☆泡実島海底拠点殲滅作戦☆
戦果を報告するためにやってきたギルドのなかに居た少年と少女。7歳と12歳と見た。
しかしきれいな瞳だ。
二人とも黒瑪瑙のような神秘的な髪色と、少年は新葉のような瞳、少女は花弁のような瞳。
「お、来ましたよ。彼女たちがわが国のなかで一番頼れる団のはずです」
ギルドマスターが私たちをそう紹介する。なんだ、護衛任務か?
「名前は何ていうの?」
私がそう聞くと、少女が少し前に出て、
「ヨルメ。ヨルメだよ。この子はシアル。シアルっていうの」
「ヨルメ……、いい名前だね」
「いい名前……。いい名前。うん、いい名前」
その時、私の心が静かに揺れた。
この子たちは黒い。なぜだ? なぜ、『黒』を持つ?
「あのね、ヨルメね、逃げてきたの」
見た目の割に幼い口調のヨルメは私たちに生い立ちの話を始めた。
「ヨルメの家ね、農家、そう農家の家族なんだよ。でもね、パパはね、ヨルメをね、市長さんのところに連れてくの」
ヨルメはそこまで言って歩き始めた。
「そしてね、『まだちっちゃい』って言われてね、でもね、隣の部屋からね、泣き声が聞こえるんだよ」
私たちを囲むように一周回り、それでも足りなかったのかもう一周回り始める。
「『痛いよ』って。その男の子はね、目を真っ青にして出てきたの。でもね、その子のパパの手の上にはね、箱が乗っかっていたの」
ヨルメはしゃがんでいる私の目の前で止まった。
「でもね、ヨルメの村ではそれが普通なの」
すると、氷茉もしゃがんで、
「……辛かったろう。だが、安心するとよい」
氷茉がヨルメとシアルを抱きしめる。
「いいよ、私たちが面倒を見るよ。ギルドマスターさん」
立ち上がってそう言うとギルドマスターの顔が綻んだ。
「よかったです……。ギルドはあなたのお願い通り集会場になりますし」
「お、覚えていてくれたんだね。なら余計に断る理由も無い。任せてくれ、子供の世話は好きなんだ」
マリとマルにお願いして家に連れて行ってもらう。
「ああ、そうだ。ソル帝国軍の残兵を狩ってくるから任務書出して。それが、火蓋を切るんだ」
「はぁ……、何でもいいですけど、死なないでくださいね。面倒なんですよ、書類手続き」
ギルドマスターはため息交じりにそう呟いた。
「うん、知ってる」
私は目を伏せたままそう答える。
降り始めた大雨は止むことを知らないようだった。
泡実海岸で私はやまない大雨の中、ソル帝国軍の残兵が作った基地に向かう。
悲しそうな大雨は山の香りを帯びていた。
「ヴェレーノ」
私は『黒鬼』を携える。
「なに、オリ?」
ヴェレーノも、『赤鬼』を握る。
私は大雨に包まれた視界と、濡れて肌にへばりついた髪の毛に嫌気が差す。
「手を出して」
私は右手に『特殊コア』を作り、与える。
魔力で作られたこれは所持者の位置を確認したり、保護したりできる。
私は夜闇の中、冷たい水たまりを踏み壊すように走る。
一瞬視界の端に『9号』が見えた。構わずにそのまま水に飛び込む。
ドブ色の水が私の魔力に馴染んだ。
水の中、とても深いところにそれはあった。
私は蓋を無理やり空けて、侵入する。警報音が鳴り響くなか、私は仲間達を喚ぶ。
マニと、マルだ。ヴェレーノも少し遅れて入ってきた。
「オリ……早いよ」
ビショビショのヴェレーノが肩を上下させながら呟いた。
「あなたがついてきたいって言ったんだよ」
私は濡れた長い髪を背中の方に行くように払い、頭を振って髪が含んだ水を飛ばす。
「そうだけど……」
そう言いながら私を真似てヴェレーノも水滴を飛ばす。
私は視線を滑らせて、正面から押しかけてきた敵兵を殺す。彼を抱いた黒き炎は欲望を燃料に激しく燃えた。
「じゃあ、いこうか」
私が歩き出すとマニが小走りで私の横に並んだ。少し水の張った床を踏むたびにぴちぴちと音が鳴る。
やって来る敵兵は仲間の出る幕ではない。
さっさと斬り倒していく。麻痺した心はすでに痛みを感じなくなったらしい。
ため息をついてから、中枢に向かう。
途中、毒霧の攻撃を受けたが、私の『恵灰能力 半神・掃料』を持っている仲間なら問題無い。
まあ最悪毒に侵されても私がいれば大丈夫なのだが。
「この辺りらしいよ。あなたたちは見ていて」
私は刀についた血を振り払う。錆びて臭い取っ手を掴む。
取り敢えず扉の中に入ると、大量の鎧が綺麗に並べられていた。
質がいい鎧をいくつか頂こう。残念ながら私にとってはサイズが大きいから着れないのが惜しい。
部屋を出て、次のドアを蹴り開ける。脆い金具で助かった。たぶん水に近いせいで錆びてたのだろう。
倒れた金属の扉は水飛沫をあげた。
驚いている敵兵を無視して部屋の真ん中まで歩いていく。
「ずいぶん余裕そうね」
私は『黒鬼』を仕舞い、早速練習した鎌を取り出す。うむ、とてもかっこいい。
「それはマタナのものか」
マタナというのはあの騎士か。
「多分そう」
私がそう言うと、武器を構えながら、
