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#10:イザっ!学校へ。(後篇)

 密かに、真結花に想いを寄せていた友田くん。

彼の目の前に立ち塞がるものとは…

 キン~コン~カン~コーン♪


 ガラッ。


「は~い。座った、座った!」


 手を叩きながら、20代後半ぐらいの男性の担任教師、吉澤先生が入って来た。

体育教師でいかにも体育会系の熱血教師って感じ。


「起立、礼、着席」


 凜とした綺麗な声が教室に響く。

号令を掛けたのは、先ほど話かけてくれた智絵ちゃんだ。


「さてと、ホームルームだが、連絡事項をまず一つ。

テレビニュース等で既に知っていると思うが、最近、この地域の周辺で通り魔事件があった。

この地域ではそういった事件は起こってはいないが、

放課後、特に学校に用事の無い者は直ぐに帰宅するように。

それと、部活で遅くなる者は、街灯の少ない道や人通りの少ない道を避けて帰宅するように」


「二つ目、明日は健康診断があるから、体操服や眼鏡を忘れないように」


 なに? 明日が健康診断なの? そんなの聞いてないよ。ってか、記憶にないのか。


「三つ目、来月後半には中間考査があるぞ! 日頃からちゃんと勉強しておけよ」


 えっ!っと思った瞬間、みんなの声からも一斉に”えぇっー!”と不満げな声が上がった。


「最後に、既に知っていると思うが、木下のことだが、事故に遭って記憶の一部を失ったということだ。そういったハンデを今抱えているが、今までと変わらず接してやって欲しい。このことで、虐めるようなヤツがいたら、この俺が許さん。見つけたら、罰として放課後にグランドを何十周もさせてやるからな!覚悟しておけよ」


 先生、何もそこまで言わなくても… さすが熱血先生?


「先生!」

「んっ? どうした? 水瀬」


 智絵ちゃん? 何んだろう?


「学級委員として、クラスを代表して言わせて頂きます。このクラスに他人を虐めるような、そんな人は居ないと私は信じていますし、そういった人がこのクラスから出ないことを心から祈りたいです」


 さすが、智絵ちゃん。学級委員って感じ。


「おお、そうだな。水瀬の言う通りだ! 俺もお前達を信じているからな! ホームルームは以上だ!」


 あぁ、なんだか、クラスのみんなの注目を浴びてしまったって感じ。

学校では、出来るだけ目立たないようにしようって、思ってたのにぃ。

これじゃあ、まるで逆効果じゃん。

 あっ! なーんか、ジロジロ見てるよ、みんな、俺のこと。

もうぉー、この調子じゃあ、学校でも益々気が抜けないよぉ。

ただでさえ、女の子らしくしなきゃって、テンぱってるのにぃ。




 授業の合間の休み時間、トイレから教室に戻ろうとしたら、


「ねぇ、なにムシしてるわけ?」


 廊下ですれ違いざま、知らない女の子に絡まれちゃった。それも、ちょっと不良っぽい子に。

このままムシして素通りしたら、タダでは済みそうにない雰囲気だ。

 もしかして、タカリ? あぁ、初日そうそうツイてないね、俺って。

朝から電車やクラスで注目を浴びるわ、不良には絡まれるわ、もぉー、超サイアク!

神様のイジワルぅ~。


「えっ? ごめんなさい。わたし、あなたに何か気にさわる事でもした?」


 この容姿、自分で言うのもなんだが、いかにも、か弱そうな女の子だもんな?

不良に絡まれても仕方ないけどさぁ。

神様ぁ~。もし、居るなら、ここはどうか、何事も無く、穏便にお願い!


「なぁーに白々しい事、言ってるわけ? あなたの、私への仕打ち、覚えてないわけ?」


 えっ? タカリじゃないの? もしかして、知り合い?


「ごめんなさい。わたし、事故に遭って、以前の記憶が無くて、あなたのこと、思い出せないの」

「あぁーそう。そんなバレバレな大ウソまで言って、私を避けるわけだ?」


 うわっ、マズかった? ホンキで怒らせちゃった?


