☆マニ視点後半と、停戦と打ち上げ☆
──マニ視点──
ハナトレにやってきた私たちは、太い車輪の後を見た。
私たちは軍用車両を持ってこれなかったのに、である。
「戦車を突っ込んだのか」
神出鬼没、氷茉の登場である。
「戦車……?」
私が聞いてみると、
「鉄の塊だよ。僕の前では無力だけどね」
そう言ったのは頼りがいのある英雄様だ。
確か作戦は、直接戦闘が苦手な人を中心とした臨時キャンプ護送隊が、戦闘が得意な人で形成されたハナトレ解放隊が敵から解放した民間人を助ける……みたいな?
あんまり分かってないのだが、たぶんそんな感じだ。
「一緒に行こう」
私は堪えきれなくなって、ゲーロイを誘ってみる。
「うん、もちろん」
私は先に動き出す。ほかの人達は分かってなかったのか、それとも私達が間違ったのかついてこない。
十中八九、私たちの間違……ハッ!? 危うく認めるところだった。
「敵軍到着、迎え撃てぃ!!」
ドン、という爆音とともに砲弾がとんできた。さすがにそれは片刃剣じゃどうしょうもない。
「ほっ」
私は球をスキルで包んで失速させ無力化する。後ろに続く仲間が被弾したら私に責任を押し付けられそうだからね。
「毅漸 故郷の主に跪け」
茂みを辿って戦車に触れたが、何かに阻まれてしまったようで分解されない。
おそらく、物理攻撃障壁だろう。だから、ゲーロイの手が戦車に触れられなかった。魔力があれば遠距離からの破壊にしたのだろうが、彼の魔力の摩耗に関しては私も気が付いていた。
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!」
私は水を『青鬼』に纏わせる。
そのまま『青鬼』を振るい、砲身とやらを斬り落とす。
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!」
更に上から水の槍を落とす。
地面に深い穴を空けた槍の雨は戦車を穴だらけにした。
「神言 白紅華ノ風夜月」
ザキルは迫る敵兵を殺していく。
やはり何故かスキルで攻撃してこない。何か暗黙の了解のようなものがあるのかもしれないが、もしダメならお姉ちゃんが多分なんか言ってくるだろうから無視で大丈夫だろう。
「獣力 朱・獣雷!!」
「獣力 黒・甓黎!」
マリとマルのスキルが炸裂し、いとも容易く第一陣を突破する。
「ねぇ、マニューバさん。あんまり、スキルを使わないほうがいいかも……」
「と言うと?」
「ふふ、その英雄の言葉なぞ気にするでない。使えるものを使う。何も不思議な話ではあるまいて」
「そう、ですけど……」
ゲーロイの言葉の意味を聞こうと思ったら氷茉に邪魔された。
「うぅ〜、ウチの街をこんなにして、許せないっ!」
へーレは普通の鋼の直剣を持つ。
そんな頼りない武器で大丈夫なのだろうか、とは思ったが修道女だし武装してるほうがおかしいのかも。
「じゃあ行きましょう、街の教会に向かって」
「む、なれば我も征こう」
へーレの肩を触れてそう言ったファーニンに反応した氷茉も付いていくようだ。
じゃあ私もついていこうかしら。
「私も街の中心に行きたいから付いてくよ」
「じゃあ僕も行こうかな」
私がそう言ってみるとゲーロイも付いてくるようだ。
「……君たちも来たがってるみたいだけど、ここを監視したりしなきゃだからごめんね?」
お、ゲーロイが味方兵を統率しているようだ。やはり英雄のお言葉ゆえなのか比較的すんなり聞き入れてくれている。
私たちは彼らに守護を任せ、街の中心へ向かう。
道中居る敵兵は前を走るへーレ、ファーニン、氷茉が片付けてくれる。とくにへーレは殺る気がすごくて、的確に急所を狙い返り血も厭わない。
「月錦 詠澪愧」
優しく唱えられたスキルは柔らかい雫の落ちる音と同時に敵兵が動きをとめさせた。
氷茉は片刃剣で心臓を貫き、地面に寝させる。
その動きは洗練され、底知れ無い経験値を感じる。
「どうした?」
ゲーロイが私にそう聞いてきて、説明出来ずに少し笑む。
「……何もできてないな」
そう呟いたゲーロイに同意する。
狭い街だからあっと言う間に中心につき、辺りを見渡す。バリケードばかりの街は銃を持った敵兵が建物から私たちに銃口を向けている。
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!」
