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#11:なかまたち。

 学校で、急に友達が増えた真結花。

真結花は、彼女達と上手く付き合っていけるのでしょうか?


 午前中の授業を終え、鮎美ちゃん、智絵ちゃん、杏菜ちゃんと俺の4人は、学食に向かっていた。

学食に着くと、結構込んでいたが、幸い、4人分の席が端の方に見つかった。


「前から気になってたんだけど、智絵ってさぁー、もしかして、毎日自分で作ってんの? そのお弁当」

 鮎美ちゃんが、日替わりランチの箸を止めて聞いた。

「うん、そうよ」

 智絵ちゃんは、さも涼しげな顔して答える。

「スッゴ~イ、杏菜は料理全然ダメ、料理デキル子って憧れちゃう」

「真結花は、いつもお母さんの愛情弁当だもんね。羨ましいわねぇ」

「杏菜ちゃんって、見かけによらず、よく食べるのね」

 俺は、杏菜ちゃんの目の前に置かれている“カレーライス”と“うどん”を見ながら、その食欲に、ついそう言いたくなってしまった。

「そうそう、杏菜って、そんだけ食べて、よく太らないわね。羨ましいわねぇ。いったい、どうゆう胃袋してんのよ?あんたは」


 さっきから気になるんだけど、鮎美ちゃんが、“羨ましいわねぇ”を連発してるよね。

まっ、どうでもいいことだけど。


「まるで、どこかの大食いギャルタレントさんみたいね、杏菜ちゃんって」

 智絵ちゃんも、半分飽きれた風な表情だ。

「ひっどーい。杏菜って、あんなにぽっちゃりしてないもん、食べざかりなだけだもん」

 うん、確かに、杏菜ちゃんって、ちょっとだけぽちゃっとしているけど、

太っているって感じじゃなくて、それが逆に女の子の魅力を引き立てていて、可愛らしいっていうか。

「わかった! 杏菜って、食べた分のエネルギー、全部その胸で吸収して蓄えてんでしょ!」

 鮎美ちゃんが、杏菜ちゃんの大きな胸を指さしている。


「ぷっ。あははっ」

 俺は、思わず笑ってしまった。

「もぉー、ヤだーっ、あゆったら、人が食べているときにそんな面白いこと、突然言わないでよぉー」

 智絵ちゃんもツボにハマったらしく、思わず吹き出しそうになったのをこらえて抗議した。


「そうそう、あゆあゆの言う通り。ナニ? 知らなかったワケ? ふふんっ。実は、杏菜の胸には重大なヒミツが隠されているのダっ。カイセツしようぉ。杏菜の胸は、ラクダさんのこぶと同じしくみなんだぞぉー。食べ物を脂肪にヘンカンし、この胸に、エネルギーとして蓄えているのダぁー。だからぁ、杏菜は太んないの!」


「あははっ」

 杏菜ちゃんのサービス精神旺盛な、そのおどけた喋り方に、俺はまた笑ってしまった。


「そういえばさぁー、明日って、健康診断よね。そこで、面白い事思いついたんだけど」

 鮎美ちゃんが、何やら企んでいる。

「ねぇ、なに? その面白い事って?」

 すかさず、智絵ちゃんが、食い付いた。

「バストサイズから体重を引いた数値の一番少ない人と、二番目に少ない人が、残りの二人にさぁ、駅前のスイーツで好きな物をおごるってゲームはどう?」

「なにそれ? その罰ゲーム、いったい、どう意味があるわけ?」

 思わず俺は、聞いてしまった。

「わかったわ! つまり、その数値で、プロポーションの善し悪しを争うってわけね!」

 さすが、頭の切れる智絵ちゃん。

「それって、ズルくない? 杏菜には不利なような気がするぞぉ~」

「そんなことはないと思うけど。バストと体重の差が大きな人が有利で、バストと体重の差が小さな人が不利っていうゲームだから、誰が有利で誰が不利なのかは、やってみないとわからないと思うわよ」

 確かに、鮎美ちゃんの言う通りかも。

「まぁ、明日、どうゆう結果が出るのか楽しみにしましょうよ」

 智絵ちゃんって、学級委員なんてやってるし、見た目の印象からスゴく生真面目な子なのかと勝手に思ってた。こういった、おふざけにも乗ってくるし、イメージ違うんだ?


