☆フーニル沖神戦・オリヴィア視点☆
船についた旗を千切って海に捨てる。
コレで本格的に私のものだ。
このサイズともなるとさすがに飲み込むのに時間がかかる。たぶん数分かかりそう。一応私のスキルのトラップを置いておこう。
死んだ竜なら一息じゃなくて分割して飲み込めばいいのだが、船を分割するわけにはいかない。
「ルーヴァ、トルン、ヴィーヴル!」
私の呼びかけに応えて天使たちが現れた。それと同時に『三権権能 堕霊・赦免』の効果も無くしてしまおう。
残念ながら同時にロックを解除できなくなったせいで堕霊と天使の同時召喚がかなり制限されてしまった。
「オリヴィア、アタシになんか用かい?」
ヴィーヴルを船に残したら甲板を壊されそうだ。
「ヴィーヴル、君はほかの船に移って援護をお願い」
「っしゃー! やってやんぜ!」
ストレッチをしてすぐに飛んでいった、彼女は自由なやつだ。
「ルーヴァ、君は占領した船からでもいいから近況報告を」
「お任せあれ」
炎の階段を彼は優雅に登っていった。
「で、トルン」
「はっはぃぃっ……!」
スゴい声が裏返っていた気がする。
まあ触れないでおこう。
「私についてきて」
「も、もちろんです!!」
船酔いしたのかな。顔が赤いけど。
「無理しないでいいからね」
そして私はトルンの手を掴んでから飛翔する。
第二波の訪れの砲弾の音が響いた。
一つの船に飛び乗って辺りを見渡す。
「おい、ガキ。お前の出る幕はない」
「三権権能 堕霊・断罪」
フィヤルナを呼び出すことはできずとも、フィヤルナの権能を借りることはできる。
月の光のような幕が下りる。
「確かに、私の出る幕はないかも。私は"幕を下ろす者"でもあるからね」
そういうと、トルンは相槌を打つかわりに透明な弓を放った。一度に3つの矢を放つその純粋な『木霊』の意思は敵に当たるまで消えることはない。
「じゃあね」
力を失って崩れた身体は3つの穴が空き、そこからとめどなく血が溢れる。
『木霊』は主であるトルンをずっと守ってくれるだろう。
ワープゲートを設置しておいて、ほかの仲間が来やすいようにしておく。
すぐに数人現れた。
「オリヴィア隊長、こんばんは」
「こんばんは、この船は任せるよ。私は……、行きたくないなぁ。あれ、幻覚な可能性無い?」
「隊長、残念ながら」
ブロロロロ、と機械音が響く。
機械と魔法の組み合わせみたいだ。作戦中に聞いてはいたが、あんな大きなものが空を飛ぶとは。
さっきから砲弾に混じって爆弾を落とされている。
私の船はそろそろ吸収が終わるから大きな破損は回避できそうだ。
「トルン、行こうか」
「はいぃ!!」
仲間がいない屋上まで向かう。
敵も巻き込めたらよかったのだが、こんなところにいるわけもなくって感じか。
黒き炎を使って空を飛ぶと天使であるトルンにも微細なダメージが入ってしまうから、もう一度風で行こう。
「神ノ恵技 掃除屋」
竜巻に乗って飛び出す。
狙われているようだが、まあ大丈夫だろう。そもそも爆弾は風に乗ってうえに戻ってしまうし、風に乗らないようにスキルを使ってもそもそも効かない。
すぐに大きな空飛ぶ舟に乗ることができた。
「てっ、て、敵襲ー!!!」
そりゃ焦るわな。
だって安全圏から殲滅しようと思っていたら敵が入り込んできたんだから。
「あれ、スキルが……引っかかるな」
「ハ、ハハッ! どうだ、スキル禁止結界は!? 侵力 炎を抱く臣民!!」
右手の剣に赤々とした炎が生まれる。
ほう、味方は無制限みたいだ。
「アンタみたいな情けない子には用なんてないの。……あぁ、でも、聞いてあげる。絶望したい?」
私はジリジリと距離を詰めながら的に問う。
「最後くらい、幸せでありたいよね」
絶望の顔を見たい気持ちを抑えて『黒鬼』で斬る。いつか訪れる私の死もこれくらい唐突だったらいいのに。
「さすが、オリヴィア様っ!!」
「でしょう? さあ早く行くよ」
トルンの真っ白な手を引っ張って空飛ぶ舟のなかに侵入していく。
この船欲しいけど、空に浮かんだまま飲み込むのは少し大変そうだ。
今回は諦めよう……。そんな事を考えていた時、
(オリヴィア様、回収完了したようです。ご確認を)
とルーヴァから思念が届いた。
