☆ヘーレ☆
祭りは思ったよりもずっとテンションが低く、時折聞こえる泣き声だけが不穏な空気を作り出している。
「背中の泡は年に一度交換する必要があるの。そのための祭り。でも泡は国民であることの証明でもあるから不参加はあり得ない」
前の人から何故か煌めく針を渡された。
ファーニンは躊躇わずに背中にそれを刺すとパンと音が響いて背中の泡が割れた。
彼女は後ろに針を渡し、振り返るときに私に、
「……一緒に抜け出さない……?」
と言ってきた。シャボンを作るときのように優しい息づかいで。
並んでいるのは私の彼女だけ。サヴダシクは調べたい、とだけ言ってどっかに行った。
破裂音の連続が小気味いいのに、跳ねる心臓で気分が悪い。
「私、知っちゃったの」
一際大きい破裂音が響いた。
「この国はおかしいって」
乱暴に彼女の手を取ってある日のワープ門に走って向かう。
列を飛び出した私たちに複数の兵士が追いかけてくる。私は振り返って黒い氷の礫で動きを止める。
そのまま走り出してワープ門に身を投げる。無理やり差し込まれた敵兵の手が見えたが迷わずワープ門を閉じる。
ワープした先はいつかの屋上だった。ボトッと腕と手甲が落ちた。それを拾って投げ捨てる。
私の行動を見たファーニンは口を開く。
「いいんだね? 全部敵に回したってことだよ」
私はその言葉に笑う。
「大丈夫。この国が束になっても私は死ねないから」
冗談だと思ってくれてもいい。私は死ねないのは、変わらないから。
──マリ視点──
耳を劈く爆音は地面に穴を開けた。オリからきた一方的な通信は『逃げて。ファーニンの家にすぐに戻る』。
隣で付き合ってくれているマニに、
「帰ろうか」
と言う。すると、
「そうだね。できる限り早く」
彼女は公園を包囲した兵の方を見て言った。
嫌な匂いと共に再度公園のどこかが爆発する。
爆発で地面が揺れたが兵士はそのままの状態を保つ。
そして、ついにどこかで戦闘が始まったようだ。大きな盾を持った兵が不思議な武器を持った泡のない民を拘束する。
パァン、と音が響いたかと思えば泡のない民が1人が血を流して崩れる。
これはどっちに味方すべきだろうかと悩んで、どちらにも味方しないことにした。
マニは隣で転移の準備をしている。地面がぬかるみ、頃合いで私の体は魔力に置換され水を通り抜けてファーニンの家に着く。
すぐに身体はもとに戻りオリヴィアとハグする。
柔らかい髪の毛が私の手に触れてくすぐったい。それと同時に"オリヴィア"がいると安堵する。
私の腕を優しく叩いたオリは儚く笑っている。
それでも、私は知っている。彼女の旅の目的を。
──サヴダシク視点──
短刀を右手に木の枝の上から塀の動向を監視する。
思い出して上着をスキルの空間に仕舞う。オリヴィア様のプレゼントを汚すわけにはいかない。
「国王の命令だ、良いか、アリ一匹も逃がすな!」
隊長の命令に兵たちは揃った動きをする。おそらく命令を受け入れたのだろう。
さて、どう動くのが良いか。
国を敵に回すのは得策ではないだろうし、となると兵を率先して殺すわけにはいかない。
私は木から飛び降りる。ガサッと音が鳴って隊長らしき男が寄ってきた。
「運が悪いな、お前」
男は私の首を掴んで持ち上げる。
ゴホッと咳をしておく。一応男の手に私の手を重ねる。
「死夢 生命断」
真っ赤な矢が男の両耳をつなぐ穴を開ける。そのまま男は死んだ。殺さないとは言ってない。
体の実体化を一瞬キャンセルして拘束された指から解放される。
そのままふわりと空を飛んで次の情報元へと飛んでいく。
ファーニンの横をゆっくり歩く。いつの間にか小高い丘についていた。
「いいでしょ、この国」
ファーニンは森の奥、遥かなる海を眺めてそう呟いた。
「私、この国が好きなの。ふふ、前言ったことと矛盾してるよね」
ただ、前だけを眺めてファーニンは言う。
