2
「ひっ、ひーッ!」
四郎は腰を抜かした。
わけが分からない。
見たこともない生き物だ。
叫び声を発する際に開く口中にズラリと並んだ牙が、恐ろしすぎる。
「出てきたぞ」
鉄男が怪物たちを指す。
「お前の話と違う」
「え?」
異常な状況にもかかわらず、四郎は引き戻された。
「あ、あの…あれは、いったい?」
「コンピューターウイルスじゃろ」
鉄男が、四郎をにらむ。
「い、いえ! あれはコンピューターウイルスじゃあり」
そこまで言いかけた四郎に、獣の1匹が飛びかかってきた。
無数の牙で、噛み付いてくる。
「ギャーッ!」
四郎は絶叫した。
鉄男が、いつの間にか右手に持っていた鉈で、獣の頭を割る。
闇獣は庭に落ち、動かなくなった。
「いくらでも湧いてきて、面倒じゃ。お前は、もう大丈夫と言ったのに、どういうことじゃ!」
こっちが訊きたい。
その後も、家に入ろうとする獣を、鉄男が次々と鉈で片付けた。
しかし、減った数を上回る新たな闇獣が、柵を越えて現れる。
「早く直せ」
鉄男が苛立つ。
「ここ、こんなのコンピューターウイルスじゃありません!」
四郎は叫んだ。
逃げたいのだが、腰が抜けて立ち上がれない。
「何じゃ。仕事放棄か?」
鉄男の両眉が吊り上がる。
「お前たちがサポートする言うから、スマホを買ったんじゃぞ。ああ、あれか。お前、詐欺師か?」
「ち、違います! これはっ、これはスマホとは関係ないんです!」
鉄男は四郎には答えず、庭側を見た。
美しい月を、にらんでいる。
と、月の上に黒い点がポツポツと現れた。
否、それは点ではない。
獣たちと同じ、闇が翼を持ったものが、こちらに飛んでくるのだ。
10匹、20匹。
庭の上に到達した飛獣たちの羽ばたく音が響いた。
闇獣たちが、飛獣たちの叫びに呼応して鳴きだす。
なおさら、わけが分からない。
あまりの恐怖に、四郎は凍りついた。
「おー、おー。また増えたぞ、コンピューターウイルス」
鉄男が鉈の刃とは反対側を右肩にかけ、庭に唾をペッと吐いた。
「毎晩、毎晩、これじゃ。もう、ご託はええから、早うコンピューターウイルスを消せ」
「み、三好さん! だから違うんです! こんなのは、スマホとは全然、関係なくて! コンピューターウイルスというのは、こんなものじゃ」
「おー?」
鉄男が、首を傾げた。
四郎を、じーっと見つめる。
恐ろしく冷たい眼差しだった。
「さっきから、四の五の四の五の言うばっかりで、話が通じんな。お前、さては」
鉄男が、腰を抜かした四郎の前に、仁王立つ。
その後ろでは、闇獣と飛獣たちが嫌な叫び声を上げ、うじゃうじゃと蠢いていた。
「そうか、そうか! 分かった、分かった!」
鉄男の表情が晴れる。
「え?」
四郎は困惑した。
何が分かったというのか。
こちらは、むしろ、さっぱり分からないのだ。
「お前、あれじゃろ」
「あれ?」
「お前も、そうなんじゃろ?」
「どど、どういうことですか?」
嫌な予感がした。
冷や汗が、ドッと出てくる。
「お前もコンピューターウイルスなんじゃろ」
「ええー!? そそそ、そんなわけないでしょ! いくら何でも」
そこまで言った四郎は、息を呑んだ。
鉄男の瞳が。
闇獣たちを見るのと同じ眼差しが。
ただ、真っ直ぐに、こちらを見ていた。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/




