表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/52

#13:ナゾの正体、見たり!

 自分が何者なのか? そのことで、苦しんでいた様子の真結花。

真結花は、この苦しみから逃れられるのでしょうか?

 昨晩、寝る前に色々と考え過ぎて、中々寝付けなかったせいか?

今日は、昼過ぎまで寝込んでしまった。

一晩眠れば、気分も、考え方も、多少ポジティブに変わるのかなって思ってたけど、

現実はそう甘くもなく、夕方近くになっても、昨日の事を引きずったまま、気分は重い状態だった。


 どうしよう? このままの凹んだ気持ちのままじゃあ、とても、何もやる気が出ないよ。

本当に“うつ”や“引きこもり”になっちゃうのかな?

 あの事故以来、ようやく女の子として、この家の家族として、徐々に前向きな気持ちになってきたっていうのに、また、どん底に突き落とされて、振り出しに戻っちゃったって、感じだよ。

あんなこと、ママに聞くんじゃなかった。


 でも、いくら気にしなようにしてても、あの事故の相手の事が、心の中でトゲのように引っかかっていて、もやもやし続けていて、とても、聞かずにはいられなかったんだ。

 この休みの間も、鮎美ちゃんや、里子ちゃん、ママや麻弥が懸命になって俺を精神的に支えてくれて、ここまで、なんとか精神の安定を保ってこれたっていうのに…

このままじゃあ、みんなの期待にも答えられず、学校に行くのも気が重い。

 でも、この出口の見えない闇のトンネルから、なんとかして抜けださなきゃ、

ここまで、懸命に尽くしてくれた、みんなの好意が、全て、ムダになっちゃう。

このままの精神状態じゃあ、ホント、みんなに申し訳ない。合わせる顔がないよ。

こうやって、後ろ向きなことばかり、グダグダ考えていないで、

なんとかして、前向きで、元気な気持ちを取り戻さないと。


 とにかく、気分を切り替えるためにも、今は現実逃避したい、そう思ってラジオのスイッチを入れ、

流れていたJAZZに暫く耳を傾けていた。


 すると、


 «ここで、臨時ニュースをお伝えします。先ほど、関東圏を中心に、若い女性の背後からナイフを斬り付けてケガをさせるという連続通り魔事件の犯人が、おとり捜査中の女性警官らに逮捕されたとのことです。現在、犯人の詳しい情報については、まだ入って来ていません。詳しい情報が入り次第、お伝えいたします»


 これって、まさか、俺の事故と関係あるんじゃないの?

ママは、背後からぶつかって来た男の人が、そのまま逃げるように行ってしまったと言ってた。

それから、警察から事情を聞いてたとも。

ということは、もしかして、俺の背後からぶつかったのは、この通り魔だったの?

そのこと、ママは隠してた? 俺が、精神的なショックを受けないように。

 そういえば、この右肘の傷って、転倒した時の傷だって病院で聞いたけど、本当なのかな?

この傷、ナイフで斬り付けられたとか。

そう思った瞬間、背筋にゾクっとする寒気が走った。


 いや、でも、それはいくらなんでも考え過ぎ?

俺って、どうも思い込みが激しいみたいだから、俺のは、きっと、ただの偶然の事故だよね?

だって、帰宅ラッシュだったっていう話だし、混雑してたら、他人とぶつかることもあるよ。

そう、そうに決まってるじゃん。

俺が、通り魔に襲われたなんて、今、そう思っただけでも恐ろしくて、そんなこと、考えたくもない。

まさか、こんなこと、ママに聞くわけにもいかないし。


 あぁー、もうぉー、せっかく凹んだ気分を変えようと思って、JAZZ聴いてたところなのにぃ…


「もう、気分ぶち壊しっ! ったく、超サイアク!」


 俺は、ラジオのスイッチを切り、今度は、本棚から小説を適当に取って、ベッドに寝転びながら読み始めた。


「んっ?」


 読み始めたその小説には、主人公の男性が交通事故に遭い、同乗していた女性と心が入れ替わるシーンがあった。

まさか? そう思い始めた俺は、気になって、別の小説を手に取り、パラっと読んでみた。

次に目に止まった小説シーンの中には、駅のプラットホームで主人公の少女が彼氏との別れ話を切り出して、少女が電車に乗り込もうとしていたところを彼氏がそれを阻止し、二人がもつれ合ってプラットホームで転倒するシーンがあった。


 これって、正に俺の事故の記憶に近いじゃん。

益々気になりだした俺は、更に、小説を片っ端からパラっと読んでみた。


「えっ!」


 俺は穴が明くほど、その小説の一点に視線を集中した。

恋愛小説の中に、“緒方裕也”なる名前の主人公が登場してたんだ!

