☆泡実の新生海洞窟奇襲☆
今後、視点をオリヴィアに戻す際にも ──オリヴィア視点── というのを入れることにしました。
理由としましては、今までのお話では一つのまとまりのみ別視点で描いていたことが多かったのですが、戦争が始まってからはそうすることが難しくなったためです。
今までのお話は変えるつもりはございませんので、その点はご了承ください。
──マル視点──
少し早く目が覚めた。
辺りを見渡すと、波の音しか聞こえない暗闇で一つの機械が座っていた。
ザキルじゃない、不思議な機械。
「なんだ、これ……」
欠損していない部位は人体のそれで、その内側には不思議な部品が詰められていた。近くに落ちていた大弓もまた、見たことのないモノだった。
胴から離れていなかった右肩には『9号』とだけ、書かれていた。その下に読めない文字が刻まれている。
そして、その近くには地図が落ちていた。しかも、その地図には見覚えのあるハンコが押されている。
「このハンコは……あれだ、えっと……」
「『不赦の隊陽』でしょ」
後ろにいたのはマリだった。
慌てて地図を背中に隠す。
「早起きして地図見てるなんて……」
欠伸をしながら、ヴェレーノはそう呟き、欠伸のせいで目に浮かんだ涙を拭っている。
「ここ、行こうと思う」
そう言うとマリが慌てて、
「やめたほうがいいよ!」
と言った。僕は反抗するように、
「じゃあ今は行かない。でも、オリに言うからどうせ後で行くよ」
「オリがいるなら文句ないよ。でも、私たちだけで行ったらだめ。だって、この世界の海は全部黒に染まっているから。たぶん、この世界が沈んだ日からね」
マリにそう言われて、混乱してきた。
「なんで海が黒いことが重要なの?」
「だって──はぁ……汚いじゃん」
綺麗好きだったのか。あまりそういう記憶はなかったのだが。
「だから、フィヤルナの防御壁がないとだめ」
「わかったって……。オリを待てば良いんでしょう?」
僕が観念してそう言った時、黙ってたヴェレーノが、小声で、
「しゃがんで」
と言っていた。理解をするよりも先に岩に身を潜め、辺りを確認する。
明るいライトが僕らがいる場所を照らす。
少しすると、ザボンっと音を立ててオリが乗った船よりも少し小さい船が錨を落としていた。
そして、兵士が島に入ってくる。
全員島に入ったのか、ライトが消えて、船が海の中に沈んでいく。
「いつ見ても壮観だよなぁ。どういう仕組みなんだ、あれ」
「声が大きいぞ、伏兵がいたらどうする」
ソル帝国軍はそんなやり取りをしながら、前に進んでいく。泡実島の森林に入られたら追える気がしないな。
どうしよう、今のうちに殲滅しようかな。
「獣力 黒・甓黎」
僕はスキルを唱え、地面から岩の針を出し、軍の一部を攻撃する。
「敵襲っ!! 軍事能力の発動を準備せよ!!」
ソル帝国軍は微かに漏れた僕らの魔力を見つけ出し、攻撃をしてきた。
「獣力 朱・獣雷」
僕が『河童』で銃弾を弾くと同時に、マリが朱い雷を呼ぶ。バリィっと雷が敵兵のシールドと少し競り合うが、すぐにシールドを割る。
「「「軍事能力 煩焔」」」
数人がそう唱えると僕らを包むように、炎の半球が出来る。
「それだけ?」
『恵灰能力 半神・掃料』の権能で水を呼び、『軍事能力』を相殺する。
これが、ソル帝国軍の奥の手と言ったところだろうか。残念ながらオリの加護のある僕らには大して効かないようだが。
「神様の攻撃に比べたら屁でもない」
「『尻の河童』だよ」
マリに重ねるように僕は言う。
ヴェレーノが『赤鬼』を振るって攻撃したことからそのまま近距離戦に移る。
ソル帝国軍はスキルを使わないように躾けられているようで、エンチャント系統や、防御系統以外は使わなかった。
おそらく、この世界固有の常識なようだ。
「僕らもスキルは使わないほうがいいのかも」
"黒羽の炎"のブーメラン形態を持って、『八岐大蛇』を振り回すマリにそう言ってみる。
「そうね、別に脅威じゃないしそうしてもいいわ」
マリは『八岐大蛇』で敵の首を絞めて、燃やし殺す。
僕は、"黒羽の炎"を分離させ、二振りの炎の剣に変える。武器の形変化の時に優しい音が響く。
敵兵を鎧の上から攻撃していく。
