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シンコウ  作者: わらうクジラ
フール諸島国編
6/12

☆隊蟹祭☆

メキィと空間の結晶にヒビが走る。軽く蹴ると崩れてフーニルに繋がった。

 その穴に身を通すとフーニルの人気(ひとけ)のない公園に出た。

 大きな野外ステージは長い間誰にも使われていないのか、草が伸びていた。

 

「ここ……、早く出よう」


ファーニンが私の腕を引く。思ったよりも力が強くて簡単には解けそうになかった。

 仕方なく少し強めに私の魔力の残滓を残しておこう。そうすればマニたちが追いかけやすいはずだ。


「ここはちょっとまずい」


勢いのままに柵を軽々と飛び越え、歩道に出る。息を整え、平常を装いながらファーニンはそう言った。

 私は"なんで"と聞くことができなかった。

 少しゆっくり歩いているとマニたちも私たちのところに追いついた。


「早くギルドに報告しよう」


私はさらに急がせて疑問を聞かせないようにした。




平和なギルドは英雄の帰還で壊された。

 ずどん、と大きな音を立て肉塊が床を占領し、積み重ねられた鱗は崩れた。


「わお……」


ヌクさんとやらは柱から顔を覗かせて感嘆した。


「肉はもらう、骨と鱗は売る」


簡潔にそう伝えるとギルドマスターは1枚拾って、


「私共ではこれを1枚買い取るので精一杯です。えっと、鑑定と計算しますね」


私は残念に思って全部回収する。

 周りの人はずっと騒いでいる。その景色で初めてギルドに入った日を思い出す。アレは確か6歳だった。

 心に重たいものがのしかかり息苦しくなってきた。ため息がもれた。やっぱりそこからは思い出したくないし、考えるのをやめよう。

 そんな事を考えていたらギルドマスターの部屋に呼び出された。


「本物の『泡吐き竜』の鱗であると分かったので報酬です。ご確認ください」


渡された袋の数々をスキルで回収する。

 金額も間違いない。1万金貨か、思ったより多いな。


「鱗の分はコチラです」


一つに入っていたのは200枚の金貨だった。

 200枚もあれば7人で1年は遊んで暮らせる。


「よくこれだけの金貨を集められましたね」

「……もともと泡吐き竜分のお金はあったんですよ。なんなら200枚のほうが苦労しましたよ」


おでこに手を当ててそうボヤいた。


「あなたはやっぱり安定しますね。もう一つ、任務に行ってほしいのですが」

「え〜、私疲れちゃったんだけど」


伸びをしながらそう言うと、彼は分かりやすくがっかりしてしまった。


「うそうそ、じょーだん。いーよ」


そういうと彼は安堵したように、説明を始めた。


「泡歌島の武装集団を倒してほしいのです」

「武装集団?」

「はい、彼らは太陽と月が消えてから活動を強め、人に危害を加えるようになりました。特定の魔法の影響で周辺気温が下がるため、分かりやすいかと」


私はそれを受注して、労いの気持ちを込めて彼の肩を叩く。そしてギルドマスターの部屋を出た。




再び田中船長のもとにやってきて船を出してもらった。そうして着いたのは『泡歌島』。

 島の半分以上が『泡歌の森』に覆われていて、観光地として訪れる人も多かったそうだ。


「ここを右ね……」


マニが地図とにらめっこをしながらそう言った。そのまま地図を半端にポケットに仕舞う。

 そのすぐ後ろを私たちが歩く。ジメジメとした空気で肌がベタつき、不快だ。


「ここを進もう。ルーヴァ」

「あれ、オリヴィアちゃん炎のスキルなかったっけ?」


ファーニンが私に聞いてきた。


「私の炎は冷たいし、暗すぎて照らすことはできないんだ」

「そうなんだ……、ごめん」

「いや、気にしてないよ。私、そこまで人使い荒くないもの」


冗談めかして言うと曇ったファーニンの顔が少しだけ戻った。

 ルーヴァは私たちの会話を聞きながら炎を灯す。消えかかった街灯が不穏に煌めく。

 