俺が、杏菜ちゃんに言った、『ドラマの原作小説を読んだことがある』っていうのは、

ウソや出まかせでもなく、確かな記憶であったということが、今、わかったんだ!


 ここで、俺の中で、かなり信憑性の高いと思われる、ひとつの仮説が生まれた。


 やはり、あの事故の記憶は、俺が今まで読んだ小説の中で、印象深かったシーンや感情移入した登場人物達の記憶が重なり合って作り上げられた、架空の物だったのかも?

そして、あの事故がリアルな鮮明な映像として、記憶に残ってたのも、杏菜ちゃんが言ってた“うちしゅん”主演のテレビドラマを、俺が見てたんじゃないの?


 事故のショックで、俺の記憶が混乱してたのは確かだろう?

事実、今、過去の記憶が無いことだし。

そして、俺の“緒方裕也”に関する記憶が、小説内容と一部一致していたことも確か。

俺の記憶の中に存在する“緒方裕也”という謎の正体が、この瞬間に、解けたような気がした。


 これらの情報をまとめてみると、現実の出来事として、認識していたあの事故の記憶は、事故のショックによって、脳の中で様々な記憶が結びつけられて作り上げられた、夢の中での出来事だったのだろう。その出来事が、あたかも、自分の身に起こった現実の出来事のように、脳に記憶されてしまった?


 そもそも、冷静に考えれば、人の入れ替わり現象なんて、科学的な根拠も無く、

何も立証されていないわけだし、漫画や小説で語られる、ファンタジーの世界の話であって、非現実的な出来事であるのは、間違いないと思う。


 でも、ナゼ、そんな事になってしまったのかなぁ? それは、いくら考えたところで、わかんないだろうけど、頭も軽く打ってたらしいし、事故のショックが、余程大きかったってことなのかなぁ?

 まさか、本当に通り魔に襲われたとか… イヤイヤ、それは、もう考えるのよそう。

仮に、もし、そうだとしても、記憶にないんだから、今更、事故のイヤな出来事、思い出さなくてもいいじゃん。

もし、そんな事、知ってしまったら、今の精神状態じゃあ、絶対、耐えられなくなっちゃう。


 まぁ、それは、もう終わったことだし、これから前向きな気持ちなるためにも、この際、ママが言ってたように、もう忘れちゃった方がいいのかも。

 でも、未だにわかんないのは、ナゼ、体は女性なのに、心の中では“俺”という身元の分からない男性として認識し続けているのだろう?

この点については、今、どう考えてもサッパリ。

ただ、“緒方裕也”というのは、小説やドラマに登場する架空の人物であって、その男性と魂が入れ替わったわけじゃない。

この事実だけは、今、ハッキリとしたわけだけど…


 そう思うと、今まで心の中でもやもやし続けていたものが、少しだけ晴れて、なんとなくホッとした気分に包まれた。

 そして、ママは俺の本当のママで、麻弥は俺の本当の妹、鮎美ちゃん達は俺の本当の友達だったということが、何よりも俺に安心感を与えてくれた。

そう思っていたら、気分が随分と楽になり、凄く安心したのか、自然と涙が溢れてきた。




 トントン。


「おねぇちゃん、夕ご飯の時間よ」


「うん。先に行ってて…」


 おねぇちゃんの声、沈んでて、凄く暗いよ。どうしたのかな?

やっぱ、昨日、なんかあった? なんか、凄く落ち込んでた様子だったし、

今朝も寝てたから、声掛けられなかたんだ。

 もしかして、まさかっ! 

おねぇちゃんに限って、そんな変なこと、考えてないよね?


 カチャ。


「おねぇちゃん?どうしたの?」

 麻弥がドアを開けて、俺の顔の様子を窺っていた。


 俺は、とっさに顔を背けて涙を袖で拭った。


「ねぇ、おねぇちゃん、今、泣いていたの?」

「えっ? 泣いてなんかいないよ?」

「ウソ!」

「何で?」

「だって、目が赤いもん」

 

 やっぱり、誤魔化せなかった。


「へへっ、実は、さっきまで小説読んでて、つい、主人公に感情移入しちゃって。それで、泣いちゃった。麻弥に泣いてるところ見られちゃって、ちょっと恥ずかしかったの」

 俺は思い切り、作り笑顔でそう答えた。


 麻弥にも、変な心配を掛けたくはない。

しかし、こんな下手な演技で、麻弥を騙せたのだろうか?