「ところでさぁ、先週放送の『うちしゅん』のドラマって見た?」

 杏菜ちゃんが、急に話題を変えてきた。

「ねぇ、その『うちしゅん』って、なに?」

 智絵ちゃんが聞く。

「えっ? ともともって、『内田駿次』っていう期待のイケメン新人俳優を知らないわけでございますか?」

「私、そのドラマ知ってるけど、その時間って、テニスの試合見てた」

 鮎美ちゃんは、いかにも興味なさげな感じで、そう答えた。

「まゆまゆは知ってる?」

 杏菜ちゃんが、こっちに振ってきた。

「ごめん、そのドラマ以前に、わたしの記憶がなかったりして…」

 俺は、そう答えるしかなかった。だって、記憶が無いんだもん。

「あっ! また、やっちった。杏菜って、ほんとダメっ子ね」

 自分で自分にダメ出しする杏菜ちゃん。あんた、ホントに面白いよ。

「杏菜ちゃん、気にしなくていいよ。そのドラマの話、聞かせてよ」

「うん、システムエンジニア役で、眼鏡をかけた華奢な印象の『うちしゅん』がさぁー。駅で、めまいで倒れそうになった女性を、体を張って助けて、恋に落ちるシーンがあったんだぁー。そのシーンが、また凄くカッコ良くてさぁー、後で録画したやつを、何度も再生して見ちゃった」


 システムエンジニア? 駅? 女性を助ける?

俺の頭の中で、それらのキーワードが直ぐに引っかかった。

まさか? そんな事があるのか? そう思いつつ、恐る恐る聞いてみた。


「その『うちしゅん』の役名って、もしかして『おがた ゆうや』っていうの?」

「うん、そうだよ」

 杏菜ちゃんが、不思議そうな顔で答えた。

「真結花、なんでそんなこと、知ってるわけ? 記憶、少し戻った?」

 鮎美ちゃんがそう言った後、智絵ちゃんも、不思議そうな顔をして、俺をの顔をマジマジと見る。

「えっ、えっと、以前にそのドラマの原作小説を読んだような気がして、それで、気になって聞いてみたの」

「まゆかちゃん、何か思い出したのね?」


 鮎美ちゃんや、智絵ちゃんは、俺が、少し記憶を取り戻したように思ったみたいだが、

そうゆうわけじゃない。

俺が、とっさに頭に浮かんだ出まかせを、つい言ってみただけのこと。


「んっ? どうしたの、まゆまゆ? どっか、具合でも悪いの?」


 あれっ? 俺、いったい、どうしちゃったんだ?

急に心臓がドキドキしてきて、息苦しいよ。しかも、なんか、体も熱い。

この急激な、体調の悪さはなんだ? キモチ悪い。吐きそう。

ううっ、急にめまいも… あっ、目の前が真っ白、んんっ…


「あっ! ほんとだ! まゆかちゃん、凄く顔色が悪いわよ!」

「真結花! 大丈夫なの? うわっ! 物凄い熱。これはヤバそうだわ! 智絵! 保健室の如月先生、直ぐに呼んできて!」

「わかったわ!」

「杏菜! あんたは担任の吉澤先生、直ぐに呼んできて!」

「りょうかい!」




「如月先生、木下の容態はどうなんです?」

「倒れた直後は、かなりの高熱のようでしたけど、今は微熱ぐらいで落ち着いているわ」

「そうですか、大事に至らなくて、本当によかった。しかし、余りにも突然のことで、正直、驚きましたよ。今朝、木下の顔を見た時には、至って健康そうな顔色で、元気そうだったので、すっかり安心してたんです。担任として、もっと注意を払うべきでした」

「吉澤先生、まぁ、そんなにご自分を責めなくても。彼女は、事故に遭ったと聞きましたけど、もしかしたら、その後遺症かもしれませんわ。そうだとしたら、突発的な症状が出ても、それは、おかしくはないんですよ」

