☆フーニル沖神戦・ザキル、ヘーレ視点☆
──ザキル視点──
「あたしは先に船を沈めるね」
あたしがそう言うと、
「沈めた船の数で勝負しよう。ウチが勝つ、なんてったって私の地元のそばだし、早く行かないとだから」
ヘーレがあたしの肩を突付いてから勝負を吹っかけてきた。
「いいよ、あたしはオリヴィアちゃんの加護を得てるけどね」
前の世界──スツェーナ大陸──で巨悪の根源である悪神を倒したあと、トルンさんが一応新たな最高神についた。
トルンさんはオリヴィアちゃんに首ったけで最高神であることをなんにも気にしていないようだが。
最高神の名のもとに結成された『排戦組合』はすべての独立国が加盟し、すべての国で非武装化を決行した。
というのも全ての国を巻き込んだ大戦の影響──オリヴィアが言っていた2回のうちの1回──で兵を摩耗し、武力行使の欠点を再確認したからだ。
期日を超えて軍隊を保持した国は最高神が不毛の地にすると言ったため、期日よりも数カ月早く非武装化が終わった。
自治部隊は認められたが、最大人数は一地方につき百数十人とかなり少なくされた。地方の面積も明確に決められ、それを超えないと自治部隊と名乗ることが出来ない。
反した場合『排戦組合』が持つ軍を動員し、速やかに占拠する。軍事問題を起こした国は投票権を剥奪される。
つまり、文明レベルでははるかに劣るスツェーナ大陸は平和意識でははるかに上回る。
そして、"加護"というのはオリヴィアちゃんの愛の結晶とも言える『恵灰能力 半神・掃料』のことだ。
その効果は水と風の操作と、あたし、マル、堕霊3人、ヴィエロのスキルが黒を帯びている仲間たちは黒き炎など、オリヴィアのスキルの一部を使える。あとは──これが一番助かるのだが──オリヴィアちゃんの無限倉庫を共有できる。服とか、小物とか、任務報酬とかいつでも取れるのだ。
オリヴィアちゃんのようなワープは出来ずとも、あたし達への不覚の一撃を絶対防ぐなど愛に満ちた性能を持っている。
制限はお互いの魔力感知の最大半径の和の距離。
少なくとも今回の海戦ではそんな距離にはならないはずだ。
「出発前に、一つ、いいですか?」
ボーリャがあたしに話しかけてきた。
「オリヴィア隊長は、神様なんでしょうか」
本気でそんな事を言うからあたしは困ってしまって、
「なぜかそう感じてしまったのです。僕が隊長に感じた魅力は多分、ウソじゃなくて、でも──いえ、ヘンですよね。ごめんなさい、忘れてください」
一方的にそう言って、一礼し、オリヴィアちゃんの指示を仰ぎに向かった。
あたしは去年の誕生日、というかオリヴィアチームの加入日にマニちゃんから貰った上着を脱ぐ。
あたしたち同士のプレゼントは大抵着るものか、斬るものかみたいな感じになっていて、毎年一気に服の予備が増える。
マニちゃんがずっとまだ着ないのかと、心配そうに聞いてくるからそろそろ着ようと思ったのが今日だった。
早速オリヴィアちゃんの無限ポケットに丁寧に畳んでから仕舞う。
ついでにその時にヴィエロちゃんからもらった斜めにかけるタイプのバッグも仕舞う。
軽く体をほぐしてから、潜水艦に乗る。
多くの機械が密集したこの潜水艦とやらは、船艇の穴から出る。その穴は魔力の膜で覆われていて、潜水艦はその膜で覆われた。
「ザキルリーダー。機体の安全を確認、出発します」
「ええ、お願いするわ」
グッと加速して続々到着する敵船から離れつつも、視認性を上げる。
「連絡確認、敵船には潜水艦放出機能は無し」
はえ、無いんだ。
「敵船攻撃します」
その宣言とともに敵船の船底に大きな穴があいた。おそらく実弾を発射したのだろう。
じゃなければこの水中で魔力の球を打てない。やっぱり気になるから聞いてみようかな。
「ねぇ、水の中でどうやって魔力を維持してるの? だって魔力を分解とか、阻害とかしてくるでしょう」
すると、技術士みたいな人が背中の泡を震わせてから、
「はい、ですので、膜で包んで発射してます。この"膜"というのは背中の泡と一緒です」
そんな便利なものだったのか。