「ねぇ、おねぇちゃん、ここ最近、ずっと何か悩んでない?」

「えっ!」

 さすがにカンの鋭い我が妹!

こんな下手な俺の演技が通用しないってのは、わかってたけどさぁ。


「だって、おねぇちゃん、ここ最近、何か悩み事でもあるのか、考え事しているようにボーっとしていること、多かったもん。特に、昨日は凄く落ち込んでた様子だったし。麻弥は、いつもおねぇちゃんの味方よ! 悩み事あるんだったら、ひとりで悩んでないで、麻弥に何でも言ってよ! 麻弥だって、おねぇちゃんの力になりたいの!」


 しまった。俺って、知らず知らず毎日、そんなにボーっと考え事してたんだ?

昨日、落ち込んでたのは確かだけど。

麻弥って、俺の意識しないところで、毎日ちゃんと見てたんだ、俺の様子。

って、ことは、ママに心配掛けないための、カラ元気なフリも、バレてた?


「ありがとう、麻弥。でも、今はまだ言えないの。これは、わたし自身の問題だから。心の整理が付くまで、もう暫く待ってくれないかな?」

「うん、わかったわ。麻弥も悪いの。つい、おねぇちゃんを追い詰めるようなまね、しちゃってた。いくら家族でも、言いたくないことってあるもんね。ほんとゴメンね、おねぇちゃん」

「うぅうん。麻弥の、その優しい気持ちだけで、十分うれしいから」

 そう言った瞬間、胸にじーんと熱いものが込み上げ、また涙が溢れてきた。


 麻弥って、ホント、姉思いで、優しい子。

俺には、もったいないぐらいの妹だよ。こんな情けない姉で、ホント、ごめんね、麻弥。


「もぉー。最近のおねぇちゃんって、ホント、泣き虫よね」

「へへっ」

 俺は泣きながら、懸命に笑顔を作った。


「気が落ち着いたら、ダイニングに来てよ。夕食が待っているから」

「うん」

 そう言った後、麻弥は部屋を出て行った。


 どうしよう? このまま、直ぐにダイニングに行くのは気まずいよなぁ。

さっきのさっきだから、気恥かしくて、とても麻弥と顔を合わせられないよ。

それに、ママにもこんな泣いた後の顔、見せたくないし。

ちょっと横になって、気分を落ち着かせなきゃ。



「ねぇ、ママ。ここ最近、おねぇちゃんがずっと何か悩んでるの。特に、昨日は凄く落ち込んでたし。さっきも、部屋で独り泣いてたわ。ママも何か気付いてた?」

「えぇ、もちろん。真結花のママですもの」


「やっぱ、ママも気付いてたんだ。麻弥も薄々気付いてたんだけど、なかなか切り出せなくって」


「そう。学校休むようになってからの、ここ最近の真結花、どこか、こう無理して私達家族に心配かけないように、元気な素振りを見せたり、時々、心、ここにあらず、ってゆうような顔をしてた事があって、気にはなっていたわ。でも、こちらから無理に真結花の心のドアにノックしようとすると、直ぐに壊れてしまいそうな、ガラス細工のように繊細な、そんな危うさが今の真結花に漂っているの。だから、今は真結花をそっと、傍らから見守ってあげるしかないのかなって、思っているわ」


「うん、わかった。さっき、おねぇちゃんと話したんだけど、悩みを聞こうとしたら、

『心の整理が付くまで待って』って言われたの」


「そう。真結花は真結花で、自分の中で、心の葛藤と戦っているのよ。それを聞いて、ママも少しは安心したわ。だから、ママ達は真結花が心から落ち着く環境を作って、待つしかないの」


「ママ、心から落ち着く環境って?」

「そうねぇー、しいて言うなら真結花が真結花のまま、自然態で居られるように、真結花の好きなように、ありのままにさせるって事かしら。真結花に無理強いさせないって事かな」


「わかったわ。麻弥もおねぇちゃんに変にストレスを与えるような事や、余り気乗りしない事、嫌がる事をしなきゃいいのね」

「そうね。でも、急に今までと違う接し方をしたり、あからさまに態度を変えちゃダメよ。あくまでも、自然に振舞わなきゃいけないわよ。真結花だって、変に気を使われてるって、直ぐに気が付くわ。だから、とにかく、暖かく見守ってあげるような、優しい気持ちで接してあげて」