一人、一人、また一人。今まではオリが居たからこんなに死体が邪魔になることなかった。だけど、折り重なった死体に化けた敵兵がいるから、倒れている死体も巻き込むように攻撃を繰り返していく。
数分後、敵兵の死体を燃やす作業に入っていた。
火を灯し、暗闇を屍が照らす。
そうして僕たちの歴史に残らぬ争いが幕を下ろしたのだった。
──オリヴィア視点──
いつの間にか泡実島に着いていたみたいで、船から降りる。
「オリヴィア隊長、あちらでご戦友がお待ちです」
ボーリャが笑みを浮かべてそう教えてくれた。お礼を言って、戦友のところに向かう。マニと一緒に待っていたヴェレーノは大きく手を振ってくれた。
「待ったんだけど」
『待った?』って、まだ私聞いてないけどな。マニは腰に手を当てて、私を鋭い視線で威圧している。
全くもって、怖くはないが。
「着港してから何時間待たせてるワケ? あんた、隊長でほかの人が強く出れないことを良いことに夢の世界で遊んでたんじゃないの?」
マニは私のおでこに人差し指の腹を押し当てて、探るようにそう言った。
「寝てたのは……ホントだけど、ボーリャが起こしに来るって……」
「あ・の・ね! あの子の起こしかたあなた方が起きられるわけ無いでしょう!」
マニはすごい速さで私を捲し立てた。
「ヘーレもヘーレよ! あなたもなんで朝弱いの!? あなた修道女でしょう!」
「えへへ……。普段は早く起きられる人に起こしてもらってるから……」
「もう、なんであの音量の目覚ましで起きられないの……?」
そうだ、ヘーレが目覚ましをかけてくれてたんだ。
「問題はあんたよ。ねえ、ザキル? なんでタイマー機能を使わないの?」
ザキルにも矛先が向かった。
「起きてたんだけどねぇ……、どうも起こせなくて」
ザキルはそう濁したが、マニはさらに詰める。
「起こせるよね。前、起こして──」
「そうだ、マニに貰った上着、暖かくて着心地良いよ!」
「ほんと!? やっと着てくれたんだね。気に入らなかったのかって思ってたんだぁ」
気分が良くなったのか、鼻歌交じりに本題に入った。
「それで、今から洞窟探検部隊と、あとはハナトレ奪還部隊、そして市民解放部隊に分かれる。オリヴィア、ヴェレーノは西海岸に向かって。それ以外はみんな私についてこれば良いわ」
そう言うと、マニはザキルとヘーレの手を握って連れて行った。多分他の人は向こうで待っているのだろう。
「お二人も洞窟グループなんですね」
ボーリャは深々と一礼してからそういった。私は小さく右手を上げ、その礼に答える。
「歩きながら話しましょうか」
その提案に乗り、集合場所に歩き始める。
「六人の少数グループです。ぼくらの他に、ギャチさんと、リートさん、あとは、泡蘭さんが居ます」
「泡蘭?」
私が聞くと、ボーリャは頷き、
「彼女は操国で生まれた方で、槍に似た不思議な武器を操ります。"泡歌の護り人"の一人であり、この国における重要なヒトです」
と続けた。
「操国……ね。興味があるんだ、その人に話を聞いてみようかな」
「そうすると良いと思います」
それくらいしか話してないのだが、集合場所に着いた。
「よー、ボーリャ。んで、横にいるのが……あー、オリヴィアだな!」
「始めまして。名前だけは聞いてるよ。リートさん、でしょう?」
「そうだ、おらがリートだぜ!」
ニッコニコの彼は有翼人のようで、真っ白な翼と屈強な体をどんな武器で生かすのか気になってきた。
右腕でガッチリ拘束されたギャチが困ったような視線を向けてきたが、無視させてもらう。
「で……そちらは泡蘭だね?」
「そうですわ。あたくしは泡蘭。地元では小泡と呼ばれていますの。そう呼んでくださいな。えっと、あなたが奥莉薇娅さんで……ふふ、そっちの可愛い猫猫はヴェレーノさんね。お会いできて光栄ですわ。よろしければ阿莉と呼ばせてもらえるかしら。あたくしの国で"オリヴィアちゃん"って意味ですのよ」
胸に手を当て、自己紹介をしたあと、お辞儀をした彼女は完璧な所作であった。
「かわいい……」
ヴェレーノは耳をピクピクさせながら照れてるし。
「よろしくね。そう呼んでくれて構わないよ。んと、小泡ね。そうだ、いつかお茶でもしよう。私がお茶菓子を作るよ」