うわ、その技術欲しいな。そしたらマニちゃんやオリヴィアちゃんの役に立てるかも。
「反撃を確認、回避不可、被弾しました」
全然揺れなかったが、被弾したそうだ。
「何故だ」
そう聞いたのはさっきの技術士だった。
「味方船に擬態した敵船に騙されました。同じ波形の魔力波を使っていたためです」
「暗号は傍聴されていたのか」
「不明です」
技術士はその返事を聞いて潜水艦の奥の方へ向かった。
「作戦実行の難易度上昇を確認、撤退許可をお願いします」
「許可する、あなたたちは休んでいて。あたしたちが勝利に導く、一人とて死なせない」
そうしてあたしは潜水艦作戦を諦めることにした。
味方船に着いた後、すぐに敵船の位置を確認する。
そしてすぐにスキルで風を起こして敵船に飛び移る。
「敵襲! 他船に飛び乗った女とは違う、朱と白の髪の毛だ!」
船中に響き渡るアナウンスに、あちこちから武器を持った兵隊が現れた。
「神言 白紅華ノ風夜月」
私がスキルを唱えると同時に紅色の花弁が敵兵を傷つける。
「侵力 杯ノ氷!!」
ガラスみたいに透明な氷ではあたしのスキルは防げない。
彼も花弁で殺してしまおう。
「ヴィエロちゃん!」
それと同時に黒い髪の堕霊が現れた。
「何か御用でしょうか」
「うん、思いついたんだ。あなたにも活躍してもらおうと思って!」
「お任せください。どのように動けばよいか、指示をくだされば遵守します」
彼女はいい子なのだが、真面目すぎるのが玉に瑕だ。毎回細かい指示を出さなければならない。
「えっと、そうだな。あたしと一緒に動いてくれればそれでいいや」
「それだけでよいのでしょうか?」
「一旦それでいいよ。じゃあよろしくね」
「はい、無論です」
そして、あたしたちは合計5隻の敵の船をつぶしたのだった。
──へーレ視点──
英雄ゲーロイになったみたいだ。
ソル帝国で革命活動をしたかれは地元であるソル帝国から亡命せざるを得なくなったとか。
いつか会えるといいな、って思う。
いつの間にか自分の思考が散らかっていることに気が付いて頬を叩く。
ウチは弱いんだ、せめて集中しないと、余裕がないんだから。
息を整えていると、
「やあ、ずいぶん緊張してるみたいだね?」
音もなく入ってきたのはオリだった。びっくりしすぎて声も出なかった。
「ごめん、そこまで驚かすつもりはなかったんだ」
「いや、気にしてないよ。逆に、ちゃんと仲間になった気がするよ」
私がそう言うとオリは顎に手を当てて、
「そう、それについてなんだ。ヘーレを正式に私の仲間にしようと思って」
「え、まだ仲間じゃなかったの……?」
つい口から出た。
「いや、ごめん、そういうことじゃなくて。私とスキルを共有しようと思ったんだ。私たちはそれを"加護"って呼んでるの」
「え! もしかしてザキルが言ってたヤツ!? いいの!?」
ウチは立ち上がって咄嗟にオリの手を握る。
「そう、そのためにアナタと……、わかりやすく言えば廊下を建設しなきゃいけない。全く違うスキルをつなぐためにね」
「よくわかんないけど、ウチ、オリの事を信用してる。任せるよ」
ずっと気になっていたんだ。もしかしたら彼女は神様なんじゃないかって。
私は修道女だから神様には詳しい。ずっと、感じていた。教会に伝わる御神体と同じような波動を、マニとオリから。
もし、オリの策略で騙されていて、それで死ぬならそれでいい。ウチの命がオリの糧になるなら。
「むっ、私、そんな悪いやつに見える? これでも、愛想だけは良くしてきたんだけど」
"むっ"て声に出したオリにはウチの心の声が聞こえるようだ。
「ただ、このワザには欠点があって……。もっと早く言えばよかったんだけど一気に私のスキルにふれるから、思考を妨害しちゃうみたいなんだ……」
「それでも良いよ、どうせ、受け入れる。あなたは神様みたいだし」
そういった直後オリは目を丸くした。
「私は……神様?」
「え、そうだよ。あなたは神様だ」
彼女は嬉しそうに笑った。それは子供みたいだった。
潜水艦に乗り込み、他の船員と挨拶を交わす。
