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シンコウ  作者: わらうクジラ
フール諸島国編
5/12

☆泡吐き竜のステーキ☆

次の日やってきたのは、港町ポルトだ。

 ここから任務地のある島、泡島に向かう。ちなみにこんな名前なのは『月魄の国、ルナト』の統治下にあった島々であったゆえだそうだ。

 

「よお、泡島に行くなんてお前ずいぶん腕っぷしに自信があんじゃねえか! みじけぇ船旅だけどよろしくな!!」


船長は田中 晴輝(はるき)という名前らしく、出身はルナトだそう。

 気前のいいおじちゃんで船に乗っている間ずっと何かしら喋っていた。

 その中で一つ気になる話があった。

 『聖揺器(せいようき)』と『東夢器(とうむき)』についてだ。

 それぞれ十二からなる武器群でそれらを集めることで一つは"天都"に、もう一方は"神の墓場"に行けるそうだ。

 武器と言っても象徴的なもので強いとは限らないとか。




小舟はあっという間に泡島に着いた。

 しかし、小舟で漕がなくて良いとは恐れ入った。

 元の国々では帆船が主流で、陸の移動は徒歩か馬車だった。

 そして小舟から皆が降りていく時田中船長が、


「子どもは何人でいても一人(・・)と同じだ」


意味がわからなくて固まっていると、


「ははっ!」


いきなり大笑して私の背中をバンバン叩きながら、


「運賃は1人分で良いぞ! そう受け取ってくれりゃいい」


そう言ってきた。


「え、でも、申し訳ないよ」


さすがに受け取れないと遠慮する。


「なに、遠慮すんな! あっちの嬢ちゃんは孤児院出身だろ? なに、先輩の自己満だと思えばいい!!」


そう言われて感謝しながら1人分と少し置いていった。




泡島は手つかずで静かだ。そこら中に生える木は元気がなく葉がついていないものすらある。

 砂利道を歩く度に砂ぼこりが舞う。明かりも全く無く、真っ暗。


「ルーヴァ」


私は炎の天使ルーヴァ──ルーヴァリック──を喚ぶ。

 彼は私に一礼をして、道に沿って炎を灯した。煌々と輝く炎はじっと私たちが来るのを待っている。

 

「うわ、君ってほんとに凄いんだね」


感嘆の声を漏らしたファーニンに私の仲間たちを紹介したくなったが今はまだ我慢しよう。

 いつか、ちょうどいい日が来たら一人ずつ友達になってほしいし。


「俺はもう帰っていいか?」


ルーヴァは私にそう聞いてきた。大仰に頷くと彼はもう私のスキルの中に戻っていた。

 そろそろだと言われて身構えていると、大きな気配を感じた。

 これは強い。戦ってもないのにすぐにそう思った。


「泡吐き竜だ!」


大きな翼から泡が飛び散り木々を腐らせた。道理で葉の無い木が多いわけだ。


神言(スキル) 白紅華ノ風夜月(ライラック)


ザキルが攻撃をした。白い花弁のような風の刃が竜に向かって飛んでいく。

 

「グルゥウオォオ!」


けたたましい咆哮と鳥が一斉に羽ばたく音が響く。


神ノ恵技(スキル) 掃除屋」


私も負けじと疾風で竜の首を狙う。

 落ち着かないと勝てない。だけど、もう一方のスキルで普段は立ち回っているから少し面倒くさい。手元の武器もリーチ不足だ。

 スキルも泡に阻まれて思ったほどの火力はでなかったし。


「叩き落とすね」

 

スキルで空を飛ぶ。片刃剣に風を纏わせて振り落とす。

 竜が動き回ったせいで狙っていた首ではなく尾を切り落としてしまった。

 早く血抜きをしないと一番美味しい"尾"の味が落ちてしまうのに。

 しなやかに着地して見上げる。竜はつらそうに空中で飛んでいる。

 

