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シンコウ  作者: わらうクジラ
フール諸島国編
14/19

☆泡実海岸奪還戦線・マニ視点☆

──マニ視点──




私はパンパンに詰め込んだバッグ背負って小さな船に乗った。


「……コレで戦争行くの?」


頭を押さえて疑問を呈すマリを(さす)る。


「すみません……俺もこの潜水艦に乗るみたいで……」


船員リストには居なかったはずだ。誰だ? 

 そんな時に、もう一人男性がやってきた。


「あ、こんにちは!」


彼は船長になるラハトさんだ。

 すぐに挨拶をしておこう。


「こんばんは。あなたはマニューバさんだね。噂は聞いているよ。あなたとともにこの国を救えること、喜ばしく思う」

「私もよ。それと……彼は誰?」


ビシッと不審者を指す。


「おっと、来ましたか。彼は英雄ゲーロイさんだ」

「英雄……そんなご事情とはつゆ知らず、私の無礼をお許しください」


私は謝っておくことにした。

 私だって元は貴族の一端だ。それくらいの礼儀は知っている。


「いえ、えっと、気にしてない……よ。あまりにも振る舞いが美しかったから令嬢かと思ったんだ。それで話しかけた」


頭を掻く英雄は、童話の英雄とは違う。もしかしたら英雄はお姉ちゃん然り、みんなこういう気の抜けた人しかいないのかもしれない。

 それにしても令嬢か。彼には貴族に関する知識があるようだ。


「ラハト船長、今日はよろしくお願いします。えっと、君は……ごめんなさい、搭乗員の名前は覚えたんだけど、顔を知らなくて」

「そうですね、まだ名乗ってませんでしたね。マニュリカの娘、マニューバです」


そう言うと何故かゲーロイは吹き出して、


「ふふっ、いい冗談だね。よく覚えた。ということは後ろにいる、もふもふ耳の2人はマリとマルだ。そして、そこの青年は……ヴェレーノかな。うん、君たちとは仲良くなれそうだよ、これからよろしく」


そう言って差し出された右手は少し硬くて、頼もしいものだった。

 その後、ほかの仲間たちとも握手を交わし、少しの雑談のあといよいよ潜水艦に乗った。




真っ暗な水中を鉄の船が進んでいく。人生で唯一乗った船はたぶん木製だった。

 

「ねぇ、何分くらいで着く?」


そう聞いてみたら、


「そうですね、敵船は探知してませんし、恐らく30分もあれば……」


すごい速いな。田中さんの船だったら2時間くらいだったはずだ。

 2時間なんてあの話術のおかげで暇しないのはすごいことだと思う。


「私、部屋に行ってる」


見た目の割に中が広いのはやはりスキルによるものだと思う。


「私もついてく!!」

「僕は残ってるよ」


二人いたらなおよかったのだが、仕方ない。一人いれば満足だ。


「ヴェレーノは?」

「たぶん部屋で寝てるよ」


私が聞いてみるとマリは即答してくれた。 

 部屋のドアを開けるとソファを占領していた。最近猫の姿を隠すのをやめたようで、頻繁に見ることができる。

 

「マリ、早く」


私が急かすと、マリはすぐにオオカミの姿に戻りベッドで丸まった。そのふわふわの毛に顔を埋めるように横になる。

 この時間が至高である。いい匂いがするし、温かいし、生きてる感じがする。 

 いつの間にか寝てしまっていたようで、潜水艦が止まっていた。

 マリは私を覗き込むように見えていて鼻をピクピクさせていた。私が起きたことに気が付いたのか、人の姿に戻った。

 マリから共有されている、『朱雷能力(グループ) 人狼(アカマター)』マルから共有されている『沈黎能力(グループ) 人狼』を使えばオオカミの姿になれるのだが、そういう話ではない。

 私がフワフワになっても良いけど、そうじゃなくて人のフワフワを撫でてるときが良いんだ。


「ヴェレーノ……、起きなよ」


マリは右手を鋭く落とした。ヴェレーノの頬にクリーンヒットしたその一撃で起きたようだ。

 私もそれ、お姉ちゃんが起きない時に使えるかも。お姉ちゃんならスキルを混ぜても死なないから、罰に良いかも。

 2人を引き連れて潜水艦から出る。

 波が岸に当たる音だけが響いていて、ここから戦いになるなんて思えない。


(ねぇ、どういう作戦なんだっけ)


私は記憶力がいいふりをしたいから、会話の内容把握を全部カオスに任せている。


(はい、取り残された現地民が洞窟で監禁されているため、浜を占領し、補給を絶ってから洞窟での戦闘に移行します。炎を使うと洞窟内の酸素が不足するため注意するように、とのことです)


そうそう、それだ。


「マニューバさん! こっちだよ」


私を呼んできたのは、誰だっけ。


(……英雄、ゲーロイです)


そうそう。最近、物忘れがひどい気がする。死期が近いのかもしれない。


(そんな縁起でもない冗談、心のなかでも思わないでもらえますか? 聞こえてますので)

(忘れてたわ)

(はぁ……)