確認してみると確かに船が入っている。帰りこれ使おうかな? でも私船を操縦できないんだよな。
船の神様とかいないかな。そんな神様いたら早めに仲間にしたいかも。
船信仰があれば神様はいることになる。今度調べよう。
あ、また思考に耽っていた。
トルンが私の服の裾をつついてくれたおかげで気がついた。
「どうしたの?」
そう聞くと、真っ赤な顔を隠しながら、
「オ、オリヴィア様……、えっと……、その、これ……」
背中に隠した剣を差し出してきた。
機械的なその武器は未だかつて見たことがない。
「ど、どうぞ!!」
その剣を私にグッと近づけたトルンは一向に顔を上げない。
これは受け取っていいものなのだろうか。トルンには近接武器を与えてないし、これは彼女が持つべきな気もする。
でも、その善意を踏み躙れない。
「ありがとう、じゃあこれと交換しよう」
いつか拾った武器だ。
たしか泡歌砦に落ちていた不思議な武器だった気がする。
「い、いいんですかっ!?」
彼女は顔を綻ばせて喜んでくれた。
今まで爆発してこなかったし、多分大丈夫。……多分。
トルンにもらった剣を仕舞う。彼女は嬉しそうに私と交換した剣を見つめている。
バン、その音とともに鉄のかけらが私に迫る。それを『黒鬼』で防いで敵を睨む。
「……はぁ!?」
「偶然かもよ? ねぇ、そこの君も隠れてないでおいで?」
隠れている敵に視線を固定する。引き金を引く一瞬の隙でスキルで"そこの君"を殺す。
その間に閃光が放たれ、トルンがほかの敵を仕留めた。
「さすがオリヴィア様です! 尊敬……」
私に駆け寄って綺麗な紫色の瞳を私に向けるトルン。自然と武器をしまい、そのまま右手で彼女の頭に触れる。
パチっと静電気が起こったが、構わず髪の毛がくしゃくしゃになるまで撫でる。
トルンも下を向きながら私の手を受け入れてくれたから、これは許される行為である。
柔らかくて、でもトゲトゲしていて、それを堪能しているうちにトルンが顔を上げた。
「なぜ、止めるのですか?」
ずっと動かしていた手がいつの間にか止まっていたようだ。
トルンはいつになく自然な動きで私の手の上に彼女の手を重ねて優しく握った。そして、左右に動かし始めた。
トルンは気持ちよさそうに目を細めて、微笑んだ。
しばらくそうしていて、
「大好きです、オリヴィア様」
ニッコリと笑ったトルンに気圧される。
「……私もだよ。じゃあ早く帰ろうか。この船をたたき落として」
「あぁ? なんだって? この船をどうするって?」
一番めんどくさいタイプじゃないか。
「勝手に人の国の子殺してまさか、なぁ?」
「あんた、戦争のこと何もわかってないみたいね。国の利益、どっちを優先するかっていうムダな争いなの……でも残念。私がいる以上1人も殺させない」
やはり戦争とはこうなる。
だが、私が経験したものは違う個の争いだったのに、今回の戦争は兵器を用いた団体同士の争いになっている。
「ずいぶん傲慢だ。さすが戦場で部下を誑かすだけはあるなぁ!」
ソレについてはぐうの音も出ない。
だが、今まで黙っていたトルンが一歩前に出た。
「なんですって?」
さっきあげた直剣を強く握ったトルンは堂々と立っている。
「部下……おまえ、天使か。何千年ぶりだ、そこまでの上位個体が湧いたのは」
「湧いた……ですって?」
トルンはその言葉に引っかかったらしく、眉をピクリと動かす。
「貴様など私で十分。オリヴィア様を愚弄した罪を苛烈な雷で洗い落とすが良い」
彼女は湾曲した大きな剣を片手で持つ。
その直後、結界が限界に達し落としたワイングラスのように砕け散った。
敵兵は目を見開いて、すぐに頭を振った。
「星異物 雷ノ摂理」
トルンは淡々とスキルを使う。船を貫くほどの雷がランダムで落ちてくる。
「毅漸 炎の天蓋」
炎の屋根で雷を防ぐが、完全には防げなかったようで少し被弾した。
その隙に雅やかな動作で接敵するトルンは殺意に満ちた美しい剣筋で首を切り落とす。
「オリヴィア様に吐息すら触れさせない」
剣に残った血をハンカチーフで拭った。そして、ゆっくり鞘に仕舞う。
「雷はやはり良いものですね。肉が柔らかくなります」
「え、そうなの?」