「どうゆうことでしょうか?」

「『心的外傷後ストレス障害』の疑いがあるかもしれません」

「何ですか?その、『しんてきがいしょうご、ストレスしょうがい』ってのは?」

「簡単に説明すると、命に関わるような事故や、その人にとって非常にショッキングな出来事を体験した場合、それがトラウマとなって様々なストレス障害を引き起こすんです」

「このことは、ちゃんと、木下のご両親に伝えておいた方がいいですよね? 如月先生」

「そうですね、私は専門家ではないので『心的外傷後ストレス障害』と断定はできませんが、その可能性も、少なからずあるかもしれませんね」

「木下の容態が軽いようなら、私が自宅まで送って行こうかと思っていましたが、この様子じゃあ、ご両親に迎えに来てもらった方がいいですよね? 如月先生からも直接、木下のご両親に容態を説明してもらった方がいいでしょうし」

「そうですね、彼女のご両親への連絡、宜しくお願いします、吉澤先生」

「ご両親には、今、直ぐにでも迎えに来てもらった方がいいですかね?」

「そうですねぇー、今の様子だと、彼女は無理に起こさない方がいいでしょうし、出来るだけ長い時間、安静にさせて、暫く様子を見た方がそさそうです」

「じゃあ、ご両親には、放課後、16時頃ぐらいに迎えに来てもらうって事で、いいですかね? 如月先生」

「そうですね」

「じゃあ、そうゆうことで、如月先生、木下を宜しくお願いします」

「はい、わかりました」



 シャー。


「よっ! 仲良しのお三人さん。木下の様子はどうだい?」

「しーっ! 吉澤先生、声が大きいよ。カーテンも、そっと開けてよ。真結花は、今は静かに寝てるんだから、もっと、気を使ってください」

「まゆまゆが起きちゃうよ、せんせい」

「そうですよ。気を付けてください、先生。もし、先生に病気の子供が居たら、もっと注意して接するでしょ?」

「おっ、すまん、すまん、相変わらず手厳しいな、水瀬は。ちょっと、結城に話があるんだが、こっちに来てくれないか?」

「はい?」

「結城、さっきの先生達の話、聞こえてただろ? 先生から木下のご両親に連絡しようかと思ったんだが、結城は木下のご両親、知っているんだろ? 申し訳ないが、結城の方から木下のご両親に学校に来てもらうよう、連絡してもらえないかな? 結城なら、木下のご両親も気心が知れてるだろうし、その方が、余計な心配を掛けなくてもいいだろうと思ってさ」

「はい。いいですよ」




 ブルブル…ブルブル…ブルブル…


「あらっ、誰かしら? こんな時間に」

 えっ? 鮎美ちゃん? もしかして! 真結花に何かあった?


「チーフ、すみません、午後からの予約の件なんですけれど…」

「あっ、ちょっと待ってて、今、取り込み中だから、後で聞くわ」

「わかりました。じゃあ、また、後で伺いに来ますので」


「はいっ、もしもし?」

『鮎美ですけど、お母さんですか?』

「どうしたの? 鮎美ちゃん? もしかして、真結花に何かあったの?」

『ごめんなさい。真結花を頼むって言われたのに…』

「どうしたの? はっきり言って!」

『実は、真結花がお昼休み中に高熱を出して倒れてしまったの。今は、熱も下がって、保健室で安静にしています』

「えっ? どうして、真結花がそんなことに…」

『保健の如月先生に聞いたんですけど、事故の後遺症じゃないかって』

「私、母親としては失格よね。事故に遭ったばかりの真結花を、直ぐに学校へ行かせたりして」

『お母さん、それは、私にも責任があります。

私も、真結花に学校に行きなさいって、無理強いさせるようなことを言ったから』

「終わった事は仕方がないわ。それより、鮎美ちゃん? 真結花、直ぐに病院に連れていかなくてもいいの?」

『保健の如月先生からは、もう少し様子を見て、暫く安静にさせて置いた方がいいって、そう言われました』

「そう、じゃあ、今から直ぐに学校へ行くわ」

『あっ、待って下さい。先生は、16時頃に学校に来て下さいって。出来るだけ長い時間、安静にさせたいって言われてましたから』

「そう、わかったわ。じゃあ、16時頃に学校ね」

『はい』

「鮎美ちゃん、もし、私が学校に行く前に、真結花に何か容態の変化あったら、直ぐに連絡もらえるかしら」

『はい、わかりました』

「真結花をよろしく頼むわね、鮎美ちゃん」

『はい、じゃあ、電話切りますね』


「椎名さーん」

「はいっ、なんでしょうか? チーフ」

「申し訳ないんだけど、今日は仕事を切り上げて、今から帰宅させて欲しいの。娘の体の具合が悪くて心配なの」

「えっ? そうなんですか! それで、チーフは慌ててお電話されていたんですね? 早く帰ってあげて下さい。チーフの抜けた後は、皆でカバーしますので。この後、既にチーフを指名予約されたお客様はどうしましょうか?」