お? ちゃんとため息ついたぞ。


「マニューバさん、夕食だよ。最後になるかもだからちゃんと食べて」


そう渡されたのは黒い何かだった。

 いつかこんなことがあった気がする。これはビーフシチューか? それにしても黒い。ここの海水みたいだ。


「ありがとう……」


そう言って一口啜ると、何かが逆流してきた。神様って嘔吐(オート)機能ついてたんだ。

 なんとかそれすら飲み込む。

 少なくとも、ビーフシチューじゃない。


「えっと……付け合わせって作ってる?」

「まだだよ」


神でこうなるなら、人間は原型をとどめない可能性すらある。

 

「私も料理したい気分。残りは私に作らせてよ」

「いいのかい!? 任せるよ。あまり料理が得意じゃなくて」


そりゃ、そうだろう。ふと、目をやると、ほかの人の手にはからの椀が握られていた。

 よく生き抜いたな……。しかも笑顔だ。

 さすが戦士、そういったところだろうか。

 私が取っておいた葉野菜を使った、"肉の葉野菜巻煮込み"を作ろう。

 まず、水がないから、スキルで水を注ぐ。それを沸かしている間に、肉だねを作ろう。

 お姉ちゃんのスキル空間からすり潰された竜肉を取り出し、みじん切りにした根菜と、生で食べると少し辛い魔草の実を混ぜ込む。

 葉野菜を一分くらい沸騰したお湯で茹でて、しんなりしてきたらザルで冷ます。

 みじん切りにしたヤツを肉に突っ込んで粘り気が出るまで混ぜる。

 そしたら、葉野菜にはみ出ないように包んで、爪楊枝(つまようじ)でとめる。

 お姉ちゃんのアドバイス通り、巻き終わりをしたになるように敷き詰め、この前買った"ヴァルキューブ"を一欠片突っ込んで、中火で沸騰させる。アクが浮いてきたら取って、火を弱め、中に火が通るまでゆでる。

 最後に調味料で味を調えれば完成だ。 

 それを配り、皆で食べる。


「おいしい! 料理うまいんだね……」

「ありがとう」


私ははにかむ。


「ヴァルメシばかりだったからな。染みる」


好評をいただき、光栄だ。

 申し訳ないが、スープは捨てさせていただく。これは私の生命に関わる話になるからね。

 続々やって来る味方にも配り、そうして更けること無い夜が過ぎていった。




スズメの鳴き声はなく、ただ時間の喪失感で目が覚めた。

 テントで着替えてから這い出て、辺りを見渡す。

 この世界の利点といえば目を覚ました時にまぶしいという感覚がないことだ。


「マニューバさん、そろそろだよ」


黒い海水に汚れた砂浜は黒く、でも、神秘性だけは失ってなかった。


「英雄の力、見せてよね」


寝起きの声は枯れなくなった。だんだん水の神になっていっている自覚も強くなる。


「ねぇ、マニューバさん。なんでこの世界は暗いんだと思う?」 


なぜ? そんなの決まってる。


「沈んだからでしょ」


そう言うと彼は目を細めた。


「ふふ、考え方まで数千年前に合わせる必要はないよ。僕は考えたんだ、恐らく神の怒りを買ったんだってね」


煩いサイレンの音が響く。ハナトレ、街の方だ。

 直後、無数の敵兵が着岸した。


「もう時間切れみたいだ。毅漸(スキル) 故郷の主に跪け(クイ・スオーン)


そう唱えると、船が崩れた。


「どういうスキルなの?」


私がそう聞いてみると、


「全てのものを故郷別に分離する能力らしい。建造物にしか効かないけど」


彼は正面で溺れる敵兵を見つめる。

 バッと取り出した武器は、英雄のそれではなく、まるで獰猛な獣の欲望をまとめたような武器だった。

 細かい魔力源が無数に引っいていて、どうしても気になる。


「共闘しようよ」


私は『青鬼』を携えて、そう言い、彼に近づく。

 

「ずいぶん強力な武具だね、その片刃剣」

「貴方こそ、かなりの……、呪剣かな……?」

「呪剣なのかな……? 大剣だと思ってるけど」


近くで見るとその魔力源一つ一つが何か分かった。声は出さない、こんなことで驚くような未熟者ではないのだから。

 爪の欠片一つ一つがまるでそこにあることが当然かのごとく、恐ろしいほど静かに剣にしがみついている。


「さあ、行こうか」


ゲーロイはそれを担いで岸までやってきた敵兵を殴っていく。振る度に小さなスキルのかけらが痕跡を残す。

 私も迫りくる敵兵を斬っていく。 

 装備が水を吸ったのかかなり(のろ)くて、あっという間に片付いた。

 

「投降兵の処理はお任せください」


たしか、5番目に来た潜水艦のリーダーだったはずだ。

 私は水の縄で捕まえてある敵兵をそのまま渡したのだった。




爪貼り大剣 

武器種:呪帯(のろいおび)・大剣


英雄ゲーロイの得物。刃に貼られた爪は獣の物や、竜のものや、ヒトの物など多種多様だ。

 爪は隙間にかつて殺した敵の血を溜め込む。

 そして、その爪が剥がれた時にそれを吐き出す。

 爪は持ち主の属性を持ち続ける。故に、斬れずとも敵を殺せるのだ。

 遺品の有効活用である。私はそこまでおかしいことだとは思わない。だって、戦時なら投降しないヤツは殺して良いんだから。燃やして、消しても良いんだから。

ただ広い空に、歌と詩で出来た雲を──泡歌の護りビト リート


お前も"穏やか"を崩すのですわね──異国の護りビト 泡蘭(パオラン)

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