私は『青鬼』を振り上げ、水のカーテンを作り出す。
一斉に射撃された銃弾はそれに飲み込まれる。
「雷ぃ、飛んでけぇ! 獣力 朱・獣雷!!」
小さく圧縮した雷の玉を召喚したマリ。その玉すべてが直線状に飛んでいき数人殺める。
「泡歌 死にし者に捧ぐ泡!」
泡がぷくぷくと湧き、伏兵が放った銃弾を既で防ぐ。
「遺能力 喪輪」
私は氷を喚んで見様見真似で銃を作り放つ。
ゲーロイは魔力が尽きたのか建物を駆け登り、大剣で建物ごと壊している。
「後は任せたよ」
救護隊にそう告げて、街を解放するためにさらに奔走したのだった。
─────1週間後
フール諸島国と、ソル帝国の間で終戦で条約が結ばれた。
損壊被害と、一般市民の拘束をソル帝国は一部認め、少しの賠償金と独立承認をした。さらに、しばらくの間互いの国民交流を禁止するというものも盛り込まれた。
これを『泡陽終戦条約』とし、二カ国間の武力衝突をしないというものだ。だが、公表はされなかった。ソル帝国のプライドが許さなかった、とも言われたがその胸の内は分からない。
ソル帝国国内では事実上の敗戦の知らせで反発が起こった。だが、ソル帝国は国民を弾圧する。
フール国内では少なすぎる賠償金に国民は静かに不信感を抱いたのだった。
──オリヴィア視点──
久しぶりに帰ってきたファーニンの家で私は目を覚ました。
枕元で聞いていたラジオも停戦について喋っている。
掛け布団を蹴り飛ばし、リビングに向かう。
「で……あんた誰?」
端正な顔立ちの女性に私は喋りかける。
「お主がオリヴィアか。我は高波氷茉だ。これからよろしく頼む」
「で、あんたもだれ!?」
「……僕はゲーロイだよ」
なんて広い家だ。ファーニンは貴族なのかもしれない。
そもそもなんでこんなに人がいるんだ。
「おはよう、オリ」
「……おはよう。聞かせてもらうよ、どうしたらこんな人が増えるわけ? どうして突然現れたへーレ含めて3人に対応できるの!?」
「……いや、あんたたちもいきなりこの家きたでしょ」
確かに。
「家具はもちろん彼らが出費してるよ。家に関しては私を引き取ってくれた義父母の別荘なの。だからオリたちも簡単に招けるような広さなの」
注がれたお茶は緑色で、見たことのないものだ。
ゲーロイと名乗った男は恐る恐る啜り、「アチッ」と声を漏らす。
勧められるまま私も口に含む。
爽やかな香りと少しの渋みがとてもおいしい。豆のスープみたいな色合いからは想像もできない味だ。
「美味しいだろう? 祖国の茶だ」
「もみじちゃんにお礼を言っといて。毎回美味しい食べ物をありがとうって」
「そう言っていると知ったら、主様もお喜びになるだろうな」
氷茉と名乗った女性と、ファーニンが会話をする。
「お返しできなくてごめん、とも言っといてくれる?」
「主様は送りたいだけだろうが……。まあ伝えておこう」
聞いた感じだと、氷茉とやらはもみじという女性の使者みたいな感じだろうか。もみじといえばファーニンが助けた異国の少女、だったはずだ。
「オリヴィア……さん、あなたがリーダーなんだ……よね?」
「そうだけど……」
ゲーロイがそう話しかけてきた。
「えっと……しばらく一緒に行動してもいいかな……?」
「それは別に構わないよ」
私は直ぐに許可を出す。
仲間が増えるぶんには構わない。打ち上げパーティーはにぎやかな方がいいからな。
「あ、ファーニン、明日の夜予定を明けといてね。みんなで打ち上げするから」
「え! 楽しみ、行く行く!」
ファーニンはテンションがめちゃくちゃに上がった。
「マニ……マニューバたちやへーレも来るけどあなたたちも来る?」
「我はファーニンが行くところなら行かねばならない。打ち上げとやらで出る飯にも興味がある」
「僕は……あいにく用事があって……」
氷茉さんは乗り気だが、ゲーロイさんは来れないようだ。
「………………やっぱり行く……」
「お、来るならホテルに泊まるから荷物持ってきてね」
そうして新たに二人を交え、打ち上げを楽しみに明日を待つのだった。
ホテルの前に集まった多くの戦友たち。
ギャチは私に近づいて、
「相棒、これを奢れば貸し4つ分なんだよな?」
「もちろん。思ったより人数増えたからね」
ヴェレーノはお財布を取り出して残金を数えている。