「予約されたお客様には事情を説明して、キャンセルされるのか? 私以外の人に任せてもいいのか? お客様一人一人の希望を、きちんと確認してからカットしてね。お得意様ばかりだから、粗相のないようにお願いね」

「はい。それは、スタッフ全員、当然わかっていることと思いますので。チーフが、いつも言われてることですから」

「あっ!さっき、電話する前に言ってた用件は何?」

「そのことでしたら、先ほどの話で済みました」

「そう、スタッフの皆に迷惑かけてごめんなさいね。じゃあ、後の事はよろしく頼むわね」

「はい、では、気を付けて!」

「ありがとう」




 目の前がなんだか妙に明るい、何だ? これ?

俺は、薄らと目を開けた。

西日がカーテンを、オレンジ色に染め上げていた。

 ここ、どこ? もしかして病院? あの病院に戻った?

オレンジ色に染まるカーテンが、俺の視界を遮っていたので、ここが何処だかわからなかった。

布団をめくって上体を起こすと、制服のまま寝ていたことが分かり、直ぐに現実に引き戻された。

俺は、ベッドから脚を下ろし、カーテンを開いてみた。


すると、

「あらっ! もう大丈夫なのね?」

 

 目の前には、机に向かって何か書類に書き込んでいる、

ショートカットの、40歳半ばぐらいの白衣を着た女性がいた。


「あのぉ、わたしは、どうしてここに居るのでしょうか?」

「何も覚えてないの?」

「はい」

「そう。まぁ、そこに座って。実は、あなたはお昼休み中に高熱を出して倒れて、吉澤先生に抱きかかえられて保健室まで運ばれたの」

「そうなんですか? ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

「私は、特に何もしてないわよ。感謝の言葉なら、あなたのお友達と吉澤先生に言ってね」

「はい」

「さっき、何も覚えていないって言ってたけれど、どこまで覚えてる?」

「えっと、友達と一緒にお昼ご飯食べてて、会話してたら、急にめまいがして、その後のことは何も」

「そう、わかったわ」


「先生、今、何時ですか?」

「もう16時前だけど」

 先生は、ちょっと高級そうに見えた腕時計を、チラッと見ながらそう答えた。


 この人、まだ独身なのかな? どことなく、寂しげな雰囲気が伝わってくるって感じ。

でも、それって、余計なお世話だよね。 人それぞれ、生き方が違うわけだし。

俺だって、こんな状況だし、他人の事なんて、とても言えないよ。


「えっ? わたし、そんなに寝てたんですか?」

「ええ、そうよ。もうそろそろ、ご家族が迎えにくると思うわ。その前に、はいっ、これで体温を測ってね」

 体温計を手渡された。腋に挟み、暫くして、ピッという音が鳴ってから先生に返す。

「平熱のようね、もう心配はないようだわ」

「あのぉ、ところで鮎美ちゃん達は?」

「あぁ、あなたの3人のお友達のこと? 放課後、あなたの様子を見に、保健室に来てたけど、遅くなるから、後は私に任せて帰りなさいって言っておいたわ」

「そうですかぁ」



 トントン。


「ちょうどよかった。どうやら、ご家族が来たようね。はい、どうぞー」


 ガラッ。


「まゆか!」


 ママは、俺を見るなり、だっと駆け寄って、椅子に座っていた俺を、正面から強くギュッと抱きしめた。


「ごめんなさい、まゆか。ママが悪いの、ママが無理強いさせたから」

「ママ、わたしは、もう大丈夫だから」 

 そう言うと、ママは、俺を抱きしめていた腕を解いてくれた。

「本当に?」

「うん。もう大丈夫よ。ママ、心配掛けてごめんなさい。ちょっと、お手洗いに行ってくるね」


「娘さんが席を外してくれてよかったわ。お母さん、実は、ちょっとお話したいことがありまして」

「はい、何でしょうか?」


 事故後の初登校日に、いきなり学校で倒れてしまった真結花。

いったい、真結花の身に、何が起こったというのでしょうか?


 次回につづく。

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