイスしか出来ないけど、
真結花の事は、パパも遠くから応援していることを忘れないで欲しい。
だから、頑張れよ!
そっちに帰れることになったら、また連絡するから、
それまで、元気でいろよ!
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「パパ、ありがと」
なんか、うれしいな!
パパからのメールなんて、全く予期してなかったから。
俺は枕元の照明をつけて、パパの言っていた本でも読むことにした。
どうせ、中々寝付けないだろうし、読んでるうちに眠たくなるかも。
さっそく、その『とどきますように。』と書かれたタイトルの詩集を手に取って、
ページを開いてみた。
はしがきには、作者の思いが、こう書かれてあった。
私と同じこの足元では、今、この瞬間にも悩み、苦しむ人達がいるのだと思います。
その人達の為に、私に何か出来ないのでしょうか?
もの書きに出来ることは、たかがしれていると思うのです。
でも、私には、書くことしか出来ません。
今の私に出来ることと言えば、
今、この瞬間に、この本を手に取っている“あなた”に、
この本を通じて、応援のメッセージを送ることだけなのです。
“あなた”だけでも構わないのです。
今の“あなた”に、
少しでも明日を生きる勇気、元気、活力を与えられれば、
そして、明るい未来への希望を持って頂ければ、心を癒すことが出来れば、
私がこの本を書いた甲斐があったということでしょう。
私の言葉が、少しでも今の“あなた”の心に、とどきますように。
そして、“あなた”が幸せになりますように。
つづいて、本文を読んでみた。
『ひと』
ひとは、なんのために生きてるの?
それは、ひとのために生きてるんだよ。
なぜ、ひとのために生きるの?
それは、あなたも、ひとのために生きているからさ。
わたし、ひとりなの。
あなたは、ひとりじゃない。
見えない誰かと、どこかで、繋がっているのさ。
どうしてわかるの?
それは、あなたがこの世に生まれたからさ。
『人生』
人生に疲れた。今日も、明日も、明後日も、先が見えない。
ただ、ただ、毎日を無駄に生きてると。
そう思っているあなた。
そう、あなたは、今だけ不幸なのです。
でも、それを受け入れた瞬間、
あなたは、今よりもずっと、強くなれるはずです。
もう、これ以上の不幸のどん底はないのですから。
これから、少しずつ、一歩ずつ、幸福へ向かって、
上っていくだけなのです。
どうか、思い留まってください。
『未来へ』
誰にも頼らず、ここまでやってきた、頑張り屋さんのあなた。
ここまで頑張った自分を、もっと、褒めてあげてもいいのではないでしょうか。
もうそろそろ、ひとりで頑張ることに、疲れてはいませんか?
誰かに、頼ってもいいのではないですか?
頑張り屋さんのあなたでも、壊れてしまいます。
あなたの中で、今は、何合目なのでしょうか?
この先、目指すべきは、まだ遠い頂上ですか?
時には、下山、一休みも必要なのです。
今の、あなたの素直な心の声を、聞いてあげてください。
『生きがい』
何が生きがいで、何が生きがいじゃないのでしょうか?
生きがい。それは、見つけなくてはいないものなのですか?
何も見つからなくても、生きてはいけないのですか?
見つかるまで、待ってはくれないのですか?
夢、目標、趣味、お金、宗教、恋愛、結婚、家族、
地位や名誉だけが“生きがい”なのですか?
それらの、カタチや物が無いと、生きてはいけないのですか?
ひとはそれぞれ、置かれた立場、人生のスタートが違うのです。
どうゆう“生きがい”を見つけるかは、あなた次第なのです。
『あなたは誰ですか』
あなたは誰ですか?
あなたは、あなたなのです。
無理してまで、今のあなた自身を変える必要はありません。
自分に無いものを求めるのは遠回りです。
自分にあるものを見つけるのは近道です。
あなたは、どちらを選びますか?
あなたの心の向く方を選んで下さい。
『自分を大切に』
あなたは、あなた自身を卑下したり、見捨てたりしていませんか?
あなたが、あなた自身を愛せないのなら、
いったい、あなた以外の誰が、あなたの心を救ってくれるのというのですか?
あなたの心を救えるのは、あなた自身しかいないのです。
他人には、あなたの心の中は見えません。
あなたは、あなたの悪い面ばかりを責めてはいませんか?
あなたにも、必ず良い面があるはずです。
あなたが、あなた自身で気付いていないだけなのです。
私達は、完璧ではありません。
誰もが、良い面と悪い面の両方を、心に持っているのです。
目を覚ますと、枕元の照明がついたままだった。
昨晩、詩集を読んでたら、そのまま寝ちゃってたみたい。
今日は珍しく朝から目覚めも良く、気分も落ち着いてた。
「さぁー、今日からガッコ! ガンバんなきゃ!」
ベットから上体を起こし、思いっきり両手を突き上げて背筋を伸ばしていると、
トントン。
「はぁーい」
カチャ。
「なぁーんだ、おねぇちゃん、起きてたんだ。珍しいわねぇー」
「なに? 起きてちゃ悪いわけ? 麻弥」
「そういうわけじゃないけど、麻弥の出番がなくなちゃって、残念!ってね。
おねぇちゃん叩き起こすの、毎日、楽しみにしてたのにぃー」
「なによ、それ。麻弥ってS?」
「さぁー? まっ、そんなこと気してないで、せっかく早く起きたんだから、早く支度しないと。今日からガッコでしょ?」
「うん」
「じゃあ、途中まで一緒にいこ! 支度終わったら、声掛けて!」
「うん」
よかったぁー。おねぇちゃん元気そうで。少し、前の感じに戻ったみたい。
ふふっ、“パパ作戦”、大成功ねっ!
ったく、パパったら、麻弥たちほっぽいてさぁー、
こっちからせっつかないと、連絡ひとつよこさないんだからぁ!
おねぇちゃんがピンチな時ぐらい、パパにも役に立ってもらわないと困るっていうの!
こっちは、大変だったんだから! おねぇちゃんの事で、ママだって気苦労が増えてさぁー。
今度家に帰って来たら、パパ、お仕置きよ!
家族ほっぽいたバツとして、それ相応の代償、払ってもらうんだからっ。
パパ、覚悟しときなさいよ!
独身気どりで羽を伸ばせるのは、今のうちだけなんだからね。
さてと、パパには何してもらっちゃおっかなぁ~。
パパが帰って来るの、楽しみよねぇ~。なんか、ワクワクしちゃう。
「へっくしゅん! あれっ? 俺、風邪でもひいたのか? まだ先は長いからな、体調管理には気付けないと。それにしてもメール、ちゃんと真結花に届いたかな? 後で、麻弥に確認しておくか」
ようやく、少し元気を取り戻した様子の真結花。
このまま、順調に立ち直ってくれればいいのですが…
次回につづく。