「じゃあ、入ろうか」
出費者のヴェレーノとギャチのもとに集ったのは、私、マニ、マリ、マル、ザキル、ファーニン、へーレ、リート、泡蘭、ボーリャ、氷茉、ゲーロイ。総勢14人で大きなホテルに入る。
広く豪華なホテルのロビーでヴェレーノが受付を済ませた。
本土は戦火に巻き込まれなかったから、ずっと泊まりたかったこのホテルにようやく泊まれた。
部屋割りはくじ引きで決めた。私の部屋はマニ、ファーニン、氷茉の4人だ。
かなり騒がしくなりそうだ。
部屋に荷物を置いて談笑する。
ヴェレーノと二人で話し合った結果、総額を折半することにしたらしい。
そして、私はある電話番号に連絡する。接客してくれた若い男性に夕食から1時間後に届くようルームサービスを注文して夕食会場に向かう。
会場に入るタイミングで小泡が、
「あら、食べ放題にしたんですわね。賢いですわ」
「ビュッフェ……?」
「ええ、いくら食べても料金が変わらないという食事スタイルですわ」
「文句は言わないでくれよ。アンタが食事スタイルの指定をしなかったんだ」
小泡の説明に慌ててギャチが言い訳をする。
「なら、ルームサービス頼んでよかったわ」
私が言ったことを数秒で処理したギャチが、
「バカ、それ追加料金だよ!!」
といってきた。残念だったな、ルームサービスを先に断っておけばよかったんだ。
「本当に貸し4つだよな?」
ギャチは私に再びそう確認してきた。
「心優しい英雄様だよ。約束は違えない」
「頼むぜ、相棒」
ギャチにそう言われるが返事をしないで私はようやく席につく。ふわふわで心地良い。正面には小泡が座った。
「ここで思う存分に食え……」
ギャチの許諾にあちこちから歓声が上がる。とくにリートは早速大皿を取って待ちきれないという様子である。
「米酒もあるのか! これは良い!」
氷茉は酒をグラスに注いで戻り、どかりと椅子に座るなりグラスを仰いだ。
「こりゃ旨い酒だ! お主も飲まんか?」
「私? まだ子どもだよ」
「む、そうか……。勿体なきことよ。美酒だと言うのに」
あっさり引き下がってくれた。
「あたくしたちも行きましょうか、ご飯を選びに」
立ち上がった小泡についていくことにする。
見たことのない料理から庶民料理まで。料理の前に特徴が書き込まれた札があり、どの国の料理か分かりやすい。
「あら、これとかどう?」
小泡の指の先には操国のスイーツ、『杏仁豆腐』。
私は食べたことがないから、かなり気になる。
「えっと……どう取れば良いんだ」
「ふふ、そのまま一つ取れば良いんですわ」
小泡は入れ物を一つ取って私が持つトレーにスプーンと一緒に乗せた。
「ありがと」
お礼を言って次の料理のもとに行く。
壁に貼られた世界地図に料理の出処が書いてある。
チェンランの料理は『ビビンバ』などで、ルナトの料理は『お握り』などだった。
ほかの国もエルダリアの『石焼きパン』や、防衛国ギルドの『盾ピザ』など様々だ。
ツアチャーの『葡萄ジュース』をグラスに注ぎ、欲張りセットを机に置く。
小泡は『エビチリ』に『小籠包』、『味噌汁』、『ひとくちステーキ』それに『プリン』だ。
私の隣ですでに酒を飲みまくっている氷茉は『刺身』『冷奴』、『キムチ』。
元を取ろうと燃えているギャチは、『スンドゥブ』、『ローストビーフ』、『餃子』。
私は適当にたくさん取ってきた。
最初に、この『ハンバーガー』から頂こう。
ふむ、あごが外れそうなほど厚いこのハンバーガーはとても美味しい。とくにこのピクルスがいいアクセントになっている。この肉は竜肉だな。いいセンスをしている。
私が作るとどうしてもタレが溢れてしまって食べづらい。参考にしたいところだ。
こっちは『ラーメン』だ。氷茉と小泡に教えてもらったとおりに啜ってみるとスープが気管に入ってしまい咽る。
「急ぎすぎだ、誰も取りゃせん」
氷茉にそう言われて少し反省する。
「どれ、我は麦酒も飲んでみようか。そう言えば『焼き鳥』があったはずよ。泡蘭、見たろう?」
「見ましたわ。ふふ、ビールをお飲みになるのでしたら『餃子』もよく合いましてよ」
「そりゃいい。取ってこよう。オリヴィア、お主もいるか?」
ラーメンのスープを飲んでいたらそう聞かれて、
「いる!」
と、とりあえず返事しておく。
この『葡萄ジュース』も美味い。ハンバーガーと特に合う。