「こんばんは……、えっと、旅人さん……?」


影がないから気が付かなかった。

 右手を柄に添える。


「こんばんは。旅人です、討伐任務に呼び出されただけの」 


振り向く必要はない。彼の動きのすべてを私の魔力感知は捉えるから。

 それでも、私たち誰にも気が付かれないほどの隠密ともなれば、間違いようもなく強者だ。


「おっかないお姉ちゃんだねぇ。ン、ン、僕はシャウム。"泡歌の護り人"だよ」


私の前に現れた彼は咳払いをしてから名乗り、そのまま私の右腕を無理やり引っ張って握った。

 ファーニンは一気に警戒心を強めた。


「あなたの名前は?」


そう聞かれた私は警戒をして口を閉ざしていると、


「私はマリっ! なかよくしよ〜ね!!」


人の()いマリがひょこひょこと耳を動かしながら握手をした。


「あなたたちってもしかして……。はぁ、あまり天使(トマス)堕霊(サタン)を暴れさせないでよね。仕事増えるのメンドくさいから」


目を見開いてからシャウムはそう言った。

 マリが自己紹介をしてしまったため仕方なく皆も、彼に簡素に自己紹介をした。


「────ふーん、それでここまで? 大変だったね、それはここからあっち側に行けばつくはずだよ」

「え、でもこっちって……」


消え入りそうな小さな声でギルドで、と付け足した。だが、気に留めてもいないように、


「地図の持ち方を間違えたんじゃない?」


そんなハズは……と呟いてマニは頭を掻いている。


「ほら、ここ。そのままこの地図あげるよ」


軽い音を立ててあげたキャップの中から万年筆もどきが出てきた。キュッと心地よい音を立てながら赤いインクが円を描いてそこに残った。

 確かに進路方向とは違う。


「たぶんここの道で左右を見間違ったんだよ」


とんとん、と地図を筆の持ち手で叩く。確かにさっきそんな(ワイ)字路をみた。

 マニをイジろうと思ったがやめておこう。また私の過去の失敗を引き合いに出されて負けるだけだ。


「僕もついてくよ」


そうしてまた一人旅仲間を増やした、私たち一行は任務地に向かっていく。




森の中、怪しげな人影に飛びつく。

 首に腕をかけて片刃剣を首元に突きつける。

 何も言わないことを確認して切り裂く。そのまま黒き炎のヤイバを数枚敵に向けて飛ばす。

 ドサッと倒れた身体からカタナを奪う。ボロボロに刃毀れしたそれをスキルで整える。

 マシになったカタナをスキルで回収する。


「何も焼く必要なかったのに」


マニが隣にやってきて、鎧を持ち上げながらそう言った。

 

「なんとなく?」


そういうと呆れたのか、物言いたげな瞳を私に向けてきた。


「オリヴィアさん、はやいね」


シャウムが辺りを見渡しながらそういった。

 

「……そう言えば同僚の話とか聞いてもいい?」


私はシャウムに聞いてみる。すると薄ら笑いを浮かべて、


「そうだなぁ。真夜の騎士とか、スプーマとか、リートとか、あとは、ルイリミナとか……、あ、彼だけは死んじゃったんだった」


慌てて最後にそう付け足したシャウムは鋭い眼光を少しだけ鈍らせた。クセなのか視線を上にずらして、


「ああ。夜だ」


彼はふと言葉を漏らした。


「真っ暗な夜だ」


私も言葉をこぼす。私は初めて彼の、心の底から笑っている姿を見た。




シャウムに別れを告げて泡歌島から引き返す。

 ギルドで報酬である銀貨300枚を受け取る。まあ出張費はギルド負担だし、悪くない報酬だ。

 そんな日々を過ごしていたある日──


「ねぇ、お祭りあるみたいだから行こうよ!」


マニが目を輝かせてチラシとやらを見せつけてきた。

 見てみるとそれは『隊蟹祭(クラブフェスティバル)』とあった。


「うわ、すごい楽しそー!」


マリが覗き込んでそういった。

 真っ赤な茹で蟹がスキルで印刷されている。確かにコレは楽しそうだ。

 