「あら、お菓子作りが出来ますの? あたくし、甘いものが好きですので、楽しみにしてますわ。茶葉の用意は任せてほしいですわね」
動きやすそうな服を着ている彼女は可愛らしい仕草で笑った。
「では始めましょうか」
そう言ったのはボーリャで、それに耳を傾ける。
「今回の戦いはかなり優勢で進んでいます。ついに補給部隊も断ち、勝利は目前です。そこで、僕らは洞窟を攻略し、完全勝利を収めます」
ソル帝国は思ったほど強くなかった。次もそうでもなさそうだ。
「作戦という作戦はありません。では行きましょう」
ボーリャはそう言って私に目配せをした。
だが、意図が分からず困惑する。
「どうされたんですか? 参りましょう、隊長」
「はっ!?」
私は驚きでそう口にする。
「阿莉、よろしくお願いしますわ」
「おらからもよろしく頼むぜ!」
「その前に俺を助けて欲しい」
すべての責任を背負わされた私は、洞窟に向けて歩き始めた。
また戻ってきたこの洞窟は警備がしっかりしていて、絶対バレる。
「オリ、どうするんだよ」
ヴェレーノが私の横から顔を出してそう聞いてきた。
そう言われても作戦を提示されてないんだよ、こっちは。
「じゃあ、凸ろうぜ! おらが先陣切ってやる!」
馬鹿みたいに大きいハンマーを取り出したリートはニカッと笑う。
「あたくしにも任せてほしいですわ」
鎌と槍を合わせたような武器を持って小泡も前に出た。
「俺も行ったほうがいいだろ」
ギャチは半透明の泡のメイスを持って気怠げに前に出る。
ボーリャもまた、炎の直剣を握って、戦闘する気まんまんだ。
「俺はもちろん行くよ」
『赤鬼』を鞘から抜いてそう言った。
「……じゃあ行くか……」
私は渋々茂みから飛び出して一人殺す。容易く鎧を貫いた『黒鬼』は敵の血が気に入ったのか刀身の根元まで血が付着した。
「チッ。やる気出せ! さもないと俺が殺す」
敵の軍将だろうか。威圧的な言葉で怯えた敵兵が一気に私に向けて牙を剥いた。
「あなた、"非殺傷封印"解除してますの?」
小泡が、一般兵の首を掻っ切って、敵将を睨む。
「俺は興毅官様のお気に入りだからな!」
敵将がもってる、その鎌が欲しい。マニが鎌持っていてずっと羨ましかったんだ。
早めに片付けて戦利品にしよ。私は欲望のままに戦場を駆け巡るのだった。
聖躬の大弓
武器種:弓
機構体『9号』の近くに落ちていた大弓。
機構国と月魄の国の共同で作られたそれは国の守るべき矜持の為にある。
さらに、それは無限の矢を創製し、また壊れることなどないという。それは漂着してなお弦すら切れていないことから分かる。
さらに、竜と悪魔の類に特効を持つ。それはきっと弓使いの憧れだ。
なぜなら、儀式の枠を飛び越えて、魔性に射るからだ。
私の師匠も、弓を射ていた。その様に、私は憧れを抱いていた。
糸紡戟
武器種:戟
長柄武器使いである、泡蘭の得物。
操国出身の彼女は留学先に選んだ歌国を気に入った。
昔の彼女は藁姫と呼ばれる女閭に仕えていた。その主に別れを告げ今は異国の地を守るために戦う。
この武器は引っ掛けるように使うことも、引き裂くように使うこともできる。
私は彼女に一種の恐れを抱いた。彼女の戦いざまに、或いは彼女の迷いに。
フール礁の古代大槌
武器種:ハンマー
大きな武器を扱うリートの武器。泡のような色をしたこの武器は少しだけ透けている。
有翼人であるリートは、ある日このハンマーを見つけた。
フール礁という高価な海の鉱石を贅沢に使ったこの巨大なハンマーは、鉄の塊を一撃でぺちゃんこにする。
有翼人の都は、鉱国にある。そこから国外に出たリートは歌国で泡に見入った。
私にハンマーは似合わない。ハンマーでは人をきれいに殺せないから。
音載せメイス
武器種:メイス
笑う騎士、ギャチの得物。泡に音を飲ませ、メイスにした物。
フールで生まれ、育った彼はフールに疑念を持った。だから彼は武力のない島を守ることにした。
振るうことで音を発し、敵を錯乱させる。そして、相手の耳にぶつける様に攻撃をすれば相手は怯むそうだ。
私は音を嫌う。平穏な水を揺らし、また黒き炎に馴染むから。
操国スキル変化
糸垂→蚕虹→清絖
波に揺れた雌しべみたいよのう──海原の莟 高波 氷茉