少しすると氷茉が大量の串を持ってきた。
「ルナトの料理なの?」
私がそう聞くと、
「こっちの『焼き鳥』はルナトの料理だが、『餃子』は操国よ。見ているだけで酒が欲しくなる」
餃子を箸でつまんだ氷茉は、一口で食べる。グラスを一気に傾け、黄金の水を飲み干す。
「よう冷えとる。泡蘭、お主いい舌を持っとるな!」
「ふふ、喜んでいただけて光栄ですわ」
そんな会話をよそに私は餃子を取ってみる。
箸はやはり慣れなくて、フォークでとる。餃子のタレをかけて一ついただこう。
噛んだ途端、もちもちの皮から肉汁が溢れる。タレともよく合っていてとても美味だ。
自然と手が次の餃子を求める。
十個くらい食べたタイミングでニヤニヤしながらマニが私を見ていることに気が付いた。
少し恥ずかしい。
「食べ過ぎじゃない?」
「……あんたこそそんなにティラミス乗せてる」
私が目に入ったマニのトレーに突っ込むと、マニはハッとして、
「違う! 配ってるの!!」
そう言うと私含めてこのテーブルに座っている4人のトレーに無理やり置いてそそくさと自分の席に戻っていった。
「……面白い妹さんですわね」
「でしょ、あれで恥しがり屋なんだから面白いよね」
ヒソヒソ声でそう交わすが、凍てつくマニの視線で会話を止める。
では、焼き鳥を頂こう。そうすればマニの怒りも収まるだろうし。
少しタレで汚れた串を滑らないように強く摘んで口の前まで運ぶ。ほんのり甘い匂いがする。
氷茉を見た感じ、横からスライドさせて食べるみたいだ。
そのとおり齧ってみる。
勢い余って串まで噛み砕くところだった。
匂い通り甘いタレと、肉がベストマッチだ。これはたぶん、バジリスクの肉だ。
普通の鶏肉よりも肉が柔らかく、しっとりしているのが特徴だから比較的わかりやすい。
「どうだ? 旨かろう」
もう何杯目かもわからないビールが入っていたグラスを回しながらそう聞いてきた。
それなのに彼女はまるで酔った様子がない。
「あら、美味しいですわね」
「おお! よく分かっておるな! どれ、次はそのスンドゥブとやらを頂こう!」
焼き鳥を美味しそうに食べる小泡に嬉しくなったのか気分も良くなっている。氷茉はそのまま席を立った。
その時、視界の端にファーニンが映る。直後ガシャンと割れる音が聞こえた。
「ごめんなさい!」
慌てて破片を拾い集めている。見ていた感じ、手から滑り落ちたみたいだ。
私は駆け寄り、破片をスキルを駆使して回収する。
「大丈夫ですか? 拾わなくてもよかったのですが……。お怪我はありませんか?」
「ごめんなさい、このお皿を割っちゃいました。いくらでしょうか……?」
ファーニンがそう聞くと、
「大丈夫ですよ。ここだけの話、お皿自体は高いものじゃないので」
え、そうなの!?
フール磁器と呼ばれるこのお皿は音を用いた製法だそうだが。
「では残りはお任せください」
そう言われて私は手を洗ってから席に戻る。
「名産品はすべて高いわけではないのですわよ。安価で生産でき、珍しさと使いやすさがあれば技術は蓄積されますのよ」
小泡がそう説明してくれた。
確かに、地元で武器はとても安かったのに、こっちは小剣でも目を見張る金額になっている。
それに加えてこっちの冒険者は比較的裕福な家柄の人が多い気がする。だからギルド内の治安も良いんだろう。
「でもこのお皿、優しい魔力が込められてるよ」
「そこまでは知らないですわ……」
まあ良いか。
私は少しぬるくなってしまった杏仁豆腐にスプーンをさし、口に運ぶ。
癖のある甘さがとても美味しい。プリンとはまた違い、もっちりとしていてなめらかだ。
「気に入ったようですわね」
そう言った小泡は嬉しそうだ。
「旨かったな! そろそろ我は風呂が楽しみだ! 露天はあるのか?」
「ルナトの旅館じゃないんだから、露天風呂はないよ」
氷茉の質問にギャチが答えた。そして、ギャチが
「相棒、そろそろ帰るか?」
と聞いてきた。私としてはお腹いっぱいだ。
それに他の仲間達もだいぶ帰ってしまった。
「ルームサービスもあるしもうお腹いっぱい。ごちそうさまでした」
そうして私たちはディナーに満足して宴会を閉じる。だが、思い出して足をとめる。
「小泡、少し残ってくれる?」
まだ夜は長くなる。
ルナトのスキル進化順
幽幼→月錦→深光