「ホントなんです。信じてください!」

「もういい! あなたがそのつもりなら、こっちにも考えがあるから!」

 そう言ってぷいっと、彼女は顔を背けて立ち去っていった。


 うっ、わあぁー、どうしよう? めっちゃ怒ってたよ、さっきの子。

事故以前に、あの子に何か悪いことでもしたんだろうか?

 しかし、いったい、誰なんだろう?

他のクラスの子だよね? 鮎美ちゃんの作ってくれた“まゆか相関図”の写真には居なかった子だし。

そうだ、次の休み時間にでも、鮎美ちゃんに聞いてみよう。




「ねぇ、鮎美ちゃん?」

「なに? 真結花」

「あのさぁー、さっきの休み時間に廊下で知らない女の子から声を掛けられたんだけど、わたしがその子のこと覚えてないって言ったら、その子を怒らせちゃったみたいなの。どうしよう?」

「その子の名前、聞かなかったの? 真結花」

「ごめん。その子、かなり怒ってたから、怖くて聞けなかったの」

「その子、どうゆう感じの子?」

「えっと、明るい茶髪のロングヘアーで、スラッとしてて、背は鮎美ちゃんより少し低かったかな? ちょっと、不良っぽい感じの、気の強そうな女の子だったよ」

「う~ん、それだけじゃあ、ぴーんと来ないわねぇ。真結花の中学んときのクラスメイトかなぁ? ごめん、私、中学んとき、真結花とは結局、一度も同じクラスになれなかったのよねぇ~。今は同じクラスで嬉しんだけど。だから、私にはわからないなぁ。でも、顔はハッキリと覚えてるんでしょ?」

「うん」

「じゃあさぁ、家に帰ってから中学生のアルバム探してみたらいいじゃん」

「そうだね。ありがとう、鮎美ちゃん」

「真結花、その子の名前がわかったらさぁ、私にも教えてよ」

「どうするの?」

「一緒にその子に謝りに行こうよ。ちゃんと事情を説明してたら、わかってくれるはずよ」

「うん、ありがとう」


 鮎美ちゃんって、やっぱ優しいよなぁ。なんか、お姉さんみたいで、頼りになるし。

益々好きになっちゃいそう。もちろん、女友達としてね。




 キン~コン~カン~コーン♪


 朝から色々とあったわけだけど、午前中の授業はとりあえず、無事に終了した。

1時間目の授業は、いきなり数学だった。

数学というと、一瞬、不安を感じてしまったけど、授業内容には何とか付いていけたようだ。

その後の授業も心配していた程でもなく、俺の思考回路については、何も問題が無さそうだった。


「ふぅ~」


 俺は、軽く溜息を吐きながら、組んだ手を上に高く上げ、思いっきり背筋を伸ばした。

ここまでの授業では、何とか付いていけたので、ホッとしていた。

正直なところ、今までこの娘が学校で勉強して、蓄積されていた知識も、

この脳の記憶から、すっぽりと消えていたらどうしょう!って、不安に思っていたからだ。


「さてと、空腹を満たしに行きますか? 真結花」

鮎美ちゃんが、後ろから俺の左肩に手を置いて言ってきた。


「えっ? 鮎美ちゃんはお弁当じゃないの?」

「うん、うちのところは両親共働きでさぁー、忙しくてお弁当作ってくれる暇もないみたい。両親共働きでもお弁当作ってくれる子もいるのにさ。私は、いつも学食の日替わりランチだから」

「そう」


 そういえば、ママは専業主婦なのだろうか?

容姿もキレイだし、身なりもオシャレだし、とても専業主婦っていうイメージじゃないよ?