「傲慢なヤツが死んだと、フ……興毅官様がお喜びになってらっしゃった」
「そう、でももうその人にはもう通知はいかないかもね」
私は鎌の刃を撫でる。指が浅く切れて、漏れ出た魔力に刃が汚染されていく。
「と言うと?」
喋りながらも隙はなく、私の攻撃に備えていることがわかる。
「伝えておいて。私は月も太陽も喚ぶってね」
黒き炎を纏ったサイスは敵が構えた剣ごと溶かし斬る。
そして海から始まった戦争はひとまず区切りを迎えたのだった。
ギルドに戻ってきた。
椅子に座ってギルドマスターが帰ってくるまで談笑することにする。
今回はある島への派遣らしく、せっかくだから全員連れてきた。
「てかさ、城の話聞いたか?」
隣のテーブルから大きな声の会話が聞こえる。
「聞いたぞ、ロット城の話だろ?」
「なんだ、聞いてたのか」
自慢したそうだから話しかけてみようかな。
そんな事を考えていると、
「なんの話?」
へーレが隣のテーブルに移動して座った。良い判断だ。
「お、興味あるのか! よし、語ろう。時間はあるか?」
「うん、もちろん」
「はっはっは! 気に入ったぞ、何か飲むか? 一杯奢ってやろう」
「いいの? じゃあ、一緒にビールでもどう?」
「余計気に入ったぞ! おぅい、ビールを三杯!!」
ギルドでは飲み物の提供もしていて、一種の社員食堂のような側面もある。
比較的安価でヴァルメシ以外を食べられるため人気だ。
「ロット城ってのは城の裾に小麦畑を抱えてるんだ」
確かにホテルのパンは"ロット小麦"使用していたはずだ。
「"繁城ロット"とはよく言ったものだ。広い城内は一種のテーマパークのようになっているらしくてな。きれいなバラが咲く、美しい公園も頭に乗せていると聞いた」
その時、樽ジョッキが3つ来た。私も何か飲みたくなってココアを頼む。
「ここからが本題だ」
そう言うと一気にビールを飲み、空いた樽ジョッキを机に叩きつけるように置く。
「そんなアミューズメント施設で、あの有名なヴィルニア先生が著した本が書斎で見つかったそうだ」
あれ、聞いたことのある名前だ。しかし、思い出せない。どこで聞いたんだっけ。
「彼は魔物学の研究者だ。数千年の寿命は切れることがない」
「なんでそんな長い寿命を持ってるの?」
へーレが聞いてほしいことを聞いてくれた。
「エルフだからだ。たしか、彼の記した『城下日記』に書かれていたらしいぞ」
「エルフなんて神話でしか聞いたことなかったわ」
へーレがそう言うと、
「はっはっは、そうかもな! 『狩り星神話』でよく出てきた気がするな。ガキん頃よく読んでもらっていたな」
私はファーニンに『狩り星神話』について聞いてみることにする。
「ん〜、『狩り星神話』っていうのはね、24個の神話の一つなんだけど。風や弓に関連するお話で、子供の頃は『狩り星ごっこ』とかを友達同士ですることも多いんだよ」
「狩り星ごっこ……?」
私がそう呟くと、彼女は顎に左手の人差し指を当てて、
「一人が"射手"役をしてほかの友達は"兎"役をするの。射手役は短い木の棒を持って、それを兎役の背中に投げる。兎役はそれでゲームから離脱するっていう……」
そこまで説明されてわかったことは、私もやってみたいということだ。
「私は、ブランコのほうが好きだったんだけどね」
しかし残念ながら私にはできないだろう。誘えるような人もいないし。
「──という部屋……つまり各国を象徴するような部屋をメインに客を集めてきたらしいが、最近、経営が危ういらしくてな」
経営不振か。
そもそも貿易の利益をほぼ失って、観光に方向転換なんて難しいのだろう。
「近い内に、"廃城"になるんじゃねえかっつう冗談まである」
廃城……、そのほうが私たちに似合うな。
華やかで賑わっている場所よりも血なまぐさい崩れた輪郭を辿るほうが楽だ。
「へぇ……」
へーレの口元にはビールの泡が残っている。私の視線で、そのことに気がついたのかへーレは舌で取った。
「良い話し相手になってくれてありがとな!」
「いえ、こちらこそ。その手の噂話にはとことん弱いので助かったわ」
その会話が終わり、少ししてギルドマスターに呼ばれた。
「継泡島というのはご存知でしょうか。……まあ、どちらにせよ行ってもらうのですが」
「いいよ。行く」
そうして私たちは次の島へ向かい始めるのだった。
隊陽兵装
武器種:兵装
国を守る太陽の為の鎧。一大帝国、ソル帝国軍が着用する。
真っ暗な世界に太陽はなく、守るものすら失った。
かつて支配していたスツェーナ大陸は空に浮かび、世界の抑圧から逃げていった。そして陰に隠れた太陽と月は姿を見せない。
しかし同時に隠し事を抱いた。その置きどころに困り、グレイヴに押し付けた。それでも、狂気の沙汰だと非難されることもない。
『親心』あるならば、狂うのはしょうがないであろう。私も、それ故に"痣"を持つのだから。