ぬっとトルンの肩に顎を乗せて聞く。もしかして料理に応用できるのかな。
「ふぇっ!?」
ガランッと音を立てて剣が落ちた。
驚かせてしまったようだ。申し訳なく思いながら剣を拾って手渡す。
「あっ、ありがとうございます!!」
「ううん、私のせいだし。それにしてもさっきの戦いぶりは良かったね」
制御を失ってゆっくり落ちていく機体の真ん中で、私はトルンの顎に手が伸びた。
なぜそうしたかは分からない。でもなんだか無性にトルンに触れたくなったのだ。
「くすぐったいです……」
そう言われて手を引っ込める。
「やめなくても良いのですが……」
「確かにこれじゃ誑かしてるって言われちゃうね。帰るまで我慢するよ」
私は反省する。あいも変わらず目を伏したトルンの背中を優しく叩いて空飛ぶ舟からの脱出を開始した。
階段を駆け上がって外に出る。そして、甲板から見下ろすと意外と海面の近くまで来ていた。
「さあ、飛び降りるよ」
私は手すりに手を掛け、トルンに反対の手を差し出す。
トルンは優しく手を重ねる。馴染むような感覚とともに私たちは重力に身を委ねる。
ドブンっ、と音を立てて水面にぶつかる。直後、私たちの輪郭に沿って海水が覆う。
血の混じった黒い海水は、それでもなお、安寧を与えてくれた。
五月蝿い銃声も、鬱陶しい魔力の乱れも、全部水がさえぎる。
ぼく、と柔らかい音を立てて私の口から空気が逃げていく。を嫌うようでスキルがあまりうまく出ない。
さっきスキルを置いてこればよかったな、と思ったが、だいぶ敵兵も減っているらしく、追撃が来ない。
ゆっくりと海面から顔を出す。
味方の船の明かりしか見えず、勝利を実感した。
「オリヴィア隊長! こちらです」
一際明るいライトを振り回しながら、位置を教えてくれている。トルンに抱き着いて、彼女を私のなかに戻す。
右手を突き上げて、水に干渉されないようにする。
「五輪権能 紫輪」
私は船の上にワープする。このスキルは私だけを転送し、他者に影響できない。だから仲間と共に動いている普段遣いはできないのだ。
「オリヴィアちゃん、あたし、船を5隻潰したわ!」
「ウチは2隻……。でもでも! ほかの船を落とすのを手伝ったりしたから!!」
「私はオリの指示通り犠牲者を抑えることに注力したわ」
バチバチに争っていたのはザキルとヘーレだ。意外と、と言ったら失礼かもしれないが、ファーニンは真面目にやってくれたようだ。
「ありがとう。また、よろしくね」
私がそう言って微笑むとへへ、とファーニンが照れて、ヘーレとザキルはさらに熱が入った。
「アタシらはオリヴィア様の言う通りにしてきたぜ!」
ヴィーヴルはルーヴァの首に腕を回して動けないようにしている。
「ちょ、苦しい」
ルーヴァの訴えは声高らかに笑うヴィーヴルにかき消された。
ひとしきり笑ったあと、ヴィーヴルとルーヴァを私のなかに帰す。ロックを切り替え、堕霊たちと繋ぐ。その瞬間、
(オリヴィアちゃん〜、ボクたちを何で隠したのぉ?)
フィヤルナが喋りかけてきた。
(いまは天使のほうが都合がよかったの)
(私の力の魅せ所だったのに……)
(あなたたちを出すと相手がビビって自害するかも知れないでしょ? だから、効率的に相手を怯ませて譲歩の態度を見せようと思って)
不服そうなサヴダシクに私は正直に理由を語った。
(さすがオリちゃんね!)
(それに、次、フィヤルナを筆頭として三人の力が必要になりそうなんだ。ちょっと、策略があって)
私はそう教える。
頭の中も、リアルの3人も、どっちも騒がしかった。
ソル帝国の機械剣
武器種:直剣
ソル帝国の襲撃戦の際に手に入れた武器。柄には歯車が埋まっており、握り具合によってさまざまな効果を発動できる。
優しく握ることで、剣に溝ができて、効率的に血を排出できる。強く握ることで、剣の先から銃弾が出る。
人を殺すにはどうすれば良いのか、その最適解である。
武器は敵を殺すためにあるのであって、自らを守るものではないのだから。持ち主が死んだとて、大したことではない。それでも私にとっては、この武器は贈与であり、仲間愛の象徴だ。
ソル帝国 スキル進化順
侵力→毅漸→侵攻
俺の活躍だって、全部虚像かもしれないのに──猜疑者 ゲーロイ