「昼食に行こうよ。まゆかちゃん」

 お弁当の包みを手に持った智絵ちゃんも声を掛けてきた。


「まゆまゆぅー。お昼、いこっ!」

 杏菜ちゃんもやってきた。こっちは手ぶらみたいだ。


 今頃気付いたんだけど、その“まゆまゆ”ってあだ名? この子が付けたんだ。

しっかし、みんな個性のある友達だよなぁ。

一見すると、このグループには何の共通点も無さそうだけど…

 もしかして、唯一の共通点は、この俺ってことなのか?

そんなに人望が厚かったのかなぁ? 以前の真結花は?

でも、それって困るよなぁー。

俺って、リーダー的なタイプじゃないし、

どちらかというと、皆に付いて行って、流されやすいタイプ?

やっぱ、鮎美ちゃんでしょ? このメンバーの中でリーダー的存在って。




「なぁ、友田」

「んっ? 何だ? 喜多村」

「木下さんって、なんか雰囲気変わったと思わないか?」

「うん、そうだな」

「今までと違って、妙にしおらしいというか、物腰がスッゴく女の子しているというか、ちょっと気になって」

「あっ! ダメだからな!」

「何が?」

「木下に惚れるなってこと!」

「何で?」

「何でって、俺が木下に惚れているからに決まってんじゃん!」

「じゃあ、恋敵(ライバル)出現ってことか?」

「なっ、なに~っ!」

「おっ、ちょっとからかってみただけなのに、こりゃ、どうやらマジのようだねぇ~」

「あったりまえよ!マジもマジ、大マジよ!」

「でも、片思い中なんだろ?」

「おう、それがどうしたってぇの?」

「じゃあ、イコールコンディションってことだな」

「なぬ? どういう意味だ、喜多村よ」

「僕にも少なからず、チャンスがあるってことさ」

「こりゃあ、まいったなぁ」


 ううっ、正直、コイツには敵わない。

背も結構高いし、爽やかなイケメンだし、

一年でまだ入部したばかりのサッカー部では存在感十分で、もうレギュラー候補だし。

おまけに、コイツ、頭も良いみたいだし。

 なぁ、たっ、頼むから他の子にしてくれない? 喜多村。

お前、ほっといても女の子にモテるだろ?


「いや、僕だけじゃあないと思うけどなぁ。今日の木下さんを見て、胸キュンしたヤツは多いみたいだし。事故にあったせいか? 少し影があるような、儚いような、こう何か男心をくすぐるような、

この子を守ってあげたい! そうゆう雰囲気が木下さんの全身から出ているからさぁ」 

「やっぱ、お前も、そうゆうの、感じていたのか? こりゃホントにまいったなぁ」

「そうさ、恋敵(ライバル)はこれかも増えるかもな」

「早いとこ、こっちから先制攻撃しないと、ヤバいってことか?」

「いや、今はまだ、暫く様子を見てさぁ、動かない方がいいかもな」

「なんでだ!」

「う~ん、ちょっと、守りが堅そうだからね」

「それって、結城鮎美のことか?」

「そうそう。そういや、友田って、“先制攻撃”なんて言っておいてさぁー、それ以前にカウンター攻撃食らったんじゃないの? 彼女にさぁ。 今朝、友田が木下さんに声掛けて、彼女に教室から引っ張り出されたところ、見てたぞぉ」

「うっ、くっ、見てたの? お察しの通りで」

「やっぱりねぇ。まず、彼女の堅ぁーいディフェンスを何とかして突破しないと、アタックのチャンスさえ伺えないし、まして、先制ゴールなんて、ほど遠いかもね」

「恋の矢は、サッカーのゴールのようには決まりませんってことか?」

「そうゆうことだね」

「あぁ、この切ない気持ち。いったい、どうしたらいいんだよー」

「まぁ、まぁ、そう嘆きなさんなって。こうゆうのは、焦っちゃあいけない」

「ちぇっ、お前はいいよなぁ。モテるからさぁ」

「そんなことないって」

 知らないうちに、クラスメイトの男の子達に好意を持たれた様子の真結花。 

何も知らない真結花の運命はいかに…


 次回につづく。


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