「ねぇ、もしかして、ファーニンって孤児院にいたの……?」
あ、言ってしまった。もっと、言い方があったのに。もっと、場所を考えたかったのに。聞く必要すらなかったのに。
「そうだよ。わたし、フール孤児院ってとこ出身」
何も言えなくなってしまって重苦しい空気が流れる。すると、
「〜♪」
いきなり耳馴染みのないメロディが私の心を包む。
「私、『フォムシ・プスリーナ』って曲の、この部分が好きなの」
柔らかい声は力強い旋律を奏でる。
「意味は"少年でも革命は出来る"。作曲者はパッシウーン。恋する女の子の曲だよ」
ファーニンは優しい左手で私を抱き寄せる。まるで、子供を抱きしめるように。
ファーニンは慣れた手つきで"鉄の箱"のボタンを回す。ザー、という魔力通信の時の雑音に似たノイズが箱から鳴った。
「────コーナー! レポーターのスプーマです!」
元気の良い男性の声が聞こえてきた。
不思議な箱の中はどうなっているのか気になるところだが、スキルか何かを媒体に使っているのかもしれない。
「先ほど、ここ、ミチュナ公園内の広場で爆薬を使用した大規模デモが発生しました。強い火薬の臭いが充満しており──」
辺りの騒音が"レポーター"とやらの発言を遮る。
「反乱者の多くは孤児であり、ヴァルメカへの連行を拒否した者ばかりだったそうです」
ファーニンは椅子から立ち上がり、洗面所に向かった。私は一人で無数の穴とにらめっこをする。
「そうなんですねぇ」
薄っぺらい感想すらせずにただそう言ったオジサンは、
「さて、ここからは今日のラッキーアイテムのコーナー」
と続けた。そのままスプーマとやらに会話が移る。
「今日のラッキーアイテムは〜!? ででん! あ、ラジオですので見えないですね。えっと、薪! その闘志に火をつけるのにどうでしょうかあ」
「結構危ない発言ですよ!? 大丈夫ですか?」
その言葉でラジオから複数の笑い声が聞こえてきた。
「それでは〜〜!」
「「「今日も元気に〜!!」」」
その音声でラジオからは歌詞のついてない音楽が垂れ流される。
一気に静かになったラジオから離れてマリのもとへと向かう。
「ねぇ、マリ?」
肩をチョンとつつくとマリはさっと振り返る。
「二人だけでギルドに行こう」
そう誘うとマリは大きく頷いてくれた。
2人で入ったギルドは閑散としていて、ヌクさんが駆け寄ってきた。
「こんにちは。他のギルドメンバーたちはデモに巻き込まれ、その鎮圧に力を貸していまして居ないんです」
頭を掻きながらそういうヌクさんに新たな任務を受けに来たと告げる。
「あ、それでは、あちらに」
ヌクさんのスムーズな案内に導かれそのまま慣れたギルドマスターの部屋に入る。マリは一心不乱に私の首筋を見つめてる。
「……貴方がたでしたか」
「ちす」
前よりももっと黒くなったクマは疲労を溜め込んでいる。
「泡実島に向かってほしいのです。その海中の洞窟への派遣依頼が来てたのですが、どうしてもカナヅチしか居なくて……」
「私たち泳げますよ」
空気を必要としない人が多い、と言い換えてもいい。
マリたちがどれくらい行けるかによるが、私はほぼ無制限で、マニは完全に無制限だ。というのもスキルに水を操る権能があるからである。
まあ、私だけで先行って転送門を開けておけば皆呼べる。だが、海中だし、内部に空気があると決まったわけではないのか。
「それはよかった!! 報酬は、えっと、これです」
階級で報酬の上下はなし、か。これは面白い任務だ。
「なんで洞窟にここまでの報酬が出るの?」
「あ、それは聞いてきました。ソル帝国の測量部隊がここでコソコソしてるみたいで、国が出した任務なのです」
面白そう。
私は二つ返事でその任務を受注して泡実島に出航したのだ。
すっかり顔馴染みになった田中船長は慣れた航海術で泡実島に送ってくれた。