泡歌(スキル) 死にし者に捧ぐ泡(トーティクルバブル)


祈るように、歌うように行ったファーニンの詠唱は私たちに情報を届ける。反響し、膨れて、破裂した泡の膜が。


灰化能力(スキル) 黒・料理屋(ヤーガダ・メゼ)


指を一度鳴らすと黒き炎の球ができた。それは瞬き一つの間に竜の翼を貫いた。


獣力(スキル) 黒・甓黎(ヤーガダ・べドロック)!」 


マルのスキルで岩の足場が生まれる。それを蹴り上がり、山のように大きな片刃剣をヴェレーノが振るう。

 『泡吐き竜』はスレスレでそれを避け、反撃をしてきた。

 高く舞い上がり、泡のブレスをしてきた。泡は地面を覆い、破裂した。

 マリは鞭を持って飛んでくる泡を弾き消している。マニは木を盾にして身を守っている。


神ノ御力(スキル) 蒼・絢(チェルニカ・)爛水舞(ザーレヴァ)


蒼色の果実を潰したように瞬間的な破裂をさせた。その破片は竜の翼を完全に壊すのに十分だった。 

 さすがマニだ、と感心する。


「オリヴィアちゃん!」


左の掌をお皿にして息を吹くと、泡が生まれて私に飛来してぶつかり、私の身体をソレが包んだ。


「ありがとう!」


直感で使い捨て防御壁だと察した私は地上で暴れる竜に駆け寄る。翼が傷つきすぎて飛べないのだろう。

 テンポ良く地面を蹴ってジャンプして、もう一度竜の眼前にやって来る。

 マニたちは大きすぎる攻撃をせずに、ちまちま竜の注意を引いている。

 

灰化能力(スキル) 黒・料理屋(ヤーガダ・メゼ)!」


黒い濁流をまとった片刃剣がすんなり竜を刎ねた。

 私を追うように黒い水滴が軌跡をなぞって落ちてくる。

 急いで尾と身体に触れて吸収する。スキルで"分離"した血は捨ててもいいけど、"いつか使えるかも"と取っといている。

 鱗も外しておこう。金に困ったら売ればいい。


「うわぁ、その武器よく折れなかったね」


竜の血痕が残る場所にしゃがむ私に近づいてファーニンがそう言ってきた。

 

「これは……戦利品でずうっと大事にしている──まあそう言ったってこれを手に入れてからの戦闘はほぼ全てコレでしてるんだけどね」


妖怪の一部を使っているとされる武器種、『妖器』の『黒鬼』を優しく撫でる。

 

「かっこいい武器だね」

「でしょ、私の……」


そこまで言ってなんていうべきかわからなくなった。


「オリ、今日は何作るの?」


マルがそう聞いてきた。


「竜肉のステーキにしよう。やっぱり新鮮ならこれが一番おいしい」


幸いここは竜が暴れてくれたおかげで広くて使いやすい。血の匂いは残ってしまっているからそこは『神ノ恵技(スキル) 掃除屋』の出番だ。

 

「いい感じ」


白い光が辺りを優しく包む。その後はもう何も残っていない。

 それでもちくりと胸を刺す針だけは掃除できなかった。




竜の尾はステーキにしよう。

 そう思い立ち、テーブルの上にざっくり切っておいた赤い肉塊を置く。

 それをフライパンにステーキ2枚が入るサイズに切る。

 

「マニ、最後でいい?」


私の調理工程を頬杖をつきながら見るマニに聞いてみる。


「いいよ」


快諾だ。少し声が小さかったような気もするが、少し迷っていたような気もするが、これは"快諾"と言っても差し支えないだろう。

 