操縦士のエイダさん、副操縦士のアランさん、アレスさん。そして、技術指数名だ。
「じゃあ行こう!」
「了解です」
音は無く海の中を進んでいく。ココの水中では魔力感知は自分から数メートルくらいの距離までしか確認できないため、レーダーを用いているそうだ。
何やらボタンを押し、ヘッドホンを付け、マイクを口に近づけ、
「敵船確認、敵船には潜水艦放出機能はないようです」
と連絡した。
「ヘーレ艦長、砲弾発射許可をお願いします」
「いいよ!」
間髪入れずに答えると照準を敵船のそこに向け、弾丸を飛ばした。
「味方潜水艦帰着確認、我らの潜水艦は燃料十分、再び砲撃許可を求めます」
「許可する!!」
言ってみたかったやつだ。本当に英雄みたい。
「敵船命中!」
「許可する!」
間違った。おかしいな、もう一発打つのかと思った。これはエイダさんの策略だ、間違いない。
そんな阿呆みたいな言い訳を重ねていたら、
「艦長! 敵船の通信を傍受をしている様です!! 帰着します!!」
アレスさんがそう発言した。ウチは大仰に頷く。
っていうか、これウチ要る? もしかしたら英雄ゲーロイも同じような気持ちなのかも。そう考えたら英雄は思ったよりも生臭い。
そんな思考を胸に、船に戻っていった。
オリが残してくれた魔力回路を元に敵船に移る。
(ヘーレさん、こっちに来れますか?)
そう通知を入れてきたのはボーリャだった。
(いける! 場所は?)
(あなたがいる船の下層部です)
(おけ!)
ウチはその直後に、
「泡歌 崩れる泡を浴びて!」
手元に大きな泡を呼んでそれを甲板にぶつける。すぐに大穴があいて下に降りる。
「ヒィッ!?」
あたりを見渡す限り、ここは医務室みたいだ。ここだけ荒らされていないことからも聖域なのだろう。叫んだ彼女は血だらけだ。
申し訳ないことをした。辺りに木片とほこりがまってしまった。
「泡歌 崩れる泡を浴びて」
もう一階層下にいかないといけないみたいだ。さっきと同じように穴を空けてその穴に飛び込む。
「医務室に穴開けちゃだめでしょう?」
呆れたような態度のボーリャに照れ笑いする。
「まあ良いです。お助けに来ていただいたのですから。えっと、彼女を連れ帰ってほしいのです。負傷し、抗いようのない女性に直接触れるのは紳士の教えに反しますから」
そのために呼んだの、面倒くさいやつだな。
「共闘してほしかったのですが、あなたが巻き込んだんですよ」
「いや、そんなわけないよ」
おかしいもん、だって──
「あなたのスキルは殺傷性を奪うためのロックが外れてます」
「は……?」
教会の秘術だから、突拍子もなく外れるようなものではない。なぜだ、なぜ……?
「……ならウチが悪いね。連れて帰るよ」
血だらけになった敵兵を抱きかかえる。
「泡歌 崩れる泡を浴びて」
スキルで少し癒してあげる。このスキルのメインの性能は回復。
床を破壊したのは、泡の中に魔力を入れることで本来無いはずの破壊性を持たせられる。それでも、人体への影響はほぼ無いはずだったのに。
「あ……」
弱い呼吸音と一緒に声を漏らした。
「今、治療室に連れていく。申し訳ないけど、武器ある?」
「ない……」
本当に弱ってしまったようだ。
急いで空けた穴を経由して甲板に出て、来るときに使った転移門を通じて船に帰った。
治療室には味方や投降兵を含む多くの人が居た。
「ヘーレさん! その方は?」
「投降兵。あなたに任せて良い?」
この看護師さんはヒョール。ウチの教会の元患者さんだったのだが、いつの間にか看護師さんになっていた。
「はい、もちろんです!」
ウチは彼に投降兵を引き渡し、そこからは味方を助けることに集中したのだった。
魔炎突槍剣
武器種:魔力帯・直剣
義理堅い剣士、ボーリャの得物。彼の情熱を反映させたかのような炎の形をしている。
振るうと、軌跡に炎が残り、攻撃スキルを禁じられたこの世界でもスキルによる攻撃ができる。
槍も混ざったこの武器ならば守るべき者を守れる。
彼は単純で、神に弱い。
穢い血を焼いた私は、未だ赤い彼の炎がうらやましい。黒き炎では料理ができないから。