「ここを街灯に沿って進めば、『ハナトレ』という町に着くぞ! 気ぃつけてな」
田中船長が出した右手と右手でハイタッチをして別れる。
「ハナトレはね、昔、隕石がぶつかったせいで大きく窪んだところにできた町なの。名前の由来は隕石から」
ファーニンがそう説明してくれた。
ほえ~、とか言いながらその歴史をなんとなく聞く。
「そして、その隕石の名を冠した神様がいるんだって。少ない信徒しかいないらしいけど」
宗教化もされてるのか。
「もうすぐだよ」
そうファーニンが言った直後、ゴーン、と大きな鐘の音と共に数人の住人が私たちに駆け寄ってきた。
「居たぁ!! あんたたちが洞窟探検家ね!?」
「……えっとそうだけど。あなたは?」
「あ! ごめん、いきなりだったね。ウチはヘーレ!」
修道服を纏った彼女は大袈裟に握手をしてきた。ブンブンと振られて肩が痛いくらいだ。
その後は自己紹介を交わし、詳細を聞いていた。
いわく、この町のある泡実島は一切の武力を持っておらず万一ソル兵が暴れるといとも容易く占領されてしまいかねないそうだ。
ただ、貿易の半分以上をソル帝国に依存するフールは今更派兵所を作ることもできず頼れないそうだ。
「つまり、フール国が直接部隊を出したらソルとの戦争になっちゃうから、"ギルド"という中立人員に叩かせるっていう作戦ってわけね」
そうまとめながら、私は考えを深めていく。道理で報酬が高額なわけだ。
「でも、これって結局戦争になるんじゃないの?」
私はヘーレに聞いてみる。
「なると思うよ。なって欲しくないけど、ソル帝国としてはこんな国ないほうが"中海"へのアクセスが良くなるもん」
地図を刺しながらそういった。
中央の大きな海を囲うようにすべての国があり、たしかにフールがなくなれば、というかフールを自国領にできれば一周できるようになるみたいだ。
「なるほどねぇ」
私は頷くとともに政治の難しさを理解した。
だから私は王になれないんだ。心の底から『マーサ家』の家長にならなくてよかったと思う。
多分私が末代になってた。……それは変わらないか。う、悲しくなってきた。
一人違う理由でテンションが下がった一行は洞窟へと向かうのだった。
貝煌の針
フールの技術で作られる美しい貝煌を使った針。背中の泡を割る効果を持つ。
泡とは最古の防壁でもあり、背中の泡は全身を守る事ができる。
半年ごと効果が半減してしまうため、年に一度の更新を推奨されている。
泡色の髪の毛は静かにそれを拒んだ。いつか私の心を塞いだ時のように。
三権
『悪魔女帝』の三娘のそれぞれが持つ権能。彼女らに許されたときスキルは進化する。
三姉妹は『赦』と『裁』と『断』をそれぞれ与えられた。それぞれがバルバトス、プルフラス、アガレスという。
そして、それぞれが獣の力を持つ。狐、猫、そして人である。
彼女らは穢血を灼く炎を求め続ける。その悲願は今叶われた。ゆえに私の旅路に光が灯る。
〜ギルド階級〜
黑位>金位>紅位>蒼位>山吹>銀位>銅位
〜天使階級〜
天使(下位天使、精霊→中位天使→五輪天使(七与賜物)→上位天使、聖神)
天使のスキル変化
霊力→聖力→聖遺霊→神ノ御力
人間(聖堕)スキル変化
能力→五輪能力→睡眠能力→覚醒能力
信託→神託→神言→聖神
冥加→御蔭→御言→神ノ摂理
〜堕霊階級〜
堕霊(下位堕霊→中位堕霊→上位堕霊→三大堕霊 (アガレス、バルバトス、プルフラス)→悪魔女帝)
堕霊のスキル進化
処夢→悪夢→故夢→死夢
人間のスキル変化(魔堕)
能力→三権能力→堕落能力→灰化能力
信託→惡夢→夢望→神惡
冥加→惡力→夢双→無我惡血
暗い明かりはオリヴィアを包むよ──断月の迷い人 フィヤルナ
オリちゃんのハートを射止める──優しい赤弓 セレイア
絶対一生ついていくと決めておりますので──儚い裁き サヴダシク