「私も最後でいいよ!」


そう言ってきたのはファーニンだった。その視線は華やかに色付いている。


「じゃあファーニン、一緒に食べましょう。マニたちの分は早めに作る」


ステーキは包丁の背で全体的に叩いておく。今回は簡単に小麦粉をまぶして塩で焼こう。新鮮なうちは塩が美味しいのだ。

 そのうちにさらに肉に手が伸びるようステーキソースを作る。こちらが本命だ。

 まずはこの玉ねぎをすり下ろす。

 しょうゆ、料理酒、さとう、水、あとはこの前のソースの余りを混ぜる。

 それを鍋にぶっこんで、玉ねぎと香草の実を加える。

 それを煮詰めすぎないように注意しながら加熱していく。いい匂いがする。

 それを器に移せばソースはできた。

 ステーキは別皿に移して何分か休ませる。理由は知らんけど、なんかおいしい気がするからそうしている。

 終わったら切る。中は薄い赤でちょうど良さそうだった。

 最初はマリとザキルが取るはずだ。彼女らなら小さめに切ったほうがいいか。

 特にザキルは今も食卓を整えてくれているし、手塩にかける価値があるというものだ。

 マリ、マルとヴェレーノは後片付け担当だから今は遊んでいる。

 だけど不思議なことにマリは呼んでないのに来た。


「熱いよ。先に2人で食べてて」


そう注意して、自分たちの分のお皿を持たせる。

 そうこうしているうちにステーキ第2陣が焼き上がり休ませながら、第3陣を投入する。

 やっぱりステーキが焼けていく音は気分が上がる。


「おいしい、ねぇ、次はソースかけていい?」

「いいよ!」


ザキルにそう言ってやるとソースを先にかけていたマリはフォークで豪快に刺して口に押し込む。


「おいしーよ!」


口に大量のソースを付けながらそう叫んだ。

 ザキルが身を乗り出してマリの口を拭いてあげている。それを微笑ましく見守っていると、


「オレらのはー?」


マルとヴェレーノがやってきた。コイツらなら斬らない方が楽しそうに食べている気がするし、大きいまま渡す。


「これ尻尾!?」

「そうだよ!」


椅子を引いて乱雑に座ると、これまた派手に齧り付いた。


「ん、オリのスキル感じる!」

「感想それかよ〜」


マルが巫山戯ると、ヴェレーノが優しい口調でツッコんだ。

 それが笑いのツボにハマったのかマリが手を叩きながら笑った。

 マニもその騒がしさがおかしかったのかフフッと声を漏らした。

 最後だけは3枚一気に焼いたから少し時間がかかってしまった。

 そしてついにマニが気が付いたようだ。一気に顔が曇った。

 結局私最後じゃん、と不服そうな声を漏らしたマニは魔力で浮かせたティーポットから紅茶を垂らす。

 バラの紋様のティーカップは琥珀色の液体を余裕を持って抱きとめている。

 竜のステーキをその横に置く。テーブルに預けていた身体を起こして、ナイフとフォークで上品に口に運んでいる。

 未だに貴族のクセが抜けていないようだ。

 私も座って一口食べる。噛んだ瞬間、肉汁が口を支配して幸福感を感じる。

 筋肉質ながら柔らかい肉質は色んな料理に使え、更に竜の尾という希少性から薬としての役割も担っていたというんだから旨く無いわけないのだ。

 でも、薬になったときの効能とかは私は懐疑的に思っているし、実際効果は多分無い。昔のドラゴンハンターが市場価格を上げるために言いふらしただけだろう。


「んー!! ソースうまっ!」


そういうファーニンは左の手のひらを頬に当てて幸せそうだ。今にも歌い出しそうなくらいに。 


「いつ帰るの?」


マニはどこから出したのかわからないパンを千切りながら私に聞いてきた。


「起きたらギルドに飛ぼう」


"料理屋"が復活した今なら空気を黒き炎で凍らせて(・・・・)転移門を作り出せる。

 ファーニンは何か話したいことがあった風だが、いまは肉に夢中で喋ろうとしていない。

 私も、ようやく終わった竜討伐にもう少しだけ休憩しようと思った。


泡って良いよね、儚くてさ────泡歌の護り人 シャウム 

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