「うん。麻弥も気を付ける。鮎美ねぇさんにもこの事、伝えてた方がいいのかな?」

「そうねぇー、真結花の一番の友達だから、鮎美ちゃんにも伝えてた方がいいわね。真結花のことは、以前にも気になって、鮎美ちゃんに話したことがあるわ。真結花も、私達家族より、同い年の鮎美ちゃんの方が、何かと気兼ね無くて、心を許し易いかもしれないわね。麻弥、真結花にばれないように、こっそりと伝えておいてくれる?」


「うん、鮎美ねぇさんと二人になるチャンスがあれば、こっそり伝えておくね。あっ、電話やメールでもいっか」

「電話は、家じゃダメよ。真結花に、何処で聞かれているか分からないから、メールか直接会って伝えてちょうだい」

「うん、そうね。そうする」




「ねぇ、ママ。麻弥、もう待てないよ。お腹、減ったー」

「そうね、遅いわね。真結花、いったい、何してるのかしら。まゆかー、夕ご飯はどうするの~」

「……」

「あらっ? 返事、無いわね。麻弥、真結花の様子、見て来てくれない?」

「うん」




 トントン。


「……」


「あれっ? おねぇちゃん、やっぱ、返事ない。どうしたのかな?」

 しまった! まさかっ! そんなっ! おねぇちゃんに限ってっ!


 カチャ。


「えっ!」

 おねぇちゃん、ベッドの上で、横になって倒れてる!

 

 そんなぁー!




 なぁーんだ、おねぇちゃん、寝てたのね。

きっと、泣き疲れたのよ。


「ホッ」


 もうぉー、ビックリしたぁー。ホントに。

一瞬、心臓が張り裂けそうだったよ!

でも、ホント、よかった!

おねぇちゃんが変なこと、考えてなくて、安心したよ。


 ったく、妹にこんな変な心配させてといて、ホント、罪よねぇー、おねぇちゃんったらっ。

以前のおねぇちゃんなら、麻弥がこんな変な心配しなくても、よかったんだけどなぁ。

ホント、麻弥がおねぇちゃんに構わなくても、全然へーき、って感じだったしぃ。

麻弥が、おねぇちゃんに甘えようとしたら、『麻弥はウザいっ!』って冷たくあしらわれてたぐらいだったのよねぇ。

そう、性格は、正に男前な感じ?

そうゆう強いおねぇちゃんに憧れてたし、好きだったんだけどなぁー。

でも、いいのっ。

麻弥にとっては、今の頼りない、弱々しいおねぇちゃんも、おねぇちゃんに変わりはないんだからっ。


 ふふっ、おねぇちゃん、何だか安らかな、幸せそうな、カワイイ寝顔してる。

天使の寝顔って、正に、こうゆうのをいうのかな?

なんだか、ほっぺにチュって、キスしたいぐらい、カワイイ寝顔ね。

 殆ど毎日起こしに来てたけど、おねぇちゃんのこんなカワイイ寝顔って、

今、初めて見たような気がするよ。

 あぁ、もうぉ、なんだかスッゴく癒されるって感じ? こうして、ずっと見ていたいな。

もうぉー、ダメダメっ。

つい、うっかり、見とれちゃってたけど、

このまま寝かせておいたら、風邪引いちゃうよ。

お布団掛けとかなきゃ。


「よっと。これでよしっと」


 なんか、こうして、おねぇちゃんの面倒見てると、

麻弥がお姉さんになったような、ヘンな気分。

 さっ、おねぇちゃんが起きないように、音を立てずに、そっと部屋をでなきゃ。

お部屋の照明は消してっと。




「麻弥、真結花はどうしてたの?」

「おねぇちゃん、泣き疲れたのか、寝てたよ。だから、お布団掛けておいたよ」

「麻弥、ありがとう。じゃあ、そのままにしておいた方が良さそうね」

「うん」

「真結花が居ないのは少し寂しいけど、ママ達だけで夕食にしましょう」

「うん。そうね」

 自分が、いったい何者なのか?

真結花自身にも、その疑問の全てが、解けたわけではなさそうです。

 ただ、それでも、少しだけ、明るい兆しは見えてきた様子。

学校復帰に向けて、少しは前向きな気持ちになれたのでしょうか?


 次回につづく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