「目玉はコレ!!」


大きな蟹の甲羅に大量の白い何かが入っている。


「蟹グラタンらしいよ!」


それは唆られる言葉だ。即決で参加が決まったのだった。




3日後の祭日。

 盛り上がっている会場は不思議な衣装でいっぱいだ。

 ファーニンも何やら淡い紫色の不思議な服を着ている。


「どう? ルナトの友達にもらった服なの。お祭りといえばって。浴衣(ユカタ)っていうらしいよ」


小さな物入れを持ったファーニンは頬を赤らめながらそう言った。

 確かにファーニンと似た服を着た女性も結構いる。


「似合ってる。すごいキレイだよ」


そう褒めると彼女は茹で蟹みたいな色で耳まで染めてしまった。怒らせてしまったか、と思っていると


「"秋月(あきつき)"っていう人に贈ってもらったの」

「へぇ、ルナトって隣の国だよね? 行ったことあるの?」

「そうじゃなくて、"もみじ"が……あ、秋月さんね。彼女がフールに来たの。その時に彼女を助けたんだけど、そのお礼にって」


嬉しそうにクルッと回ったファーニンに微笑む。

 私もおめかししたほうが良かったのかもしれない。オシャレな服は数着持っているのだが、カニを食べることしか考えてなかった。


「優しいんだね、そういうとこ好き」


そう言った直後、マニに魔力通信で呼ばれた。時間がかかりそうと返信して、走りにくそうなファーニンの手を引いてゆっくり歩く。

 あちこちにある出店からいい匂いがする。せっかくだから、とワッフルを2つ買ってファーニンにあげる。

 あったかい生地は私の故郷では高級品だったチョコレートがたっぷりかかっていた。

 近くのベンチに腰掛けて口に運ぶ。ふわふわで甘いのワッフルと熱くて少し苦いチョコレートがワッフルのくぼみに溜まっている。

 美味しいワッフルに感動していると、


「ねぇ、"オリ"って呼んでもいい……?」


いきなりそう言ってきたファーニンはあまりワッフルを食べていないようだった。


「もちろん、そう呼んでほしい」


そう言うとファーニンは勢いに任せて一口でワッフルを食べた。

 口の周りに付いたチョコレートに気が付いて拭いてあげる。


「恥ずかしい……」


そう呟いたファーニンの頭をなんとなく撫でた。顔を上げたファーニンの右手を引いて立ち上がらせる。


「あ、こんなところにいた!」


マニはそう言いながら光る剣のオモチャで私の頭を叩いた。


「探してたんですけど」


後ろでは楽しそうにおもちゃで遊んでいるマルとヴェレーノがいた。

 

「あれ、マリは?」


そう聞くとベンチの後ろからいきなり肩を掴まれた。ビクッとして振り返るとそこにはマリがいた。

 

「さあカニ食べに行こう」


無理やり話題を変えてカニの置かれた広場に向かい始めた。

 その途中で、くじ引きをして花の髪飾りを当てた。マニが言うにはマニの持っている光る剣のオモチャもここで当てたそう。

 会話に花を咲かせながら歩いているといつの間にかメイン会場についていた。

色んな泡を背負った人が器を持って待っていた。

 

「アレ、おねーちゃん、次の祭りで泡、背負わないとね」


私に向けて言っているのかと気がつく。困っていると、お母さんらしき人がその子を連れて行った。


「イヤなお母さんだね」


マニが顔をしかめて言った。


「うーん、まあ……」


すると、拡声器を通じて開幕の挨拶がされた。数人の男性が登壇し、カニの足を模した武器を完璧に揃えた動作で戦闘の演目を始めた。

 大きな船の模型に跨り、カニとの戦闘も白熱していく。

 カニ討伐の舞台劇もいつの間にか終盤に差し掛かり、1人が、


「我は今宵より『罪背負の島義兵(とうぎへい)』なり。誇り高き戦艦に乗るという矜持を胸に、泡と歌の誓いにおいて共に蟹を喰らおうぞ!」


と叫んだ。歓声が上が蟹グラタンが振る舞われ始めた。

 クライマックスをアツアツの蟹グラタンと共に見るのは楽しかった。


「楽しかったねぇ!」


ファーニンは私の方を見てそう言った。


「うん、また次の祭り? も行こうね」


私がそう言うと彼女は嬉しそうに引きつった笑いをした。




泡歌の刀


ボロボロになった刀。比較的長めで取り扱いは良さそうだ。

 泡も歌も刀で斬れることはないというのにそれを斬らんとするコレは護り人が持つ。

 私の手はもう握れないし、使うこともないだろうけど。忘れられぬ、歌への想いだけは身を焦がす。




花の髪飾り


ピンク色の髪飾り。少し重く、たまに震えるような気がする。

 屋台で引いたくじで当てたもの。

 頭に付けていれば血に塗れた私でも少しは可愛く見えるかもしれない。




光る剣のオモチャ


ぷっくりと膨らんだ玩具。

 屋台のくじでマニューバが当てたもの。持っている人の魔力を用いて光る。

 不思議な光は子どもも神様を魅了する。

 私が使えばドスンと重いイワですら断ち切れるかもしれない。

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